【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~ 作:山の漁り火
――深海棲艦――
深海棲艦とは、人類の敵でありかつ――『艦娘』と相対する存在であり――艦娘に“救い”を求める存在である。
その考えに達するのは、多くは艦娘と共に前線に立つ提督であると言う。
「奴等は……いや、
深海戦争が始まった頃より海軍の軍人として深海棲艦と戦い続け、艦娘の参戦以後は彼女等の提督として共に戦い――つい先ごろ引退したその軍人は、感慨深い表情で私達取材班に語った。
「『許さない』『苦しい』『酷い』……ってな感じでね。聞こえてくるんですよ。上位の深海棲艦は自分が沈む事を悟った時に、そんな断末魔を俺達に浴びせながら沈んでいくんですよ」
「前線とは言え、深海棲艦と直接戦わない我々ですらそんな怨み節を聞かされるんです。直接彼女等と戦う艦娘たちは、その何倍もの怨み節を――いや、“救いを求める言葉”を聞かされてるんでしょうね……彼女達が我々に直接それを訴えた事は殆ど無いですが」
(週刊文愁『提督たちの戦い――引退提督の独白を聞く』より抜粋)
*
「――ズット、ズットアイタカッタンデス!
――古姫の妖しく光る眼は、狂気を宿して春風を見つめていた。
「ネエサン!! ワタシトイッショニ――ッ!!」
「……っ! 雷撃、来ます!! 各員回避行動を!!」
狂気に駆られる駆逐古姫から放たれる魚雷の束。臨編第二水雷戦隊に迫るそれらを回避すべく、彼女達は動き出す。
「ハハ……ハハッ!! ネエサンッ!! ハルカゼネエサン!!」
魚雷に紛れて艦隊に迫るのは駆逐古姫。一心不乱に乱れた単縦陣の中央――“春風”へと迫る。
「やらせ……ないっ!!」
二番艦に位置している霰が砲撃を浴びせるも、その砲弾は虚しく空を切る。
折しも悪天候である。強い波に揺られて砲撃の目測がずれるのは仕方の無いことだ。
――ドゴンッ!!
次の瞬間、古姫が放っていた一発の魚雷が爆発した。艦娘には命中はしていない……その爆発に釣られるがごとく、付近の魚雷が次々に爆発し、水しぶきを上げる。
(あらかじめ近距離で爆発するように信管をセットしていた……!? やはりこれは……っ!!)
立ち上る水柱の飛沫に揉まれながら、旗艦である神通は冷静に思考する。
古姫は始めからこちらに当てる気が無かったのだ。目的は
そう、全ては
「ハルカゼ……ネエサンッ!!」
水柱を裂くように、春風の前に姿を現した古姫は……そのまま彼女に襲い掛かった。
「ああ……あなたは……」
「ネエサン……ネエサンッ!!!!」
絶望……いや古姫の様子に何かを悟ったかの表情を浮かべる春風。
春風の細い首に古姫の冷たい――鋭い爪の生えた手が今にも掛かろうかというまさにその時。
――ドカアアアアン!!
12cm単装砲から放たれた砲弾が、古姫の脇腹に直撃する。
「やらせないわ!!」
そう叫んだのは、彼女の姉である神風であった。
*
「――大丈夫? 春風」
「え、は、はい……私は」
呆けている春風に声を掛け、古姫をきっと睨む神風。
近くに寄って来た霰の助けも借り、体勢を立て直す春風だったがその顔色は優れない。
「春風……さっきからあの姫、あなたに向かって“姉さん”って」
「ええ……」
春風には途中から分っていた。いや、分らされていた。
執拗に彼女に向かって叫ばれる、その言葉の意味を。
「きっと……あの姫は。私達の