もう一人のろくでなし魔術講師   作:宗也

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今回はシリアス多めです。


第9話

「はぁ、なんとか撒いたか。」

 

あの後、必死に逃げて住宅街の裏路地に逃げ込んだ。いやぁ、生きた心地しなかったわー。

 

「あの、ハヤト先生。これからどうするんですか?」

 

「んー?取り敢えずグレンはセリカに連絡してるから、それ次第だな。」

 

俺がルミアにそう言い終わった時、グレンは通信機を切ってこっちを向いてきた。何か難しい顔をしてるな。

 

「で、どうだったんだ?」

 

「セリカは俺にしかこの事件を解決することが出来ないって言った。俺にしか出来ないこと……なんだ?」

 

「グレンにしか出来ないことねぇ、愚者の世界じゃねえの?おおよそ、女王陛下に何らかの呪殺具がついてるとかじゃねえのか?」

 

「それだ!!」

 

ったく、グレンにしか出来ないことって魔術の封殺しかねえだろうに。

 

「でも、そこまで行けるかが問題だよな。」

 

「そうだなグレン、騎士団に見付からずに女王陛下の所まで行く。気付かれた瞬間にダーイ。ベリーハードですわー。」

 

俺一人ならなんとかなるが、四人となると無理だな。

 

「しかも騎士団団長のゼーロスがいるんだろ?敵対すればものの数分でゴウトゥヘルだ。」

 

「グレン、これ無理ゲーなんじゃね?」

 

「グレン先生、ハヤト先生、やっぱり私は投降します。このままだと先生達まで罪人として殺されてしまいます。それにテレサも殺されてしまいます。」

 

「ルミア?それ本心で言っているの?私は認めないよ。」

 

テレサ?あっ、怒ってる。テレサはルミアに怒気を含めて言ってるな。

 

「けど、このままじゃ皆殺されてしまいます!!」

 

「ルミア、もう出遅れなんだよ。だからルミア一人犠牲にならなくてもいいんだよ。」

 

「そんなことありませんハヤト先生。私が懇願して、どうにかお許しを貰えるようにします。だから……。」

 

はぁ、この自己犠牲の考えは治らないのかねぇ。

 

「あー、はいはい。自己犠牲はいいから。お前を見捨てるとかあり得ないからな。大人しく助けられてくれ。なあハヤト?」

 

「グレンの言う通りだ。ルミアは子供だ。こういう時は大人を頼れ。わかったな?」

 

「どうしてそこまで……。何か理由でもあるんですか!!」

 

今にも泣き出しそうな顔でルミアは俺とグレンを見てくる。どうしてか、それは一つしかねえよ。

 

「誓ったんだよ。もう二度と、大切なものを奪わやせしない。あんな絶望を味わうのは願い下げだ。」

 

「俺もだ、手を伸ばせば救えるはずのものが伸ばさなかったから救えなかった。あんな思いはもうこりごりだ。誰にもあんな思いは味あわせたくないんだよ。」

 

「ハヤト先生。」

 

「それに、目の前で傷付いている人がいる。それだけで誰かを助ける理由になるんだよ。」

 

俺はルミアとテレサに近付き、二人の頭を撫でる。これで少しは落ち着けたか?

 

「それよりもだ、これからどうするハヤト?」

 

んー、どうすっかねぇ。パッと思い付かねえよ。

 

「ハヤト先生!!」

 

「ん?どしたテレサ?」

 

「何か女の子が凄いスピードで突っ込んで来ますよ!!」

 

ははっ、そんなわ……マジだ!!しかもあいつかよ!!

 

「小柄な女の子で、でかい剣を持っている、間違いないな。」

 

「何呑気に解析してんだよハヤト!?あいつ俺らを殺す気満々だぞ!?」

 

「グレン、こういう時こそな、慌てなーい慌てなーい。一休み一休みってな。」

 

「ふざけてないでくださいよハヤト先生!!」

 

いやだって、ふざけてても大丈夫だし。

 

「ふぎゅ!!」

 

「「えっ?」」

 

襲い掛かってきた女の子の後ろにいた男が女の子に向けてライトニング・ピアスを放った。軍用魔術 を街中で使うなよ。

 

「っ、てやぁぁぁぁぁ!!」

 

おいおい!ライトニング・ピアスが頭に直撃したのに一瞬の硬直だけで済むのかい!

 

「ぎゃぁぁぁ!!ハヤトォォォ助けてぇぇぇぇ!!」

 

女の子がグレンに向けて大剣を降り下ろすが、グレンは白羽取りで攻撃を受け止める。

 

「グレン、こんな言葉がある。諦めも肝心ってな!」

 

「要するに俺に死ねと言ってるんだな!?」

 

「イグザクトリー!!」

 

がんばれーグレン。骨は拾ってやるからなー。

 

「グレン、受け止めないで。斬れない。」

 

「受け止めないと死ぬわ!!」

 

「おい、いい加減にしろ。」

 

女の子にライトニング・ピアスを放った男が女の子の服の襟を掴んでグレンから引き離す。

 

「いやー、助かったぜアルベルト。」

 

「久しぶりだなグレン、場所を変えるぞ。」

 

※※※※※※※※※

 

「グレン、痛い。」

 

「このやろこのやろこのやろ!!」

 

アルベルトという男に付いていき、人気のない所にやってきた。グレンは襲撃してきた女の子の頭を両手でグリグリしていた。

 

「あの、先生。この人達は?」

 

「あぁ、俺の元同僚だルミア。王室宮廷魔導師、特務分室執行官だよ二人とも。男の方が『星』のアルベルト・フレイザー。もう一人が『戦車』のリィエル・レイフォードだ。」

 

「えっ?そうなのかグレン?知らなかったわー。」

 

「お前も元特務分室執行官だろうがハヤト!!」

 

いやだって、俺は基本的にサポートだったから、アルベルトとリィエルとの面識はないんだよね。リィエルの噂は聞いてたけど。

 

「ったく、状況を見ろよバカが!!俺との決闘したかったなんて今じゃなくて良いだろうが!」

「だって、ある人が言っていたから。いつ決闘するの?今でしょ?」

 

「やかましいわ!!」

 

グレンはリィエルにガミガミと説教をしていた、これじゃまるで兄妹だな。あんな妹いらんが。

 

「グレン痛い、こんなか弱い女の子に暴力を振るうなんて。」

 

「大剣を振り回して建物や地形を破壊する女の子は女の子じゃない。マウンテン・ゴリラって言うんだぞ。」

 

「「……。」」

 

ルミアとテレサは状況に付いていけずに唖然とした表情をしてるな。

 

「お前がハヤトか。まさかグレンと同じ所にいたとはな。」

 

「ん?俺の事知ってんの?」

 

「お前は特務分室の中でも有名だからな。知らない人はいない。」

 

わあお、俺ってば有名人!!まっ、あんだけ派手にやればそうなるか。

 

「これからどうするグレン?」

 

「そうだな、取り敢えずセリカの所まで行ければいいんだが、それをどうするかだ。」

 

「考えても仕方ない。私がいい作戦を思い付いた。」

 

リィエルが作戦?嫌な予感しかしねぇ。

 

「まず私が敵に正面から突っ込む。次にアルベルトが敵に正面から突っ込む。次にハヤトが敵に正面から突っ込む。最後にグレンが敵に正面から突っ込む。」

 

要するに強行突破ってことですねわかります。ってわかりたくねえ。

 

「お前は脳ミソも筋肉で詰まっているのか!?」

 

「あうあう、痛いグレン。」

 

「いたぞ!!反逆者達だ!!」

 

グレンがリィエルの頭をグリグリしながらシェイクをしていたら騎士団に見付かった。

 

「アルベルトが軍用魔術を使ったから見付かった。」

 

「「いや、お前のせいだからなリィエル。」」

 

あーもー、リィエルのせいで敵に見付かった。しょうがねぇな。

 

「グレン、リィエル、アルベルト、ルミアとテレサを頼むわ。」

 

「ハヤト、お前囮になるつもりか!?」

 

「そうでもしねえと全滅まではいかなくても不利な状況になるだろグレン。」

 

騎士団の兵士は50人、いやもっと増えるか。

 

「私が斬る。」

 

「いや、ここは俺一人で十分だ。他の所でやってくれリィエル。」

 

「ん、わかった。グレンの親友の貴方の言うことを聞くことにする。」

 

「ハヤト先生!!無茶ですよ!!」

 

テレサが俺にそう言ってくるな。いや、無茶ではないんだけど。

 

「大丈夫だってテレサ、俺は死にはしないからさ。」

 

「そういうことではありません!!私は心配なんですよ!!」

 

「それはどうも。でも本当に大丈夫だからな。」

 

俺はテレサに笑顔でそう言う、するとテレサははっとした表情をしていた。

 

「まさか、あの時の人って。」

 

「当て身!!」

 

「うっ!」

 

俺は動揺しているテレサの首の後ろをチョップして気絶させる。悪いな、こんな方法しか思い付かなくて。

 

「グレン、丁寧に運べよ?」

 

「わーったよ。ほれ、ルミア行くぞ。」

 

「分かりました、ハヤト先生、無理しないでくださいね!」

 

「貴方は私が斬るから。」

 

俺は気絶しているテレサをグレンに渡す。受け取ったグレンはルミアとリィエルを連れて競技場へ走っていった。

 

「アルベルト、早く行けよ。」

 

「ハヤト、こんなところでくたばるなよ?」

 

「当たり前だ。」

 

アルベルトはそう言った後、グレンの方へ走っていった。

 

「反逆者め!!仲間を逃がしやがって、追え!!」

 

「そうはいかねーんだよなぁ。」

 

俺は近くを通り抜けようとする兵士を刀で斬り捨てる。殺してはいないからな。

 

「貴様!!何度も何度も邪魔しやがって!!」

 

「悪いな、ここから先は通行止めだ。」

 

「ちっ、相手は一人だ!!囲んで斬り捨てろ!!」

 

おうおう、数で挑めば俺に勝てると思ってんの?健気だねぇ。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

「アホだなお前ら。月夜に沈め、朧月夜!!」

 

俺は囲んで攻撃をしてきた兵士達に向かって回転斬りをし、周囲に吹き飛ばす。

 

「怯むな!!殺れ!!」

 

「殺られはしねえんだよ。」

 

向かって来た兵士にボディブローを放ち、怯んだ隙に蹴り飛ばす。続けて頭を掴み、集団に向けて投げ飛ばす。

 

「もらった!!」

 

「残念、残像だ。」

 

後ろから剣で刺そうとしてきたから、それを左右のステップで回避して斬り捨てる。今のステップはアラウンドステップって言うぞ。

 

「これならどうだ!!」

 

盾持ちがやって来たか。盾持ちが俺の攻撃を防いで、隙が出来たら他の奴が攻撃か。

 

「けど、俺には通用しないんだぜ。ぶっ飛べ、烈破掌!!」

 

盾持ちの盾に左手を乗せ、そこから衝撃波を放って吹き飛ばす。

 

「なんなんだよこいつは!?」

 

「どけぇぇ!!蜂の巣にしてやる!!」

 

むっ、弓兵部隊がやって来たか。つーかそこまでしてまで反逆者を殺したいのかよ。

 

「放てーーーー!!」

 

「よっと、ほっと、うげっ、刺さった!!」

 

俺は飛んでくる矢を刀で打ち落としたり、避けたりするが、何本か刺さっちまった。

 

「何故避けられる!?」

 

「いやだって、弓矢って銃弾よりは遅いから避けれるだろ?全部は無理だったが。」

 

銃弾を飛び交う中で突っ込んで行った経験があるからな。どうってことはない。

 

「くそ、第2部隊用意!!」

 

「打たせるわけねえだろ、カチカチツルツルピキピキドカーン?」

 

「貴様、何だその言葉は!?何処までも舐めやがぎゃぁぁぁ!!」

 

第2部隊の足元に魔法陣を展開させ、そこから出てきたでかい氷の中に閉じ込めて凍らせる。

 

「インヴェルノ、人の詠唱は最後まで聞くんだな。」

 

「出でよ赤き獣の王!!」

 

「マジかよ!!」

 

後ろから詠唱の声が聞こえたと思ったら爆炎に巻き込まれた。あっついわ!!

 

「ゲホッ!!ゴホッ!!」

 

「今だ!!」

 

全身に火傷を負って怯んだ隙を狙って兵士達が斬り掛かってきやがった。

 

「ッ!!断空剣!!」

 

俺は回転して飛び上がりながら、竜巻を発生させて兵士達を地面に叩き付ける。

 

「はぁ、はぁ、兵士はこれで一通り行動不能にしたか。」

 

にしても、さっきのクイック・イグニッション。あれは兵士がやった訳じゃない。おそらくあの女だろうな、余計な事しやがって。

 

「やめだ、考えたら火傷の傷が痛む。あっ、今競技祭どうなってるかねぇ?」

 

腕時計のあるボタンを押してと、ふむ、今は決闘祭の最中か。

 

「急いで戻らねえとな。何が起きるかわからねえし。」

 

ポケットの中に確かグミが、げっ!全部のグミが黒焦げになってやがる!!

 

「ええい!!適当にこれでいいや!!」

 

さてさて、選んだグミはどんな味かね。ん、ミックスジュースみたいな味か。

 

「よし、競技会場に行くか。」

 

時折兵士の叫び声や、兵士が宙を舞っているのが見えるんだが、リィエルの仕業だよな絶対。

 

※※※※※※※※

 

「取り敢えずは、競技会場に着いたんだが、何故表彰台に結界が張られてるんだ?」

 

結界の周りにいる兵士や生徒達に気付かれないように結界に近付く。

 

「そういうことかよ。」

 

中にいたのは、首のブローチをまじまじと見ている女王陛下と、腕を組んで立っているセリカ、泣き崩れているルミア、ルミアを励ましてるテレサがいた。

 

「しかもグレンとゼーロスは戦闘中、恐らくグレンは女王陛下の呪殺具を解除しようとしてるが、ゼーロスが阻止してるんだな。」

 

グレンが女王陛下に危害を加えようとしている風に見えるのかあのジジイは。

 

「ったく、周りをもう少し見ろってんだジジイ。」

 

この結界を壊して中に入らねえとな。でもこの結界強力なんだよな。あれを使うか。

 

「蒼海の神姫、未知なる道を切り開け!!シアンディーム・エクシード!!」

 

刀の先から螺旋状に回転した水のレーザーで結界を貫き、グレンに止めを刺そうとしていたゼーロスを吹き飛ばす。

 

「来たか、ハヤト。」

 

「セリカ、もうちっと結界の強度落としてくれない?」

 

危うく結界を貫く事が出来なかったぞ。

 

「廃棄王女の為に、ボロボロになりながらも来るとはな。」

 

「てめぇ、今何て言った?」

 

「生きてはならない筈の廃棄王女の為に命を張る愚か者がいたものだと言ったのだ。」

 

そうかいそうかい、ルミアは死ななくてはならない。そう言いたいんだなジジイ?

 

「異能者は排除しなくてはならない。帝国の為にもな。」

 

「あぁ、やっぱりそうなんだ。私は、生きてはいけないんだ。」

 

「ルミア!!ルミアは生きていいんだよ!!」

 

「ルミア!!あんな野郎の話を鵜呑みにするな!!」

 

テレサとグレンがルミアを励ましてるが、効果は無かった。

 

「ありがとうテレサ、グレン先生、私はもう大丈夫だから……。」

 

「何、するの?」

 

「私の命を捧げます。だから、他の人に手を出さな「ふざけるな!!」えっ。」

 

異能者は生きてはならない?いらない王女だから殺しても構わないだと?

 

「勝手に決めんなよ、ルミアの人生を、てめえらの都合で勝手に決めてんじゃねえよ!!てめえは女王陛下を守るために仕えているんだろ!?だったら、その女王陛下の娘も守らなきゃいけねえんじゃねえのか!?」

 

「貴様!!口の聞き方に気を付けろ!!」

 

「ルミアもルミアだ!!自分の命を簡単に差し出すんじゃねえよ!!もっと生きていたいだろ!?もっと友達と遊びたいだろ!?ルミアはどうしたいんだ!?」

 

「ハヤト、先生。」

 

「生きたいんだったら助けを求めろ!!それでも死にたいんだったら勝手にしろ!!けど、ルミアはどうしたいんだ!?本当の気持ちはどうなんだ!?自分で選んでみろよ!!」

 

「私は、私は、もっと生きていたい!!クラスの皆ともっといたい!!先生達の授業をもっと受けたい!!お母さんと仲直りしたい!!もっと幸せな時間を過ごしたい!!だから、助けて!!」

 

「「任せろ!!」」

 

ルミアの本心を聞いた後、グレンと俺はルミアの前に立つ。

 

「グレン、俺はあのくそジジイの相手をする。隙が出来たら愚者の世界で呪殺具をなんとかしろ。」

 

「わかった。そっちは大丈夫なの、か?」

 

くそったれ、久しぶりに頭にきた。本気で戦ってやる。

 

「あの廃棄王女を殺す前に貴様から殺す。」

 

「やってみろよクソジジイ。てめえなんかに負けねえよ。」

 

そう言い、俺とゼーロスは激突する。


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