申し訳ないが、惨劇はNG 作:よしなしごと
昭和50年もとうに終わり、今は昭和51年。今年は詩音が魅音に、魅音が詩音になってしまう例のヤツが起こってしまう年だ。
今は弥白と共にこたつで作戦会議をしていた。
「さて、どうしたら入れ替わりが防げるかなんだけどいい案あるか?」
「そうねぇ、まず前提条件として園崎家の式たりに外部者である鬼淵の者が口出し出来るかって言うとビミョーだし。それにこの前お魎にも口を出さないでくれって言われちゃってる以上、生半可な理由じゃダメでしょうし」
「うーん、そこなんだよなぁ。理由、理由かぁ。……そこにいる園崎魅音は園崎詩音だァッ!とか言いながら大広間侵入は流石に無理があるしなぁ。かと言って他に手があるかって言うと……」
そうウンウン唸っていると弥白が手を叩く音が聞こえた。なぁんか嫌な予感がするんですけども。
「──って、しちゃえば解決じゃない?」
いや、そんな得意そうな顔しないでください弥白さん。それ俺の世間体が犠牲になっちゃいますから。
結局、あれ以上にことを荒立てず、園崎家からの反発も予想されない答えが無かったため、仕方なくお魎さんに話を通しに園崎本家を訪ねていた。
「やっぱ俺、性犯罪者ってことになるよな?……あぁ嫌だなぁ」
そんなことを考えていたせいか、はたまた冬で雪が降り積もっていたせいかいつもよりもかなり遅く園崎本家へとたどり着いた。これはきっと雪のせいなんだよ、何十年か後に某鉄道会社もそんなこと言う気がするし。
園崎家に着きお魎さんの部屋に通される前に、何故か詩音とばったり会ってしまい少し話をしていた。まさかここで詩音と会うとは思ってもみなかったから少しドギマギした会話になってしまった。……何故か詩音も緊張しているように見えたのはどうしてだろうか。
話をしている途中、お魎さんの用事が終わり部屋に通された。
「お魎さん、急に来て申し訳ないです。それで、今日の用向きなんですが、その」
「なんね?珍しく口篭って。」
まだお魎さんの機嫌は良い。……こっから、こっからが勝負だぞ鬼淵幸人。
「お魎さん、詩音を俺にくれ!」
ガチャン!
……あっるぇー?なんで後ろから茶碗を落としたみたいな音がするんだー?
後ろに視線を向けると、顔を真っ赤にして茶碗を落としたことにも気付いていないのだろう棒立ちの詩音が居た。
「詩音……」
声をかけると意識を取り戻したのか華麗に反転し、そのまま走り去ってしまう。
追いかけるか迷ったけど今はお魎さんとの話し中だし、ここでお魎さんの機嫌を損ねたらそれこそこの計画はおじゃんになるから出来なかった。
結果から言うとお魎さんの承諾は得られた。そしてあれ以降のお魎さんはメッチャご機嫌だった。……表情はあんま変わってないけどな。
あと挨拶に行かないといけないのは茜さんのところか。
とりあえずまだ昼前だったからそのまま興宮に行こうと園崎家を出たところ、水車小屋の前で詩音が立っていた。
「……詩音。その、これには色々と理由があってだな」
「……私で良いんですか?幸人さんならもっと素敵な方と一緒になれるんじゃないんですか?」
不安そうな、それでもどこか期待しているような表情で俺の顔を見つめてくる詩音。
「俺はさ、詩音が良いんだ。これは自分の本心だよ」
そう言うと詩音が勢いよく胸に飛び込んできた。危うく倒れる所だったけど、なんとか踏ん張って詩音を抱きとめる。
「えーっと詩音、そのこんな形になって悪いと思うけど俺の家に来てくれるか?」
そう声をかけると顔を上げ、「はいっ」と笑顔で返事をしてくれた。その笑顔が可愛くてつい詩音のことを抱きしめてしまったがそれは不可抗力というものだ。
「んっ、苦しいですよ幸人さん。……実はさっき婆っちゃに呼ばれて、私が中学生になったら興宮の学校に入れるって言われたんです。それが嫌ならどっかに嫁として貰われるかって。それでお嫁に行くなら幸人さんの家が良いって言ったんです。でも……婆っちゃには鬼淵の家に自分から入れる程甘くないって言われて」
「それで諦めてたところで俺が来たってところか?……はぁ、お魎さんも相変わらず昔の風習大好きだよな。『園崎の家に長女として双子が産まれたら縁起が悪いから妹を殺せ』だったか、実際やろうとしたってのが何とも言えないけど」
「『鬼淵の家に男児が居て、その男児が求めるならば双子は殺すな』でしたっけ。……これ、適用されたの今回が初めてじゃないですか?今まで園崎に双子は産まれませんでしたから」
「あー確かに」
そう考えるとこの言い伝えってもしかしてアイツが作ったとか?
……有り得ないと言えないのがなんとも言えねぇ。アイツなら昔に遡ってチョチョイと。
『いや無理だからね?流石にお姉さんでもそう何回も時間遡行は無理かなぁ』
そう何回もって数回なら行けるって事じゃないんですかね。
「?どうしたんですか幸人さん」
「あぁスマンちょっとウチの神様はイタズラが過ぎるなぁってな」
「あれ?鬼淵神社って元は人じゃなくて自然信仰の方じゃありませんでした?」
「あぁそうだったっけかな。疲れてるみたいだわ」
その返事で一応は納得してくれたのか今は俺の手を引き歩いている詩音。その後ろ姿は
……まだ10歳にもなってない娘を嫁にもらうって普通に犯罪だよなぁ。いや、いきなり家に来てもらうよりは許嫁って形にしておいた方がいいか。
興宮の園崎組に着いてから、来る途中で考えていた詩音を許嫁にする件を茜さんに伝えて無事に了承も得られたんだが……。
「だから、なんでもう一緒に住むっていう話になるんだよ!」
「若い子同士仲良く暮らしてみればって話さね。幸人ちゃん、大袈裟」
「いや、だからな!そうじゃねぇだろ!ほら見て、詩音の顔もうすげぇ真っ赤だから、むしろ気失う一歩手前だから!」
「ほぅ……もうその意味を理解するなんていつの間にうちの娘は耳年増になったんだか。そうか、幸人ちゃんアンタもワルだねぇ。こんないたいけな娘にそんな知識仕込んどくなんて、現代の光源氏かね?」
「あぁもう話が拗れるからもう口開かないでくれ!」
その後茜さんから散々弄られて、反対意見も出してはみたが結局茜さんに押し切られてしまい、これから詩音と一緒に暮らすことになってしまった。いや、嬉しいんだけどね?
「はいはい、幸人ちゃんの言い分は分かったから。反対してるように見せかけるのはやめないね」
「ぐっ……」
そして俺と詩音を気の済むまで弄り終えた茜さんは真剣な顔になり、詩音に語りかけた。
「それじゃあ詩音、今日からアンタは鬼淵の女になるんだ。……もう園崎の因習ともなんの関係も無くなる」
「良かったね、詩音。私は心から祝福するよ。幸人くんもありがとう。……これであの日を迎えた後にも詩音は人として生きていけるよ」
あれから葛西さんの車で送ってもらい、今は自分の家に帰ってきていた。
いつもと違う所が有るとすれば玄関には俺の靴以外に女の子の靴があり、その玄関には大きなダンボールが四つほどある事だろうか。
「なんか、あっけないわねぇ。……もっとお魎に手こずるものだと思ってたけど」
「それこそお前が過去に行って改変なりしたんじゃねぇかって疑ってるけどな?」
そういうと呆れたようにため息を吐き、わざとらしく肩を竦める弥白。
「そんな面倒なことしないわよ。……そうだ!そんなことより昨日偶然見つけたセカイに行かない?別人としてって形になっちゃうけど」
「なんだよその胡散臭さMAXな言い方。……分かったよ、あれはアンタの仕業じゃなく俺のご先祖さまの仕業だ。これでいいだろ?」
そう言うと詰まらなそうな表情をして消えていく。
アイツの見つけた別のセカイだなんてそれこそ面倒事の予感しかしないし諦めてくれたのは有難い。
「?幸人さん、お客さんですか?」
「……いや、もう帰ったよ」
「そうですか。あっ、ご飯出来ましたから早く食べましょ?」
そう詩音に連れられリビングに入る。……危うく1人でブツブツ言ってる怪しい男になるところだった。
『今も10歳の幼子を家に軟禁する不審者じゃないの?しかも詩音ちゃんが居ないと碌な料理も食べられない生活困難者さん?』
うっせ、それは一番俺が分かってるつーの。
この日初めて振る舞われた詩音の手料理は……涙が出るほどに美味しかった。
うみねこのなく頃に(コミックス版)を全巻読破してたらとても時間が経ってしまいました。
いやぁいいね、ベアトリーチェ。誰かミステリもファンタジーもない二次創作書いてくれ。気が向いたら書くかな?かな?