【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~ 作:山の漁り火
――南方進出作戦――
42年8月に国防海軍主導で行われた大規模作戦。
本土南方に巣食う深海棲艦を叩き、同時に南方海域への橋頭堡を作るべく立案された作戦で、当時海軍に在籍していた艦娘及び支援部隊の半数以上が作戦に参加した。
この後、南方の橋頭堡として新たな鎮守府が設立したことで、
「……とまあ、これが南方進出作戦の概要だな」
「そうですね……私はまだ海軍に所属していなかったので参加はしていませんが、かなり激しい戦いだったとか」
時刻は午前の
「“第二改装”を受けた艦娘が本格的に投入された初めての大規模作戦でもあるからな……いやあ、あの雷巡改二コンビが配属された部隊の火力は凄まじかった」
「あら、司令官様も作戦に参加されてたんでしたっけ?」
「……いや、知り合いからの又聞き」
「そうですか」
「………」
「………」
「…………ごめん」
「………いえ、なにか?」
「……なんでもないです」
「………………」
「………………」
会話が終わり、一人と一隻の作業は黙々と進む。
稼働した期間は実質1年半程度だが、その設立から南方進出作戦成功までのこの鎮守府の戦いの日々は濃厚である。
「
……とまあ戦いの日々はとにかく濃厚である。
おおまかな戦果、必要な情報については本土の総司令部が記録しているものの、それ以外の日々の細かい業務、小規模な戦闘の報告書、資材の使用状況を記した届出書類などは南方の鎮守府への異動のごたごたもあり、誰も碌に手を付けないまま放置されており――
――その約1年半に及ぶ膨大な資料を整理、まとめ上げて総司令部に提出する――それがこの元
「……なるほど、この日は空襲が3回もあったのか……春風?」
「ええっと…その日の資材使用届によれば、普段の日よりボーキサイト消費量が多いですね。防空の為に出撃した艦載機が多数撃墜されたという報告と一致すると思われます。」
「ふむ、じゃあこれは良しと……」
「次の日の報告書に行きますか?」
「いや、まだこの山が残ってる……しっかし全然終わらないなコレ……」
萩野はふうと息を吐きながら、その資料の山を見上げる。
萩野と春風の資料整理と確認の作業がひたすら続く。なにせ
(せめて、前任の司令官様方……もっと言えば鎮守府だった頃の司令官様がもう少し頑張ってくれれば良かったんですけど。)
果てもなくうず高く積まれた資料の山を見ながら、春風は前任の提督たちを思い出す――
――良かった思い出もあれば、それ以上に
それは彼女の姉である――今は工廠で艤装の整備作業を行っている神風も同様の思いであろう。
(そもそも、司令官のお仕事が
そんな事を思いながら、ちらりと春風は萩野を見た。
そう、
海軍の影で、「
そもそも提督とは、何のために存在するのか。彼らは何故提督になったのか。
彼らのすべきことは艦隊を率いて戦う事。ここに送りこまれた提督には何も無い。何かあっても出動すらさせて貰えない監視所暮らしで、過去の残滓であるうず高く積まれた資料をただひたすら整理する日々……
業務に忙殺され、寝る時間すら無くなる日々も地獄だが、やりたい仕事をさせて貰えず、
後者を体現したのが、この
「さて、今日のお仕事はこれくらいにしておこうか」
「はい……もうこんな時間ですか」
壁に掛けられた時計を見上げると、時刻は
「一応今日の目標は達成できたしね……何事もやり過ぎは毒さ」
「……ええ、そうですね。司令官様。執務室に戻りましたら、お茶にさせていただきます」
「ああ、頼む。流石にのどが渇いた」
そう言って萩野と春風は資料室を出て執務室へと向かう。今日のピークは越えたがまだ暑い日差しと熱気が所内の廊下を照らす。
日に日に暑くなる日差しと気温は、
――萩野少佐は、いつも無理せずに仕事を終わらせる。
いつ終わるのか分からない作業、総司令部への資料提出の決められた期限も無いため、かつて着任した提督たちが途中で(もしくは最初から)投げ出してしまった任務を、萩野は着任後4カ月かけて坦々とこなしていた。
「ずっと資料の山と格闘していては気が滅入る」としてたまに……いやよく
(元々優秀な人なのでしょうね)と春風は思う。姉である神風曰く「以前は南方の最前線勤めだった…と風の噂で聞いた」とのことである。
まあこの僻地である
それが彼女の姉をやきもきさせる一因でもあるのだが――
「――冷えた麦茶でよろしいですか?」
「ああ、頼む」
――いつかそれを萩野自身で語る時が来るかもしれない。
春風は今は何も言わず、司令官に付き添い続ける。
どうでもよい裏話
「南方進出作戦」のモデルは、艦これの2013年夏イベ「南方海域強襲偵察!」
筆者が艦これ始めたのは2014年2月なので参加していない作戦ですが…