【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~ 作:山の漁り火
――四式水中聴音機――
「四式水中聴音機」は、艦娘用に開発された最新型の
旧型装備である「九三式水中聴音機」に比べて探知性能と信頼性は高いが、その量産は進んでおらず国防海軍全体でもその配備数は少ない。
また、九三式は改修資材を使用して複数回の改修を行う事で四式に
“キュルルルルル――……”
「――なに、この
護衛部隊一丸での対空射撃の
(これは……敵?)
深海棲艦の潜水級が発する音とは違う――
その音から、国後がとある“兵器”に思い当たるまでにそう時間は掛からなかったが……時は既に遅く、
「――敵の“
「……え?」
国後の警告は、敵機編隊に向けて対空射撃を敢行していた春風に伝えられたが――彼女のすぐ近くまで接近した“小さな雷跡”に気付いた時に彼女に出来ることは、咄嗟に防御体制を取ることだけだった。春風が衝撃に耐えるべく両腕を顔の前で交差させた直後、
“ドカアァァァァンッ!!”
大きな爆音と水しぶきが上がり、春風はその中に飲み込まれる。
「春風さんっ!!」
「――春風っ!?」
ごおごおと立ち上る水柱。その様に神風の顔が一瞬にして青ざめる。ここが戦場である以上、「如何なる状況でも冷静であれ」というのは神風自身も百も承知であったが、それでも妹の突然の異変には動揺を隠せなかった。
「あぅ……」
背部の艤装から黒煙を上げ、海面にゆっくりと横たわる春風。近くにいた占守と国後が思わず駆け寄る。
「しっかりしてくださいっしゅ!」
「春風さん、春風さん!!」
いち早く駆け付けた占守が春風の
春風の艤装に備えられた25mm連装機銃の銃身はひしゃげ、爆雷投射機は土台から吹き飛び痛々しい傷となっている。そんなぼろぼろの艤装の内部から、艤装妖精たちがよじよじと這い出て、損傷部位の確認を始めていた。
「うっ……」
「良かった……気を失っているだけみたいっす」
身じろぎする春風を見て占守は胸を撫で下ろす。どうやら
海防艦姉妹に遅れて神風が三隻の元にやってくると、
「申し訳ありません、お姉様……空に気を取られ過ぎました」
「反省は後よ!」
俄かに意識を取り戻した春風が謝罪の言葉を告げるが、神風はそれを止めさせる。空に気を取られて過ぎていたのは春風だけではない。強いて言うならば護衛部隊全員の責任であるし、今は弁解するよりもどう対処するかの方が先なのだ。
(これが敵の“特殊潜航艇”による魚雷攻撃……予想以上に強力ね)
――特殊潜航艇。
潜水艦よりも遥かに小型の船体を持ち、搭載した魚雷により敵艦隊に先制攻撃を仕掛ける兵器である。その隠密性能と攻撃力は侮れず、国防海軍でも重雷装巡洋艦である北上や大井が“甲標的”という名で運用し、幾多の戦場で多大なる戦果を挙げている兵器であった。
深海棲艦にも同じような兵器が存在する事は確認されており、過去に深海棲艦の上位種である鬼級や姫級がそれらを運用しているのが確認されていたのだが……。
レ級の一部が特殊潜航艇を運用していた報告も上げられていたのだ。そもそもレ級との交戦例が少ないため、その報告は殆ど知られていないのであるが……。
「……クナ、敵の特殊潜航艇は何隻?」
「え、えっと……現在確認しているのは三……いえ、四隻です」
「四隻ね。分かったわ」
国後の報告を受け、神風は今後の方針を考える。
兎にも角にも、敵潜航艇にこれ以上の攻撃を許すわけにはいかない。
敵航空隊による攻撃は、護衛部隊の奮戦により約半数が撃墜されてその脅威は半減しているが、それでも対空戦闘の
本隊である大和と武蔵は近づいて来る敵艦隊への対処を任せなければならないし、そもそも彼女たちでは潜水部隊への攻撃が出来ないのだ。
「――占守はそのまま春風の護衛をよろしく。クナ、
「え、あっ……はいっ、了解しましたっ!!」
突然の神風の指名に戸惑う国後であったが、すぐに真剣な顔に戻り了解の返答をする。
「了解っす。占守はこのままあきつ丸さんの所まで下がって応急処置をするっす。がんばるっしゅよ、クナ!」
そして国後に檄を飛ばした占守が、未だに意識が朦朧としている春風を支えて後方へと撤退するのを確認した神風は、敵航空隊と交戦中の磯風に向けて声を張り上げる。
「磯風隊長!! 私たちは敵特殊潜航艇の排除に移ります。空は任せたわ!!」
「承知した、そちらは頼むぞ!」
旗艦である磯風の許可を受け、神風は“奴ら”が潜んでいるであろう海中をきっと睨む。
神風と国後の即席コンビによる、特殊潜航艇との戦いが始まる。
*****
「来たか」
航空隊による空襲中は一旦足を止め、しばしこちらの様子を伺っていた敵艦隊。
それが複縦陣を組み、痺れを切らしたとばかりに全速で大和艦隊に向かってきていた。
彼女らの狙いは大和と武蔵の二隻。こちらの副砲による牽制射撃など物ともせず、戦艦レ級は実に嬉しそうに嗤う。
「「キャハハハハハハッ!!」」
「……
レ級二隻の不快な嗤い声に悪態をついた武蔵は、迫る敵艦隊に向けて
「距離良し――撃てっ!!」
虎の子である対艦砲弾――“一式徹甲弾”を放つ。
「グギッ……!?」
数秒後、徹甲弾は敵の重巡洋艦“リ級”に着弾。徹甲弾は重巡洋艦の装甲をいとも簡単に打ち砕く。リ級は断末魔の叫び声と共に爆散し轟沈した。
「ちっ……」
重巡撃沈という戦果を挙げた筈の武蔵であったが、彼女は思わず舌打ちをしていた。
今彼女が狙っていたのは、実のところそのリ級の前方にいた“レ級”であった。武蔵もこの距離なら当たるであろうと確信して放った砲弾であったが、それが当たる直前にレ級がぎりぎりで
「……流石にやるな」
そう呟いた武蔵であったが……不本意ながら、自らの戦意が高揚し――
隣にいる彼女の
(……成程)
過去に鬼級や姫級と戦った時もそうだった。これはいわゆる戦艦の
戦艦とは、戦場における最強の砲と装甲を持つ
砲弾で殴って殴られて、装甲を殴って殴られて、味方の勝利の為に敵を打ち倒すのだ。
生憎“前世”ではその戦場の
これで心が燃えない筈が無い。
(結局はレ級も私たちも――)
やれやれと武蔵は口中で呟き、対空戦と潜航艇掃討に手一杯の護衛部隊に目もくれず真っ直ぐに突っ込んでくるレ級を待ち構えるべく、前方を睨んだ。
レ級も突貫しながら大和と武蔵に向けて砲撃を行ってはいるが、大して狙いを定めているわけでもなく、散発的な射撃のみである。こちらに碌な至近弾すら無い。
おそらく本格的な攻撃は“前世”ではほぼ実現しなかった超近距離での交戦距離から。つまりは――
(
「ギャギャギャギャギャッ!!!!」
「――望むところよ!!」
奇声を上げながら飛び掛る戦艦レ級に対し、超弩級戦艦「武蔵」は徒手空拳の構えで迎え撃つ。
――こうして大和艦隊とレ級艦隊との戦闘は、いよいよ佳境へと突入する。
<ドーン
「あ、秋月ーっ!!」(大破撤退)
<ドーン
「さ、サラトガーッ!!」(大破撤退)
新春任務で5-5のレ級eliteの先制魚雷にぼっこぼこにされながら書きました
お陰様で新春任務は無事終わったけど、並行してやってたサラトガ任務は終わらないというオチですが
それでは今年もよろしくお願いします。