問題児と一緒に変態赤龍帝も来るそうでよ?   作:暁紅

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やっちまったぜ。とだけ言おう。多くは語らない。


激突必死。最終局面突入!!!

「まずホスト側に問います。今回のゲーム不備はありませんでしたか?」

「不備はないわ」

 

十六夜が勝手に斑幼女のあだ名を決めた幼女は面倒くさそうに返事を返す。黒ウサギが反論を返す前に斑幼女が口を挟む。

 

「一切不備はないわ。もし信用出来ないなら貴方の耳で確かめたらどうかしら?」

「本当にいいのですか?」

「ええ構わないわ」

 

黒ウサギが耳をピクピク動かして数秒。箱庭の中枢からは不備はなしと返答された。

 

「本当のようですね」

「言ったでしょ不備はないと」

 

背もたれに寄りかかりながら余裕の笑みを浮かべる。多分幼女達もこうなる事は読んでいたのでだろう。

 

だが、今の十六夜はその事を考えるより一人の男に集中していた。

 

等身並の笛を持ったヴェーザー河の化身でもなく。

飛鳥と戦ったラッテン(ネズミ)でもなく。

サンドラが倒した白い巨人シュトロム()でもなく。

黒ウサギと話している斑幼女(ペスト)でもない。

 

細身のレイピアに近い剣を腰に指している男だ。ジンの話が本当ならばフラガラッハとの事だ。

 

「なぁそこの全身タイツ。お前本当にフラガラッハか?本当なら何でこんな所にいやがる」

「おっ?俺のこと知ってると見たぜ少年。まさか少年にも知られてるとはな嬉しい限りだ。だが残念その質問には答えられねぇ。何せ記憶が無いからな」

「記憶がない?」

 

フラガは身体の前で手を組んだ状態のまま頭だけを縦に降る。

 

考えて見ればおかしな事だらけだった。彼の神話を使ったのは太陽神ルーだ。

 

有名所で言うならば『クーフーリン』の父親に当たるのがルーだ。北米神話のグングニルなどにも影響与えている超大物だが今は置いておく。

 

神話に置いてかなりのチートな位置にあるフラガラッハが、神の手から離れ放浪している事がおかしすぎるのだ。彼の発言を信じるならば記憶喪失との事だが、剣に記憶があるのか疑問点は残る。

 

「そうか...なるほどな...黒ウサギ。一誠の治療をやめろ」

「な!仲間を見捨てろと言うのですか!」

「違う。何もアイツを見捨てるなんて言ってねぇ。治療をやめて血管を繋げろ。最悪あのまま出血しするぞ」

 

黒ウサギは首を傾げながらも外にいる仲間に十六夜の言葉を伝え方針を変更する。

 

今一誠は切られた手を修復するため色々な治療ギフトを使っているのだが全く効果が見られていない。それもそのはずだった。確証がなく話せなかったが目の前にいるのが大方フラガラッハだと判断できれば原因も分かる。

 

フラガラッハで切られた傷は一切の治療が出来ない。投擲武器としても使えるフラガラッハに搭載された最強ともいえる力。古今東西探してもこれに追随する程の聖剣は殆どない。

 

となれば今の治療は全て無駄。傷が治らないならば血管をどうにか繋いで、出血しだけは回避しなければいけない。

 

(チ。たくこんなの俺の仕事じゃねえんだけどな。早く起きろよ一誠、今は少しでも戦力が欲しい。なにせ目の前のこいつ(フラガ)に勝てるのはお前か俺だけなんだからな)

 

現在戦える戦力はかなり少ない。少数精鋭で活動するノーネームも飛鳥は行方不明。一誠は腕を切断され意識が未だに戻らない。春日部はペストをもろに受け戦闘に参加させられない。

 

黒ウサギならばもしかすれば勝てるかもしれないが、怪しい所がある。レティシアは言わずもがなだ。

 

深いため息を吐きながら困り果てているジンに助け舟を差し出す。

 

 

 

 

ジンの口戦によりどうにかギフトゲームの再開期間を一週間後に伸ばし、今は話し合いから六日後。再開まで残り二十時間あまりとなった時の隔離部屋にてだった。

 

春日部の部屋には十六夜がおり一誠の部屋には黒ウサギが待ち構えていた。

 

だがこの六日間一向に目が覚めず、このままギフトゲームに参加出来ないのではと思い始めた時、唐突に一誠は目を開け覚醒する。

 

「...生きてる?...」

「よかった!よかったのですよぉぉぉ!!!」

 

黒ウサギに抱きつかれ胸に顔を沈める。彼女の胸は現状ノーネームの中でも最高峰の代物に顔を埋めるのだ、昔の一誠ならば何かしら反応したかもしれない。

 

だが、今の一誠は何も反応しない。と言うよりも感覚が一切ないのだ。

 

匂いや視覚はしっかりとあるのだが、まるで麻酔がかかっているように身体が自由に動かせず、顔付近も布で覆われたように真っ暗なだけで柔らかさなどを一切感じられない。

 

「一誠さん!よかったよかった!」

「苦しい」

 

慌てて飛び退きベットに横たわっている一誠を壁に持たれかけさせるようにして状態を上げる。

 

慌てて手を振り軽く挙動不審になっている黒ウサギを他所に、自分の記憶に取ってはつい少し前の時の出来事を思い出す。

 

脳を支配するのは腕の切り目から感じる冷たい風に、風に打たれる度に身体の全身に回るある感情。

 

痛い。痛い。いたい。いたい。イタイ。イタイ。

 

意識は薄れゆく。その時視界を白い布が覆った。それが春日部だと気づいた時には意識が完全に飛んでしまった。

 

「黒ウサギ...耀はどうなった?」

「えっと...その...今すぐにはどうにもならないので大丈夫です...」

 

自分の無くなった右手を見ると何やら布ような物が貼られていて、それにより血管を繋いでいるのだと考え、痛みはないので気にせずに聞く。

 

さっきまでドタバタしていた黒ウサギは途端に静かになり、下を俯きながら答える。

 

「何があったんだ?」

「言わなければいけませんか?」

「頼む」

「では」

 

そのあと黒ウサギから聞かされたのはあまりにも衝撃的な事だった。

 

春日部が自分を庇い黒死病(ペスト)を受けてしまった事。ただすぐに死ぬレベルではなくもって明後日だと。

 

その事を踏まえジンは再開期間を設定したらしく、死にものぐるいで明日は勝ちに行くとの事だ。

 

しかし、今一誠が考えているのは自分の力の無さだった。

 

高校生の時はハーレム王になるだとかほざいていたが、そんな事は夢のまた夢だったと突きつけられた現実。力が足りないのだ。自分の仲間も守れないようじゃ、好きな人を守る事なんて出来もしない。

 

歯が軋むのが分かる。強く噛み締めたせいで唇の横から血が垂れる。

 

「一誠さん!」

「大丈夫だから少し一人にしてくれ」

「ですが...」

 

無言の圧力。黒ウサギを見つめると渋々従い部屋の外へと出ていく。

 

今の一誠には不安要素が多い。本当に一人にしていいのか疑問点は多いがここから先は彼自身の問題。他人が口を出していい問題でもないので部屋を後にする。

 

一人部屋に残った一誠は布団を強く握りしめシワまみれにする。

 

「なんで...もっと力が...力があれば」

『力が欲しいか?』

『力が欲しいの?』

『力を欲するか?』

 

耳ではなく脳に直接多数の声が響き渡った。

 

 

 

翌日。遂に再戦の火蓋は幕を降ろされた。フラガラッハはギフトゲームをクリア出来ていないので、戦力外とし他の者達を対処することにした。

 

神格を授けられたヴェーザーに相対するは、人間を超えているとしか言えない男十六夜だ。

 

二人の戦闘は激しさをまし拳と拳がぶつかり度に空気を震わせ、衝撃波で辺りの建物が揺れたり倒壊する。

 

そんな二人の影に隠れ兵藤一誠が部屋から出た。

 

今は戦時と言うこともあり負傷者の治療のため人がかなり行き交い、いちいち顔を歩いている人の顔を見る者もいない。

 

結局誰にも止められる事無くとある場所へと足を向けて歩いていた。

 

歩くと言っているが背中を少し曲げ下を向きながら足を引きずっている。丁度一誠を探していたフラガはトボトボ歩いている一誠を見つける。

 

「見つけた。これで終わりだァ!」

 

こちらも発見したなら相手にも発見される可能性がある。なので先手必勝あるのみ。

 

自身の最速の一突き。剣は一つの槍とかし空気の壁を突き破る。

 

姿は消え、音を捨て、存在を捨て、穿つは必殺の一撃。力を確認する必要もない。ただ殺す事に特化した一撃。

 

これを避けられた者はいない。最強の一撃。

 

一誠のほぼ目と鼻の先で突然剣が停止する。

 

「ッ!!」

 

感じたのは並々ならぬ殺気だった。たったの人睨みで全身は恐怖で硬直しピクリとも動かない。冷や汗が流れるたび凍りつくような寒気も感じる。

 

絶対に抗えない強者に挑む弱者の気分。例えるならば獅子に挑む一匹の蟻だろうか。勝てるはずのない絶対的な溝が瞬間的に察知できた。

 

剣を突き出した状態で停止しているフラガの横を一誠は素通りしていく。

 

通り過ぎてから五歩行った所で恐怖から解放され、多少身体が動かせるようになりすぐに後ろを振り向く。

 

「てめぇ!素通りだと!舐めるなよガキィィ!!!!」

 

怒声を上げ再度一撃を放とうとした時不思議な物を見た。

 

先程見た時は一誠の右手は何も無かったはずなのだが、今は何故か血が滴っていた。

 

ただ隣を通り過ぎたはずの彼にありえるはずのない現象。なにがあったのかその思考に至る前に視界の上下が反転する。

 

(は?何があっ...た......)

 

反転した視界のすみに本来見えるはずのない自身の足が見えてしまった。その事から首を切られたのだと気づいた時には力尽き死んだ。

 

勝者になった一誠の前に『契約書類(ギアスロール)』が現れるが受け取らず、地面に落とし踏み進んでいく。

 

それでも勝者となった一誠のギフトカードに吸い込まれるようにフラガラッハは消えていった。

 

この事を目撃した者はおらず、止める者はいない。

 

 

 

ギフトゲームは終盤に差し掛かり、飛鳥が赤い巨人と復活した事によりラッテンを撃破。十六夜がヴェーザーの奥の手ごと撃破。ジンが真実のスタンドガラスを掲げ砕いた事で、ゲームの半分を攻略し残るは魔王本体の撃破だけとなった。

 

ペストと激突しているのは、サンドラ、黒ウサギ、十六夜、飛鳥の四名だ。

 

十六夜はヴェーザーとの戦闘により片腕を封じられているが、黒ウサギには秘策があるとの事でその時間稼ぎに追われていた。

 

「まだか、黒ウサギ!」

「もう少し待ってください!」

「ふっ、何を待っているか知らないがさっさと終わらせる」

 

命あるものへの絶対の死。黒き風をは夏が十六夜の謎のギフトにより文字通り蹴り砕かれる。

 

ペストにとっては十六夜ほど戦いづらい相手もいない。それによりどうにか時間稼ぎをしていた時、戦闘をしていた五人全員が同時に寒気を感じる。

 

まるで半袖で雪山に放り込まれたような寒気。ガタガタ肩は震え始め、十六夜とペスト以外はまともに立つことすら出来ない。

 

この現象を引き起こした本人の声は生気の篭っていない、ハイライトの消えた目で黒ウサギを見つめ聞く。

 

「ペストはどいつだ?」

「あ、あの斑模様のか方ですす」

「あいつか...」

 

指させれた方にいたペストを睨みあげる。

 

「あいつが......あいつが......」

 

一誠の周りに緑色の玉が数個浮遊し始める。

 

精霊かと思ったが決してそんな物ではなく、もっとおぞましい物だった。負の概念の結晶体とでも思えるそれは一誠と共に言葉を発し始める。

 

『我、目覚めるは』

<始まったよ><始まってしまうね>

 

魔力が高まり初め空気が震える。空間が軋む。

 

『覇の理を神より奪いし二天龍なり』

<いつだって、そうでした><そうじゃな、いつだってそうだった>

 

全員の寒気は次第に大きなっていき十六夜も前身が震え始める。

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う』

<世界が求めるのは><世界が否定するのは>

 

一歩。一歩。着実に前にゆっくりと進む。

 

『我、赤き龍の覇王と成りて』

<いつだって、力でした><いつだって、愛だった>

 

勝手に出現した鎧は大きく変貌を遂げ始める。

 

腕は長くなり指先は研がれ鋭い爪になり、腰からは長い尻尾のような物が生え、背中からは赤い龍の羽が生える。

 

《何度でもおまえたちは滅びを選択するのだな!》

 

悲痛な叫びが篭手より放たれる。異世界に来ても変わることのなかった悲しき赤龍帝の末路を嘆く。

 

「「「「「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう」」」」」

 

魔力は爆発をうみ辺りの建物を吹き飛ばす。幸いだったのはまだこれがペストの生み出した、別空間の建物だった事だ。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)

 

赤き龍はその真の姿を現し顕現する。存在そのものが破滅の象徴。破壊、粉砕、消滅。最強最悪な龍。

 

あまりの強さに二天の龍と恐れられ、神器へと封印された龍の力を解放する忌むべき力『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を発動させた。

 

『GEYAAAAAAA!!!』

 

この世を呪う怒号をあげ付近の建物を全てなぎ払い、巨大なクレーターを自分の真下に生成した。

 

 

 

 

 

時間は少し遡り一誠が龍へと至る少し前。黒き風により拘束されている白夜叉は予言を思い出していた。

 

『火竜誕生祭にて魔王襲来の兆しあり』

 

あの時は隠していたが実はもう一文続きがあった。

 

『赤龍が現れ破壊をもたらす』

 

この予言を書き残した後意識を失い。一体何がどうあって赤龍が現れるのか分からなかった。

 

しかし、突然空より龍が舞い降りるなんて事はありえない。となると、残るは一人赤龍帝の篭手なるギフトを持っている一誠が暴走した場合のみ。逆にそれしか考えられなかった。

 

白夜叉はここで嫌々ながらもとある場所へ連絡を取った。連絡を取らない事には越した事は無かったのだが、状況が状況なため神話的にも赤龍と深い関わりのある達へとこの事を伝える事にした。

 


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