魔法科高校の鋼の錬金術師   作:Gussan0

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どうも|ω・`)ノ ヤァ

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第六十二話 本戦 ミラージ・バット

横浜中華街、とあるホテルの最上階にて。

 

テーブルに着く五人の男が口々に捲し立てる。

 

それは議論と呼べる物ではなく、もはや出口の見えない袋小路に迷っているような錯覚に陥っていた。

 

 

「第一高校の優勝は決定的だ」

 

 

「このままだと我々の負け分は一億ドルを超えるぞ!」

 

 

「いくら今期のノルマ達成のためとはいえ、本部が渋ったこの企画を無理に通した以上……」

 

 

「楽に死なせてはくれんぞ?」

 

 

「自我など完全に抹消されて、生体兵器『ジェネレーター』として死ぬまで本部に搾取され続けることになる……!」

 

 

「……こうなってはもはや、手段を選んでる場合ではない」

 

 

「明日のミラージ・バットでは、一高選手全員に棄権してもらおう。強制的にな」

 

 

無頭龍(ノーヘッドドラゴン)』はついに司波深雪にもその脅威を与えようとしていた。

 

だが彼らは知らない。

 

それがきっかけで、悪魔の逆鱗に触れることを。

 

このときの彼らはまだ、知る由もない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

九校戦九日目、新人戦は終了し、本戦が再開する。

 

本日の天気は分厚い雲に覆われた曇天(どんてん)となった。

 

しかし、今日行われるミラージ・バットにとっては絶好の試合日和であった。

 

 

「曇天か……日差しがなく、ミラージ・バットには好天と言えるが、どうも波乱の前兆に見えるな」

 

 

「まだ何か起こるのでしょうか……」

 

 

「深雪が心配する必要はないよ。何があろうとお前だけは俺が守ってやるから」

 

 

「お兄様……深雪は幸せ者です」

 

 

「俺もだよ」

 

 

不安そうにする深雪に達也は、肩を抱き寄せて慰める。

 

深雪は頬を染めながら、それをしばらく受け入れていた。

 

もしも『無頭竜』の狙いが第一高校の優勝阻止であるならば、ミラージ・バットに出場する選手が危ないかもしれない。

 

それは同時に、深雪が危険に晒されるという可能性も含んでいた。

 

 

(もし深雪に手を出そうとするならば……誰であろうと潰す)

 

 

達也は密かに決意する。

 

 

 

________

______

____

 

 

 

一方、エドはというと、九島烈との話し合いから部屋に籠もってずっと考えていた。

 

 

(……あの爺さんとの話し合いから分かった事と言えば、人造人間(ホムンクルス)が組織だって動いていることと、グリードがオレの知る奴である可能性が高いこと、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ってことくらいか)

 

 

賢者の石『エリクシル』が、かつてブランシュの司一(つかさはじめ)の手に渡っていたことからも、裏社会で流通していることは明白。

 

そしてそれは少なくとも、六十年以上前から行われている。

 

だがエドには、もっと他に気になる部分があった。

 

 

(爺さんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。少なくとも、オレに接触してきたことから考えても、それは間違いねぇ。ただ……それをどうしてあの爺さんが知ってるか……ってことだ)

 

 

 

なぜ、エドがホムンクルスと関わりがあると知っていたのか?

 

 

 

エドの疑問点はそこだった。

 

 

(考えられる可能性とすれば、オレのことを知っている誰かから聞いたか、又は何らかの形で知ったか……。仮にオレのことを知ってる奴がいると仮定すれば、思い当たる存在は一人しかいねぇ)

 

 

「ダンテ……あいつが……この世界にいる……っ!!」

 

 

ダンテ。

 

かつて、エドが出身世界の地下都市で対峙した凄腕の錬金術師。

 

その正体は、他人の肉体を乗っ取って悠久の時を生きてきた女錬金術師で、ホムンクルス達の統括者でもあり、エドの師であるイズミの元師匠。

 

そして、ホーエンハイム・エルリックの元妻でもあった女性である。

 

彼女の目的は永遠の命を得ること。

 

そのために、肉体の入れ替えに必要な賢者の石を欲していた。

 

ただ、賢者の石を用いた方法では、肉体は新品でも魂その物が劣化していくため、生きたまま身体が腐敗していき、さらにその周期も早まるという欠点があった。

 

その証拠に、ライラという少女の肉体を乗っ取った後も直ぐに身体の腐敗が始まっていた。

 

 

(爺さんがダンテからオレのことを聞いていたとしたら、辻褄は合う。だが問題は、()()()()()()()()だ)

 

 

エドは九島烈とのやり取りを思い出す。

 

 

『残念だが、今私から話せることはここまでだ。ここから先は……そうだね。()()()()()()()()()()()としよう』

 

 

(『必要な時期が来たら話す』ってことは、今はまだ話せる状況じゃないってことだ。爺さんにダンテと繋がりがあるとしたら……何かを狙ってる?……又は、何かしらの準備が整っていない?)

 

 

「少なくとも敵では……ない……か?」

 

 

エドは考える。

 

 

(敵だったら、そもそも接触すらしてこねぇか……。だが、完全に味方って訳でもなさそうだ。あの爺さん、どこか胡散臭(うさんくさ)いしな……)

 

 

「それに問題はまだある。敵にオレのことが知られてることだ」

 

 

エドが本格的に動き出したのは、今年の四月。

 

だがその時点で、敵は既にエドのことを把握していた。

 

 

(司一の奴が、オレの二つ名を知ってたのがその証拠だ)

 

 

「だけど一体いつオレのことを知りやがった?

いや、待て……()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

エドは思い出す。

 

司一がかつて言っていた言葉を……。

 

 

『そうか。思い出した……あの御方が言っていた……()()()()()()()()要注意な魔法師……鋼の義手と義足、機械鎧(オートメイル)をつけた古式魔法『錬金術』の使い手……ああ、そうか。君があの御方の言っていた……鋼の錬金術師!!』

 

 

(『あの御方が言っていた……()()()()()()()()要注意な魔法師』……いつか脅威となる、か。まるでずっと前から知っていたかのような言葉だな)

 

 

あのときはゴタゴタしていたこともあってスルーしていたが、よくよく思い返すとおかしな言葉遣いだ。

 

 

(イレギュラー野郎がダンテだと仮定して……予知能力にでも目覚めたのか?それにホムンクルスを生み出してるなら、あいつも錬金術が使えるってことになる。どうやって使ってる?オレみたいに地球の龍脈をエネルギーに錬成してるのか?)

 

 

「だあああ!分からねぇ!!」

 

 

エドはベッドでゴロゴロと寝転がる。

 

 

「はぁ……まあ、九島の爺さんと繋がりが出来たことと、イレギュラー野郎の正体にある程度近付けただけでも良しとするか」

 

 

エドは天井をジッと見あげる。

 

 

「いつまでもウダウダ考えてても仕方ねぇ。ここは切り替えて、残りの十師族の一条とのパイプの繋ぎ方でも考えるか。っつっても、どーすっかな……」

 

 

そのとき、エドの脳裏に深雪の姿が思い出される。

 

 

「しゃーねぇ。氷の女王様に助太刀頼むか。ふわあぁぁぁ……」

 

 

エドは大きくアクビをすると、時計を見る。

 

見れば針はそろそろ6を指そうとしていた。

 

 

「やべっ……もうこんな時間かよ……さすがに少しくらい寝とかねぇと一日持たねぇな」

 

 

そしてエドは眠りについた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

試合時間になり、達也と深雪はミラージ・バットの会場の観客席にいた。

 

この競技の特徴は、試合時間の長さであろう。

 

1ピリオド15分を3回、計45分(インターバルを入れて55分)の間、絶え間なく魔法を使い続けるのだ。

 

得点を奪う能力に、スタミナが重要視される競技でもある。

 

いかに消耗を抑えて、より多くの得点を積み上げるかが求められる。

 

そんななか、小早川と平河のコンビが第一試合に臨む。

 

跳躍と移動の魔法を駆使して、選手達はそれぞれ光球を打ち消していく。

 

接戦の末、第一ピリオドが終わった時点で小早川が僅かな差で首位に立った。

 

一高側応援席も盛り上がる。

 

その応援を受けて、小早川本人の表情にも自信と気迫が満ち溢れていた。

 

現三年の一人として、何としても一高に優勝旗を持ち帰るのだと、そんな意気込みが窺えた。

 

だが不運にも、それは起きた。

 

第二ピリオドの中盤にて、小早川と他の選手と狙いが重なり、優先圏内への先着を奪われた小早川が移動魔法で空中に一時留まり、空いている円柱へ降りようとCADを操作した瞬間、首筋を撫でるような浮遊感が彼女を襲った。

 

本来であれば、次の魔法で降下するはずの彼女の身体は重力に引かれ落下を始めたのだ。

 

彼女が何度CADを操作しても起動式は展開されず、異常を察した観客の悲鳴が上がる。

 

二十メートル近い高さから落水すれば、さすがに命に関わる。

 

小早川の顔に驚愕と恐怖が浮かんだ。

 

真っ逆さまに湖面へ向かう彼女が目を閉じる。

 

が、なんとか大会スタッフの減速魔法が間に合った。

 

会場全体で安堵の息が漏れた。

 

気絶した小早川の前に平河が駆け寄る。

 

担架に乗せられた小早川は、付き添う平河と一緒に会場から出ていった。

 

幸い、小早川に怪我はなかった。

 

しかし、魔法を使うのは厳しいかもしれない。

 

魔法の失敗とそれに伴う恐怖体験は、魔法師が魔法を使えなくなる理由の一つである。

 

毎年少なくない人数の魔法師が、魔法の失敗に伴う事故や事件によって魔法力を失う事態が発生している。

 

魔法科高校の生徒であってもそれは同様であり、発展と成長の途上にある分、繊細なメンタリティは崩れるのも容易だ。

 

魔法という力は、使用者が持つイメージの影響を強く受ける。

 

自らが使う魔法を鮮明にイメージすることができればそれだけ魔法の精度は高まり、逆に魔法への不信感を抱いた者は満足に魔法を発動させることができない。

 

『魔法などない』と確信を抱いたが最後、魔法を使うことは二度と叶わなくなるのだ。

 

結局、第一試合は一高は途中棄権によって敗退とされた。

 

その後、試合を観戦していた美月が気になる現象を目撃したらしい。

 

美月曰く、小早川のCADが機能を失う直前、精霊らしきものが弾けて消えた……と。

 

達也はそれを聞いて、ある確信に至った。

 

 

 

『敵』の魔法は古式魔法の類であり、CADに直接仕掛けられていたのだ。

 

 

 

事故後の調査で何も出てこなかったのも、精霊魔法を使用した後、術と共に消えてしまったからだ。

 

そして試合の直前、選手とエンジニア以外がCADへ触れる機会が一度だけ存在する。

 

それは試合前の大会委員によるCADのレギュリエーションチェックである。

 

 

 

________

______

____

 

 

 

その後、達也は深雪の試合時間が迫ると、スタジアム脇に設営された運営委員のテントに足を運んでいた。

 

試合前のデバイスチェックは大会初日から何度も繰り返されてきたことで、大会スタッフを含め、段取りに迷う者はいない。

 

列はアッサリと流れ、すぐに達也の番が回ってきた。

 

 

「第一高校です」

 

 

「CADを検査機にセットして下さい」

 

 

達也は手にしていたCADを取り出す。

 

一つは携帯端末型、もう一つは2個のボタンだけがついたシンプルなデザインのものだ。

 

達也が二つのCADを検査機のセンサーに置いたのを確認すると、オペレーターが端末を操作する。

 

検査機が動作を開始し、CADのシステムを読み込んでいく。

 

その検査過程をジッと注視していた達也であったが、すぐに異常を認識した瞬間、一切の躊躇いもなくオペレーターを自身の脇へ引き摺り出した。

 

 

「なっ、何を……!?」

 

 

「なめられたものだな」

 

 

達也は胸元を掴んだまま、男を足元へ引き倒す。

 

男が悲鳴を上げそうになった時には、既に達也が男を抑えつけており、強烈な怒気を纏って男を見下ろしていた。

 

達也の突然の暴挙に周囲が唖然とする中、苦悶の表情を浮かべる男に達也が呟く。

 

 

「深雪が身に付ける物に細工をされて、気付かないとでも思ったか?この俺が」

 

 

淡々とした口調でありながらも、その声は辺りの人間を震えさせる。

 

加減なく放たれる殺気に多くの人間が息を呑み、騒ぎを聞きつけてやってきた警備のスタッフも様子を見る程だった。

 

 

「検査装置か……この方法なら簡単にソフト面に細工が出来るな。で?何を紛れ込ませたんだ?」

 

 

一方、叩きつけられた男は自身を見下ろす達也の眼差しに僅かに悲鳴を漏らす。

 

叩きつけられた痛みと胸の圧迫感に加え、底冷えする恐怖が身体を震わせる。

 

 

「それにこの大会の今までの事故、全てお前一人の仕業ではあるまい」

 

 

達也の問いに、男は息苦しさに喘ぎながらも首を横に振る。

 

すると、男を見下ろす達也の視線が一層鋭くなり、男の目に涙が滲んだ。

 

 

「そうか。言いたくないか」

 

 

直後、達也は右手の指を揃え手刀の形を作る。

 

そのまま伸びた指先は男の喉へまっすぐに向けられ、向けられた男だけでなく、この場の全員が続く光景を想像させられた。

 

 

「ひっ!?」

 

 

達也の指先が男の喉へ迫る。

 

手刀の先が食い込むその直前……。

 

 

 

 

 

 

「何事かね?」

 

 

 

 

 

 

テント内を包んでいた殺伐とした雰囲気を穏やかな声が柔らかく包んだ。

 

殺気は嘘のように消え、立ち上がった達也が踵を鳴らして振り返る。

 

姿を見せたのは、様子を見に来た九島烈であった。

 

 

「九島閣下、申し訳ありません。お見苦しい姿をお見せしました」

 

 

「君は、第一高校の司波君だね?それで、これは一体何事かね?」

 

 

「当校のCADに不正工作が行われましたので、犯人を取り押さえ、背後関係を尋問しようとしておりました」

 

 

「フム……」

 

 

烈がセンサーの上に置かれたままのCADを取り上げ、ジッと目を凝らす。

 

日本魔法師界で『老師』と呼ばれる男は、瞬時に携帯端末型の内側へ潜む悪意を見抜いた。

 

 

「……確かに電子金蚕(でんしきんさん)が紛れ込んでおるな」

 

 

あっさりと看破した烈の一言に、オペレーターの男が身を震わせる。

 

 

「私が現役だった頃、広東(カントン)軍の魔法師がよく使っておった。有線回路を通して電子機器に侵入し、兵器を無力化するSB魔法。出力される電気信号に干渉し、OSやアンチウイルスプログラムに関わらず、機器の動作を狂わせる遅延発動術式だ」

 

 

どこか懐かしそうに呟いた烈が、達也の方へ振り向く。

 

 

「知っておったのかね?」

 

 

踵を揃え、両手を腰の後ろで組んだ姿勢を取った達也が淡々と答える。

 

 

「いえ。ですが、自分の組み上げたシステム領域に、ウイルスに似た何かが侵入したのはすぐに分かりました」

 

 

「そうか」

 

 

達也の回答へ満足げに頷いた烈は、今度は苛烈な色を瞳に乗せ、拘束された男へ視線を向ける。

 

 

 

 

 

「では君、一体どこでこの術式を手に入れたのだね?」

 

 

 

 

 

 

質問を投げかけられた男は、烈の迫力に恐れをなして逃げ出した。

 

 

「わあああ!!」

 

 

「取り押さえろ!!」

 

 

だが警備スタッフによってすぐに取り押さえられ、連行されていった。

 

 

「司波君はそろそろ競技場に戻った方がよかろう。CADは予備を使うといい。それより、運営委員の中に不正工作を行う者が紛れ込んでいたなどという前代未聞の不祥事だが……言い訳は後でじっくり聞かせてもらおうか、大会委員長?」

 

 

「…………っ!」

 

 

烈の言葉に様子を見に来た大会委員長は身体を震わせる。

 

そして烈は去り際に、再度達也へ振り返って笑みを浮かべる。

 

 

「司波達也君、君にもいずれ、話を聞かせてもらいたい」

 

 

達也は特に動揺することなく、ハッキリと答えた。

 

 

「ハッ……機会がございましたら」

 

 

「ふむ、ではその『機会』を楽しみにしていようか」

 

 

烈は満足げに頷くと、テントを後にしたのであった。

 




次回はエド、軽く戦闘回。

では、また( `・∀・´)ノ

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