続き書けたで候。
今回は九島閣下の過去です。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
「……勝った、の?」
現実味が湧かないのか、真由美は静かにそう呟く。
「勝ったな」
「勝った」
「勝ちましたね」
十文字、摩利、鈴音の三人はハッキリと答える。
その瞬間、一高テント内は大歓声に包まれる。
あの一条相手に奮戦し、あまつさえ倒したのだ。
そしてモノリス・コードの試合にも勝利し、優勝を決めたのだ。
喜ばないはずがない。
それは試合に臨んだ本人達にも言えることであった。
「……なんとか勝てたな」
「ああ」
「そうだね」
エドの言葉に、達也と幹比古が答える。
会場で見守っていたほのかと雫は互いに抱き合って喜び、エリカと美月は笑顔で笑い合い、レオは大きくガッツポーズをしていた。
誰かが歓声をあげたのを皮切りに、一高生の間でみるみる歓声が広がっていき、やがてスタンドを揺るがすほどの叫び声となって歓声が爆発する。
それは同時に、敗者でもある三高生を打ちのめすには十分なお祭り騒ぎでもあった。
しかし、その騒ぎも一人の生徒によって終わりを告げる。
応援席の最前列に座り、両手で口を押さえながら無言で嬉し涙を流す深雪の姿に、周りの生徒達は叫ぶのを止める。
そして、彼女を祝うように拍手をした。
その拍手はやがて一高の応援席を超え、敵味方の区別関係無く、激闘を終えた選手を讃える拍手となって会場中に鳴り響いていった。
エド達は一高エリアの観客席へと足を延ばす。
『選手が戻ってきた!』
『よくやった一年ーーー!!』
一高の生徒達が声をかける。
エド達は観客席を見ながら呟いた。
「早く部屋に戻って一眠りしたいぜ……さすがに今回は疲れた」
「同感だよ……」
「そうだな……」
『第三高校選手全てリタイアしました!よってモノリス・コード新人戦は第一高校の優勝です!!』
試合会場全体に実況の声が響き渡る。
それと同時に大きな拍手の音で包まれる。
『素晴らしい試合に会場は喝采に包まれています!双方の健闘を讃え、第一高校からも第三高校からもノーサイドの賞賛が送られています!!』
三人は心地よい歓声と喝采を聞きながら、一高の天幕へと戻っていった。
◆◆◆
天幕に戻った三人を待ってたのは、生徒会メンバーと上級生達であった。
特にその中でもテンションの高い真由美と摩利が、三人の背中をバシバシと叩きながら迎え入れる。
「おめでとう三人とも!本当に良くやってくれたわ!!」
「私達も鼻が高いぞ!」
「いや、いてぇよ!?嬉しいのは分かったから、とりあえず落ち着けあんたら!こっちには怪我人もいるんだっつーの!見ろ!幹比古なんて余りの痛さに悶絶してんじゃねえか!!」
「うっ……だ、大丈夫。こ、これくらいなんともないよ……」
「生まれたての小鹿のように震えてては説得力は微塵もないぞ、幹比古」
この後、三人はメディカル・チェックを受けるために医務室へと向かう。
エドはなんともなかったのだが、達也は右耳の鼓膜が破れ、幹比古は肋骨にヒビが入っていたため、治療を受けていた。
そんななかエドは一人、
「優勝おめでとう、エドワード君。流石だったね。まさか本当に、一条の御曹司を倒してしまうとは……」
「こっちこそ、九島閣下のご期待に添えて何よりだぜ。それでこそ、こっちも頑張った甲斐があったってもんだ。つっても、倒したのは達也だけどな」
「謙遜する必要はない。君がいなければ、今頃司波達也君は大怪我をしていただろうからね」
「やっぱり気付いてるよな……」
モノリス・コードの新人戦決勝戦及び表彰が終わった後、エドは九島烈のもとを訪れていた。
用件は勿論、決勝戦前に九島烈がエドに放った金言についてである。
「聞きたいことは分かっている。あの言葉を、私がどこの、誰から聞いたか、だろう?」
「分かっているなら話は早い。そいつを教えた奴のことは勿論、あんたとの関係についても、全部話してもらうぜ」
九島烈と相対するエドには、決勝戦前の時のように委縮した様子は微塵も見られない。
傍から見れば、敬意の欠片も感じられない九島烈を脅しているようにも見える、やりとりは、護衛や十師族に連なる人間が見れば、即座にエドを取り押さえそうなものだが、生憎とこの部屋には二人以外の人間はいない。
他でもない九島烈が人払いを命じたからだ。
早く話せとせがむエドに九島烈は苦笑したが、やがて意を決したように話し始めた。
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「私が彼に出会ったのは、今から六十年以上昔のことだった――――――」
2015年頃は、魔法の開発が、魔法技能の開発から、魔法師としての『優れた血筋』の開発へと舵が切られ、先進国間で激しい開発競争が開始された時代である。
『優れた血筋』を手に入れるために、各国は血眼になって優秀な魔法師の遺伝子を欲し、様々な方法でこれを集めるようになった。
中には、非合法な手段に及び、他国から優秀な魔法師を拉致するような輩まで出て来る程だった。
九島烈は、そんな時代において国防軍に所属して活躍する若き魔法師の一人だった。
当時の九島烈は、世界最強とまではいかなくとも、日本国内では右に出る者は中々いないとされる程のエリート中のエリートと目されており、その活躍にも目覚ましいものがあった。
遺伝子の獲得戦争とも呼べるこの時代において、烈が未然に阻止した海外勢力の作戦は、二十を超えるとされる程だった。
まさしく百戦錬磨の強者と呼べる猛者として、国内外にその名を知られた烈だったが……その快進撃は、ある日を境に止まることとなった。
「ぐぅっ……!」
「フッ!東方随一のトリック・スターと呼ばれた九島烈が、まさかこのザマとはな」
某国の研究機関の中に設けられた、実験動物を飼育するための檻の中で、九島烈――当時二十五歳は、全身傷だらけで横たわっていた。
国防軍の任務により、某国による日本への不法侵入及び拉致の計画を阻止すべく、その国の研究機関へと潜入した烈は、罠に嵌められ、拘束されてしまったのだ。
「まさかこんなに上手く捕らえられるとは思ってもみなかったぜ。こいつは良い貰い物をしたぜ!!」
檻の中で横たわる烈を見下ろしながら、研究機関の男は満足そうに自身の指に嵌められた指輪を見つめる。
そこには、赤く透明な石が嵌め込まれていた。
研究機関に潜入した烈を待ち受けていたのは、この男だった。
どうやら国防軍内部に内通者がおり、今回の任務事態が烈を罠に嵌めて捕らえるためのものだったらしい。
とはいえ、烈もまた国防軍屈指の魔法師であり、正面戦闘であっても一対一ではそうそう負けることは無い。
故に、当初の作戦とは異なるが、即座に制圧することができる――筈だった。
いざ戦闘が始まると、男の持つ指輪の石が赤い輝きを放ち、見た事も無い魔法が次々に撃ち込まれたのだ。
それも、魔法式の展開や事象改変の予兆といった、あらゆるタイムラグを省略して。
そんな予想外の攻撃に晒された烈は、碌な抵抗もすることもできず、瞬く間に追い詰められ、ボロボロにされて、今のような状況に至ったのだった。
「散々俺らの国の邪魔をしてくれた礼はたっぷりしてやるぜ。勿論、お前のDNAを採取した上で、な」
「………………」
そう言うと、男は高笑いと共に烈のもとから去っていった。
残された烈は、檻の中で自身の無力を呪っていた。
国内屈指の実力ある魔法師としてその名を馳せていた筈の自分が、たった一度の油断でこのような危機に陥っている。
自分の力に慢心して油断した未熟さ、想定外の事態に対応できなかった力の無さは、悔やんでも悔やみきれない。
このまま始末されるくらいならば、いっそのこと、舌を噛み切って自害してやろうか。
烈の中で、そんな考えが過った――その時だった。
「ぎゃぁぁぁあああ!!」
烈が閉じ込められた檻のある部屋の外から、悲鳴が聞こえて来る。
一体何事か、と列は顔を上げるが、檻の中からでは、当然何が起こっているかは分からない。
「ぐっふぉぉおおお!?」
次の瞬間、今度は扉を破壊して先程の男がゴロゴロと転がって部屋の中へと入ってくる。
男は烈に劣らず全身傷だらけとなり、白目を剥いて気絶していた。
一体何が、と思い、破壊された扉の方へと烈が視線を向ける。
「ハッ!ここの研究施設も、大したことねえなぁ……」
そこには、一人の男がいた。
短髪の逆立った髪型に、丸いレンズのサングラスをかけ、ファーの付いたジャケットを身に纏った軽装の男。
その風貌は、ならず者を思わせるものだった。
「ん?何だお前?」
部屋へと入り込んだならず者風の男が、檻の中の烈に気付いた。
烈は突如現れた得体の知れない男を警戒していた。
「いたぞ!侵入者だ!」
「撃ち殺せ!」
だが、烈と男の睨み合いは長くは続かなかった。
恐らくは、この男を追ってきたのであろう施設の警備兵たちが、銃を手に部屋の中へ入ってきたのだ。
警備兵達は、男を見るや銃を乱射した。
「ぐあぁっ……!」
檻が部屋の面積の大部分を占めていた関係で、男は回避することも儘ならず、放たれた無数の銃弾によって撃ち貫かれ、地面に倒れ伏す。
その内の数発は、頭に命中していた。
言うまでもなく、即死である。
「……」
突然目の前に現れ、唐突に死んだ男の姿を、烈は鉄格子越しに呆然と見つめていた。
一体、この男は何だったのか。
もしや自分と同じ、他国から放たれた工作員なのだろうか。
しかしそれにしては、碌な装備も見られず、恰好も非常に場違いである。
死んでしまった今となっては、それを確かめる術は無かった。
そう。
確かめることができるなどという未来は、“ありえない”筈だったのだ。
「おー……痛って!」
「!!」
突如部屋に響き渡った声に、烈は驚愕に目を見開いた。
それは先程、目の前で死んだ男と同じ声だったのだから。
鉄格子の向こう側で仰向けに倒れている男の体をよく見ると、弾丸が命中した箇所に紫電のようなものが走っていた。
その後、男は顔に血を拭うと、まるで寝起きの悪い朝のように気だるげな表情とともに起き上がった。
先程の銃撃で致命傷を受けた様子は、微塵も見られなかった。
「な、なんだ!なんなんだ!?」
「ばっ、化け物だ!」
驚愕していたのは、警備兵も同様だった。
やはり先程の銃弾はペイント弾などではなく、敵を殺傷する目的で放たれた実弾だったらしい。
だが、それならば何故、この男は生きているのか。
烈はますます混乱した。
「ったく、一回死んじまったじゃねえか。この借りは、きっちり返させてもらうぜ!!」
そう言い放つと同時に、男の素肌が黒い何かに覆われていく。
最初は手のひらから始まり、肘、二の腕を覆ったそれは、男の顔面すら覆い尽くした。
そこに現れたのは、人の形をした、人ではない異形の何かだった。
「撃て!撃て!殺すんだ!!」
突如として謎の変貌を遂げた男に本能的に恐怖した警備兵が、再度銃撃を開始する。
頭部や胸部を中心に、急所を集中的に狙い撃っていく。だが……
「そんなモン、効くワケ無ェだろうがぁ!」
先程は男の体を貫通していた筈の弾丸が、男の黒く変色した肌に触れた途端、全て弾き返されていく。
まるで硬質な金属にでも当たったかのような音が響くのみで、男が身に纏っていたジャケットに穴を空ける以上の効果は無かった。
男は銃弾をその黒く硬質な身に受けながら、警備兵達のもとへ突撃。
人間離れした怪力と、硬質化して鋭く尖った両手の爪で次々警備兵を引き裂き、薙ぎ倒していった。
「よう。驚いたか」
一分にも満たない攻防の末、部屋に駆け付けた警備兵を殲滅した男は、再び鉄格子の中にいる烈のもとへと歩いてきた。
男の顔は部屋へ入って来た時の人間のそれに戻っていたが、両手は黒く鋭い異形のままとなっていた。
そんな男の姿を見て、烈は思わず呟いた。
「……ありえない」
この男は、急所に銃撃を受け、明らかに致命傷を負い、死亡していた筈。
なのに、何事も無かったかのように起き上がってみせ、さらには全身を、銃弾を弾く程の硬質の何かに変化させ、警備兵へ反撃を仕掛けた末、これを全滅させた。
そして何より信じがたいのは、一連の出来事の中で、魔法らしきものが一切使われていなかったことだった。
魔法式やCADを必要としない、BS魔法の類とも考えられたが、烈の知るBS魔法にある発動の兆候も一切無かった。
魔法師としての常識を完全に逸脱した眼前の男の存在は、烈にとっては『ありえない』もの以外の何物でもなかったのだ。
そんな烈の反応に、男は烈の目の前にしゃがみ込んで、笑みを浮かべながら口を開いた。
「『ありえない』なんてことはありえない」
「!!」
「魔法師なら、覚えておくこったな。お前等の見ている世界なんて、ほんの一部だ。お前等表の人間が知らない、裏の世界では、常識じゃ考えられねえことが普通にまかり通ってるってこった」
その言葉は、烈にとっては衝撃以外の何物でもなかった。
烈とて、魔法師として世界の事象全てを掌握しているなんて思い上がりは抱いてはいない。
だが、魔法という、稀少な異能を持つが故に、人より多くの世界を知っているという認識を持っていたのは事実。
それらの固定観念が今、目の前の男が見せた光景と言葉によって、悉く覆された。
大袈裟かもしれないが、それくらいの衝撃だったのだ。
「良い顔だぜ。あの錬金術師の弟を思い出す。アイツも生身の体だったら、こんな顔だったんだろうなぁ……」
「……」
男は烈の反応に満足そうな笑みを浮かべていた。
対する烈は、呆然としており、男の言葉はあまり耳に入っていないようだった。
やがて男は立ち上がると、ポケットの中に入っていたある物を取り出した。
それは、烈をこの窮地に追い込んだ男が持っていた、赤い石の嵌め込まれた指輪だった。
それを眺めながら、男は再度口を開く。
「
そう言うと、男は硬質化した両手の黒い爪を左右に振るい、烈との間を隔てる鉄格子を細切れにした。
その後、男は両手をもとの人間のそれに戻すと……
「この、“強欲”のグリード様がな」
ウロボロスの刺青が入れられた、右手の甲を見せながら、そう名乗った。
「これが、私と彼の出会いだった。あの後、彼は私を担いで施設を脱出し、安全な場所まで連れて行ってくれた。お陰で、私は救援に駆け付けてくれた味方に保護され、何とか命を繋ぐことができたということだ」
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六十年近く昔の、しかし烈にとっては今になっても忘れられない出来事について聞いたエドは、衝撃に襲われていた。
烈を助けた者の正体が、前世の自分が良く知るそれと、同一人物であると確信できただけに。
「……それでその後、そいつと会ったことはあるんですか?」
「あれ以降も、私は現役時代に海外の任務で幾度かあの男の噂を耳にした。時には現場で顔を合わせ、時に敵対することもあったがね。だが、話ができたのは最初のそれきりだ」
「そう、ですか……」
烈の言葉に、エドは落胆を隠せなかった。
烈の話を聞くに、件の男は前世の世界同様、親玉のもとを離れて自分勝手に行動している様子だったが、エドが密かに追っている黒幕を知る手掛かりでもある。
何としても接触したい相手だった。
「分かっていることは、あの赤い石……『エリクシル』を探しているということだ。そして、裏社会を通じてエリクシルを流通させている謎の組織にも、彼は確実に関わり合いがあることだろう」
「閣下は、その組織については何かご存知なんですか?それから……グリードの“正体”についても」
エドの問いに、烈は不敵な笑みを浮かべるのみだった。
どうやら多かれ少なかれ情報は持っているらしい。
しかし……
「残念だが、今私から話せることはここまでだ。ここから先は……そうだね。必要な時期が来たら話すとしよう」
「……分かりました」
エドを完全に信用していないが故の対応なのか、それともエドを試しているのか。
烈は隠し事をしていることを隠すことなく、そう答えた。
「これは私の連絡先だ。困ったことがあったらいつでも頼るといい。可能な限り、力になろう」
「……ありがとうございます」
対するエドは、本当に食えない爺さんだと思いつつ、この場は退く選択を取った。
いずれは全ての真相を語らせると胸に誓いつつ……。
次回はミラージパッドですが、パッパと飛ばします。
では、また( `・∀・´)ノ