【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~ 作:山の漁り火
「一斉射撃……行くよ。
単縦陣を組みなおした三隻は、霰の合図でタイミングを合わせ砲撃を加えていく。
偏差射撃は古姫の周囲に多くの水柱を立ち上らせるが、至近弾はともかく直撃弾は無い。
(これは、
霰は思案する。幾多の戦場を渡り歩いた二水戦の経験が警告していた――敵が急速にこちらの動きに対応しつつある事実に。
時間が経てば経つほどに姫は有利になるであろう事を、霰は悟っていた。そうなれば数の差など簡単に覆されてしまう。悔しいが性能は姫の方が優れているのである。
(もう一度、接近戦を仕掛ける……でも)
リスクは大きい。既に神風は先程の攻撃で魚雷を撃ち尽くしているし、そもそも鋭い爪とそれを振り回す膂力を持つ古姫は、近接戦闘に優れているのだ。
(でも、やるしか……無いよね。
遠く
ハンドサインは、艦娘にとって“信号旗”の役目を果たすものだ。ハンドサインの意味を汲み取り、神風と春風は了解のハンドサインを返した。
「行くよ……突撃」
*
霰が示したハンドサインは“全速突撃”の号令であった。
艤装の機関が唸りを上げ、艦娘たちを前へ前へと導く。
再び単縦陣を構成した三隻は、ただひたすら、真直ぐに古姫に向かって
「グギ……ッ!!」
古姫が彼女等に向けて砲撃を放ち、至近弾が掠めようとも戦隊の速度は緩まない。
「オノレェ!!」
だが続けての機銃攻撃は、霰の艤装に直撃し霰はぼろぼろになっていく。
「霰さん!!」
「私に……かまわないで……いいから! 今っ!!」
霰が姫の攻撃に耐えきれず前へと倒れこむと同時に、新たなる
「いっくわよおおおお!! 春風っ!!」
神風は後方の春風の両腕を掴み、
「エ……!」
加速した春風はそのまま本来の全速を超えた速度で古姫の懐に飛び込み――
「ごめんなさい……今すぐに……」
春風はそう悲しそうに呟くと、そのまま12cm単装砲を放った。
――ドカァァアアアン!!
ゼロ距離で直撃した砲弾は、その物理エネルギーの破壊力を容赦なく古姫の身体に与え、結果として彼女の胸に大きな穴を空けることになり……。
それがこの戦いの決定打となった。
――ひゅー、ひゅーと風が古姫の身体を通り抜ける。
「ごめんなさい……旗風」
「ネエ……サン? ……ナゼナクノ? ワカラナイ……ワタシニハ、ナニモ、ワカラナイ」
春風が、今にも崩れ落ちそうな古姫の身体を再び優しく抱きとめる。
「ネエサン……ワタシ…ネエサン……」
彼女の意思はすっかり先程の狂気が抜け落ち、弱弱しくも穏やかな表情すら見せていた。
「……さようなら、旗風。
春風はそう言って彼女の手を放すと、古姫の身体はゆっくりと水底へと沈んでいった。
春風の頬からは、一滴の涙が零れ落ちていた。
*
目標であった
一体彼女は何処に雲隠れしたのか……神風たちの思案は、
『――神風さん……今すぐ救援を……』
聞こえてきたのは、息も絶え絶えな国後の声であった。
「クナ!? どうしたの! クナッ!!」
『“姫”が……
「そんな……」
神風は動揺する。突如
銃弾により機関部をやられ、思うように動けない霰に事後処理を任せ、神風と春風は全速力で