その日普通と呼べるか微妙だが、平凡的な普通の高校生兵藤一誠は帰宅する足がかなり軽くなっていた。
兵藤一誠は駒王学園と呼ばれる元女子高に出会いを求めて入学するも、その学園の中で出会った2人の生徒と一緒に変態的な行動をするため『変態三人組』と呼ばれ女子から恐れられている。
そんな事をしている一誠だが、その日は学校が終わったタイミングで、アイドルをしているような可愛い他校の女子から告白されていた。
無論一誠は二つ返事で承諾する。
だがこんな変態行動をする物を好きになる者がいるのだろうか?答えは誰しもがNoと答えるだろう。しかし残念な事に一誠にはそこまで考える脳が存在せず、彼女が出来たとはしゃいでいた。
「うっひょ!!!まさか俺にも彼女が出来るとは!!!そうだ、デートのプランも考えなくちゃな」
映画館、ゲーセン、公園などのデートの定番スポットの事を歩きながら考えているせいで、ポケットに入っている封書に気づく事が出来なかった。
家に帰るとリビングにいる親に挨拶をすると、自分の部屋のある2階へと急いで駆け上がる。
少し慌てすぎて階段を踏み外しそうになったが、手を回してバランスをどうにか保ち落ちずに住んだ。
上がった先にある短い廊下も駆けて、自分の部屋のドアを捻り開けると、すぐにベットに飛び込む。
一誠のベットはいつもフカフカの状態をキープしているので、数回ベットの上で跳ねる。
自然にバウンドが収まると枕に顔を当てて叫ぶ。一誠は時々嬉しい事があると大声で叫びたくなる。だが、下手に大声を出すと周りにも迷惑がかかるので枕で音を消して叫んでいる。
「春が来たァァ!!!!!!!最っ高だぜぇぇぇ!!!!」
かなり音が枕により抑えられていて、ドアが閉められているおかげで外には完全に聞こえていないが、もし枕が無かった場合先程の外で喜んだ時よりも大きな声が出ている。
彼女ができた嬉しさなどからか、または枕がかなりフカフカなのが理由か分からないが、そのまま数時間に渡り熟睡をしてしまった。
「イッ.........ッセ......イッセー!」
「うぅん...何だよ母さん」
「もうやっと起きたわね。ご飯の時間よすぐ降りてきなさい」
先に母は部屋から出てもうそんな時間かよと机の上にある電波時計を見ると、短い方の針は6時を過ぎ7時手前まで動いていて、長い方の針は55分を指していた。
ご飯の前に着替えようとも思ったのだが、空腹に耐えきれなかったお腹が唸り声を上げる。
着替えても着替えなくても一緒かとそのまま階段を降りリビングへと行く。
リビングに入るとすぐに一誠の鼻には大好物である唐揚げの揚げたての匂いが飛び込む。
それを嗅いだだけでまたお腹が唸り声を上げる。
「おっ来たなイッセー。さっさと座れ食べるぞ」
グラスに瓶のビールを注いでいて、イッセーを招き寄せたのが兵藤一誠の父兵藤一新である。
一新のかけているメガネはかなり使い古され微かにレンズが欠けたりしているが、何故かそのままにしており、頬が少しこけていて仕事の大変さを物語っていた。そんな一新が母の証言によると昔はかなり凄かったとの事だが、今の常時笑っている姿を見ると想像ができない。
「ほらさっさと座りなさい」
「今座るよ」
一誠の食事などを作っているのが一誠の母兵藤麗華だ。
髪は腰まで伸びていてかなり長いが今は後ろの方で一つにまとめている。実年齢は自分の口から語る事は無いが、見た目的に30代後半だろうと思っているが麗華にそれを言うとかなり嬉しそうな顔をするのでもう少しいっている可能性がある。
麗華の作った唐揚げを一新と取り合い、山のようにあった料理はあっという間に消え、今は食後の会話をしていた。
その会話もそろそろ風呂かなと思い立ち上がると、ふと右ポケットに違和感を感じてポケットに手を入れると、何か紙のような物を感じとりあえず取り出す。
「なんだこれ?こんなのもらったっけ?」
「どうしたイッセー......それは...なるほどなついに来たか...」
一新は独りでに納得して頷いていて、一誠はなんの事だよ?と聞き返そうとするとソファに座っていろと言われる。
座る意味が無いと断ろうとしたが、一新の身に纏う雰囲気がいつものふわふわした物ではなく、真逆の真剣な雰囲気になり目が険しくなっていた。
いつもと違う雰囲気に圧倒されソファに崩れるように座る。すると、一新はリビングから出て代わりに洗い物をしていた麗華が、腰に巻いていた短いエプロンで手を吹きながら近づいてくる。
手に付いていた水を完全に拭き取ると、エプロンと髪をまとめていたゴムを外し椅子にかけると、一誠の前にあるソファに座る。
「イッセー実はね秘密にしていた事があるの」
「秘密?」
「えぇそうよ。箱庭については多分誰かしらが説明するからいいとして、イッセーの出生についてよ」
『箱庭』と気になるワードも出たがそれよりも気になるワードがでた。『出生の秘密』一体どんな事が語られるのかと緊張してでた唾を飲み込む。
「イッセーにはね本当はもう2人の姉か兄がいるはずだったの」
「はずだった?」
「イッセーが産まれる前にね2人身ごもったの、けどその2人ともお腹の中で死んでしまった」
イッセーは驚いて固まる。
自分は死と言う言葉から最も遠い存在だと思っていたからだ。
なのに自分には兄が姉が2人いてその両方が流産していると聞かされれば、誰しもが驚き理解に苦しむだろう。
「医師からはもう難しいだろうと言われたの...けどねイッセーが産まれた」
「俺が」
「本当に嬉しかっただからイッセーには」
「一番誠実に生きて欲しいと『一誠』と名付けた」
一新が扉をあけ紫色の風呂敷に包まれた小さい何かを持ってきていた。
その物体を一誠達の前に置くと、麗華の隣に腰を下ろす。
「でもなんで今そんな事を」
確かにこの話はいずれする事になるであろう内容だが、決して今のように突然するような物では無い。
その理由に一新は一誠が取り出した封書に指を指した。
その封筒を見つめるととある違和感を感じた。何かがおかしいずっと見つめながら考えると、何がおかしいのか分かった。
封書には本来あるべきはずのシワが無かった。
いや何言ってんだかこいつ、シワなんか封書に普通ねぇだろ。と思うだろうがこれを取り出したのはズボンのポケットからだ。さらに言えばポケットの奥行ぴったりの場所に入っていて、かなり動いたりしている。
普通の封書ならば大なり小なりシワが付くものだ。しかし、この封書にはそれが一切ない。まるで何か特殊な力に守られているように。
その封書は封が閉じられ中に何かが入っている。それを見れば理由がわかるかもしれないと手が伸びる。
一新は伸びている手を止めさせ紫色の風呂敷を解き、中にあった小さな木箱を開け中にはカイムラサキ色の板が入っていた。
「これはギフトカードだ」
「お賽銭?」
「近いが残念だ。簡単に言えばドラえ〇んの四次元ポケットだと思え」
「なるほど四次元ポケットか...」
四次元ポケットとは言い得て妙なのかもしれない。ギフトカードには色々な物が入り、それが自由に取り出せる。正しく四次元ポケットその物だった。
一新はギフトカードを持ち一誠に投げつける。それを難なくキャッチした一誠は、突然身体中に微量の電気が流れる。
「うぉっびっくりした」
「中身はイッセーにやる。だがそれを取り出すには白夜叉の所にいけ」
「白夜叉?そんな奴知らないってか聞いたこともないけど」
『箱庭』に続き『白夜叉』と言う新たな意味不明ワードが出てきた。
だんだんと増える謎に一誠の少ない脳みそが爆発しそうになる。
「イッセー後は任せた」
「大丈夫イッセーなら絶対出来る」
「だから何なんだよ」
一新は封書を取るとイッセーに向けて差し出す。
「これを開ければ全てがわかる。母さんと父さんの秘密もな」
「秘密?」
「あぁこればっかりはここでは言えない」
自然と視線が封書に落ちる。
一新の話が確かならこれを開けば『箱庭』などの事も分かるのだろう。
一度深く空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を吐きゆっくりと封書の密閉している部分に手を伸ばし、ピリっと音がなり開かれ中の紙を取り出す。
紙は二枚おりになっていてそれを開くとそこには
悩み多し異才をを持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの″箱庭″に来られたし。
その手紙を開いたのは一誠だけでなく、突然空から落ちてきた物を開けた超人高校生。猫が加えて持ってきたぼっち少女。密室投函された高飛車お嬢様。
計4人が開けた瞬間全員の視界は一変し、安定していたはずの足場は消え、肌に当たる強い向かい風。
現在の位置上空4000mに放り捨てられ、全員が落下の圧力に苦しんでいる4人+αの先には水面が近づき、4つの大きな水柱を作った。