【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~   作:山の漁り火

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第四十話 第七近海監視所(ナナカン)、炎上

 ――漁火(いさりび)島の一角は、遠くの海上にいる神風と春風の目からも炎上し黒煙を上げているのが見えていた。

 

 機関の出力を限界まで上げ、急ぎ港に到着した彼女たちを出迎えたのは、艤装が大破し負傷したあきつ丸であった。

 

「――おやおや、(ようや)くの到着でありますか。既に襲撃(パーティ)は始まっているでありますよ……」

「あきつ丸さん!? 大丈夫ですか!! そんなにボロボロになって……」

 

 そう言って今にも倒れそうなあきつ丸に急いで駆け寄った春風は彼女を身体を支える。

 その近くには同じく負傷した国後も倒れており、神風が駆け寄って抱え起こす。

 

「クナ! しっかりして!」

「ごめんなさい、神風さん……私、わたし……」

「いいのよ、クナ。その姿を見ればがんばったって分かるから」

 

 国後の艤装も、あきつ丸と同じく各所が破損していた。艤装に備え付けられた単装砲や機銃はひしゃげるか根元から吹き飛んでいる。その傷は島を襲った駆逐古姫との戦いの激しさを物語っていた。

 

「司令は占守と一緒にいるはず……古姫は司令を追いかけて……私たちで阻止しようとしたんですけど……」

「近くにいた住民の退避は完了。負傷から復帰したばかりの陽炎殿らは、源次郎殿の護衛を任せ、此処からの退避をお願いしました」

「それは良かったです……」

「市街地への被害は今のところは殆どなし、でありますな。(もっぱら)らの被害は……」

「ええ。()()……というわけですね」

 

 春風が見上げると、第七近海監視所(ナナカン)――元“神護鎮守府”の施設が、赤々とした炎と黒い煙をその上空へと立ち上らせていたのだった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――第七近海監視所(ナナカン)の地下には、鎮守府時代に造られた地下シェルターが存在する。

 深海棲艦の爆撃や襲撃の際の、いざという時の為に造られたシェルターではあったが……鎮守府時代はまだしも監視所になってからはまず使用されることが無く、単なる物置の倉庫として使われていた。

 

 現在、そのシェルターは本来の役目を果たしている。

 つまりは敵対勢力――深海棲艦の襲撃に耐えるべく、その隔壁を閉じていたのだ。

 

 だが……メキャリ、とその地下シェルターの隔壁が音を立てて歪んだ。

 その隙間から強引に爪を差し込んで侵入しようとしているのは、()()()をした駆逐古姫。

 

「――撃てっ!!」

 

 姫を姿を見て、間髪入れずに命令を下したのは、第七近海監視所(ナナカン)の長である萩野少佐。号令に合わせて、萩野の護衛としてシェルターに付いて来ていた占守による百式機関銃(マシンピストル)の掃射と、萩野の拳銃による射撃が開始される。

 

 ――ズガガガガガガガッ!!!!

 

 一人と一隻の放った弾丸は、ほぼ全弾が命中。だが、下位種の深海棲艦ならまだしも、上位種である姫級にそんな豆鉄砲は通用しない。

 隔壁をこじ開け、身体を強引にシェルター内部へと侵入させた古姫は――

 

「うぎっ……すっ……!!」

 

 瞬時に占守の目の前へと移動し、裏拳で彼女を一撃で吹き飛ばした。

 

「うう……」

「占守っ! ……うぐっ」

 

 占守を案じて萩野が叫ぶが、その声はすぐに途切れる。

 古姫がすぐさまその首を掴み取り、彼を高く掲げ上げたからだ。

 

「う…うぐっ…はな……」

「クルシイノオ?」

「が、ぐあ……」

「イイニオイ……フフフ……モットクルシンデネエ?」

 

 息が出来ずに苦しむ萩野に対し、嗜虐的な笑みを浮かべながら首を締め上げる古姫は、狂気に塗れていた。

 萩野の苦しむ反応を楽しむかのように、更に強く首を締め上げようとした古姫であったが……。

 

「そこまでよっ!!」

「……アラ? オハヤイトウチャクネ、カミカゼ――」

 

 間一髪のところで神風が到着し、古姫の凶行を止めるべく12cm単装砲を構える。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「――トリアエズ、アナタハモウイイワ」

「げはっ!! ごほっ、ごほっ……」

 

 萩野を興味なさげに地面へと勢いよく投げ捨てた古姫は、神風へと向き直りその狂気の笑みをますます深くした。

 

「ワタシノモクテキハ……アナタナンダカラネェ……」

「な、なによ……あんた、一体なんなの!?」

 

 己に興味があると聞いて、見当もつかない神風が疑問を口にすると、古姫は途端に悲しそうな表情になる。

 

「……ワタシノコト、ワスレタノオ?」

「……何のことよ」

「――()()()()()()()()()、オボエテルカシラア?」

「!?」

 

 ――“()()()()()”。その言葉を聞いた瞬間、神風の顔色が変わった。

 

「まさか……」

「オモイダシタカシラ? ワタシハアナタノ()()()()()……」

「ええ、そういうことね――」

 

 

 

 

 

「――懐かしいわね――()()


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