書けたので投稿。
では、どうぞ( *・ω・)ノ
第十話 入学式
国立魔法大学付属第一高等学校入学式当日……
『まもなく入学式のリハーサルを行います。関係者は講堂に集合して下さい』
朝早くから新入生の入学式の最後のリハーサルで校内がドタバタしているなか、校門前にて一組の男女が言い争いをしていた……というよりも興奮する少女を少年が
「納得出来ません!」
「まだ言ってるのか……?」
だが少女の方は落ち着かないようで……
「なぜ!お兄様が補欠なのですか!?入試の成績はお兄様がトップだったじゃありませんか!!本来なら私ではなくお兄様が……」
「……深雪」
現在言い争いをしているこの男女……少年の名は司波達也、少女の名は司波深雪という。
司波兄妹は普段は言い争いをしないほど仲が良い。
深雪は達也のことを大切に思っており、達也も深雪のことを大切に思っている。
だが深雪にとって、今回の入学試験の結果は納得のいくものではなかったらしい。
達也は妹を落ち着かせるように説明する。
「落ち着け深雪。此処ではペーパーテストより魔法実技が優先されるんだ。補欠とはいえよく一高に受かったものだと……」
「そんな覇気のないことでどうしますか!!」
だが深雪の一喝で黙らせられる。
「勉学も体術も!お兄様に勝てる者などいないというのに!!」
深雪の評価は間違ってはいない。
達也に勉学も体術も勝てる人間などそうそう居ない。
だが次に出てきた深雪の言葉は達也にとって看過出来るものでは無かった。
「魔法だって本当なら――」
「深雪!!」
「!?」
突如声を荒げた達也に、深雪はハッと息を飲む。
「
「も、申し訳ございません……」
達也は自分の左胸を見る。
今度は深雪の左胸の辺りを見た。
その視線の意図は深雪も理解していた。
深雪の制服には八枚花弁のエンブレムがあるが、達也にそのエンブレムはなく、無地である。
第一高校では一科生と二科生と区別するために制服に違いがあった。
エンブレムが無い達也は二科生であり、エンブレムがある深雪は一科生ということである。
そして兄に叱られ落ち込む深雪に、達也はソッと手を乗せ頭を撫でた。
「謝ることは無い。お前はいつも俺の代わりに怒ってくれる。その気持ちは嬉しいよ。俺はいつもそれに救われてるんだ」
「嘘です……」
すると、途端に二人の醸し出す雰囲気が甘い空間へと変わっていく。
「お兄様は何時も私を叱ってばかり……」
「嘘じゃないって。お前が俺の事を考えてくれているように……俺もお前の事を思っているんだ」
「…………」
達也の言葉に深雪は固まる。
深雪の様子に達也は首を傾げるが、特におかしなことを言ったつもりはない。
「お……お兄様……そ、そんな……」
すると深雪は頬をもの凄い勢いで赤くさせていく……そして達也に背中を向けクネクネ動きながら……身体全体で喜びを表していた。
「想っているなんて」
「?」
そんな深雪の様子を見て達也はますます首を傾げる。
達也が言った言葉は文字通り『思っている』なのだが、深雪の中では『想っている』と伝わったらしい。
(何か誤解をしている気がするが……まあいい)
達也は気にしないことにした。
「深雪」
「はい」
「お前が答辞を辞退しても、二科生の俺が代わりに選ばれる事は無い。賢いお前なら分かるだろ?」
「そ、それは……」
達也は二科生であるため深雪が答辞を辞退したとしても代表に選ばれる事はあり得ない。
それだけ一科生と二科生の差は大きい。
深雪とてそれは分かっている。
理解はできる……だが納得はできなかった。
しかし……達也の次の言葉で深雪の考えは変わる。
「それにな深雪、俺は楽しみなんだ。可愛い妹の晴れ姿を……この駄目兄貴に見せてくれよ」
後ろから達也にささやかれるように耳元で言われた深雪は、先ほどとは比べ物にならないくらいに顔を赤らめる。
なんとか再起動した妹は愛しい兄に言葉を返す。
「お、お兄様は!駄目兄貴なんかじゃありません!!わたしの敬愛する……世界一立派なお方です!!」
達也は自分を悪く言うことがタマにある。
たとえ兄自身の言葉であっても深雪はそれを絶対に認める訳にはいかなかった。
「ですが……分かりました。ワガママを言って申し訳ありませんでした。それでは……行って参ります」
「行っておいで」
「はい!見ていてくださいねお兄様!」
「ああ」
そして深雪は答辞のリハーサルにいくため元気よく体育館へと向かった。
達也は入学式までどうやって時間を潰すかを考えながら校舎を見上げるのだった。
◆◆◆
その頃エドは……
自宅にて第一高校の制服に袖を通した自分の姿を見てポツリと呟いた。
「違和感ありまくりなんだが……」
緑色のブレザーにスラックス……
それが一高の服装だ。
「だいたいなんで高校の制服がこんなに派手なんだよ?百年前は黒い学ランとかブレザーが普通だったのに……」
ぶつくさ言いながら学校の準備を進めるエド。
「えーっと……CADに財布、電話端末に……銀時計……一応カバンも持っていくか」
仕上げに白い手袋をはめて準備を完了させた。
エドは時計をチラリと見る。
時刻は既に8時となっていた。
入学式は8:30からであるため、そろそろ行かねば間に合わない。
そしてエドが家を出ようとしたとき、インターホンがなった。
「あ、あいつら来たのか」
エドは戸締まりを確認すると玄関へと向かう。
既に玄関には一高の制服を着た雫とほのかの姿があった。
「あ、おはようエド!」
「おはよう」
エドは二人を見て言う。
「二人とも良く似合ってんじゃねえか」
「えへへ……そう?」
「驚いた。エドが素直に褒めるなんて」
ほのかは嬉しそうに、雫は意外だと言わんばかりに言葉を返す。
雫の言葉に頬をヒクヒクとさせながらも、エドも言葉を返した。
「オレだってタマには素直にほめるっつーの」
そして靴をトントンと履くと三人で家を出る。
鍵を閉めると、一高に向けて歩き出した。
「エドもその制服よく似合ってるよ?」
「うん」
「…………ふん」
エドは二人の言葉に少し照れながら歩みを進める。
エドの家から一高までは約15分ほどなのですぐにつく。
そして通学路である商店街を歩いていくと、待ちゆく人々がエドに声をかけた。
「お、エド!今日入学式だったか?よく似合ってんじゃねえかその制服!!」
「カッコいいじゃないか」
「雫ちゃんとほのかちゃんも可愛らしいわねぇ~」
三人は挨拶しながら歩いていく。
この商店街にエドと一緒にいるところを見られていた雫とほのかもすっかりと馴染んでいた。
「同じクラスになれたらいいね」
「うん」
ほのかと雫が楽しそうに会話する。
二人とも新しい学生生活に心が踊るのかワクワクしていた。
そして歩くこと15分後……三人は第一高校へとたどり着く。
校内は桜並木で綺麗である。
その周りには同じ制服を着た生徒がたくさんいた。
「確か入学式は体育館だったよな?」
「うん。そうだよ」
「じゃあ、ちゃっちゃっと行くか」
三人は体育館へと向かう。
体育館の中は既に生徒でごった返していた。
エドはキョロキョロと周りを見る。
席は見事に前半分が
(差別……か)
エドはこの光景を見て出身世界でかつて戦った男……イシュヴァール人の
エドのいたあちら側の世界でも差別はあった。もっとも、人種差別という類いのものであったが。
アメストリス人は戦争で負けたイシュヴァール人を野蛮人や負け犬といった蔑称で呼んでいたのだ。
(くだらねぇ……)
彼はそんな考えを一蹴する。
とりあえず余計なトラブルは避けるため前半分に座ることにする。
「二人とも……そこに座るぞ」
「うん」
「分かった」
エドの提案に二人はすぐに頷く。
基本的に三人で行動することが多かったが、このグループの中では実質エドがリーダーとなっていた。
それは雫とほのかがいつも突っ走るエドをサポートする位置にいることが多かったからなのだが……。
『それではこれより国立魔法大学付属第一高校入学式を取り行います』
三人が席に座ると同時にそんな放送が聞こえた。
いよいよ入学式が始まる。
◆◆◆
パチパチパチパチパチ
生徒会長、
彼女は十師族の一つ……『
エドの周りにいる男子達も彼女のファンなのか少し興奮しながら見ていた。
肝心のエドは少しめんどくさそうな表情で真由美の話を聞いていたのだが。
『続いて新入生答辞』
すると見覚えのある可憐な少女が壇上に上がる。
『新入生総代、司波深雪』
深雪は一礼する。
(あいつが総代か。ってことは……もう一人の第一位って司波妹のことだったのか)
エドはアクビをしながら深雪の様子を観察する。
『穏やかな日差しがそそぎ、鮮やかな桜の花びらが舞う、この
彼女は堂々としながら初々しく慎ましく、答辞を話していく。
エドがチラリと横を見ると、ほのかが頬をうっすら赤くさせていた。雫はいつも通り無表情である。
(これからどうなんのかねぇ?)
エドは再度アクビをしながらそんなことを考えるのだった。
入学式が終わるとIDカードの交付がされた。
窓口で手続きをした後、それぞれ自分のIDカードが配布される。
「ねぇねぇエドは何組なの?」
「うん?あーA組だな」
ほのかの質問にエドは答える。
「そうなの!?私達もA組だよ!!やったね雫!!」
「うん」
どうやら三人ともA組らしい。
今日は入学式とIDカードの配布だけなのだが、このあとはホームルームの見学にいくことになっている。
少なくとも今日行っておけばクラスメートとなる生徒とも顔を合わせることができるだろう。
そして三人で教室へ行く廊下で人だかりができていた。
「なんだろうね?」
「さあ?」
ほのかと雫が疑問符を浮かべるが、その人だかりの中心には見覚えのある人物達がいた。
(げ……司波兄妹に七草真由美……)
どうやら廊下で話しているらしい。
「あ、司波深雪さんだよ雫!!」
「生徒会長もいるみたい」
連れの二人は何やら興奮しているが……エドはそれどころではなかった。
(あの生徒会長……なんで一年のクラスにいるんだ?)
エドはあのオープンスクールで真由美にウィンクをされて以来、妙に彼女に苦手意識を持っていたのだ。
彼女に気づかれる前にさっさと退散しようと雫とほのかに声をかけようとする。だが……
「あら?」
「げ」
真由美とエドの視線が合う……合ってしまった。
「あ、貴方!エドワード君でしょ!?エドワード・エルリック君!!」
そして当然……真由美と会話していた司波兄妹の視線もエドの方へと向く。
運命の兄妹と異世界の錬金術師がここに初めて邂逅したのだった。
次は模擬戦まではいきたいなあ。
では、また(・∀・)ノ