IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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 二作目になります。一作目と同様、やりたい事をやっていくスタイルでいきます。


一話

 織斑一夏は今、かつてない程の窮地に追い込まれていた。今は無きアインクラッドで幾度となく経験したボス戦でも、ここまで精神的に追い詰められた事は無かった。

 

 (コレは……マジでキツイ……!)

 

 背中に突き刺さるソレはどんな槍よりも鋭く、容赦なく彼にダメージを与え続ける。……一夏にとって、それほどまでの凶器となっているのだ。  

 

 

 ―――女子達の視線が。

 

 「……何でこうなっちまったんだ……」

 

 少しでも気を紛らわそうと、過去を振り返って現実逃避を試みる。

 

 (SAOがクリアされてから……弾と一緒にリハビリ頑張って……オレが向こうで見て、聞いて、感じた事を千冬姉に解ってもらうまでケンカして……)

 

 確かにSAOは、一夏から多くの物を奪った。だが同時に、現実世界にいたままでは得る事が出来なかったものを数多く与えてくれたのだ。

 

 (あの城に行かなきゃ……キリトさんやアスナさん達と会う事なんて無かったよなぁ……)

 

 今は自分の後ろにいる為、その姿を見る事は出来ないが……一夏にとって、本当の兄や第二の姉のような存在との出会いは、己を大きく成長させてくれた。

 例え全てがデータの塊でしかない偽物の世界であっても―――そこで得た、人との繋がりは、通わせ合った心は本物だから。

 

 (でも……一番大事な時に、力になれなかったんだよな……)

 

 現実世界に帰還してから、唯一の家族である姉の千冬は、VR関連の事には否定的になっていた。そんな彼女を説得するのは容易な事ではなかったが、一夏もまた、譲れない想いがあった。

 今まで経験した事が無いほどの大ゲンカとなり、年を跨いで続いたそれが終わったのが2月の頭だった。その間にキリトこと桐ケ谷和人は須郷の手によって別の仮想世界―――ALOに捕らえられた最愛の少女、アスナこと結城明日奈を救出していた。たった一人の家族と何とか和解できた事には何の不満も無いのだが……SAOで何度も助けてくれた人達の力になれなかったのは少々複雑な気持ちになってしまうのだ。

 

 (で、なんだかんだでISを動かしちまったんだっけ……)

 

 一夏達が現実に帰還してから知ったのだが……アインクラッドで閃光と呼ばれた少女、明日奈は、IS適正がSで、ログイン前からIS学園への進学が決まっていたのだ。

 しかも貴重なランクSを手放すつもりが無い日本政府によって、明日奈の進路はSAOクリア後も変わる事無くIS学園のままとなっていた。

 全寮制のIS学園に入学してしまえば、明日奈は恋人である和人をはじめ、現実世界で再会を果たした仲間達と会える機会は極端に少なくなってしまう。という事で明日奈は、入学前にデートを兼ねた仲間達との思いで作りとしてどこかに外出がしたいと和人に頼み、和人もまたそんな彼女の願いを叶えようとした。そしてデートスポットを探している途中で都合よく、実物のISが置かれている展示会を見つけた。

 本来ならデート等で行く場所ではないが、明日奈の進路を考えれば実物を見るのも悪くは無いと判断した和人によって、連絡の取れる範囲でSAOでの仲間を呼んでそこへ足を運んだ。

 当然一夏もそれに参加したのだが……予想以上の人混みに流されて和人達とはぐれた挙句、ふとした拍子に転びそうになった。慌てて近くにあるものに手をついた次の瞬間、視界が閃光に包まれ、膨大な量の情報が直接頭に流れ込んできた。

 

 (あの時は……本当にびっくりしたぜ……)

 

 時間は、ほんの一瞬。視界が元に戻ると、一夏はその場にいたほぼ全ての人達に注目されていた。どこを見ても、驚愕の表情をした人、人、人……

 軽くトラウマになるような状況の中、はぐれた和人達がやってきて、一夏はようやく己の身に何が起きたのかに気づいた。

 

 ―――ISを……その身に纏っていたのだ。

 

 一夏が手をついたのは、展示用のIS、打鉄(うちがね)だった。この打鉄はコアこそ取り除かれていなかったものの、本来なら誰が触れても起動しないようにロックがかけられていた。だがそれがどういう訳か一夏が触れた途端に起動したのだ。

 男がISを動かしたという事に、誰も彼もが度肝を抜かれた。すぐにサングラスに黒いスーツの、如何にもといった人達に連れられて、あれよあれよとしているうちに、一夏はようやく取り戻した筈の普段通りの生活ができなくなってしまった。

 

 ―――世界初の男性操縦者として、一夏は瞬く間に有名人にされてしまったのだから。

 

 (んで……気づいたらSAOサバイバーの学校からこっちに入学するようになってたんだっけ……)

 

 SAOサバイバーの中の元学生達は、遅れた2年間を取り戻す為に国が用意した学校へ入学する事になっていて、一夏も和人や弾と共に入学する予定だったのだ。

 だが、一夏が強制的にIS学園に入学させられたのには理由がある。IS学園は優秀なIS操縦者及び技術者を育成する施設であり、少しでも優秀な人材を求める国同士の勧誘争いから生徒達を守る為に、IS学園には一つのルールがあるのだから。

 それは即ち、’IS学園はいかなる国家、組織にも帰属しない’という事。財源の確保等は基本的に日本が行っているが、これがある為にIS学園は独立した一つの国ともいえる。希少価値の高い男性操縦者を己の物にしようと、手段の合法・非合法問わずに狙う国家や組織から一夏を守る為、国際IS委員会が彼をIS学園に入学させたのだ。

 もっとも、その後各国で行われた男性のIS適合試験でISを動かせる少年が二人現れたので、一夏と同様の措置がとられたが。

 

 (キリトさんが来たのは……すっげぇ心強かったっけ)

 

 そう。一夏以外にISを動かした二人の内一人は、和人だったのだ。SAOでも色々と無理、無茶、無謀な事をケロッとした顔でやってのけた彼だったので、割と驚きはしなかった。むしろ、明日奈と共にいたいという彼の、愛の力がISを動かしたんじゃないかな~、と一夏は半ば以上本気で思っていたりする。

 

 (まぁ……何はともあれ、またキリトさんやアスナさん、それと……アイツと一緒に過ごせるなら結果オーラ―――)

 

 「―――ら君!織斑一夏君!!」

 

 「は、はい!」

 

 だが、一夏は少しばかり現実逃避の時間が長すぎた。気づけばすでに教師らしき女性が目の前におり、自分の名を呼んでいるのだから。ほぼ反射で返事をしつつ立ち上がった彼に、教師らしき女性―――山田真耶はとてもオドオドした様子で声をかける。

 

 「お、大声だしちゃってゴメンね?お、怒ってる?怒ってるよね?でも自己紹介が’あ’から始まって今’お’なんだよね。だから……じ、自己紹介してくれないかな?ダメかな?」

 

 小柄な体に緑の髪、そして童顔。やや大きい眼鏡とサイズの合っていないダボッとした服の影響もあってか、中学生が背伸びして大人の恰好をしているように見える。だが一部分だけやたらと自己主張の激しい所があり、彼女がワタワタとするのにあわせて動くソレは一夏にとっては目の毒だった。

 何より、オドオドしている彼女を落ち着かせるために、一夏は口を開いた。

 

 「いや、怒ってませんから!自己紹介もちゃんとやりますって!」

 

 「ほ、本当ですか!?絶対ですよ!」

 

 本来なら真耶の方が年上の筈だが……とてもそうは思えない彼女がやっと落ち着いたのを確認してから、一夏は意を決して振り向く。

 

 「うっ……!」

 

 今まで背中で受けていたからこそ耐えられた視線。それを正面から受け、一夏は思わずたじろいだ。彼を襲うプレッシャーはあまりにも大きかった。つい助けを求めようと周囲に視線を泳がせると、窓際の席に座る、一夏にとっては非常に懐かしい少女が目に映った。

 

 「…………」

 

 (え…………マジ!?)

 

 だが、それもアッサリ潰えてしまった。髪をリボンでポニーテールに縛っている幼馴染の少女―――篠ノ之箒は、一夏の視線に気づくと不機嫌そうな顔ですぐさまそっぽを向いてしまったのだ。元々人付き合いが苦手で少々素直になれない性格であるのはよく覚えていたが、それでもこの状況でこうもバッサリ切られたのは中々ダメージが大きい。

 それでもめげずに視線を彷徨えば、今度は見慣れた栗色の髪の少女と目が合った。彼女こそが、一夏の兄貴分である和人の恋人の明日奈だ。彼女は先程の箒とは違って柔らかく微笑んでおり、何かを伝えようと口を動かし始めた。

 

 ―――頑張って

 

 一夏は読唇術を身に着けていた訳では無いが、それでも何故か彼女の言葉は読み取る事ができた。何度も世話になった姉貴分に格好悪い所は見せられないと思った彼は、ようやく決心したように一度深呼吸をする。

 

 「初めまして、織斑一夏です。得意な事は家事全般で……ISについてはほとんど素人だけど、これから頑張ろうと思います」

 

 ありのままの自分を、思いつくままに簡潔に言葉にした。我ながら無難な挨拶だろうと一夏は思ったのだが―――

 

 (……アレ?)

 

 クラスメイト達からのプレッシャーが、無くなっていない……むしろ、それで終わりじゃないよね?的な圧力がかかってきていた。

 これはまずい。非常にまずい。彼女達の期待に応える為にはどうすれば良いのかが一夏の頭には浮かばず、かといってこのまま黙っていれば根暗のレッテルを張られてしまいかねない。そんな局面で彼がとった行動は―――

 

 「い……以上です!」

 

 堂々と打ち切る事であった。その結果、続きを期待していたクラスメイト達は皆盛大にズッコケる。

 

 (……なんか皆ノリいいなぁ……このクラスで芸人いける人ってどれくらいいんのかな?)

 

 ズッコケる事こそ無かったが、困ったような表情で笑いをこらえている明日奈や和人、揃ってズッコケた少女達。己がやってしまった惨事から目を背けるように、一夏の思考が再び現実逃避を試みる。

 

 ―――スパァン!!

 

 だがそれは、突如として彼の後頭部に走った衝撃によって妨げられた。一夏は頭を抑えながらもとっさに後ろを振りかえる。

 

 「へ……?」

 

 女性としては長身で、スーツ越しでも分かる程起伏に富んだボディライン。艶やかな黒髪と、一度見たらまず忘れないだろうと思う美貌。男性のみならず女性であっても魅了されてしまう程の美女が、そこにいた。

 だが一夏が呆然としたのは、決して彼女に見とれていたからではない。むしろ彼にとっては非常に見慣れた人だった。

 

 「ち、千冬姉!?」

 

 何故ならば、女性―――織斑千冬は一夏の姉であるのだから。今まで自分の職についてほとんど教えてくれなかった姉がIS学園にいる事に驚いた彼は、ついいつも通りに千冬を呼んでしまった。

 

 「ここでは織斑先生と呼べ」

 

 だが千冬は一夏に容赦なく出席簿を叩き付ける。先程同様の音が教室に響き、一夏は再び頭を抑える事となった。

 

 「織斑先生、会議は終えられたんですか?」

 

 「ああ。クラスへの挨拶を押し付けてしまって悪かった、山田先生」

 

 「いえ、これも副担任の務めですから!」

 

 真耶に話しかけられた千冬は、一夏の時よりも幾分穏やかな声で答える。その後に若干放心状態になっている一夏を放っておいて暴君じみた挨拶をするが、それに反発する者はいなかった。それどころか、クラスのほとんどが彼女の登場に黄色い声を上げるのだった。

 

 「―――で、織斑。お前はもう少しマシな自己紹介はできんのか?」

 

 「そ、そう言われても……」

 

 クラスを静めてから、千冬は一夏に向き直った。言葉にできないプレッシャーをかけられた彼は若干タジタジになるが、何とか自分の考えを言おうとした。

 

 ―――初対面の人達に自分の趣味を教えても、共感者がいないとかなり寂しい。というか、得意な事と抱負を言ったのだから充分ではないだろうか、と。

 

 「……まぁいい。大方女子共の期待が大きすぎたんだろう……時間もあまり無いので、お前等が気になって仕方ないだろう残りの男子の自己紹介だけ済ませておく。後は休み時間にでも個人的に済ましておけ。桐ケ谷」

 

 だが千冬は一夏が何かを言う前に大体の事情を察したらしかった。その為一夏は漸く女子達の視線から解放され、席に座る事ができた。

 彼と変わるように立ち上がったのは、黒髪黒目の中性的な容姿の少年。

 

 「初めまして、桐ケ谷和人です。機械いじりが得意で……過去にジャンクパーツからPCを自作した事があります。ISについては、整備学の面からも興味があります」

 

 一夏と似たような、無難な自己紹介。だが女子達は千冬がいる手前、大人しくして先程のようなプレッシャーを和人にかける事はなかった。

 

 「よし、では野上」

 

 「はい」

 

 千冬に促され和人と入れ替わって立ち上がったのは、一人の少年。

 

 「初めまして、野上巧也(のがみたくや)です。まだ右も左も解らない状態ですので、色々と教えていただけると有り難いです。基本的に男子で集まっているかもしれませんが、気にせず声をかけていただけたら幸いです」

 

 黒髪茶目に中肉中背。顔立ちは決して悪くはない……のだが、先の二人と比較すれば一歩劣る。そして何より雰囲気が決定的であった。

 

 「…………なんか、普通?」

 

 そう。一人の女子生徒が零したように、普通。もしくは平凡な、何処にでもいそうな感じがするのだ。一夏、和人と独特の雰囲気と整った容姿を併せ持つ男子が続いたため、肩透かしを喰らった気分というのが女子達の本音だ。

 

 「桐ケ谷君……機械に強いって事は理数系なのかな?」

 

 「ねらい目は織斑君かなぁ……野上君はパッとしないし……」

 

 巧也は自己紹介の間、ずっと愛想よく微笑んでいたのだが、彼女達はそれよりも一夏や和人の方に意識が向いていた。

 

 (予想以上に和人達に意識が向いていますね……あまり目立ちたくなかった身としては、ありがたい状況です)

 

 普通なら、和人や一夏に多少なりとも嫉妬を抱いても不思議ではないのだが……巧也はそんな事など微塵も思ってはいなかった。

 

 何故なら……彼は元々更識に仕える暗部の一員で、身体能力の衰えた彼等を守る事が任務なのだから。




 こちらは三人称視点で進めていきます。一人称視点の時に比べ、主観となるキャラの心理を掘り下げ難いですが、視点切り替えが少ない分主要キャラを別行動させやすいです。

 キャラが多い作品はこっちの方が各キャラをバランス良く活躍させる事ができそうです。

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