魔法科高校の鋼の錬金術師   作:Gussan0

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どうも(・∀・)

続きかけたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第三十八話 九校戦開始

2095年8月3日……

 

一日、最終調整日をおいた翌日、エド達は会場にいた。

 

九校戦の開幕式が行われているのだ。

 

 

『いよいよ全国魔法科高校親善魔法競技大会、通称【九校戦】、十日間に渡る熱き戦いの開幕です!現在華々しく活躍するA級魔法師も代々この大会で素晴らしい結果を残してきました。この国の将来を担う魔法師の雛たちがここ富士山麓(ふじさんろく)より飛び立ちます!我々はこれから新たな歴史の1ページを目の当たりにするのです!なお、使用魔法は全て可視化処理した特別放送でお送りします。興奮と感動のスペクタクル、若き魔法師達による華麗な競技をぜひご自宅でもご覧下さい。チャンネルの契約は今すぐスカイアイランドT∨まで!!』

 

 

九校戦はテレビ放送もされているため、その盛り上がりも半端ではない。

 

なんせ十日もの間、本戦と新人戦合わせて二十種目の魔法競技を巡って、若き魔法師達の熾烈な戦いが始まるのだから。

 

ちなみにスカイアイランドT∨は、エルリック家でも契約している。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

開幕式を終えたエド達は、いつものメンバーで集まる。

 

すると、ほのかと雫がさっそくプログラムを確認していた。

 

 

「雫、プログラム見せて」

 

 

「ん」

 

 

「一日目は本戦のスピード·シューティングと、バトル·ボード、七草会長と、渡辺先輩がそれぞれ出場か〜」

 

 

二人は気合を入れる。

 

 

「二人とも優勝候補よ!新人戦では私達が出る種目だし」

 

 

「うん。見逃せない……!」

 

 

二人とも九校戦の空気に当てられているのか、やる気満々らしい。

 

エドはというと、九校戦に出ている出店に興味を引かれていた。

 

側を歩いていた美月も興味津々なのか、エドに話しかける。

 

 

「色んなキッチンカーが出てるんですね〜」

 

 

「みたいだな。おい美月、観戦がてらなんか買ってこうぜ」

 

 

「でもさっき朝ごはん食べたばかりですし、食べすぎるとお腹壊しちゃいますよ?エドワードさん、懇親会のときにも食べ過ぎたんだから気を付けなくちゃ」

 

 

「わぁーってるよ。だからちょっとだけだ」

 

 

美月がやんわりと注意する。

 

エドも懇親会のときは食べ過ぎたという自覚があるのか、さすがに多目には買わない。

 

二人で相談した結果、全員でつまめるものをということで、たこ焼きになった。

 

たこ焼き購入後、席を確保していたエリカ達の元へと向かう。

 

今から行われるのはスピード·シューティングという競技であり、生徒会長の真由美が出場するのだ。

 

通称、『早撃ち』と呼ばれており、三十メートル先の空中に投射されるクレーを魔法で破壊する競技である。

 

クレーは五分間の制限時間中にランダムに射出されるため、【素早さ】と【正確さ】が求められる。

 

予選は破壊したクレーの数を競うスコア型、上位八名による決勝トーナメントは自分の色のクレーを撃ち分ける対戦型になるのも特徴の一つである。

 

 

「初日から真打登場だな」

 

 

「ええ」

 

 

達也と深雪が呟く。

 

その視線の先には真由美の姿があった。

 

 

『一高の七草真由美だ!』

 

『エルフィン·スナイパーだ』

 

『素敵ですお姉様〜』

 

『真由美ちゃーん』

 

 

真由美の登場で会場は盛り上がる。

 

彼女は十師族であるうえに、その容姿の美しさから大変人気があるのだ。

 

 

「会長、SF映画のヒロインみたい」

 

 

「さすが凄い人気ですね。会長さんの同人誌を作ってるファンもいるくらいですからね」

 

 

ほのかが顔を赤くさせながら呟き、美月もプチ情報を補足する。

 

 

「え!?」

 

 

「美月……貴女そういう趣味が……」

 

 

「ええっ!?そ、そそそんな趣味なんてありませんよっ!?聞いた話です!!」

 

 

しかしエリカと深雪の二人に勘違いさせてしまったので、美月は慌てて否定したが。

 

実は同人誌を作っているのは、彼女の所属する美術部の連中である。

 

主にアニメやゲーム、漫画などの娯楽を趣味とする者達が多いのだ。

 

美月はその先輩や友人から話を聞いていたのである。

 

 

「始まるぞ」

 

 

そしてついに競技が始まり、クレーが打ち出される。

 

 

「あんなに遠くのクレーを撃つなんて……」

 

 

すると真由美は魔法を発動させ、クレーを正確に撃ち抜いていく。

 

 

『『『『『おおっ!』』』』』

 

 

観客が驚く。

 

それは達也達も同じであった。

 

 

「速い……!有効エリアに入った瞬間、あの遠距離から一個ずつ撃ち抜いてる。高速にして正確無比。これが七草会長、いや遠隔魔法のスペシャリスト!」

 

 

雫が説明するように話す。

 

 

『第一高校、七草真由美さんの成績……パーフェクト!スコア100 !!』

 

 

「弾丸はドライアイスの亜音速弾ですね」

 

 

「そうだな。驚くべきはその精度だ。知覚系魔法を併用し、情報処理しながらも100%の命中率」

 

 

「確かに肉眼であの射撃は無理」

 

 

エドは深雪、達也、雫の話を聞きながらある一人の女性スナイパーのことを思い出していた。

 

その人物は、類稀な狙撃センスの持ち主で、名前とその正確無比な狙撃から『鷹の眼』の異名を持っていた。

 

 

(ホークアイ中尉なら、肉眼でも百発百中だろうな)

 

 

 

リザ·ホークアイ。

 

 

 

焔の錬金術師、ロイ・マスタングの副官で秘書でもあり、東方司令部をよく訪れるエルリック兄弟とも、比較的交流が多かった人物である。

 

彼女とは、共闘することも多く、エドも何度もお世話になったことがある。

 

怒らせたら怖く、あの女好きの大佐ですら、ホークアイ中尉だけは怒らせないようにと常日頃から注意していたほどである。

 

 

(あの二人なら……一緒になってそうだな)

 

 

マスタング大佐と、ホークアイ中尉のその後の関係をなんとなく予想しながら競技を見る。

 

そして真由美はトップで予選を通過した。

 

続いての予選はバトル·ボードである。

 

通称『波乗り』と呼ばれ、動力のないボードに乗り、魔法を使って全長三キロの人工水路を三周して勝者を競う。

 

水面への魔法行使は認められているが、他選手への身体や、ボードへの攻撃は禁止である。

 

この競技には摩利が出場することになっている。

 

達也は隣に座っているほのかに話を振る。

 

ほのかも新人戦のバトル·ボードの出場選手なのだ。

 

 

「新人戦の準備は大丈夫か?ほのか」

 

 

「はい!」

 

 

ほのかは元気よく答える……が、なぜか意気消沈する。

 

 

「……でも達也さんに調整してもらえないんですよね。深雪と雫は二種目とも担当が達也さんなのに……」

 

 

「どうしたんだ?ミラージ·バットは担当じゃないか。バトル·ボードの練習と作戦立てにも付き合ったし……」

 

 

「い、いえ、あの……」

 

 

達也は、ほのかの様子に首を傾げる。

 

するとほのかは恥ずかしくなったのか、顔を赤くさせ、俯いてしまった。

 

それを見ていた女性陣が呆れたように達也を見る。

 

 

「……お兄様」

 

 

「達也さん、そういう問題じゃないと思います……」

 

 

「達也君の意外な弱点発見〜」

 

 

「朴念仁……」

 

 

さすがの達也もこれには思うことがあったようで……

 

 

(余計なことは言わないようにしよう……)

 

 

と、心に誓った。

 

ちなみに他の男性陣は巻き込まれたくないのか、終始無言であった。

 

 

『それでは、第三レースを開始致します』

 

 

すると、遂に摩利の番が回ってくる。

 

 

『第一高校三年、渡辺摩利さん』

 

 

『きゃあ〜!先輩カッコいい〜!!』

 

『こっち向いて〜っ!!』

 

『摩利様ーっ!がんばってー!!』

 

 

応援にも熱が入る。

 

しかしエリカはあまりの熱量に引いていた。

 

 

「うっわ……」

 

 

「随分熱狂的なファンが多いこって」

 

 

エドもその光景を呆れたように見ていた。

 

そして競技が始まる。

 

 

『用意、スタート!!』

 

 

摩利はスタートダッシュを決め、トップに躍り出る。

 

相手選手達が妨害しようと魔法を行使するが、摩利は持ち前の器用さで切り抜ける。

 

 

「ほう。硬化魔法と移動魔法のマルチキャストか」

 

 

「硬化魔法?俺の得意魔法だ。どこに使ってるんだ?」

 

 

達也の呟きにレオが反応する。

 

ちなみにマルチキャストとは、1つのCADで複数の異なる魔法を同時に行使する魔法技術である。

 

 

「自分とボードの相対位置を固定するために使ってるんだ。これならボードから転落することもない。さらに自分とボードを一つの『もの』として移動魔法をかけている。しかもコースの変化に合わせて持続時間を設定し、細かく段取りしているな」

 

 

つまりボードから落ちないように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

もっと簡単に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()ようなものだ。

 

直線であればスピードを上げ、カーブであればスピードを下げる。

 

摩利はそれらの操作を瞬時に行っているのだ。

 

 

「すげ……」

 

 

「面白い使い方だ。加速魔法、振動魔法も併用しているのか。すごいな。常に三〜四種類の魔法をマルチキャストしている」

 

 

レオと達也の二人は感心するように声をあげる。

 

達也はさらに分析しながら思考する。

 

 

(芸術的なまでに磨き上げられた魔法で他を圧倒する七草会長と、臨機応変に多種多彩な魔法をコントロールする渡辺先輩……一試合見ただけでも他校との差は歴然。いや、高校生のレベルを超えている!!)

 

 

『一着、第一高校、渡辺摩利さん』

 

 

他の面々も驚いていた。

 

それはエドも例外ではなかった。

 

 

(魔法にはあんな使い方もあるのか……)

 

 

多種多様に魔法を使いこなす摩利は、ある意味エドの理想形とも言えた。

 

魔法を使い始めてまだ一年と少ししか経っていないエドは、他の面々に比べると圧倒的に不利である。

 

そのため、彼が普段から使っているブレスレット:腕輪型CADや、機械鎧(オートメイル)型CADには現在公開されている基礎的な起動式しか入れていない。

 

現時点の彼の力量では、高度な魔法は使いこなせないからだ。

 

雫やほのかと知り合ってからは、彼女達の得意魔法の指導を受けたりもしている。

 

雫であれば振動·加速系統、ほのかであれば光波振動系統など……それらの魔法であれば、ある程度は使いこなせるまでにはなっている。

 

 

(まあ、今のオレの身体は調()()()ってやつらしいからな。時間をかければ高度な魔法も修得できるだろうが……そんな悠長なことをしてる時間はねぇ。なら、基礎的な魔法を多種多様に使いこなせるようになった方が、まだ現実的だ。戦術の幅も広がるしな)

 

 

エドは転生する際に、魔法師に最適な身体へと作り変えられている。

 

それが判明したのは、九校戦参加の際に第一高校であった健康診断の結果を見たときだった。

 

エドの魔法師としての素養は高いらしく、魔法力が他の者に比べて圧倒的に高かったのだ。

 

 

(道理で魔法を使えば使うほど、感覚が研ぎ澄まされていくはずだ。まあ、そのおかげで魔法科高校に入れたんだが……)

 

 

それにエドに起こった変化はそれだけではなかった。

 

エドは目をつむり神経を研ぎ澄ませる。

 

周囲の気の流れを意識していく。

 

再び開けると、彼の目には()()()()が見えるようになっていた。

 

 

(これってもしかしなくても霊子(プシオン)……だよな?)

 

 

エドの目の前には会場全体を明るく照らす霊子(プシオン)の塊があった。

 

なぜエドが急に霊子(プシオン)を知覚できるようになったのか?

 

それは錬金術のトレーニングの一環として、龍脈の気の流れを感知する鍛錬をやっていたとき、ふと意識すると自然と見えるようになっていたのだ。

 

だがこの会場で見るには少々刺激が強すぎた。

 

思わずエドは目をゴシゴシとこする。

 

再び開けると、通常通りの風景であった。

 

すると隣に座っている美月がエドの変化に気付く。

 

 

「大丈夫ですかエドワードさん?気分が悪いんですか?」

 

 

「……いや大丈夫だ。少し霊子(プシオン)の波動が強すぎて酔っただけだ」

 

 

するとエドの言った言葉に全員唖然とする。

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

エドは自分以外の全員がこちらを見ている事に気付く。

 

 

「な、なんだよ……?」

 

 

「エドワードお前、今、自分がとんでもない事を言ったという自覚がないのか?」

 

 

「とんでもない事?」

 

 

達也の言葉にエドは聞き返す。

 

すると美月が慌てるように言った。

 

 

「エドワードさん!霊子(プシオン)が見えるんですか!?」

 

 

「あ、ああ。最近、錬金術の鍛錬をしているときに急に認識できるようになってな……つっても集中しねえと見れねぇし、今のところ短時間が限界だ」

 

 

「そ、それでも凄いことですよそれ!眼を完全に使いこなしてるってことじゃないですか!!」

 

 

「あー、そういやお前、なんたら過敏症だったか?」

 

 

霊子放射光過敏症(りょうしほうしゃこうかびんしょう)です!」

 

 

「そ、そうか」

 

 

美月が何やら興奮しながら話す。

 

そこからエドは質問攻めにあった。

 

 

________

______

____

 

 

 

達也はお昼休み、ホテルの指定されたある一室に足を運んでいた。

 

警備で立っている人物に敬礼をしてから部屋へ入った。

 

 

「失礼します」

 

 

中には独立魔装大隊(どくりつまそうだいたい)の面々が揃っていた。

 

独立魔装大隊は、国防陸軍第101旅団に編成された大隊であり、旅団長である佐伯少将が十師族から独立した魔法戦力を備えることを目的に創設したものである。

 

魔法装備を主装備としており、新開発された装備のテスト運用も担う部隊である。

 

その為、軍事機密も最高位である。

 

二個中隊規模の人員がおり、構成員のほとんどは魔法師であり、特定分野に突出しているクセの強い者達が集まっている。

 

達也もその一人である。

 

 

「来たか達也、まあ掛けろ」

 

 

少佐の風間が声をかける。

 

 

「いえ、自分はここで」

 

 

「そう遠慮するな。何せ、今日は君を『戦略級魔法師、大黒竜也(おおぐろりゅうや)特尉』としてではなく、我々の友人『司波達也』として招いたのだから」

 

 

司波達也にはもう一つの顔がある。

 

それが戦略級魔法師、大黒竜也という存在だ。

 

大黒竜也は非公開戦略級魔法師であるため、存在自体秘匿されているのだ。

 

 

「達也、君が立ったままでは、我々も話をしづらくて困る」

 

 

すると大尉の柳が達也に座るよう促す。

 

 

「分かりました、失礼します」

 

 

達也は空いている席につくと同時に挨拶する。

 

 

「柳大尉、お久しぶりです」

 

 

「半年ぶりだな」

 

 

それを皮切りに達也に話しかけていく面々。

 

 

「達也君、先日は助かったよ。『サード·アイ』のCAD調整は君でないと手に負えないからね」

 

 

「いえ、こちらこそありがとうございました。真田大尉」

 

 

「私も達也君に会うのは久しぶりですね。紅茶どーぞ」

 

 

「藤林少尉、ありがとうございます」

 

 

「ティーカップでは様になりませんが、乾杯といきましょ」

 

 

少尉の藤林は紅茶を持ち、お茶目に話す。

 

 

「では、この場は藤林君の顔を立てて再会の祝杯だ。なあ達也」

 

 

「ありがとうございます。山中先生」

 

 

達也を交えた六人で話していく。

 

話題は勿論、良くも悪くも九校戦に関する事である。

 

 

「……やはり昨夜の侵入者は『無頭竜(ノーヘッドドラゴン)』の一員だったんですね」

 

 

「ああ、だが目的など詳しいことはまだ調査中だ」

 

 

実は昨晩、武装した怪しげな三人組が軍の施設に強襲しようとしている所を達也と幹比古が遭遇し、これを阻止している。

 

 

「昨夜もあんな遅くまで警戒を?」

 

 

「いえ、競技用CADの調整をしていたんです。遭遇は偶々ですよ」

 

 

藤林の疑問に達也が答える。

 

 

「そうか〜。あの天才CAD技師の『シルバー』殿が高校生大会のエンジニアとはなぁ」

 

 

医師の山中が茶化すように話を振る。

 

 

「レベルが違いすぎてイカサマのような気もするな」

 

 

「真田大尉……達也君だってれっきとした高校生ですよ。ねぇ達也君?」

 

 

「……そうですね。『シルバー』の事は一応秘密ですし」

 

 

「ねぇ、選手としては出場しないの?結構良い線行くと思うんだけど」

 

 

どうも藤林は九校戦での達也の活躍が気になるようだ。

 

 

「藤林……たかが高校生の競技会だ。戦略級魔法師の出る幕ではない」

 

 

「でも去年の大会では十師族の七草家や、十文字家のAランク魔法が使用されたくらいですもの。達也君なら物質を分子レベルにまで分解する『雲散霧消(ミスト·ディスパージョン)』がありますし、もっと言えば……」

 

 

「やめたまえ。軍事機密指定の魔法だ」

 

 

そこに風間が待ったをかける。

 

そして達也に念を押す。

 

 

「達也……分かっているな。もし選手として出場することになっても」

 

 

「分かってますよ少佐。『雲散霧消(ミスト·ディスパージョン)』を使う状況にまで追い込まれたら諦めて負け犬になります。しかし……選手になるような状況は考えにくいですが」

 

 

「なに……分かってるならそれでいい」

 

 

その後、しばらく話してから時間が来た達也は応援席に戻るのであった。

 

 

 

________

______

____

 

 

 

達也が競技場へ戻ると、スピード·シューティングの準々決勝が始まろうとしていた。

 

 

「達也君、こっちこっち!」

 

 

エリカの声で皆を発見すると、そこへ向かう。

 

 

「もう満席か。凄い人気だな。……幹比古は?」

 

 

「気分が悪くなったみたいで、エドワードさんが付き添いで部屋に送ってくれてます。この熱気ですし、私も眼鏡がなかったらダウンしてたかもです。こんなに会場が混んでいるのも会長が出場されるからですね」

 

 

そのときブザーが鳴る。

 

試合が始まったようだ。

 

 

「準々決勝からは紅白対戦型なのよね。会長のクレーは何色?」

 

 

「赤だよ」

 

 

ほのかが例の如く、雫に質問する。

 

とりあえず九校戦のことに関しては、雫に聞けばなんとかなるのである。

 

試合は両者ともに一進一退の攻防である。

 

すると相手選手が仕掛ける。

 

 

「上手い。移動魔法で白のクレー同士をぶつけて破壊している」

 

 

「一気に二点だね」

 

 

対して真由美は堅実に行く。

 

 

「ドライアイスの弾丸で赤のクレーを一つずつ撃ち抜いてる。やっぱ速ぇなあ〜」

 

 

「相手の戦法の方が効率が良くて一般的……予選と同じ戦い方をする会長は珍しいよ」

 

 

試合はそのまま膠着状態に進むが、ここで動きがあった。

 

 

「今……()()()()()()()()()()()。どうやって!?」

 

 

真由美が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

その理由を司波兄妹が説明する。

 

 

「知覚魔法『マルチスコープ』なら死角はありません」

 

 

「ああ。そして七草会長なら()()()から撃てる。なぜなら作り出すのは()()でなく、その()()……『魔弾の射手』、ドライアイスの弾丸を撃ち出す魔法『ドライブリザード』の射出点をコントロールするバリエーション。十師族·七草真由美が得意とするAランク魔法だ」

 

 

真由美の披露した魔法に会場も盛り上がる。

 

 

『す……すげーっ!「魔弾の射手」!!』

 

『死角のない遠距離攻撃か!』

 

『百発百中だ』

 

 

「そんなんありかよ……隙がねぇ……」

 

 

レオは真由美の魔法の洗練さに驚くが、達也の次の言葉で絶句する。

 

 

「スポーツ競技だからまだいいが……想像してみろ。もしここが戦場で、もし殺傷力を最大にした『魔弾の射手』を使われたら……」

 

 

司波兄妹以外想像したのか、顔を青くする。

 

 

「ぜ、全滅……です……」

 

 

「……そんなんアリかよ……」

 

 

達也は淡々と語る。

 

 

「そうだ。たった一人でも戦争を勝利へ導く切り札となり得る。それが日本最強の魔法師集団『十師族』というものだ」

 

 

それからというもの終始、真由美の優勢であった。

 

 

「高校生レベルでは勝負にすらならないな……」

 

 

スピード·シューティングは100対30で真由美の圧勝であった。

 

そしてそれ以降の試合、準決勝·決勝と真由美は快勝し、スピード·シューティングの優勝を決めたのだった。

 

 

 

________

______

____

 

 

 

その頃、エドは幹比古をホテルの部屋にまで送っていた。

 

 

「っと、ここでいいのか?」

 

 

「あ、うん。ありがとうエド」

 

 

部屋に入り、ベッドに座り込む幹比古。

 

エドはそんな幹比古を一瞥しつつ、話しかける。

 

 

「で、話はなんなんだ?」

 

 

「気付いてたのかい?」

 

 

「そりゃ、あれだけ視線を感じりゃあな」

 

 

「あはははは。一応バレないようにしてたつもりなんだけど、君も達也と同じで規格外だね……」

 

 

「あんな人間やめたシスコンと一緒にするのはやめろ」

 

 

エドの霊子(プシオン)が見えることについて、特に質問が多かったのが懇親会で知り合った幹比古であった。

 

幹比古の家、吉田家は、精霊魔法の名門であり、神道系の古式魔法を伝承する古い家系である。

 

主に魔法の使用には呪符を用いており、陰陽道系の占術の造詣にも深い。

 

その祖先は何処の村にも一人はいるような雨乞いの祈禱師だったと伝えられている。

 

 

「君のその眼について話があるんだ。実は……」

 

 

その幹比古が言うには、どうやらエドの霊子(プシオン)を見る力は吉田家に伝わる【水晶眼(すいしょうがん)】と酷似しているらしい。

 

エドは霊子(プシオン)光の色も判別できるため、そういった結論に至ったようだ。

 

皆の前で話をしなかったのはこの話を周りに広めたくなかったから、らしい。

 

 

「それに柴田さんも君と同じく、水晶眼の持ち主の可能性があるんだ」

 

 

「美月もか?」

 

 

「うん。とはいっても、柴田さんは君のように眼の切り替えが出来ない。そう考えると能力の安定度はエド、感受性の精度では柴田さんって所かな」

 

 

「なるほどな。それより、その水晶眼と精霊魔法っての、もう少し詳しく聞かせてくれ」

 

 

そして二人は話す。

 

幹比古もエドの操る錬金術に前から興味があったらしく、互いに意見を交わし合う。

 

それによって幹比古は、エドの錬金術は地脈のエネルギーを利用しているという答えにたどり着く。

 

そんな幹比古の頭の良さにエドは舌を巻く。

 

古式魔法を操る幹比古であるからこそ気付けたのだ。

 

そのことで火がついたエドもさらに意見を交える。

 

そして気が付けば、あっという間に夜になっていた。

 

達也に声をかけられるまで話に夢中で気付かない二人であった。

 

余談ではあるが、エドはこの霊子(プシオン)を見る力を【水晶眼】から取って【水晶の眼(クリスタル·サイト)】と名付けるのであった。




今回、なぜエドにプシオンを見えさせるようにしたかというと、一言で言えばパラサイト対策ですかね。

パラサイトはあのお兄様ですら、単身ではほぼ何も出来ないほどの強敵ですから。

プシオンは作中では、霊的なエネルギー?生命エネルギー?みたいな描写があったので、気の感知ができるようになったエドなら、その精度を高めれば見えるようになるのでは?という結論に至りました。

なのでこの小説では、気のエネルギーで操る錬金術は、パラサイトにも有効であるとします。

では、また( `・∀・´)ノ

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