魔法科高校の鋼の錬金術師   作:Gussan0

36 / 62
どうも(゜▽゜*)

続き書けたで候。

時間かかって申し訳ない。

鬼滅の刃にはまってました。

一気にマンガ全巻買ったら一万円もしちゃったぜ(ノ´∀`*)

あと取り溜めしてた、とある科学の超電磁砲Tも見てました。

なんか巨大ロボット大決戦みたいなのにはビックリしました。

今月は鬼滅の映画もするし、魔法科高校の劣等生のシリーズも新しく始まったし、ワクワクが止まらねえええぇ!!Σ(゜Д゜)

というわけでどうぞ( *・ω・)ノ


第三十六話 懇親会

何の偶然か千代田花音がいち早くそれに気が付いた。

 

 

「あの車……様子がおかしい」

 

 

反対車線を走る一台のオフロード車が、他の車と比べて明らかにスピードを出していた。

 

すると突然ブレーキを掛けながらバランスを崩し、蛇行を始める。

 

続けて路面に火花を散らしながら中央分離帯のガード壁に激突すると、オフロード車はフワリと宙に浮き上がる。

 

なんと宙返りをしながらこちらの車線に飛び込んできたのだ。

 

そしてオフロード車は、狙い澄ましたかのようにバスの真ん前に落ち、火の手が上がった。

 

 

「キャッ!」

 

 

「うわっ!」

 

 

バスが咄嗟にブレーキを掛けたことでシートベルトをしていなかった生徒達から悲鳴があがる。

 

凄まじい衝撃がバス全体に伝わる。

 

しかしスピードの乗っていたバスが急に止まれるはずもない。

 

 

「ダメだ!避けられない」

 

 

すると複数の生徒が咄嗟に動き出した。

 

 

「吹っ飛べ!」

 

「消えろ!」

 

「止まって!」

 

 

花音、森崎、雫が自分達の魔法で事態をどうにかしようと、一斉に車へ向けて魔法を掛けようとしたのだ。

 

 

「バカ、止めろ!」

 

 

しかしこれらの行動が、事態をより悪化させた。

 

摩利は焦る。

 

同じ物に対して無秩序に魔法を重ね掛けしてしまうと、それぞれのサイオン波が干渉を起こして魔法による事象改変力を弱めてしまう。

 

いわばキャスト・ジャミングと同じことが起きるのである。

 

この状況を打破するには、今あるすべての魔法を圧倒できるだけの事象改変力を持つ魔法師しかいない。

 

 

(今ここで全ての魔法を圧倒できるのは……)

 

 

摩利は即座に後ろの席に視線を向ける。

 

 

「十文字!」

 

 

「むっ!」

 

 

すると十文字も同じことを考えていたのか、既にCADを構えて起動式を展開していた。

 

しかしこのキャスト・ジャミングに似た状況の中で炎と衝撃の両方に対処するのは、さすがの十文字といえども骨が折れる作業であるのは明白であった。

 

 

「私が火を!」

 

 

そのとき、深雪が座席から立ち上り、CADを構える。

 

 

「司波!?無茶だ!いくらお前でもこんなサイオンの嵐の中でなんて……」

 

 

摩利が止めようと声をあげた次の瞬間、彼女は目の前で起きた出来事が信じられずに、思わず絶句する。

 

なんと無秩序に発動していた魔法式の残骸が、()()()()()したのだ。

 

 

(消えた!?)

 

 

「いきます!」

 

 

その直後、深雪の魔法が発動し、冷却魔法によって燃え盛る車が一瞬で鎮火した。

 

 

「防壁は任せろ!」

 

 

そして十文字による防壁魔法がバスを包み込む。

 

バスと車は正面衝突し、車はバスが突っ込んだ勢いで潰れていくが、魔法に守られたバスには傷一つなかった。

 

 

 

────────

──────

────

 

 

 

「みんな、大丈夫?」

 

 

バスが完全に停止すると、真由美がバスにいる生徒全員に呼び掛ける。

 

急ブレーキの衝撃で軽い怪我を負った者はいたが、幸いにも大会に影響するほどの重傷を負った者はいなかった。

 

 

「十文字君ありがとう、さすがね!」

 

 

「……いや」

 

 

「深雪さんも素晴らしかったわ!あの緊急時に適正かつ適度な魔法……私達三年生にも難しいわ」

 

 

「光栄です、会長。ですが上手く対処できたのは、バスに減速魔法を掛けてくださった市原先輩のおかげです。市原先輩、ありがとうございました」

 

 

深雪が頭を下げると、鈴音も口元に笑みを浮かべて軽く頭を下げる。

 

相変わらずの彼女の仕事振りに、競技に出場する選手達すら「全然気づかなかった……」と感嘆の呟きを漏らすほどだ。

 

 

「それに比べてお前は……真っ先に場を引っ掻き回して!」

 

 

「いたっ!?でもあたしが一番早かったじゃないですか!!」

 

 

「早ければ良いってもんじゃない!冷静になれ!!」

 

 

「うぅ……すみませんでした……」

 

 

すっかり落ち込む花音に、摩利はそれ以上何も言えなかった。

 

そして摩利は鈴音の方を見た後、深雪を一瞥する。

 

 

(市原の魔法に私ですら気付かなかった。しかし、司波のこの落ち着き具合、余程の修羅場を経験しているのか。それに……)

 

 

彼女は思考する。

 

 

(あのサイオンの嵐と乱立した魔法式が消えたのは……いや、()()()のは誰だ?真由美ではない。真由美なら魔法式を()()()()形式の魔法を使う。できるとしたら"あの魔法"……しかし最高難度の魔法だ。そんなものを誰が……)

 

 

摩利はその人物が真由美かもと考えたが、すぐさまそれを否定する。

 

真由美も魔法式をキャンセルする魔法を使えるが、真由美の場合は魔法式を撃ち抜く形式である。

 

今回のように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ではない。

 

アンティナイトであれば可能であろうが、こんな場所にそんな物があろうはずがない。

 

摩利はふと窓の外へと目を向ける。

 

事故車の傍で技術スタッフの生徒達が救助活動をしているのか、車のドアを切り取っていた。

 

しかし、車が炎上していたのもあってドライバーの生存は絶望的であろう。

 

そして、現場記録のためにビデオカメラを回す達也の姿が目に映る。

 

 

(まさか、な)

 

 

ふとよぎった考えを、摩利は鼻で笑って否定した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

予想外のトラブルがあったが、一高生を乗せたバスは予定より二時間遅れで宿舎へと到着した。

 

ほのかに起こされたエドは、アクビをしながらバスを降りる。

 

その際に先程起こった自動車の事故未遂について、ほのかから簡単に話を聞いていた。

 

 

(()()オレ達が乗ってるバスに、()()自動車が突っ込んでくる……ねぇ)

 

 

エドは思考する。

 

 

(偶然にしてはあまりにタイミングが良すぎる。意図的に引き起こされたと見てまず間違いねぇ。考えられる要因とすれば……九校戦か?一高は今回で三連覇がかかってる。だとしたらオレ達が優勝すると都合の悪い奴らがいるってことになるが……)

 

 

エドは頭をガジガジとかく。

 

その表情はどこか優れない。

 

 

(どうにも、きなくせぇな……)

 

 

エドはそのまま、ほのか、雫と共にホテルのエントランスへと向かう。

 

すると、そこには見覚えのある後ろ姿があった。

 

エドはゲンナリしながら声をかける。

 

 

「おい、なんでお前がここにいるんだ?エリカ」

 

 

赤髪の少女、エリカは驚いたように振り向く。

 

どうやら気付いていなかったらしい。

 

 

「三人とも久しぶり!元気だった?」

 

 

「うん、元気だよ」

 

 

「元気」

 

 

「……まぁ、ぼちぼち」

 

 

ほのか、雫、エドの順番に答える。

 

 

「それよりエリカ、お前なんでここにいるんだ?応援にしては早すぎんだろ」

 

 

エドは再度質問する。

 

九校戦は二日後に開かれるため、応援に来るにしては早すぎるのである。

 

 

「ちょっとねー。あ、あと来てるのは私だけじゃないわよ?実は美月達も一緒に来てるの」

 

 

「あいつらも来てんのかよ?つーか、確かここって軍の施設じゃなかったか?」

 

 

「ふふーん。そこはほら、親のコネってやつよ」

 

 

「いや、威張るとこじゃないだろうが……」

 

 

すると今度はエリカが質問する。

 

 

「そういえば達也君と深雪は? 一緒に来てるんでしょ?」

 

 

ほのかが答える。

 

 

「達也さんと深雪ならあとで来ると思うよ。さっき外で話してるところ見たし」

 

 

「そうなんだ。じゃあもう少しここで待ってよっかなー」

 

 

するとタイミングを見計らってたのか、雫が声をかける。

 

 

「エド、ほのか、そろそろ行かないとまずい」

 

 

「っと、もうそんな時間経ってたか」

 

 

「あ、ホントだ」

 

 

「悪いわね。引き止めちゃって。私に気にせず、行っちゃって。どうせまた後で会えるしね」

 

 

「分かった。じゃあエリカ、また後で」

 

 

「ええ、またね」

 

 

そして雫はエドとほのかを連れて受付へと行く。

 

エドと雫達は手続きを済ませて部屋の鍵を受け取り、自分達の部屋へと向かう。

 

ちなみにエドの部屋はモノリス・コードのチームである森崎達と同じ部屋であった。

 

 

 

────────

──────

────

 

 

 

一方、達也と深雪は二人でいた。

 

達也はCADのメンテナンス道具や、小型の機器、工具などを部屋に運搬するために準備をしていた。

 

手早くそれらを台車に載せて部屋まで押していく。

 

深雪も何も言わず黙って兄の後ろをついていく。

 

二人は自然と他の生徒達から離れることに成功した。

 

 

「そんな……あれは事故ではなかったと!?」

 

 

「あぁ。あの車の挙動は不自然だったからね。調べてみたら案の定、魔法の痕跡があった」

 

 

達也の言葉に、深雪の表情は自然と引き締まる。

 

達也は説明を続ける。

 

 

「全部で三回。タイヤをパンクさせる魔法、車体をスピンさせる魔法、そして車体に斜め上方の力を加える魔法。犯人は運転手……つまり自爆攻撃だよ」

 

 

「卑劣な手を……!」

 

 

「ああ……首謀者は一体何が狙いなんだろうな」

 

 

深雪は肩を微かに震わせて、憤りを顕わにする。

 

それは犯人に対する明確な怒りであった。

 

深雪は思考する。

 

工作員を使い捨ててまで、なぜそいつらは自分達の乗ったバスに攻撃を仕掛けたのか。

 

その理由が分からなかった。

 

ターゲットは“バスに乗っていた誰か”を狙っていたのか。

 

あるいは“第一高校そのもの”を狙っていたのか。

 

今回の九校戦と何か関係があるのか。

 

現時点では何も分からなかった。

 

それは達也も同様であった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

懇親会の会場は、ホテルの最上階にある。

 

開会式二日前に会場入りするのは、この“懇親会”に参加するためである。

 

大会に参加する代表選手同士で親睦を深める趣旨で開かれるが、実際にはそんな生易しいものではない。

 

大会前ということもあって互いに牽制しあい、ギスギスした雰囲気になってしまうのだ。

 

そんな感じのことをエドは第一高校に与えられた控え室にて真由美から聞かされていた。

 

少し離れた所では、達也が何やら憂鬱な表情を浮かべながらブレザーに袖を通している。

 

ブレザーには八枚花弁のエンブレムが刺繍されており、深雪は恍惚とした表情でそれを眺めている。

 

兄の姿に見惚れているらしい。

 

 

「渡辺先輩……別に俺は、普段のブレザーでも良いのですが……」

 

 

「何を言ってるんだ?正面から校章が見えないと、一高生と判りにくいだろ?」

 

 

(各校は校章より色で見分けがつくんだが……)

 

 

普段、堂々としている達也がそわそわと落ち着かなくしているのを見て、摩利は思わず噴き出す。

 

 

「ぷっ」

 

 

「……渡辺先輩?」

 

 

「悪い悪い。予備のブレザーですまないな。いっそのこと新調すれば良かったのに」

 

 

「二回しか着ないのにもったいなさすぎますよ。刺繍ですからねこれ」

 

 

「二回とは限らないぞ。秋には論文コンペもあるし。君が一科に転籍しないとも限らないからな」

 

 

「そんなことはありえませんよ」

 

 

「さて、どうかな」

 

 

摩利は楽しそうに笑う。

 

達也もいつもより饒舌である。

 

すると何を思ったのか深雪が、エンブレムの刺繍が施された達也の左胸の辺りに手で触れる。

 

 

「お兄様……すみません。時間があれば、私がお直ししたのですが……」

 

 

「いや、大丈夫だ。すまないな、気を遣わせて」

 

 

「いえ、そんな……」

 

 

控え室には、他の一高代表メンバーの姿もある。

 

そんな人目のつく場所で、達也と深雪はいつものようにまるで恋人のように互いの顔を見つめ合う。

 

周りの面々は顔を赤くさせながら、その様子を見ていた。

 

しかし一部にも例外はいる。

 

二人のそんな様子に慣れてしまった面子である。

 

 

「あらあら、見てエドワード君。また兄妹で妙な雰囲気を作っているわ」

 

 

「そう言いながら、なんであんたはそんなノリノリなんだよ……」

 

 

するとそこにエドの腕を引いた真由美がやってくる。

 

バスの中で構えなかった分、控え室でエドにベッタリだったのだ。

 

というのも真由美は普段、人当たりの良いお嬢様のように振る舞っているが、自身が認めた一部の人間にだけは猫被りをやめ、本来の小悪魔的な性格で接する傾向にある。

 

つまり、自分のことを十師族と知ってても常に自然体で接してくるエドのことを気に入っているのだ。

 

その分、振り回されるエドとしては堪ったものではないだろうが。

 

 

「雰囲気って……なんですかそれは」

 

 

「そんな会長、雰囲気だなんて……。私とお兄様は血の繋がった兄妹であって、決してそのような関係では」

 

 

「深雪……そこで何故お前が照れる?」

 

 

エドはそんな様子を見てガックリと項垂れる。

 

 

「お前ら、結局いつも通りなのな……」

 

 

「あはははは……さて皆、そろそろ時間よ」

 

 

真由美は空気を正すように手をポンッとたたく。

 

その様子に気付いた仲間達は表情を引き締める。

 

 

「懇親会といえども勝負相手との顔合わせ──」

 

 

そして真由美は凛々しい表情で、気合いを込めて言った。

 

 

「さあ、行きましょうか!」

 

 

その顔は第一高校を率いる生徒会長の顔であった。

 

 

 

────────

──────

────

 

 

 

懇親会の参加者は選手だけでも三百人以上という大規模なものになる。

 

当然ながらその関係でパーティー会場もホテルで最も広い宴会場が使われる。

 

中には相当数の人数がいた。

 

滅多なことでは動じない司波兄妹もこのときは珍しく驚いていた。

 

 

「わあ……!本当に全国の魔法科高校生がここに集結しているんですね」

 

 

「いよいよ明後日、九校戦が開幕するということだな……」

 

 

それはエドも同様であった。

 

 

「予想以上に多いな……」

 

 

「うわあ~本当に多いねぇ」

 

 

「もう戦いは既に始まっているんだよ」

 

 

彼の言葉に続くように、ほのかと、雫も続く。

 

エド達は真由美達と別れた後、各々自由に過ごすこととなった。

 

エドは司波兄妹の近くにおり、当然エドのことが心配なほのかも付き添い、雫もついてきた。

 

結局、A組でいつもつるむ面々となった訳だ。

 

エドはさっそく皿を手に持ち、大量の料理を入れると、勢いよく食べ始める。

 

それを見たほのかがエドに注意する。

 

 

「ちょ、ちょっとエド!はしたないよ!!」

 

 

「べふにひにするほとのほどへもへぇだろ(別に気にすることのほどでもねぇだろ)?」

 

 

「気にするよ!恥ずかしいじゃない!!」

 

 

ほのかは顔を赤くしながらエドに注意するが、エドは気にしないと言わんばかりにナポリタンを口いっぱいに頬張る。

 

 

「ほんなほとひったって(そんなこと言ったって)、はらがへってるんだから(腹が減ってるんだから)、ひょうがねぇだろうが(しょうがねぇだろうが)。 あはめしくうじはんなはったんだよ(朝飯食う時間なかったんだよ)」

 

 

「だからって、がっつくのはやめなさいって言ってるの!!」

 

 

それを側で見ていた達也達は、ある意味で驚いていた。

 

 

「凄いな、ほのかは。エドワードが何を言っているのか、完全に理解している」

 

 

「はい。私にはエドワードさんが何かモゴモゴ言っているようにしか聞こえません」

 

 

「まあ、付き合い長いから」

 

 

「ちなみに雫はエドワードが何を言っているか、理解しているのか?」

 

 

「うん、私も分かる。大丈夫。二人もその内、嫌でも慣れる」

 

 

「いや別に慣れたくはないんだが……」

 

 

達也、深雪、雫の三人がエドとほのかのやり取りを見守っていると、声をかけてきた人物がいた。

 

 

「お飲み物はいかがですか?」

 

 

メイド服を着たエリカの姿があった。

 

 

「エリカ?どうしたんだその格好?」

 

 

「アルバイトよ!」

 

 

「関係者ってこういうことだったのね」

 

 

「よく潜り込めたな……」

 

 

司波兄妹がまたしても驚いていると、雫がポツリと呟いた。

 

 

「その服、可愛い」

 

 

「でしょ!」

 

 

エリカは丈の短いヴィクトリア調ドレス風味の制服、いわゆるメイド服を着ていた。

 

普段は元気娘を体現したかのような印象のある彼女だが、大人びたメイクをしていることで、おしとやかで魅力的な大人の女性となっていた。

 

その証拠に何人かの男性は、エリカに見とれている。

 

突然のエリカの登場に少々面食らった達也であったが、次の瞬間には彼の頭脳は彼女がなぜここにいるかの理由を導き出していた。

 

恐らく千葉家のコネを使って懇親会のスタッフとして潜り込んだのだろう。

 

 

「達也君はどう思う?」

 

 

エリカは達也の前でクルリと一回転する。

 

フリルで飾られたスカートが、風に乗ってフワリと浮かび上がった。

 

服の感想を求めているのか、と達也が口を開きかけるも、深雪が横から口を挟んできた。

 

 

「お兄様にそんなこと求めても無駄よ。お兄様は表面的なことに囚われたりしないもの」

 

 

「ああ、なるほど。達也君はコスプレなんかには興味無いか。男の子にはそう見えるみたいだから」

 

 

「男の子って西城君のこと?」

 

 

「ミキよ。コスプレって口走ったのは。しっかりお仕置きしてやったけど」

 

 

エリカは拳をグッと握り締めて笑顔で言う。

 

しかし“ミキ”という単語を初めて聞く深雪は首を傾げる。

 

 

「ミキ?」

 

 

「あ、深雪は知らないんだっけ?呼んでくる!」

 

 

吉田幹比古(よしだみきひこ)のことだよ。エリカとは幼なじみらしい」

 

 

「あ……定期試験で上位だったお兄様のクラスメイトの方ですね?」

 

 

「確か筆記試験で四位だった人……」

 

 

「へぇ。誰なんだそいつ?」

 

 

するとそこに大量のデザートを持ったエドがやってくる。

 

側にいるほのかもオボンに大量のデザートを持たされていた。

 

それを見た深雪が口に手を当て驚く。

 

 

「エドワードさん……凄い量のデザートですね」

 

 

「おう。あるやつ片っ端から取ってきた。お前らも食えよ」

 

 

「ううぅぅ……恥ずかしいよぅ……」

 

 

ほのかは顔を赤くさせながら涙目になっていた。

 

どうやらエドに押しきられて付き合う羽目になったらしい。

 

 

「ほのか、よく頑張った」

 

 

「うぅぅ!雫うぅぅぅ!!」

 

 

ほのかは雫に抱き付く。

 

相当恥ずかしかったらしい。

 

 

「全くエド……あんたはこんなホテルまで来て、一体なにやってんのよ」

 

 

「ん?」

 

 

エドはアイスを食べる手を止めて後ろを向く。

 

そこには、執事服を着た男子生徒を連れてきたエリカの姿があった。

 

 

「エリカ……なんだその格好?コスプレか?」

 

 

「あんたまでミキと同じ事、言ってんじゃないわよ!!」

 

 

「ミキ?」

 

 

するとミキと呼ばれた生徒がエリカに声をあげる。

 

 

「僕の名前は幹比古だ!!」

 

 

「ああ、はいはい、分かったから落ち着きなさい。それじゃ、紹介するわね「ちょっと待った!自己紹介くらい自分でできる!!」……なら早くしなさいよ全く」

 

 

するとミキと呼ばれた執事服の男子生徒は自己紹介を始めた。

 

 

「えっと、こんな格好でごめんなさい。僕は吉田幹比古、クラスは達也やエリカと同じ一年E組なんだ。四人ともよろしく」

 

 

深雪達も自己紹介をする。

 

 

「初めまして吉田君。いつもお兄様がお世話になっています。既にご存知かと思いますが、妹の司波深雪です。よろしくお願い致します」

 

 

ほのかと雫も後に続く。

 

 

「初めまして、光井ほのかです」

 

 

「北山雫……」

 

 

最後にエドだ。

 

 

「エドワード・エルリック。エドでいい」

 

 

四人は簡単に自己紹介を済ませる。

 

ここでエドが質問する。

 

 

「つーかずっと気になってたんだけどよ、レオと美月の奴は一緒じゃねーのか?」

 

 

それに答えたのはエリカだ。

 

 

「二人は裏方よ。レオは力仕事で、美月がお皿洗い。で、私とミキは給仕係」

 

 

「ふーん」

 

 

すると達也があることに気付く。

 

 

「見られているな」

 

 

「あー……こんなに注目浴びてちゃオチオチお喋りもできないわね」

 

 

「それはエリカが騒がしいからじゃ……」

 

 

「しょうがない!ミキ!仕事に戻るわよ!!」

 

 

「ちょ、ちょっとエリカ!自分で歩けるから首根っこを持つのは、やめ……」

 

 

「じゃあ皆、パーティーしっかり楽しんでってねぇ」

 

 

エリカは再び幹比古を引き連れて、仕事へと戻っていった。

 

 

「……嵐みたいな奴だな」

 

 

エドはフォークを咥えながらそう呟くと、皆が同意するのだった。

 

 

 

────────

──────

────

 

 

 

「うぷっ。ちょっと食い過ぎちまった……」

 

 

あれから料理を食べ続けたエドは案の定、お腹を壊していた。

 

今は人混みを避けて壁際で休憩中である。

 

するとそこに水を持った達也がやってきた。

 

 

「あんなに考えなしに食べるからだ。ほら、水だ」

 

 

「サ、サンキュー……」

 

 

エドは顔色を悪くしながらも水をチビチビ飲む。

 

ちなみにほのかと雫は深雪を連れて、他の一年達と親睦を深めるために話し込んでいる。

 

達也が深雪を連れ出すように頼んだのだ。

 

エドも連れていこうとしていたほのかと雫であったが、エドは料理に食べるのに夢中であったため断念した。

 

こうなったら梃子(てこ)でも動かないこと理解していた二人は、達也にエドのお守りを頼むと出掛けていった。

 

なので今は男二人で寂しく過ごしているという訳だ。

 

しばらく休んで楽になったエドは、周囲が騒がしいことに気付く。

 

 

『ねえあれ、クリムゾン・プリンスじゃない?』

 

 

『えっ?あの十師族一条の王子様?』

 

 

『素敵よね……こんな間近で見られるなんて。選手に選ばれて良かった』

 

 

『隣はカーディナル・ジョージだわ。三高の黄金コンビ揃い踏みね』

 

 

「クリムゾン・プリンス?カーディナル・ジョージ?なんだそりゃ??」

 

 

エドの呟きに隣にいた達也が答える。

 

 

「クリムゾン・プリンス、十師族のひとつ、一条家の跡取りである一条将輝(まさき)の通り名だ。【爆裂】の魔法で『戦場を血の赤に染めあげる』ことから、そう呼ばれているらしい」

 

 

「爆裂……」

 

 

そのときエドの脳裏にある一人の(ほのお)の大佐の姿が思い浮かぶ。

 

 

『ロイ・マスタング、地位は大佐だ。そしてもうひとつ「(ほのお)の錬金術師」だ。覚えておきたまえ』

 

 

『「兵は拙速を貴ぶ」……戦は早く攻め早く勝負をつける方が良いという事だ。「怒らせてこれを乱せ」……敵の挑発に乗ってはいけない。「兵は詭道なり」……だまし討ちも立派な戦略だよ、鋼の』

 

 

『成し遂げたい目的があるのだろ。立ち止まっている暇があるのか?』

 

 

『……生きていると思っていたよ』

 

 

(なんで今、あんのクソ大佐のことを思い出さなくちゃいけねええぇぇ!!)

 

 

エドは頭をかきむしりながら悶絶するように身体をクネクネと動かす……が、達也は説明を続ける。

 

エドの奇行は完全にスルーの方向で行くようだ。

 

 

「カーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎(きちじょうじしんくろう)、弱冠13歳で魔法式研究において仮説上の存在だった『基本コード』の一つである『加重系統プラスコード』を発見した天才で、一条将輝の相棒だ。今回の三高の参謀役でもある」

 

 

「そ、そういえば、さっき黄金コンビがどうとか聞いたな……」

 

 

なんとか立ち直ったエドは言葉を紡ぐ。

 

エドの視線の先には赤い制服を着た二人の人物がいた。

 

一人は赤髪で背が高く、広い肩幅と引き締まった腰、長い脚、凛々しい顔立ちで若武者風の美男子という容貌をしており、もう一人は黒髪で少し幼い表情をしていながらも堂々と立ち振舞っていた。

 

こちらの二人が件のクリムゾン・プリンスこと一条将輝と、カーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎である。

 

 

(せ、制服が赤ぇ!?)

 

 

最もエドは別の意味で驚いていたが。

 

 

「ん?あいつどこ見てんだ??」

 

 

エドは一条将輝の視線がある一点に集中している事に気付く。

 

彼の視線の先を見ると、そこにはよく知っている人物がいた。

 

 

「おい達也、あの一条とかいう奴、お前の妹に見惚れてるっぽいぞ」

 

 

「……みたいだな」

 

 

「ん?なんとも思わないのかお兄様?」

 

 

エドは想像してたリアクションと違ったので肩透かしを食らう。

 

 

「深雪が他校から注目を浴びるのは想定の範囲内だ。それにこの程度の好奇の視線、深雪はなんとも思ってないさ」

 

 

「あー……普段から慣れてんのか」

 

 

「そういうことだ」

 

 

「ふーん」

 

 

「そういえば一条で思い出したが、エドワード、お前の出場するアイス・ピラーズ・ブレイクとモノリス・コードの二つに一条も出場するぞ」

 

 

「つーことはあれか?あの有名な十師族と戦うってことか?」

 

 

「そうなる」

 

 

「へぇ。面白いじゃねぇか」

 

 

エドは不敵に笑う。

 

すると深雪の前に三人の女子生徒が近付いていく。

 

 

「ん?なんだあいつら?制服が赤いってことは三高か?」

 

 

「あれは一年の一色愛梨(いっしきあいり)十七夜栞(かのうしおり)四十院沓子(つくしいんとうこ)だな」

 

 

「……なんで知ってんだよ?」

 

 

「他校の有力選手の情報は、ある程度頭に入ってる」

 

 

「さいで」

 

 

「どうやら挨拶に来たらしいな」

 

 

「面白そうだな。なら、こっちも宣戦布告(挨拶)に行くとするか」

 

 

「いきなりだな」

 

 

そしてエドと達也も深雪達の元へと歩いていく。

 

丁度、三高の一色愛梨達も深雪に挨拶をしているところであった。

 

 

「さ……さぞかし名家の御出身とお見受けするわ。私は第三高校一年、一色愛梨。そして同じく十七夜栞、四十院沓子よ」

 

 

一色愛梨の紹介に二人の女子も頭を下げる。

 

深雪も自己紹介する。

 

 

「第一高校一年、司波深雪です」

 

 

「司波……?」

 

 

そのとき一色愛梨は思考する。

 

彼女は脳内で『司波』という名家について検索する。

 

が、彼女の脳内リストにはそのような名家は存在しない。

 

以上のことから彼女は深雪のことをこう理解した。

 

 

「あらぁ、()()()()でしたか。名のあるお方かと思ってお声掛けしましたの。勘違いでお騒がせしてごめんなさい。試合頑張ってくださいね」

 

 

一色愛梨の言葉に側にいたほのかは、思わず憤慨しそうになる。

 

だがここには挑発上等、売られた喧嘩は必ず買う主義のある男子生徒が既に近付いていた。

 

 

 

 

 

 

「へぇー。第三高校の有名選手だって言うから挨拶に来てみれば、期待外れも良いところだ。とんだ()()じゃねえか」

 

 

 

 

 

 

 

その声は不思議と会場内に響いた。

 

その声の主、エドワード・エルリックは深雪達に近付いていく。

 

 

「エ、エドワードさん!?」

 

 

深雪は驚き、声をあげる。

 

だがエドの発言に黙っていられない人物がいた。

 

一色愛梨だ。

 

 

「小物……ですって」

 

 

一色愛梨はエドに鋭い視線を向ける。

 

 

「そこの金髪の貴方、それは今、私の事を言ったのかしら?」

 

 

「他に誰がいるってんだ?」

 

 

「言ってくれるじゃない。貴方、私が誰だか分かっているの?」

 

 

「知らねぇよ、お前のことなんて。そもそも欠片も興味ねぇしな」

 

 

「なっ!?」

 

 

一色愛梨は顔を赤くさせて狼狽する。

 

 

「言ってくれるじゃない!!」

 

 

「落ち着いて愛梨!」

 

 

「挑発に乗っては相手の思う壺じゃぞ!」

 

 

他の二人が憤慨する一色愛梨を止めにかかる。

 

 

「そもそも先に喧嘩ふっかけてきたのはそっちだろ。だからこっちも挨拶に来させてもらった訳だ」

 

 

そしてエドは大声で言った。

 

 

 

 

 

 

「九校戦はオレ達、一高が優勝する!他の学校なんざ眼中にねえぇ!!」

 

 

 

 

 

 

エドの宣戦布告(挨拶)は、力強く告げられるのだった。

 




次回から九校戦の競技だー!!

そしてアルとウィンリィ登場します。

三校の選手、エンジニアとして。

では、また(・∀・)ノ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。