続き書けたで候。
ブランシュ襲撃後の話でぇす。
では、どうぞ( *・ω・)ノ
エドは早朝からブランシュのアジトとなっていた廃工場に足を運んでいた。
警察の捜査が一通り終わったのか、廃工場は黄色いテープで囲われていた。
エドは中に入ると、戦いの場となった現場へと向かう。
「やっぱ何も残ってねえか」
現場につくとさっそく辺りを見回すエドだが案の定、何も残ってはいなかった。
倒したキメラの死体も回収されていた。
エドは思考する。
「賢者の石エリクシル、やっぱり錬金術師が関わっていやがるのか?」
アゴに手を添えて考える。
(エリクシルの存在から見ても錬金術師が一枚噛んでるのは間違いねぇ。もしかしたらイレギュラー野郎はオレと同じ錬金術師か?だとしたら……『真理の門』を通ってこっちの世界に来たってのか?)
エドがこちらの世界に来たのは、約170年前の1923年のドイツにあるミュンヘンであった。
当時のドイツは、第一次世界大戦敗戦後のインフレに伴う貧困の影響を色濃く受けていた。
そしてエドは
(だとしても錬金術はこっちの世界じゃ使えねぇ筈だ。でもエリクシルの存在があるしな…………ダメだ。情報が少な過ぎて何とも言えねぇ)
「まあ今はブランシュのリーダー、あの眼鏡野郎を問い詰めるしかねぇか」
そしてエドは第一高校へと向かっていく。
だが彼はまだ知らない。
司一は既にこの世にはいないことを。
かつて出身世界で戦った敵達が再び立ち塞がることを。
このときの彼は……まだ知らない。
◆◆◆
パン……バチイィ。
錬成反応が起こる。
第一高校の中庭が綺麗に復元された。
「はぁ……これでようやく終わった。ったく、なんで校舎の修理をオレ一人でやらなきゃいけねぇんだよ」
「まあそう言わずに。エドワードさんの錬金術は汎用性が高いですから」
放課後、エドは風紀委員の活動の一環として錬金術でブランシュのテロによって被害を受けた校舎を元に戻して回っていた。
生徒会からの付き添いとして深雪も側にいる。
「本来なら修繕費用がかなりかかるのですが、錬金術のおかげで出費がかなり抑えられていますし、その分の余った費用は生徒会や風紀委員に回されることになっているので一石二鳥なんです。それにエドワードさんもここしばらくの風紀委員の活動を免除されたではないですか」
「まぁ、そうだけどよ……」
エドは校舎の修理を終えてからしばらくの間は風紀委員の活動をしなくてもよいとの言葉を摩利から貰っていた。
エドとしてもエリクシルのことについて調べようと思っていたので時間ができたのは良かったのだが……。
「だからって一人で校舎全体は広すぎんだろ……」
「エドワードさんの錬金術を使えば数秒で直りますので……」
深雪は苦笑しながらエドに言葉を返す。
エドは溜め息をつきながら中庭に設置されているベンチに座る。
空を見上げると快晴であった。
「では、そんなお疲れのエドワードさんにこれをあげましょう」
隣に座った深雪がポーチからある物を取り出す。
「
「アメってお前……もらうけどよ」
エドは飴玉を一つ口に放り込む。
イチゴ味だった。
「そういや、達也はどうしたんだよ?一緒じゃないなんて珍しいじゃねえか」
「私とお兄様はいつも一緒にいる訳ではありませんよ?お兄様なら、今は壬生先輩のお見舞いに行ってらっしゃいます」
「お見舞い?」
「はい。壬生先輩は怪我の影響で入院しているんです」
「あー……そうなのか。そういや壬生先輩と話したあと、すぐにブランシュの本拠地に攻めにいったんだったな」
深雪が話す。
「そういえば壬生先輩がエドワードさんにお礼を言いたいとおっしゃっていましたよ?」
「お礼だあ?」
エドは首を傾げる。
「はい。あのとき、エドワードさんが言った『立って歩け。前へ進め』。あの言葉のおかげで壬生先輩は再び立ち上がることができたんですよ?」
「……別にそんな深い意味はねぇよ」
エドとしてはいつまでもウジウジしている紗耶香が見ていられなかっただけだ。
だからこそ本人としても説教なんて似合わないことをしたと思っている。
すると隣に座っている深雪がどこかソワソワしていることに気付く。
エドは声をかける。
「どうしたんだよ?トイレに行きたいなら、さっさといってこいよ」
ただデリカシーの欠片もない言葉であったが。
「…………うふふふ」
すると突如、深雪が静かに笑う。
しかし目は一切笑っていなかった。
彼女の不機嫌な状態を表すかのように周囲に冷気が漏れる。
「エドワードさん?女性に対してそのような質問はどうかと思うのですが?前から思っていたのですが、エドワードさんにはデリカシーというものが欠片も感じられません。そもそも女性への配慮が全くないというのは男としてどうなのですか?」
(あ、やべ。地雷踏んじまった……)
深雪の早口ともいえる言葉の応酬でようやくやらかしたことに気付く男、エドワード・エルリック。
できることは一つだけであった。
「……なんかすまん」
謝罪一択である。
「…………はぁ」
深雪は額に手を当てて溜め息をつく。
エドはそれを横目で見ながら飴玉を舐め続ける。
少し気まずい空気が流れていた。
「……あのエドワードさん、聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
「なんだ?」
落ち着いた深雪は覚悟を決めたかのように話し出す。
「昨日、壬生先輩に話していた『全てを失った日』について……お聞かせ頂けませんか?」
「…………」
エドは黙る。
深雪がまさか自身の過去について聞いてくるとは思ってもいなかったからだ。
だが考えてみれば当然かもしれない。
鋼の義手に義足、そのうえ抽象的ではあるが訳アリのような過去話までしたのだ。
もし深雪が聞いてこなかったとしても、遅かれ早かれ別の誰かが聞いてきただろう。
だがエドの過去はお世辞にも気軽に話せる内容ではない。
だから彼は……
「すまん……」
話さなかった。
「いえ、こちらこそ不躾な質問をして申し訳ありませんでした」
深雪は頭を下げる。
九重八雲からエドの過去についてはある程度、聞いている。
だがそれは人伝のものであるため、彼女自身どうしてもエド本人の口から聞きたかったのである。
「ああ~校舎の修理も終わったし、これからどうすっかなあー」
するとエドが空気を入れ替えるかのように声をあげた。
「雫もほのかも部活だし、風紀委員の活動ももうねぇし、やることねー」
そして
エドの意図を察した深雪は提案した。
「それなら私達も壬生先輩のお見舞いへ行きませんか?」
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後日談であるが、司甲や紗耶香をはじめとした面々は司一の魔法によって一時的に洗脳されていたということもあって無罪となった。
これには放送室占拠という学校の管理体制が問われる問題が浮き彫りになるのを防ぐ意図も働いていた。
しかし、この一件で一科生・二科生の魔法力評価システムが原因で引き起こされた事件であることも事実であり、近い内に学科システム自体の見直しが迫られることになっている。
そんな中、エドと深雪は紗耶香の病室にお見舞いに来ていた。
紗耶香としてもまさか二人が来るとは思っていなかったのか驚いていた。
深雪はお見舞いとして持ってきた果物の籠を置く。
「驚いた。まさか深雪さんとエドワード君までお見舞いに来てくれるなんて」
「壬生先輩、お加減はいかがですか?」
「大丈夫。怪我も魔法である程度治ってるし、五月中には退院できるって」
「そうですか。良かったです」
紗耶香はエリカとの対決で負った怪我の治療ために入院している。
「そうそう。一時間くらい前に達也君もお見舞いに来てくれてたんだけど」
「入れ違いになってしまいましたか」
楽しそうに話す女子二人。
エドとしては居づらいことこの上なかった。
そこで話を終えたのか紗耶香の視線がエドを捉える。
「エドワード君、あのときはどうもありがとう。貴方の言葉のおかげで私は過去を吹っ切ることができました」
「……別にオレはなんもしてねぇ。あんたが勝手に立ち直っただけだろ」
エドはぶっきらぼうに答える。
ただ僅かに耳が赤くなっていた。
照れているらしい。
その様子を深雪は嬉しそうに見ていた。
すると、病室のドアが開く音がする。
三人が視線を向けると桐原が入ってきた。
桐原はエドと深雪の存在に気付くと声をあげる。
「おーい壬生、雑誌買ってきたぞ……って司波妹にエルリック!?どうしてお前らがここに!?」
「どうしてって、見舞いに来たに決まってんだろ?」
エドが呆れたように返す。
「桐原君ね、昨日から
「ちょっ!おい、壬生!?」
紗耶香が嬉しそうに話し、桐原が焦ったような反応をする。
二人の表情を見たエドは察する。
「ほお~、
「おいエルリック……なんだその表情は」
「いやあ~別にいぃ?」
そのとき深雪が
「エドワードさん……?」
「さて、そろそろ帰るか」
深雪の呼び掛けに条件反射で反応するエド。
その早さは一秒にも満たない程、速かった。
間違いなく深雪はエドの中で絶対に逆らってはいけないランキング上位に詰め込んでいた。
「じゃあオレ達はもう行くわ」
「それでは壬生先輩、桐原先輩。失礼致します」
エドは片手をあげながら背を向け、深雪は一礼して病室を後にした。
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「ん?君はもしかして……エドワード・エルリック君かい?」
紗耶香の病室を後にしたエドは背後から呼び止められる。
「ん?」
エドが振り返ると、そこには茶色のコートを腕に掛けたスーツ姿の男性がいた。
「えっと……どちら様?」
「ああ、驚かせてすまない。私は
「壬生先輩の?」
「お父様?」
思いもよらぬ人物に声をかけられたエドと深雪は目を丸くする。
すると勇三は二人を近くの談話スペースへと誘った。
「改めて、私は壬生勇三。今回の件で娘が本当に世話になった」
「いえ、別に私達はなにも……」
談話スペースへとやってきた三人は隅のテーブルに腰を下ろす。
勇三はエド達に今回の事件の謝罪と、お礼を言った。
対する二人は飲み物を口にしながら話を聞いていた。
勇三は紗耶香との関係性について話す。
娘の悩みに気付くことができず、正しく導けなかったことを父親としての心の内を語った。
その話を聞いた深雪が話し出す。
「壬生先輩は立派に育たれていると思います。先輩は少し不器用なだけで、今回はそこに付け込まれてしまっただけです。それにもう壬生先輩は、二度と間違えたりしません。自分はもう一人じゃないと……分かった筈ですから」
深雪の言葉を聞いた勇三は一言だけ呟いた。
「……ありがとう」
エドは終始黙って話を聞いていた。
勇三と別れた後、エドと深雪は帰路についた。
後日、エドは達也と深雪の二人に連れられ紗耶香の退院祝いに行くのだが、エリカと紗耶香が互いにニックネームで呼び合う程仲良くなっていたことに驚く。
勿論、桐原と紗耶香の関係が少し変化していたことについても。
だがそのときに紗耶香のエドに対する接し方が妙にぎこちないことには、終始一人だけ気付くことができないでいた。
エドの鈍い反応から達也達は呆れていた。
そして案の定、桐原の機嫌はすこぶる悪かった。
しかし紗耶香の様子を見る限り、もう大丈夫であろう。
そのことに少し安心したエドであった。
そしてその数日後……
彼は司一が行方不明となったことを十文字から知らされることとなる。
次回から九校戦へレッツゴーしますε=(ノ・∀・)ツ
では、また(・∀・)ノ