【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~   作:山の漁り火

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艦これ秋イベント始まってますね。
そろそろ出撃せねば……。(演習&遠征&情報収集中)



第二十七話 護衛任務の始まり

――大和型戦艦――

 

 国防海軍が誇る、人類の敵“深海棲艦”への切り札である“艦娘”。

 

 その中でも最強の決戦兵器と称される超弩級戦艦姉妹。

 それが「大和」と「武蔵」である。

 

 “南方進出作戦”の終了後に行われた一大建造プロジェクト“Y計画”により建造された二隻は、全艦娘の中でも最高峰の火力と最高峰の装甲を誇る。

 

 まさに“最強戦艦”の名を冠するに相応しい姉妹であった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「……でかい」

 

 萩野は眼前の“モノ”を見上げながら思わずそう呟いた。

 

 ここは本土のとある港町。第七近海監視所(ナナカン)から最も近い位置にある海軍の施設――つまりは「第六近海監視所(ロッカン)」の所在する町である。

 

「そうかそうか。それは“セクハラ”と受け取っても良いのだな?」

 

 と萩野が見上げた()()――萩野より背の高い浅黒い肌のその女性は、にやりと笑いながら言った。

 

 その船体(からだ)には扇情的な艶のある豊かな胸が大胆にもさらしに巻かれており、彼女が動くたびに揺れるその胸に思わず萩野の目は釘付けになってしまう。まあ男だから仕方がない。

 

 ……仕方ないったら仕方ない。

 

「いや……はは。すみません、思わず素直な感想が……」

「ははは、正直な奴めっ!!」

 

 ……と、萩野の弁解を聞いた武蔵は豪快に彼を抱き締めた。

 萩野は男性としては一般的な体格であり背が低いという事は無いのだが、何と言っても相対する大和型戦艦二番艦「武蔵」は大柄である。背の高さの差はまるで母親と幼子の差であり、掴まれてしまっては一切の抵抗が出来ない。

 萩野の後ろに付いて来ていた神風たち第七近海監視所(ナナカン)艦隊の五隻の艦娘も何も出来ずに、成り行きを見守るだけとなってしまった。

 

「むがっ……! もごっ……!!」

 

 萩野は武蔵の巨体と胸部装甲に埋もれ、息が出来ずにもがき手足をバタつかせる。

 

「うわわ、司令が死んじゃうっす!!」

「し、司令官!! 大丈夫!?」

 

 段々動きが弱弱しくなる萩野を見て、はらはらと慌てる神風たちを余所に、武蔵は尚も強烈なスキンシップを止めない。

 

「ははは、可愛い提督だ……。ん……?」

 

 と、()()に気づいたのか顔が曇り、首を傾げる武蔵。

 

「――ちょっと、もうやめなさいな、武蔵。提督さんが苦しそうよ?」

 

 それとほぼ同時に、彼女の背後から嗜める声が上がる。

 それは彼女の姉である大和型戦艦「大和」であった。妹である武蔵と同じく背の高い美女であったが、その穏やかな様は妹とは随分と異なるな……と薄れゆく意識の中で萩野は思った。

 

「――お、おう。すまないな。ちょっとした欧州(ヨーロッパ)流の親愛の挨拶なのだが……」

 

 姉の注意を受けて武蔵が萩野をようやく解放すると、萩野はぐったりと地面へ倒れた。

 超弩級戦艦による力強い抱擁には、一端の軍人である萩野であっても耐えられなかったのだ。

 

「ふぐぅ」

「し、しれいかーんっ!!」

「急患! 急患っす! クナ、人工呼吸っす!」

「え、あ、あたしがやる流れじゃないよねこれ?」

「はっはっは、では自分めが……げふっ」

「冗談はそこまでにしましょうね、あきつ丸さん?」

 

 神風が戸惑い、国後が困惑し、占守とあきつ丸が調子に乗り、それを春風が物理的に諌める。

 そんな賑やかな様子を見ながら、武蔵は何か腑に落ちぬ表情を見せていた。その手と腕に残る萩野の“残り香”を嗅ぎながら。

 

(この男……いや、まさかな)

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 今回第七近海監視所(ナナカン)に回ってきた任務は、「大和・武蔵の南方基地までの護衛任務」であった。

 夏の大規模作戦が終わった後、整備と改装の為本土にいた大和型姉妹であったが、ここ最近の深海棲艦の不穏な動き――というより()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが――に対し、前線の戦力増強の為派遣されることになったのだ。

 

 本来であれば、この任務を請け負っていたのは谷風・浦風らで編成される“第十七駆逐隊”であった。しかし隊長の「谷風」が護衛任務中に群狼部隊による雷撃で大破し、南方の前線基地にて入渠。残る三隻が今回の任務の為本土に向かうも、その途中で浦風が別の群狼部隊の攻撃を受けて大破し、同じく長期入渠。

 残る二隻である「磯風」と「浜風」だけでは護衛任務は難しいと判断された結果、第七近海監視所(ナナカン)艦隊にお鉢が回ってきたのだった。

 

 総司令部から出立した戦艦二隻・駆逐艦二隻による臨時編成艦隊は、昨日のうちに第六近海監視所(ロッカン)に何事も無く到着。本日第七近海監視所(ナナカン)艦隊の五隻と合流し、九隻による変則的な“連合艦隊”を組み、南方海域の最前線である「南方第二鎮守府」へと向かう予定である。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 さて、大和と武蔵がぐったりした萩野を引き連れ……というか武蔵が萩野を米俵の如くよっこらせと担いで第六近海監視所(ロッカン)の本部へと向かった後、残された四隻――あきつ丸は萩野たちに付いて行った――は、工廠にて第十七駆逐隊の二隻と顔合わせをしていた。

 

「私が第十七駆逐隊の隊長“代理”……の“代理”である磯風だ」

 

 まず先に磯風が自己紹介をする。隊長を務めていた谷風、その代理を務めていた浦風が相次いで駆逐隊を離れたため、彼女は代理の代理という少々複雑な立場にある。

 

「よろしく。私は第七近海監視所(ナナカン)艦隊隊長の神風よ」

「そして彼女は僚艦の浜風だ。短い付き合いになるが宜しく頼むぞ」

「浜風です、よろしくお願いします」

「ええ、あなたとは何故か私と近しいものを感じるわ。仲良くいきましょう」

「奇遇だな、私もだ!」

 

 神風と磯風はそう言ってぐっと力強く握手を交わした。何かよく分からないが通じ合う所があったらしい。

 

「そう言えば、君たちがあの憎き“群狼部隊”――谷風の(かたき)を討ってくれたのだったな。ありがとう、谷風もきっと草葉の陰で喜んでいるだろう……」

「ええ、そうだったわね……」

 

 そう言って感慨深くうんうんと頷く磯風と神風。そんな二隻に「いやいや、谷風まだ沈んでませんから……」と浜風が静かに突っ込みを入れる。

 

 先程も言った通り、谷風は大破に追い込まれて入渠しただけで、沈んでなどいない。今は遠く離れた南方の基地で別の駆逐隊に組み込まれ、磯風たちとの合流を待っている状況である。

 もしも二隻のやり取りを谷風が聞いていたならば、ちくしょーめと憤慨していた事だろう。いつも微笑んでいる春風はともかく、占守や国後の姉妹はそれに苦笑いするしか無かった。

 

「まあ、とにかく君たちが来てくれて助かったよ。我々二隻だけでは大和型の護衛など手に余るからな。……浦風がいたら、多少はマシだったのだが」

「本来は手の空いた雪風が合流する予定だったのですが、予定が変わったらしくて」

 

 と、浜風は残念そうに告げる。雪風のいる第十六駆逐隊も潜水艦部隊との戦いで損耗し、現在活動可能なのは雪風一隻のみなのだ。そういった戦力不足の駆逐隊や戦隊が少なくないのが、国防海軍の現状である。

 

「まあ、雪()が来れない代わりに、神()と春()が来てくれたのだ。今回の任務はきっとより良い風が吹いてくれるだろうさ」

「そう言えばそうよね。……奇遇だわ」

 

 磯()と浜()に加え神風と春風。今回の任務に参加する四隻の駆逐艦の名称の“共通点”を挙げ、磯風は微笑む。磯風たちは陽炎型駆逐艦、神風たちは神風型駆逐艦であったが意外な共通点があったものだと神風は感心した。

 

「――では、早速だが護衛任務の打ち合わせに入ろう。我々は対潜戦が不得手だから、君たちにそちらは任せたいのだが……」

「そうですね。こちらが今回の大まかな航路が描かれた海図になります――」

 

 そう言って磯風と浜風は工廠に置いてある机に近海と南方海域が描かれた海図を広げ、本題である南方第二鎮守府への護衛について神風たちと共に打ち合わせを始めた。

 

 艦隊の出撃は明朝。午前5時(マルゴーマルマル)である。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

――“西方海域”のとある孤島――

 

 “×××”である彼女が生まれてから既に数週間の日々が過ぎていた。

 

 彼女の同胞(はらから)である深海棲艦は、彼女の意思に忠実に従うようになっていた。彼女の発する念波により、戦艦級や姫級ですらも遠く離れた場所から彼女の命令を受け取る事が出来る。

 

 そして彼女はその能力を生かし、密かに艦隊の訓練を開始していた。物資は以前西方海域の泊地を失う直前に、輸送級に載せて運び出されていた分があったが、今となっては決して潤沢とは言えない。そこで小回りの利く駆逐級や潜水級に物資の収集を優先して行わせ、大型艦は専ら訓練に勤しむ事になった。

 当然ながら潜水級による通商破壊作戦は継続させたままだ。こちらの犠牲は増えていたが、国防海軍(やつら)に余裕を与え、こちらの動きを察知されるわけにはいかない。

 

 こうして彼女によって再編された深海棲艦艦隊の訓練は着実に進んでいく。

 もしもその様を人類がこの時に見る事が出来たならば、間違いなく驚愕したであろう。それはまるで彼女を女王か女神かと称えるかのようであった。

 

 

 

 しかし、それでも例外(イレギュラー)は存在する。

 

 ある日、彼女は何隻かの旗艦級の(ふね)と、その指揮下にあった戦隊が行方知れずになっている事に気づいた。

 何故彼女らが消えたのか。新参である彼女の指揮下に入るのを嫌ったのか、それともその艦の自由気ままな気質ゆえか。彼女も生誕したばかりである、単に彼女らを従わせる力量(レベル)が足りなかっただけなのかもしれない。

 

 試しに何度か念波を飛ばしてみたが、それに対する反応は一切無い。彼女は少し考えた後、行方知れずの彼女らについてはそのままにしておく事にした。

 

 無理に追いかけても同士討ちになるだけであろう。

 それに、放って置いてもこちらの不利益になる事はすまい。

 

 何故なら行方を晦ました彼女たちも、結局は人類に敵対する“深海棲艦”なのだから――

 

 


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