【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~   作:山の漁り火

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第二話 報告書を書こう

――国防海軍――

 

 国防海軍とは、国防三軍(陸軍・海軍・憲兵隊)の一つ。主な任務は海域の防衛およびシーレーンの護衛・治安維持。

 40年代初頭、人類の敵である“深海棲艦”の出現及びその侵攻を受け、数少ない対抗手段である“艦娘”および支援部隊の大幅な拡充により、その規模は軍設立当初に比べ肥大化している。

 国の有識層には、これをかつての“帝国海軍”と同じ道を辿っていると危惧する声もある。

 

 

 

「……んなわけで今日のイシダイのお刺身と煮付けはおいしかったです。まると」

「ちょっと待ちなさい、司令官」

 

 場所は執務室、時計の針は夜の21時(フタヒトマルマル)を少し過ぎたあたりを示している。

 本日最後の業務である、“総司令部への定期報告書”の作成中に呟いた萩野提督の一言に、本日の秘書艦である神風がすかさずツッコミを入れた。

 

「……? なんでございましょうか、神風さん」

「今聞き捨てならない言葉を聞いたわ……“夕食”? もしかして……報告書に書いたの? それ」

「ああ、夕食についてだけど……。いやさ、まず聞いてほしい。『第七近海監視所(ナナカン)』の業務内容って、特段書くことって無いんだよね」

 

 彼は少々気まずそうに言い訳を始める。

 

「ここに着任してから、深海棲艦の出現報告は1件も無いし、業務もまあ……アレだし」

「だからって、総司令部宛の定期報告書に夕飯の感想を書く提督がいてたまるもんですか」

「……書いちゃダメですかね?」

「駄目ね」

 

 神風はきっぱりと断言した。そりゃそうだ。

 

「面白いと思うんだけどなー……」

 

 面白いだけでなんでも通用するのは週刊少年漫画くらいである。

 

「というわけで書き直しです」

「えーそんなー……」

 

 神風のリテイク命令に、萩野はしぶしぶ書き直しを始めた…

 

 

 

――それから1時間後の、22時(フタフタマルマル)

 

「というわけで神風に指摘されて書き直した物がこちらになります。」

「どれどれ…」

 

 萩野から渡された書類を神風が読めば、そこには『漁火島周辺海域における深海棲艦掃討後の産業復興と今後の展望』の表題の通り、萩野が第七近海監視所(ナナカン)に赴任してから、漁火島の産業である漁業や農業、今後の展望についての提督の独自推察など、大真面目な内容が事細かに書かれていた……

 

……まあそれはあくまで「一見するとだが」の注釈がつく。

 

 注意深く読めば、文脈にちらほらと「今日はイシダイが釣れました」「今日の夕飯は美味しかったです」だとか「やっぱり神風と春風の料理は最高だ」とか「和食も良いけど今度は洋食にチャレンジして欲しいなあ」といった萩野の個人的な感想文がオブラートに幾重にも包みこまれて書いてある、小学生の夏休み日記如き代物である事が分かるのだが……余程深く読みこまなければ“平凡な報告書”として処理される運命であろう。

 

「………」

「だから報告書なんてもんはさ、とりあえず長ったらしくて小難しい文章付けて、体裁整えればいいんだよ。まあこんな第七近海監視所(ナナカン)の報告書なんて、誰も真面目に読みはしないさ」

 

(……なんて無駄のない無駄な技術……)

 

 萩野は適当に作ったと言っているが、「夏休みの日記を体裁を整えて報告書に仕立て上げる」なんてのは、ぶっちゃけ始めから真面目に報告書を仕上げた方が労力が少なくて済む。

 この1時間そんな無駄な努力を……と、神風は呆れて肩を落とした。

 

 

「……でもボツね」

「えー……そんなー」

「かーきーなーおーしっ!」

「お願い! せっかく書いたんだし、これで提出しちゃおうよ!」

「だーめーでーすっ!!」

 

 

 

この後滅茶苦茶押し問答した。(※結局神風が折れた)

 




次回ちょびっと戦闘シーン入ります。

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