【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~ 作:山の漁り火
――国防海軍「第七近海監視所」、通称ナナカン。
本土の南の外れにある
監視所に所属する
占守型海防艦の姉妹、占守と国後。
そして揚陸艦のあきつ丸。
以上の
時たま、隣の
特に最近建造されたばかりの神風と春風の妹――“
彼女たちは日々近海の警備任務や哨戒、時には護衛任務に駆り出されたりもしていたが最前線に比べれば大人しい――その最前線に身を投じた者曰く“退屈な”日々を過ごしていた。
そんな彼女達の下に、本日新しい艦娘が着任する。
*
「ふわぁあ……一体いつ来るんすかね? もうそろそろお昼っすけど」
今日で数えて三十回目になる
当初伝えられていた新人の到着時刻は、
此処は監視所の前にある埠頭。暑い日が続いているが、今日は爽やかな潮風が吹いている。
「うーん……。さっきの司令官からの連絡だと、やっぱり長距離航行にはまだ慣れてないらしくて、ね」
彼女の建造と着任には
今は着任の諸々の手続きと交渉を済ませた後、彼女と同行でこちらに戻ってきている。
「まだ建造されて、それほど間も経っていないみたいですしね」
「まったく……もう少し自分の
そう言ってぷりぷりと怒る占守であったが。
「今日の予定なんて、夕方の警備任務以外は無いじゃない。それに昨日も今日も寝坊した姉さんには言われたくはないわね」
と、妹の国後がぴしゃりと突っ込みを。
「うぬぬ……それは言いっこ無しっしゅよ、クナぁ……」
「寝坊しすぎて、最近は八丈さん達にも呆れられてますからなあ。ははは」
「はぅう……占守型の姉としての威厳があ……」
とあきつ丸にも追撃を喰らい、落ち込む占守。
占守の最近のもっぱらの悩みは、妹に対する威厳の無さ。
妹だけでなく、最近は択捉型や御蔵型などの後輩の海防艦娘にも、いまいち尊敬されていないような気がする……というのは彼女の談である。
「うぬぬ……これはピンチっす。何とかしないとまずいっしゅ……」
「まずいと思うなら、まずはクナに起こされる前に早起きしないとね」
「いやあ、それは難関っすね……」
――海防艦娘の最古参としての占守の威厳の復活の日は、遠い。
*
「――姉様。司令官様からの連絡です」
それから更に一時間後。
萩野からの通信が漸く春風の下に届き、姉である神風にその事を伝える。
「間もなく漁火島に到着とのことです」
「あら、連絡遅かったわね。何かあったのかしら?」
「ええ。どうやら“らいちょう”の無線機が不調のようで、島への通信が出来ずに連絡が遅れたと」
「そう、それならしょうがないけど。……そろそろ機材の更新もして欲しいけどね」
そう言って神風がはあ、とため息をつく。あの巡視艇も元々は中古の漁船だ。
船体の痛みはもちろん、船体内部の機材も幾つかを軍事用の備品に置き換えただけで、その備品すら型落ち品。
無線機はここ数ヶ月でだいぶガタが来ていたわねと、神風は思い返す。
「……まあ、難しいでありますな。今の
「そうなのよね……ま、壊れたらその時に考えましょ。若宮さんにでも上手く頼んで……あれ?」
と、ここで神風は沖合に見える小さな
「……ようやくの到着みたいね」
そう言って微笑む神風の目線の先には、晴れ渡る海面を軽やかに進み島に向かってくる
彼女の横には、
その船上では、甲板の上で萩野少佐が手を振っているのが見えた。
「さ、源さんも呼んできて。皆で新人さんのお出迎えよ――」
早速神風はみんなを急かし、歓迎の準備を始める。今日の夜は新人の歓迎会で盛り上がるだろう。
あと十数分もすれば埠頭に辿り着くであろう彼女に向けて、神風が告げる挨拶はもう決まっている。
――ひさしぶり。会いたかったわ――
――本日は天気晴朗、そして海は穏やか。
――
――
(了)
これにて
六隻の艦隊となった
最終章の途中で二年ほど停滞してしまいましたが、何とか完結させる事が出来ました。
語れなかった設定や後書きについては、活動報告にて記載したいと思います。
読者の皆様、長きに渡る連載に今までお付き合い頂きましてありがとうございました。
2021年8月16日 山の漁り火