続きかけたで候。
一ヶ月ぶりですね。
では、どうぞ( ゚∀゚)o彡°
『大会五日目、新人戦二日目の午後の試合、間もなくスタートです!女子アイス・ピラーズ・ブレイク一回戦第12試合にはついにあの選手が登場です!』
実況の声が響き渡る。
モニターには深雪の顔写真が映し出されている。
『不慮の事故により、棄権した渡辺選手に代わり、ミラージ・バット本戦に新人ながら抜擢された第一高校、司波深雪選手!実力は未知数!この戦いに注目が集まります!!』
そしてエドはというと、愛梨達と共に深雪の試合を見ることになった。
初めは男子の会場で一条の試合を見ようとしていたのだが、試合開始時間が深雪の方が早かったため、女子の会場に移動してきたのだ。
「なーんでお前らと見ることになってんだか……」
「沓子は強情なのよ。諦めて私達と一緒に見なさいエドワード•エルリック」
栞が隣に座るエドにやんわりと注意する。
エドもエドでため息をつきながら、仕方ないとばかりに前を見る。
ちなみに席順はこうなっている。
_______
|エ|栞|愛|沓|
エドと愛梨の間に栞が入ることで緩衝材の役割を担っている。
この二人は口を開けばすぐに喧嘩をするので、栞としては苦肉の策であった。
沓子に至っては、最初からエドをからかおうとするため論外である。
普段とは違う雰囲気に戸惑う栞であったが、次第に慣れてきたのかエドを諌める余裕も出てきた。
栞としては、エドの存在は既に貴重な観察対象となっていた。
愛梨に噛み付く男子は珍しいので、本人も無意識に楽しんでいるのだ。
さらにちなみに言うと、この光景を三高の男子達はしっかりと目撃しており、エドに嫉妬の視線が向くのは自明の理であった。
「楽しみじゃな〜」
「ええ」
沓子の呟きに愛梨が答える。
(私と同じく上級生に交じってミラージ・バットの本戦に選ばれた実力、見せてもらうわ)
愛梨は厳しい目で前を見据える。
『両選手入場です!』
深雪と相手選手が入場する。
そのとき会場内が一瞬沈黙した後、ドッと沸き起こった。
「緋色袴!?」
「巫女さんみたい」
観客達は深雪から視線を離せないでいた。
深雪の衣装は白の単衣に緋色の女袴で、長い黒髪を白いリボンでまとめていた。
緋色袴は、巫女装束として古来より使われる一般的な魔法の装束であり、深雪の容姿とも相まって神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「美しい……!」
「ブラボー!」
観客達の歓声が響き渡る。
「この歓声……完全に観客を味方に付けたわね」
「気の毒に。相手選手が完全に委縮してしまっているよ」
一高の関係者席にて、真由美と摩利が苦笑いしながら、相手選手へ同情の目を向けていた。
件の深雪はというと、深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。
(まずは落ち着かなくては。私の魔法は意識しただけで事象に干渉してしまう。フライングで担当技術者のお兄様にご迷惑をかけるなどもってのほか)
深雪の登場で、辺りは静謐な森の中にいるような雰囲気に包まれる。
それは敵情視察に来ていた愛梨達も同様で、深雪の姿に目を奪われていた。
沓子が発言する。
「あそこまでの着こなし、尋常ではないな。ウチの実家のバイトに来てほしいくらいじゃ」
「沓子……」
そのとき栞が沓子の名を呼び、愛梨の方に目配せする。
見れば愛梨は顔を白くさせていた。
まるで畏怖しているかのように。
「大丈夫かの?」
「なんでもないわ」
『女子アイス・ピラーズ・ブレイク1回戦第12試合、激戦の火蓋が切って落とされました!』
そしてライトがつき、試合が始まった。
直後、フィールド全体を強力なサイオンが覆った。
『第四高校、清水選手陣内が熱気に揺らめいています!この魔法……まさか「
深雪が放ったのは、中規模エリア用振動系Aランク魔法【
この魔法は、二分した対象エリアの一方の空間内全ての振動エネルギー、運動エネルギーを減速し、その分をもう一方の空間を加熱するエネルギーへと変換する高難度魔法である。
『灼熱の地獄で相手の氷を
少なくとも、高校生の大会で出るレベルの魔法ではない。
深雪の陣地は極寒の冷気に覆われ、相手の清水選手の陣地は熱波に陽炎が揺らいでいた。
威力が凄まじいのか、清水選手の氷柱は段々と溶け始める。
清水選手は、急いで自陣の氷柱に魔法をかけてみるものの、地力に差があり過ぎるのか、全く効果はなかった。
『そして仕上げに清水選手の氷柱を粉砕!司波選手の氷には傷ひとつありません!!』
勝敗は既に決していた。
『試合終了〜!第一高校司波深雪、相手に一切の反撃を許さず完封勝利を受けました!!』
その結果を愛梨は茫然と見ていた。
「何者なの司波深雪……」
エドは愛梨の様子を横目で見ながら忠告した。
「おい金髪女、ひとつ忠告しておいてやる。あいつに、深雪に挑むなら……全身全霊をかけて挑むことだ。生半可な覚悟じゃ、あいつの前に立つこともできねえぞ」
エドの言葉に愛梨は何も言うことができなかった。
こうして女子アイス・ピラーズ・ブレイク1回戦は全て終了した。
◆◆◆
愛梨達と別れたエドはモニターで一条の男子アイス・ピラーズ・ブレイクの試合を観戦していたのだが……
『第三高校、一条将輝選手、二回戦突破です!』
「一瞬で終わりかよ……」
一条の『爆裂』によって一瞬で決着がついた。
「確か『爆裂』は対象内部の液体を瞬時に気化させる魔法だったか。ってことは、ピラーズは一条の野郎にはうってつけの競技ってわけか」
エドは思考する。
(あいつに勝つには爆裂を発動させるより前に、氷柱を分解するしかねぇ)
「面白ぇ。オレの錬金術とあいつの爆裂……どっちが早えぇか真っ向勝負ってとこか」
エドは不敵に笑いながら画面の中の一条を見る。
負けることなど微塵も考えていなかった。
その不変的な精神的強さこそが、エドがエドワード・エルリックたる所以なのかもしれない。
「見るもんみたし、テントに戻るか」
その後、皆と合流したエドは、引き続き深雪達の女子アイス・ピラーズ・ブレイクの試合を観戦する。
そして深雪、雫、エイミィの三人も無事二回戦を突破し、翌日の三回戦へと駒を進めたのだった。
その日の夜……
エド達はホテルにて夕食を取っていた。
一高の雰囲気は良いものとなっており、全員リラックスしながら食事を楽しんでいる。
中でも一年女子の雰囲気が特に良く、達也のエンジニアとしての活躍もあって、彼の担当している選手達は軒並み上位を独占していた。
その甲斐あって、一年女子の間では達也はその力をとっくに認められていた。
これには妹の深雪もホクホク顔である。
男子の方も女子とまではいかないものの、エドがエンジニアの足りない手をカバーすることにより、それなりに悪くない成績を収めていた。
そして件のエドはというと、端の方で達也と二人で話していた。
「エドワード、今日は料理にがっつかないんだな」
「お前の中でのオレのイメージはどうなってんだよ……あの時は飯食う時間なかったから、仕方なかったんだっつーの」
エドはオレンジジュースを飲みながら話す。
「しかしお前、エンジニアとしての腕すげぇのな。担当してる奴ら、ほぼ上位独占だろ?」
「俺自身、別に大したことはしていない。その選手に合う魔法を選び、最適化しているだけの事だ。彼女達が結果を残せたのは、日々の努力の賜物だ」
「……謙遜も過ぎると嫌味になるぞ。まあ、今はそういうことにしておいてやるよ」
「謙遜ではないんだがな……」
すると今度は達也が話題を振ってきた。
「そういえば今日はクリムゾン・プリンス、一条将輝の試合を見てきたんだろう?どうだったんだ?」
「どうもなにも一瞬で終わるからなんの参考にもなりゃしねぇ。分かったことといえば、一条の野郎に勝つには、爆裂発動前に錬金術を使わねぇと勝てねぇってことくらいだ」
「そうか。だがエドワード、
「
「なるほど。今までの試合は一条の油断を誘うためのフェイクという訳か」
「そうなってくれりゃ、御の字ってだけだ」
そして夕食を終えた一高の面々が部屋へ戻ろうとすると、ほのかがあることに気付く。
「三高の……!」
なんと三高の面々と顔を合わせることになったのだ。
先頭にいた一色愛梨が挨拶をする。
「あら、一高の皆さんこんにちは。ご夕食でした?」
それに代表して答えたのは深雪であった。
「ええ、お先にいただきました。皆様はこれから?」
「……ええ、そうです。入れ違いで残念でしたわ。でもここでお会いできて良かった」
すると愛梨は改めて話を切り出してきた。
「司波深雪さん、貴女にお詫びしたいことがあります。私は以前、貴女を侮った発言をしました。しかし私の認識が間違っていたことをはっきりと悟りました。貴女は私達の世代でトップクラスの魔法師。だからこそ私は貴女に勝利するために全力を尽くし、この九校戦を第三高校の優勝で飾ってみせるわ」
「「「「「…………」」」」」
愛梨の深雪へのライバル宣言ともとれる宣戦布告に、周囲に妙な緊張が走る。
一同が見守るなか、深雪は愛梨へ微笑みながら答えた。
「ええ、そうですね。もちろん私も貴女に負ける気はありませんので。お互い全力を尽くして戦いましょう」
そして深雪は愛梨へ手を伸ばす。
愛梨もその手を取り、微笑み返した。
「良い戦いをしましょう!」
「ええ」
二人が握手をすると、両校の間に穏やかな空気が流れる。
二人のやり取りは一高と三高の選手達にも良い影響を与えたようだ。
そしてその様子を、エドと達也は後方から静かに見守っていた。
「……出ていかなくても大丈夫そうだな」
「あの金髪女なら無駄に挑発してくると思ったんだがな……」
すると愛梨の側にいた沓子と栞がエドの存在に気付いたのか、声をかけてきた。
「おおー!エドワードではないか!!」
「さっきぶりね、エドワード・エルリック」
「お前らか」
二人は近付いてくると、エドに話を切り出した。
「お主、明日はピラーズのブロック決勝じゃが、調子はどうなんじゃ?」
「誰にものを言ってやがる。問題ねぇよ」
「アハハハハ!さすが懇親会であれだけの啖呵を切った男じゃ!負けることなど微塵も考えとらんな!!」
「一条君のコンディションは万全よ。明日の決勝は十中八九、貴方と一条君の直接対決になるでしょうね」
「上等だ。相手が十師族だろうがなんだろうが関係ねぇ。勝つのはオレだ」
「……普通、相手があの一条君だと聞けば、少しは臆するのだけど……貴方に常識は通用しないわね、エドワード・エルリック」
「おい、なんで額に手を当てて呆れてんだお前は」
するとエドの事に気付いたのか、深雪と話を終えた愛梨もエドの元へとやって来た。
「貴方もいたのね、生意気な金髪男」
「そりゃいるに決まってんだろ、いけすかねぇ金髪女」
自然と二人は睨み合う。
「懇親会の時のことは覚えてる?私の前であれだけの啖呵を切ったのだから、無様な真似は許さないわよ?」
「そっちこそ、さっきあれだけの啖呵を切ったんだ。お前の全力とやらも見せてもらおうじゃねえか」
「ええ、見せてあげるわ。そしてその上で貴方達、一高に絶対に勝ってみせる」
「少なくとも、お前らの相手にはオレ様の妹分共が立ち塞がる。そう簡単に勝てると思うなよ」
「上等じゃない。それでこそ挑みがいがあるというものよ。行くわよ沓子、栞」
そうして愛梨は部屋へと入っていく。
「では、またの!」
「また」
その後を追うように沓子と栞も部屋の中へと入っていった。
他の三高生達もその後を追うように入っていくのを視界の端で確認しつつ、エドも自分の部屋へと戻ろうとしたとき、彼は言葉を失った。
「ウソ……だろ……」
アルフォンスとウィンリィ。
一瞬、エドは狼狽しかけるが、雫やほのか、深雪が勢いよく話しかけてくるおかげで精神を持ち直すことに成功した。
だからこそ気付けなかった。
そして翌日、エドは少しばかり複雑な胸中でアイス・ピラーズ・ブレイクの試合に臨むことになるのであった。
次回、次こそエドのアイス・ピラーズ・ブレイクです。
では、また( `・∀・´)ノ