【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~   作:山の漁り火

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第七話 “いつも通り”にやれば良いのです

――駆逐イ級――

 

それは“深海棲艦”の中では()()旧式であり、

()()発見報告例が多く、

艦娘との戦いで()()撃沈された深海棲艦(ふね)

 

いわゆる「深海棲艦の尖兵」であるが――

 

――決して油断はするな。

 

深海棲艦の中で、()()人類に被害をもたらしたのも()()()なのだから――

 

(国防海軍発行「国防海軍提督心得」より抜粋)

 

 

 

――由良が()()に気づいた時にはもう遅かった。

 既に日暮れが近く、辺りが夕闇に包まれつつあったことと、突然の風雨の為由良が索敵機を帰還させた直後であったことが災いした。

 

「……!! 敵襲っ!!」

 

 無人島であったはずの小島の島影から、深海棲艦――駆逐艦と軽巡洋艦数隻による奇襲の砲撃が開始されたのだ。

 

 

――そこに何故彼女等が居たのかは、今となっては分からない。

 おそらくは前線での戦いにおいて艦娘に敗北し、散り散りになった何隻かの深海棲艦――それが監視の目をくぐり抜け、この島影に身を潜めていたのではと推測される。

 

 

(ぬかった……! なんてこと……)

 

 輸送船を守るべく咄嗟に船と深海棲艦の間に割り込み、不意打ちの初弾を食らった由良。彼女は油断していた自分を悔やんだ。

 

(神風ちゃんには『心配は無い』なんて言っておいて、このザマなんて……)

 

 砲撃で艤装の一部を損傷し、魚雷は誘爆の危険性があったため妖精さんの手により投棄済み――由良の火力は大幅に落ちている……が。

 

(……自分に呆れるわね、もう!)

 

――悔やむのは後回し。まずは敵を迎え撃つ!

 

「神風! 春風と一緒に輸送船の護衛を!」

 

 輸送船に指揮の為に座乗している第六近海監視所(ロッカン)司令の通信を受け、続いて長月に声を掛ける。

 

「長月は私と一緒に――砲雷撃戦、始めます!」

「了解――行くぞ!」

 

 妖精さんが艤装の機関(タービン)の出力を上げ、妖精さんの手により14cm単装砲に次弾が装填される。

 由良と長月は完全に戦闘態勢へ移行し、二隻の戦闘が開始された。

 確認できる敵はイ級とロ級の駆逐艦が数隻にホ級とト級の軽巡が一隻ずつ――そのどれもが既にどこかしらを損傷しているが、“手負いの獣”ほど恐ろしいものは無いのだ。

 

 

――一方場面は変わり、神風と春風は。

 

「わ、私たちはどうすれば……」

「落ち着いてくださいお姉様。まずは周囲の警戒です」

 

動揺する神風に対して、春風は落ち着いた様子で神風に話す。

 

「“いつも通り”です。司令官様も出発前におっしゃっていたではありませんか。“いつも通り”にやれば大丈夫だと」

「そ、そうね……」

「……! 由良さんと長月さんが攻撃を開始しました!」

「――よ、よし。私は右舷側、春風は左舷側を警戒!抜けてきた敵を迎え撃つわよ!」

「了解しました。がんばりましょう、お姉様」

 

 落ち着きを取り戻した神風の様子に、春風はにこりと笑った後すぐに配置に着く。

 

「すぅー、はー、すぅはあ……」

 

 深呼吸を繰り返し、神風は遠征の出発直前に掛けてもらった萩野の言葉を思い出す。

 

 

――もしかしたら、今回の遠征で敵と遭遇することになるかもしれない。

 

――俺は今回指揮権が無いし、同行することもできない。でも、神風も春風もいざという時の戦闘訓練を続けてきたんだ。何かあっても、“いつも通り”にやれば良いさ。

 

――あとはあれだ……何より、無事に帰ってこい。

 

 

「……よし、行くわ」

 

神風は深く息を吐き――覚悟を決める。

 

 

 

――由良と長月。二隻とも現在は後方の第六近海監視所(ロッカン)勤務とはいえ、深海棲艦との戦闘経験は豊富だ。この戦争の序盤では最前線で戦ったこともある古参兵(ベテラン)でもある。

 風雨は次第に激しさを増すが、二隻は古参兵(ベテラン)らしく落ち着いて攻撃を行っていく。

 

「そこだっ!!」

 

 長月の12cm単装砲が火を噴き、ロ級の装甲を貫通する。グエエと断末魔の悲鳴を上げ、炎上したロ級はそのまま海面から姿を消した。轟沈だ。

 

「やるわね、こっちも負けていられないわっ……と!」

 

 由良も負けじと14cm単装砲の一撃を向かってくるホ級に浴びせた。

ホ級が苦し紛れに反撃を行うが、二度目は喰らわないとばかりに由良は攻撃を巧みに避けていく。

 

「よーく狙って……()ーぇっ!」

 

 由良の二度目の攻撃を喰らい、ホ級は炎上しその動きを止めた。

 

 

「よしっ……て、あっ……!逃した!!」

 

 炎上するホ級の炎と煙に紛れて、二隻の深海棲艦――イ級駆逐艦が由良と長月の防衛ラインをすり抜け――輸送船へと突撃を開始。

 

「神風!お願い!!」

 

 最弱ながら輸送船にとってはその性能は十分に脅威である――叫び声を上げ、輸送船を仕留めるべく深海棲艦が迫る。

 

 

「イ級捕捉……やります! 撃ち方、はじめ!」

 

 神風の号令と共に、輸送船の右舷左舷に分かれた神風と春風の砲撃が開始される。

 何発かは外れて水しぶきを上げるに留まるものの、神風春風にとってはちょうど左右からの十字砲火(クロスファイア)という形になり、イ級の前面装甲を12cm単装砲の砲弾が直撃する。

 

「キシャアアアッ!!」

 

 叫び声を上げながら風雨の中を尚も進むイ級に、神風は少し恐怖を覚えながらも……二隻は日々の訓練……“いつも通り”攻撃を着実に加え――遂にイ級の進撃は頓挫し海へと沈んでいった――

 

「や、やったっ!!」

「ええ、やりましたね、お姉様……そう言えば」

 

 遂に日暮れが訪れ、暗くなった周囲を春風が見回す――沈めたのは一隻。()()()()()()()()

 

「――春風っ!危ないっ!!」

「……っ! お姉様!?」

 

――もう一隻のイ級が、風雨と闇に紛れ見え辛くなっていた春風の死角から迫っていた。

 

 彼女の僚艦は、既に由良と長月が迎撃し、その全てが轟沈するか行動不能になっている。

 先に逝った深海棲艦の無念を晴らすかのように、破れかぶれのイ級による突貫。

 

 その突貫は春風を庇うべく、彼女を強引に押しのけてその前に出た神風を襲った――

 




由良(改二前)の艤装見ると、魚雷発射管搭載してないんですよね…(アーケードだと魚雷は素手で投げてるみたいですが)
というわけで当初は魚雷発射管ごと投棄にしようかと思ったけど、魚雷のみ投棄に変更。

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