【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~   作:山の漁り火

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 二週間ぶりの投稿です。三章「嵐の日々」開始となります。



三章 嵐の日々
第二十五話 あれからとこれから


――カ号観測機――

 

 陸上での弾着観測・対潜水艦哨戒目的として艦娘に運用されるオートジャイロ。

 海中に潜む潜水艦を探知し、搭載した爆雷で潜水艦を攻撃するのが役目である。

 

 とはいえカ号単体の攻撃力はそれ程でも無い為、現在の国防海軍では艦娘との連携を重要視し「敵潜水艦の位置をいち早く艦娘に通報し、敵を連携して撃滅する」事に運用の焦点が置かれている。

 

 

 

 

 

「――おっと、カ号第一小隊が帰還でありますな」

 

 ここは本土と南方の鎮守府を繋ぐシーレーンの一つ、“南方A航路”。

 波は穏やか、本日は晴天なり。

 

 周辺海域の索敵を終えたオートジャイロの一団が、任務交代の為艦娘の艦隊へと近づいていく。

 

「お疲れ様であります。――ではカ号第三小隊、出撃っ!」

 

 対潜哨戒用オートジャイロ“カ号観測機”の部隊を収納した艦娘「あきつ丸」は、続けて別の部隊に出撃命令を下す。

 手に持った走馬灯から放たれる光。それはあきつ丸の背面に展開された巻物(スクリーン)に照らされ、カ号観測機の形をした影を作り出す。その影はすぐに実体化を始め、次々に巻物(スクリーン)から飛び出していく。

 

「何度見ても幻想的よね……」

 

 と、あきつ丸独特の艦載機発進の様子を眺めるのは、“第七近海監視所(ナナカン)”艦隊の第一小隊長にして同艦隊の旗艦、駆逐艦「神風」。

 

「そうでありますな。陸軍脅威の技術力であります」

 

 ふふん、と自慢げに胸を張るあきつ丸。

 空母娘の艦載機発進システムは、赤城や大鳳といった弓矢型と飛鷹や雲龍の召喚型に分かれるが、あきつ丸は走馬灯と投影用巻物(スクリーン)を組み合わせた召喚型であった。

 

「……と偉そうに言っても、自分もその仕組みはよく分かっていないのでありますが、ははは」

「あれ、そうなの?」

「そうであります、全てはこの妖精さん任せでありますな」

 

 そう言ってあきつ丸は肩に載った通信士の妖精をくすぐって遊んだ。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 揚陸艦「あきつ丸」。彼女が今神風たちと行動を共にしているのは、その「対潜哨戒機の運用能力」を買われての事である。

 

 相次ぐ深海棲艦の潜水部隊――“群狼部隊”による輸送船団への襲撃。増える被害に業を煮やした総司令部は、海上護衛部隊の再編を行う。その再編で重要視されたのが、いち早く敵を発見する為の“対潜哨戒機”と、それを運用する艦娘だ。

 新鋭の護衛空母として就役したばかりの春日丸。そして前線から抽出された軽空母――艦載機を運用可能な艦娘は、対潜哨戒機を載せて護衛部隊に随伴するようになった。

 

 とはいえ、投入可能な軽空母の数は限られている。正規空母は各地の前線を維持の為に投入は見送られており、このままでは戦力が足りない。

 よって水上機母艦や水上機運用可能な補給艦までもが海上護衛に駆り出される事になった。

 

 そんな流れでこの第七近海監視所(ナナカン)艦隊に配属されたのが、あきつ丸であった。

 

「いやあ、最近はすっかり暇をしておりまして。第七近海監視所(ナナカン)への出向はまさに渡りに船でありましたな」

 

 とあきつ丸は語る。国防海軍唯一の「揚陸艦娘」……とは聞こえが良いが、彼女が真価を発揮する敵前上陸任務は最近ご無沙汰であり、活躍の場となるはずであった「西方泊地攻略作戦」で活躍したのは、“大発動艇”“WG42”といった対地上用装備を持った駆逐艦娘たちである。

 そんなわけで暇を持て余していたあきつ丸だったが、今回の護衛部隊再編の折りに、彼女の“前世”におけるカ号観測機の運用実績を評価され、総司令部からの出向という形で第七近海監視所(ナナカン)に派遣されたのだった。

 

「……『無駄飯食らい』と陰口を叩かれるのは、正直腹に据えかねていた所でもあります」

 

 と萩野と出会った初日に総司令部にて抱いていた不満をぶちまけ、名誉挽回とばかりに息巻いていたあきつ丸。

 その気合いも過ぎれば空回りするのでは……と少し不安を抱いていた萩野であったが、彼女の“実力”は侮れないものだった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「――おっと。第二小隊が『お客様』を見つけたようでありますな」

 

 あきつ丸の肩に乗る妖精が哨戒部隊からの通信を受け取り、あきつ丸に状況を耳打ちで報告する。それを聞いたあきつ丸の声と表情が俄かに真剣身を帯びる。

 それは「敵の潜水艦発見」の通報。あきつ丸と談笑していた神風の顔からも笑みが消え、戦闘態勢へと切り替わった。

 

「敵の位置は?」

「……二時方向、距離五〇〇〇でありますな」

「分かった、私達が『もてなしてくる』。春風!」

 

 妖精の指し示す方向をにらむあきつ丸の返答を受け、神風はすぐさま僚艦である妹を呼ぶ。

 

「お姉様。こちらは準備出来ております」

「よしっ、第一小隊は敵潜水艦掃討を開始するわ。占守(しむしゅ)、クナ、あきつ丸さん。後は任せるわね」

 

 そう言って第二小隊の二隻の海防艦――占守(しむしゅ)と国後に顔を向ける神風。

 

「了解っす、輸送船団はしっかり守るっす」

「了解しました。神風さんも気をつけてください!」

 

 手を振る占守(しむしゅ)と国後とあきつ丸に見送られ、二隻はカ号部隊と共に敵潜水艦の迎撃へと向かった。

 

「――さあ、行くわよ!」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 ――あの戦いから数か月。第七近海監視所(ナナカン)を取り巻く状況は静かに、しかし確実に変化していた。

 

「……はあ、今回の任務も疲れたわ」

「そうっすね……。お疲れさまっす、神風さん」

占守(しむしゅ)もね、お疲れ様。あとあきつ丸さんも」

「はっはっは、今回は()()でありましたなあ」

 

 疲れたように自らの肩を叩きながら、遠征から帰投した神風は占守、あきつ丸と共に執務室へと続く廊下を歩いていた。なお春風と国後は艤装の整備のため工廠に向かっている。

 

 今回の神風たち第七近海監視所(ナナカン)艦隊の任務は、南方にほど近い中継基地への輸送船団の護衛であり、第七近海監視所(ナナカン)へは四日ぶりの帰郷となる。

 深海棲艦の潜水艦により海軍の輸送船が多数撃沈され、一時期は「狼の巣」とも称された南方航路は、海上護衛部隊の再編により被害は激減したものの、まだ予断は許さない状況である。

 神風たちが遭遇した“群狼部隊”のように、こちらの警戒網を破り近海に侵入する艦も確認されている。目立った被害は無いものの、総司令部の苛立ちは募る一方である。

 

 そんな状況下で、本来は左遷先であった「提督の墓場」――この“第七近海監視所(ナナカン)”にも頻繁に出撃命令が下るようになったのは、まさに猫の手も借りたいという事か。

 

「まさか今回の任務で三回も潜水艦と出くわすとは思わなかったわ……」

「でも神風さん、三隻撃沈じゃないっすか。占守は今回一隻も仕留められなかったっす」

「輸送船団に張り付いていた占守どのたちの出番が無かったのは、むしろ良い事でありますよ」

「それはそうっすけど……」

 

 あきつ丸に(いさ)められるも、少し不満げな表情で占守は呟いた。

 

 あきつ丸が周囲を索敵し、快速の駆逐艦である神風たち第一小隊が迎撃。足の遅い占守たち海防艦の第二小隊は輸送船団の護衛――というのが、あきつ丸が加わってからの戦術である。

 布陣としては実に理に適っている。あきつ丸が船団に近づく前に敵を探知し、神風たちが素早く対処する。仮に敵がカ号の哨戒網を潜り抜け神風たちの迎撃を振り切ったとしても、その先に待ち構えているのは“先制爆雷攻撃”を習得した占守たちであり、最後の守りは鉄壁である。

 ちなみに先日国後もカ級を撃沈し、初の戦果を挙げていた。

 

「それにしても、今回もカ級にヨ級にソ級……深海棲艦(てき)の潜水艦って一体何隻いるのかしら」

「そうっしゅねえ。倒しても倒してもキリがないっす」

深海棲艦(てき)は元々我々より数が多い上に、ある時期から潜水艦を温存していたらしいですからなあ」

「終わりが見えないってのも困るわよね……はぁ」

 

 撃沈しても撃沈しても終わりが無く敵は補充される。それはまるで永遠に終わらない“もぐら叩き”の様であると神風は思った。

 

「――そうかと思えば、国防海軍(こちら)の潜水艦娘は“まるゆ”を除けばまだ数が揃って無いわね。確か今は“六隻”だっけ?」

「いやいや、()()()()()()()()()()()()()()()()()、先ごろ実戦投入されたそうであります」

「へえ、そうなんだ」

「確か伊26……ニムという名前だとか。()()()()()()()()()()()()でありましたな」

「あの頃かぁ……」

 

 神風は当時に思いを馳せる。“第三十六演習海域遭遇戦”の後、萩野の方針を受けて対潜訓練はより実戦的に、そしてより厳しく行うようになったせいか、新たに建造された艦娘の情報が載る海軍広報誌等は見ている暇が無かった。道理で知らなかったわけである。

 

(そういえば、最近司令官の『資料整理』のお手伝いをしてないなあ……)

 

 最近の忙しさもあり、第七近海監視所(ナナカン)司令官の本来の()()の事をふと思い出す神風。

 一旦出撃してしまえば、短くとも三・四日は帰ってこれない海上護衛任務。つまりは神風たちが漁火島から離れる機会も多くなり、萩野と共に過ごし仕事をする機会も減った。夏までは毎日のように鎮守府時代の“資料整理”を行い、仕事を終えたらすぐに萩野が行方をくらまし、海岸で釣りをする萩野を見つけて小言を言って……そんな穏やかだった日々が最早神風には遠い日のように感じた。まだ数か月前の話だと言うのに。

 萩野が一人寂しく資料整理の仕事をしている光景を思い浮かべ、神風は少し申し訳なく思った。

 

「……さて、執務室到着でありますな。提督殿がお待ちかねであります」

「あ……そうね」

 

 神風があれこれと思案している間に、萩野がいる執務室に着いていたようだ。

 神風は一旦思いにふけるのを止め、執務室の扉を開けた。

 

「――司令官、艦隊帰投よ」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 ――さて神風にとって、あきつ丸は優秀な僚艦(とも)だ。

 彼女が運用するカ号観測機による哨戒は、輸送船団が雷撃されるリスクを大幅に減らしただけでなく、神風たちの対潜戦闘の支援にも活躍している。

 遠征の打合せや作戦を考える上でも、彼女の知識や発想は第七近海監視所(ナナカン)のメンバーに足りない面を補い、大いに助けられているのだ。

 

 

 

 ――ただ、神風があきつ丸に対し唯一不満に思っているのは。

 

「ただいまであります、提督殿!」

「……帰ってきて何故いきなり俺の手を握るんだ、あきつ丸?」

 

 萩野との()()()()()()()()()()()()ことである。

 




 ちなみにうちのあきつ丸さんは冬イベ最終ステージで双子を殴りに行ったり、夏イベのスエズ運河で仏姫を殴りに行ったりしてます。

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