【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~ 作:山の漁り火
――超大型航空母艦「
身に
白い長髪と赤く光る瞳。そして額から生える巨大な一本の角。
背面に背負うのは、巨大な黒い分厚い“甲板”――それは遠くから見れば、まるで信濃が“棺桶”を背負っているかの様であっただろう。
両手に構えるは二つの
「――第一航空隊『
信濃が紡ぐ言葉と共に、右手の弩弓に
「――第二航空隊『
続いて左手の弩弓に
彼女は敵艦隊に向けて、弩弓の発射口を向ける。
そして――
「航空隊、発艦!! 目標は前方、敵主力艦隊!!
彼女の発令と共に、幾条もの閃光が
その閃光は洋上の深海棲艦の大艦隊に吸い込まれるように飛び込んでいき――
――ある
――またある
――そしてまた一隻。航空隊の攻撃により装甲を破砕された戦艦棲姫が絶叫を上げ倒れていく。
これぞ正に“
最前線の敵部隊は壊滅するが、信濃の攻撃は尚も止まらない。
「――第三航空隊『
瞬く間に敵の直上に飛来したその閃光――艦上爆撃機の編隊は、空母棲姫を基幹とする機動部隊に向けて、唸りを上げながら急降下。
「――爆撃開始」
護衛していた駆逐級や軽巡級の機銃掃射による抵抗も空しく、
「――次っ!!」
攻撃を終えた
そして数刻後に再び
紅・蒼・翠の閃光は新たなる獲物を探し、敵に殺到し粉砕していく。
「――凄い……」
護られるように信濃の傍らにいる神風たちは、その圧倒的な戦いを見て、彼女の活躍に羨望や畏敬の念すら感じつつあるのであった。
(だけど……)
神風は、戦うたびに彼女の艤装から黒い小さな
*
「なんてことだ……」
思わず声を上げたのは、書類を抱えたまま立ち尽くす若き佐官の一人であった。
彼らが見ているのは、出撃した哨戒艇からリアルタイムで送られてくる映像である。
哨戒艇に乗り込む観測班のビデオカメラが撮影した映像が、無線電信により泊地に送られ、薄暗い指令室に垂れ下がる白い布のスクリーンに
スクリーンの中では、信濃が軽やかに
彼女の両手の
――そしてまた、スクリーンの中で一隻の戦艦級が
目の前で繰り広げられる戦闘に見惚れたまま、本来の業務をこなさずその手が止まっている者すらいる。
若宮憲兵大尉は、その様子を冷ややかな目で見ていたが、同時に無理もない事であると理解もしていた。
(こんな光景を見せられてはな)
あれほど苦戦した深海棲艦の大艦隊が、信濃の
誰もが思わず呆気に取られてしまっても仕方がない事だ。
この泊地における最上位の司令官である三笠元帥と薩摩大佐だけは、
「あれが……『
我々国防海軍の身勝手かつ性急な建造計画で生み出されたものの、今まで戦う事の無かった
それが今、海軍…いや本土の絶体絶命の危機に立ち上がり、強大な敵と戦っている。
先日海軍の総力を結集した艦隊すら打ち破った、深海棲艦の大艦隊。その大艦隊による猛攻撃を躱し、跳ね返し、そして逆に蹂躙していく。
……なんと神々しく、禍々しい力であろうか。
「あの力があれば……深海棲艦など」
「一捻りとでも言うつもりですかな。薩摩大佐殿」
信濃の力に魅せられ、少なからず高揚する薩摩大佐の心に、若宮が冷ややかな視線と言葉の矢で水を差す。
「なっ……!?」
「あなたの横にいらっしゃる元帥閣下も、お分かりになっているはずです。国防海軍は――いや人類は、
「いや、しかし……」
「そうだな、分かっている。……たった今、観測班からの報告も届いた」
言い淀む薩摩大佐の傍らで、三笠元帥は映像の中で戦う信濃と観測班からの“報告書”を見比べながら語る。
「既に
*
――ナンダ、アレハ。
――ナゼ、ワタシタチノ…ワタシノジャマヲスル。
――ワタシタチハ……スベテヲコワシテ……
――わタしハ、
――……イヤ、ワカっていル。
――
――
――ナラバ。ヤルベキコトハ……
突如現れた
被害だけが増えていくこの戦況で、如何すべきか
「――ミンナ、オチツイテ」
静かな声――妙齢の女性にも、いやまだ幼き少女にも聴こえる不思議な声――に、彼女に随伴していた戦艦棲姫や空母棲姫が振り向く。
声を発したのは、巨大かつ凶暴な三連装砲を備えた艤装に
「ブタイヲ、サイヘンスル。キドウブタイはイッタン、サガラセテ。ヨビタイヲ、シュツゲキサセル」
「……テキシンガタクウボノ、ゲイゲキハ、ドウナサイマスカ」
一隻の戦艦棲姫がその“水鬼”に進言をすると、彼女は艤装に
「――ワタシガ、デルワ」
こうして、最奥に控えていた深海棲艦の
――“超大型空母”と“超弩級戦艦”の闘いが始まる。
――その戦いの傍らで、神風には何が出来るのか。
次回、第五十一話「