「やはりいつ見ても自然の景色は素晴らしいな、心が安らぐ」
心地の良い風がランスロットを包み込み、先程まで荒れていた心が落ち着いていく。
とは言っても未だ心はボロボロだ。
目の前に広がるのは超巨大な巨木。それの根から大量の水飛沫を上げる滝。一誠達の元いた世界では決して見ることの出来ない景色だ。
現に隣にいる耀と飛鳥は度肝を抜かれ目を輝かせながら滝の先を見ている。
ランスロットは過去に数度見た事があったのであまり驚きはしないが、それでも心奪われる物はある。
「これがアンダーウッド...凄い」
「えぇ全くよ。凄いわ凄すぎるわ春日部さん!」
そう今いるのはアンダーウッドと呼ばれる場所である。彼ら三人の問題児が戦果で勝負し誰が先にいくのかで揉めていた。
アンダーウッドは二つの現象がありそう呼ばれている。先に上げた滝もその一つでもう一つが、地下に広がる都市である。
滝の水が勢いよく用水路を流れ、灯りの代わりに水晶が光り輝いている。並の都市では叶わない都市だ。
二人が驚きを隠せない中さらなる驚きが襲う。
唐突に巻き起こった風が自然の流れを無視して髪を巻き上げる。この時春日部の鼻はいつぞやの友達を認識していた。
『友よ、ようこそ我が故郷へ。歓迎するぞ』
「久しぶり」
その巨大な鷹の羽を羽ばたかせ挨拶をしてきたのは、春日部と決闘を繰り広げたグリフォンだった。
「ここが貴方の故郷だったんだ」
『そうだ。収穫祭で行われるバザーにはサウザンドアイズもでるのでな、その護衛だ』
背中を少し震わせ後ろにある巨大な
ここでグリフォンは首を傾げいつもの顔ぶれにない新参者を見つける。
『お前は確か...アヴァロンの』
「ランスロットだ。今は移籍しノーネームではあるがな」
過去に遠くからではあるが見た事はあったグリフォンは驚きつつもある程度納得する。おおよそ赤龍帝絡みなのだろうと。
「え、まって言葉分かるの?」
自然と会話をして気づくのに遅れたが、グリフォンと会話をするには特別なギフトがいるはずだ。
黒ウサギは月の兎の特権によるもの。
春日部は
ランスロットの伝説にはその系統の物は一切無いはずだ。だから喋れないと思っていたのだが
「アーサー王があった方が便利だと、無理やり取らされたのだ。私はいらないと言い張ったのだけれど」
『さすがはアーサー王と言ったところか』
「ふーん。別に興味無いからいいんだけど」
「安心しろ私もお前には興味はないさ」
二人は互いに指同士を絡ませ力で強引に粉砕しようとし始める。
二人はまさに、水と油。猿と犬。混ぜるな危険であった。グリフォンはゆっくりと頭を黒ウサギに近づけ小声で話す。
『いつもこうなのか?』
「ええいつもこんな感じなのです」
本当にこのままで大丈夫なのか微かな不安を覚えながら五人を乗せ空に舞い上がる。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
ところ変わって一誠は白夜叉に何故か呼び出されていた。そのため、十六夜達と別れ一人偽幼女の元へと来ている。
「何が楽しくて一人虚しくこんな事に...」
「なにちと聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
二人は対面式に座布団に座り、茶と煎餅を片手に会話をしている。
白夜叉が手に持っていた茶を一気に飲み干し、机に置いてから真面目なトーンで話し出す。
「うむ。お主自分の父兵藤一新について、どこまで知っておる?」
「七聖剣を使ってたとかなら」
「やはり知らんかったか、なら改めて言おう。お主の父がクリア出来なかった魔王のゲームについて」
最初に話されたのは父が箱庭を去る理由になった物だった。
拝火教神群が一体『アジ=ダカーハ』生まれながらに魔王を宿命ずけられ
黒ウサギの故郷も破壊したのは『アジ=ダカーハ』であり、あまりの異常な強さに一新は敗れ去ってしまう。
その力の大きな要因として、傷を負えば負うほど自分の分身を生み出す。その分身もかなりの力を持っているため厄介だ。
そして、次は一新が受けた最初の魔王ゲームである。
『レティシア=ドラクレア』のギフトゲーム『SUN SYNCHRONOUS ORBIT IN VAMPIRE KING』である。
数々の魔王を討伐し箱庭の騎士とまで称される強さだったが、一人の部下が暴走し殆どの純血吸血鬼が殺され、暴走して開催してしまったゲームだ。
この件にはグリモワールの前リーダーも関わっていて、唆されかなりの難関ゲームになってしまった。
結果として金糸雀と一新の判断で魔王の力と切り離す事によって、今は普通に生活できるようになった。
「なるほど...そんな事が...ところで何でこの話を今?」
「この先必要になると思ってな。お主はそういう事を引き寄せやすい体質だからのう」
本来はこう立て続けに不穏な事が起こるはずが無いのだ。なのにこう起こっているとなると、いずれ激突する可能性があるので最も関連している一誠に伝えたのだ。
実は暇そうなのが一誠しか居なかったという理由もある。
「おっけー。覚えておくよ、てかそろそろ行かないとな」
二人は話過ぎていたせいか外は暮れ始めている。
あまりにも遅いと黒ウサギ達が怒りそうなので、重い腰を上げアンダーウッドへと向かう事にする。
その時だった。強大な者の気配を感じた。位置は遥か上空からだ。
咄嗟に上を見上げ何の気配か探るが一誠は分からない。しかし、白夜叉は何の気配か気づいたようで、慌てて外へと飛び出す。
白夜叉の異様な慌てぶりに驚きながらも外に飛び出る。
遥か上空から現れたのは全身白く二つの頭を持つ龍だった。
「なんだあれ?」
「アジ=ダカーハだ」
「な」
「ただ本体ではない。その分身体で奴らは第一世代の神霊級じゃな」
目の前にいるのが父さんの敵なのだと理解すると瞬時に鎧を装備し、一本の剣とも槍ともとれる武器を強く握る。
一誠は上空の龍を睨みつけ覚悟を決め背中に羽を生やし空へと飛び上がる。
ぐんぐん加速し、手に持つ剣を全力で投擲する。
「哈ッッ!」
『GEYA?』
投擲された槍は空気を切り裂き一体の龍の心臓を抉り取る。まるで神話の通りに敵を貫く。
その剣の名は『ミストルティン』バルドルを死に至らしめ、ラグナロクの始まりとなった事件を引き起こした剣である。
北欧ではヤドリギを意味する言葉でもあり、そのため形状は槍と剣の狭間に位置している。
ミストルティンは軽い円を描きながら手元に戻っていく。掴むとギフトカードに戻し次の剣を取り出す。
今度取り出したのは西洋の黄金の剣である。剣から放たれるオーラに双頭龍は即座に危険だと察知し離れ離れになる。
剣の名は『フロッティ』かの有名なジークフリードが、悪龍ファフニールを討伐し手に入れた聖剣である。
そのため龍殺しの特性を持っていてそれに双頭龍は反応したのだ。
「おら!」
『GYA!』
フロッティを両手持ちにして一生懸命振り抜くが、双頭龍の方が上空での戦い方は上手で巧みに躱している。
双頭龍は口から炎を迸らせ始め、爆炎を吐き出す。
剣に魔力を集中させ爆炎を細切れにしていく。爆炎を切り終えると双頭龍の拳が迫ってきていた。
「クソが!」
『GEYAAAAAAA!!』
咄嗟に剣の背を拳の前に出し全魔力を放出し防御の姿勢を取る。拳が剣にぶつかった瞬間、まるで爆発したような強烈な音がなり吹き飛ばされる。
羽を羽ばたかせ減速していくがそれでも地面まで落下していく。どうにかギリギリ間に合い少しだけ砂埃を上げ着地する。
「すまんな助かったぞ」
「いやまだ四体いる。中々強いな」
「不意打ちとはいえ普通に倒せるお主はそこそこ異常じゃぞ」
慌てて駆け寄ったきた白夜叉が労いの言葉をかける。一誠としてはまだ満足出来ていないので追撃をかけようとするが、それを止めさせ申し訳なさそうな顔で言葉を放つ。
「他の階層支配者も他の魔王から襲われているらしい」
「まじか、それじゃあ十六夜達も」
「うむ。まぁ童どもなら大丈夫じゃ、問題は他にある」
「問題?」
白夜叉から語られたのは衝撃の一言だった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
アンダーウッドはケルト神話に登場する巨人に襲われていた。だが甚大な被害は無かった。
巨人が弱かったわけではない。春日部が少しだけ危ういレベルには強い。それでも甚大な被害が無いのは最強の二人の騎士が居たことだ。
一人は分かる通りランスロットだ。的確に尚且つ素早く巨人の弱点を突き破壊していった。
その早業を殆どの者が目で追えていない。
そして、もう一人がコミュニティ『クィーン・ハロウィン』に所属し、女王騎士第三席『
その戦い方はランスロットに引けを取らず、遠距離は剛弓で中距離は連接剣で近距離は剛槍で倒していく。
三つ全てを扱う技量もさる事ながら、的確に状況判断し被害を比較的出さずに倒す騎士の頭脳も素晴らしいと言う他にない。
「これでひとまず終わりですね」
「そうだな。にしても久しいな
「それはこちらのセリフです。まさかノーネームに移っていようとは」
「色々あったんだ、あまり聞かないでくれ」
二人の騎士は巨人の屍の上で友達と会話をするように極普通に喋りあっている。
その光景はかなり異質なのだが、常識に疎い二人はそこまで気にする事は無い。
そんな二人に髪を変化させた黒ウサギが突撃してくる。
「大変大変なのですよ!!」
「どうした黒ウサギ?敵がそっちにも出たのか?」
「いいえ、違います実は」
衝撃の言葉を聞いたランスロットは嘘だと呟きながらその場で意識を失う。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
場所は移り変わる。南の階層支配者であるコミュニティ『アヴァロン』は、丘の上にある小さな城を根城にしている。
下にある城下町はいつも賑わっていて移住者希望者が大量に現れる程だ。無論城も同じく、質素ではあるがどことなく気品に溢れた素晴らしい城だ。
だが、今はその城から黒煙が天へと上り壁がボロボロと崩壊し始めている。
「はぁ...やられましたね...はぁ...」
「さすがだなアーサー王。今のを避けるか」
「ですがもう左手が動きません。健を切られましたね」
アーサー王は利き手の左手に力を込めてみるも、一切反応を示さず完全に脱力した様子だ。
左手の上腕二頭筋の部分からは血が垂れ、左目からも閉じた状態で血を流している。
かなりの量の血を垂れ流してしまい、その場で片膝をついている。
「はぁぁぁぁ!!」
残る力の限りを込め聖剣を白髪の少年に全力で投擲する。少年は顔を少しだけ曲げいとも容易く避ける。
避けられたとしても別にアーサーとしては良かった。この剣を渡すは訳にはいかないので、適当に遠くへと投げたのだから。
それに気づいた少年は別に興味はないと言った表情で二本の剣を握りしめる。
「ごめんなさい。今すぐとって」
「いやいい。聖剣で興味があるのは七聖剣だけだ」
なよなよとした少年が身体を震わせながらビクついているが、ここまで押されたのは彼に原因がある。
突如として来訪した彼らは尽く円卓の騎士を倒し、不意をついてなよなよの銀髪の少年がアーサーに触れた。
すると、白銀の翼を生やし『Divide』と機械的な音が二回なり全身の力が一瞬で減り、その隙を疲れ白髪の少年の持つ焔の剣により左目と左手が切られてしまった。
(しかし、まさかあの剣があちら側にあるとは思わなかった)
アーサーは白髪の少年の持つ二本の七聖剣に驚愕を表していた。
右手に持つのは西洋の剣ながら剣先のない特殊な形状をしている『カーテナ』
左手に持つは七聖剣の中で最も凶悪で最強の『
魔剣であり、聖剣であり、神剣である。
聖であり魔。魔であり聖。矛盾を内包した破壊の聖剣。
刀身は全て焔で出来ている摩訶不思議な剣だ。スルトが持っていたとされている剣だ。
このような物を一体一新がどのように手に入れたか分からないが、あまりの凶悪性から殆ど使われる事がなかった。
今はその事を置いておくとして、この剣たちは英雄に付くとされている。となると、目の前の白髪の少年は聖剣に英雄だと認められた事になる。
兵藤一誠ではなく、白髪の少年が。
その事を知ったアーサー王は将来的に二人が激突するのは必至だと思いうかぶ。
「何か言い残す事はあるか?」
「ありません、やりなさい」
アーサーは抵抗すること無く炎剣に切られ、全身を火で覆われながら城から丘の下へと落下していく。
落ちながらも考えていたのは、直感だったが危険を察知しランスロットを他のコミュニティに移せ安全だった事だ。
「ランスロット元気で」
空を見上げ笑顔を作りながら最後の命を燃やす。
南の階層支配者『アヴァロン』の崩壊。この情報はすぐにコミュニティに行き渡る事になった。