【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~   作:山の漁り火

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諸事情(夏イベ)で更新速度が落ちております…



第十六話 占守は語る 訓練は進む

――本土第八工廠――

 

 本土第八工廠とは、国防海軍が“艦娘”専用の建造工廠として、41年初頭に新たに設立した工廠である。

 国内外から集められた資材と資金を惜しみなく投入して“建造”される艦娘は、国防海軍が誇る対深海棲艦の“切り札”であり、この第八工廠も「長門」「雪風」といった、現在も最前線で戦う数多くの優秀な艦娘たちを生み出してきた。

 

 

 

 

――目覚めた時にまず思ったのは、「あ、お腹がすいたっす……」だったっす。

 

 “第八工廠”。それが占守が生まれた場所っす。

 目が覚めてしばらくぼーっとしていると、近くからちっこいの……妖精さんと、人間の工員さんが現われたっす。

 

 工廠の妖精さんは、優しかったっす。何も知らない占守に、いろんなことを教えてくれたっす。

 

 

 

――占守が、“艦娘”と呼ばれる存在に生まれ変わったこと。

 

――今、この世界は人類の生存を脅かす存在“深海棲艦”に襲われていること。

 

――占守が人々の願いを受けて建造された新たな艦娘であること。

 

――そして、占守は“深海棲艦”と戦う運命にあること。

 

 

 

 “願い”を受けて建造されたと聞いて――嬉しかったっす。今思えば、それは妖精さんの精一杯の“フォロー”だったのかもしれないけど……でもその時はすごく嬉しかったっす。また「何かを守れる」んだなって。

 

 “前世”の最期の頃の記憶はおぼろげだけど、海防艦としてがんばっていた頃の事はよく覚えてるっす。

 あの頃を一言で言うと、“無念”だったっす。占守が守らなきゃいけない輸送船は次々に沈められ、仲間たちもどんどん先に沈んでいったっす。戦いが終わった後のお仕事は感謝されて嬉しかったけど、それでも“無念”は心のどこかにくすぶり続けているっす。

 

 第八工廠で一緒に建造された妹の“国後”……クナも、同じように“無念”を抱えていたっす。

 クナもあの戦争を最後まで生き残って、戦後は同じように仕事をしてたっす。でも、その最期は“座礁”。座礁だけならまだ良かったのだけれど、クナを助けに来てくれた駆逐艦――“神風”さんも座礁して共に最期を迎えさせてしまった――それを心から悔やんでたっす。

 

 クナには何度も何度も同じ話を聞かされたっす。神風さんと一緒に戦う機会があれば、今度は私が神風さんを守るんだって……その願いは後日叶うことになるっすけれど。占守はお姉さんだから、うんうんってクナのお話を何度も何度も聞いてあげたっす。よしよしって頭を撫でてあげたっす。

 

 

 

 

 占守たちが“建造”されてから一週間後――占守たちの“お披露目”の日を迎えたっす。“お披露目”は、鎮守府の提督さんや総司令部の偉い人たちに艦娘を見てもらうことっす。そこでその艦娘に興味を持った提督さんが、偉い人と交渉してその艦娘を鎮守府に配属するんだって、妖精さんが教えてくれたっす。

 クナとどきどきしながら、お披露目会場に向かったっす。占守たちの新しい司令は、いったい誰になってくれるんだろうって。もしかしたらクナと離ればなれになっちゃうかもなあ……とか思ってたっす。

 

「それでは、新しい艦種“占守型海防艦”姉妹の登場です――」

 

 司会さんの声と共に、目の前のカーテンが開かれたっす。

 カーテンの向こう側には、妖精さんの言っていた通り、提督さんやえらい人がいっぱいいたっす。でも。

 

 

――その時のみんなの目は、今でも覚えてるっす。

 

――「一体どうやって使うんだ」って目だったっす。

 

――誰も、占守とクナに期待してくれなかったっす。

 

 

 結局その日のお披露目では、誰からも声がかからなかったそうっす。

 

 

 

 

 お披露目の次の日から、工廠で占守たちの“司令官”になってくれる人を待ったっす。でも……それから半月経っても誰も来なかったっす。

 後になって聞いた話だと、占守たちが建造された同時期に占守たちより強い艦娘が建造されて、みんなそっちに注目していたそうっす。別にその()たちを恨むとか、そんな気持ちはないっしゅ。ただ羨ましいなあ……と思ったっす。

 

 それから更に半月経った一ヵ月後。憲兵隊本部の若宮憲兵大尉と名乗る憲兵さん――美人さんでびっくりしたっす――が来たっす。うちらくらいのちっさい()も一緒だったっす。

 

「君たちを我々憲兵隊で引き取りたい」

 

 若宮隊長はそう言ったっす。今の海軍は「火力偏重主義」だから、火力がへっぽこなうちらは期待されなかっただろうって。君らの良さは優れた対潜能力だが、火力や対空能力も充分に備える駆逐艦が優先されるのは仕方ないって。

 だが君たちが戦う機会はいずれ来るだろう、ならばまずは第八工廠(ここ)で腐らずに、我々と共に憲兵隊に行かないかって。

 クナと一晩相談したっす。その結果、占守たちは揃って若宮隊長……“上官”のお世話になる事にしたっす。今までお世話になった工廠の妖精さんと工員さんにお別れをして、うちらは上官に付き添って憲兵隊の本部へと向かったっす。

 

 

 

 

 憲兵隊の生活は結構楽しかったっす。艦娘としての戦闘訓練は学べなかったけど、その代わりに護身術とか捕縛術とか、いろんな事を教えてもらったっす。

 艤装を外せば普通の人間と変わらない力しか出せないうちらが、危険な場所に行っても自分で身を守れるようにって、上官自ら教えてくれたっす……正直あの特訓は、今思い出してもしんどかったっす。ふう。

 

 憲兵隊で過ごす日々は充実していた……でも、占守もクナもやっぱり“艦娘”として働きたい気持ちは押さえられなかったっす。

 

 

 

 

 それから半年近くが過ぎたっす。

 

 憲兵隊「鎮守府監察課」としてのお仕事――各地の鎮守府や泊地を回って、評判が悪い提督さんや悪いことをしている軍人さんを調査するお仕事っす――にも慣れてきた頃、上官との面談があったっす。

 

「君たちもここに来て半年だ。そろそろ今後の身の振り方を改めて考えても良い時期だろう」

 

 上官は、うちらの事をしっかり考えていてくれたっす。やっぱり占守たちの“お母さん”みたいな人っす……そう言うといつも笑顔で睨まれるから、すぐに“お姉さん”って言い直すっすけど。

 

 さて、ここでうちらに存在する選択肢は二つあったっす。一つはまるゆさんの様にこのまま憲兵隊で働く道。もう一つは“艦娘”として働く道――当然占守たちは二番目を選んだっす。

 上官に聞いていた話――最近になって敵潜水艦による被害が増えている――の通りだと、うちらが活躍する可能性が高くなってきたから、これが良い機会だと思ったっす。

 

「ふむ。君たちが行くのであれば、前線よりは後方の鎮守府……いや、ここは“近海監視所”の何処かだろうな……」

 

 “近海監視所”は、鎮守府よりは小規模の海軍施設。所属する艦娘は少ないか、第一や第四のように軍人さんの警備隊だけが配属されているこじんまりとした場所っす。どの監視所も人員は不足気味……うちらが所属できる可能性は高かったっす。

 

「……うむ、近海監視所ならば何とかなるだろう。よし任せておけ、私が裏で手を回しておこうじゃないか」

 

 ……前から思ってたけど、上官っていったい何者っすか。

 その手に持ったメモ帳には何が書いてあるっしゅか。それを見ながらふふふって微笑むのはこわいっす……。

 

 

 

 

 それから数日後、クナが「第七近海監視所(ナナカン)」の話を仕入れてきたっす。

 曰く、第七近海監視所(ナナカン)は僻地に有ること。「提督の墓場」と称される場所であること。艦娘が二隻所属していて、艦娘の運用経験は有ること――そして何より、その艦娘の一隻が神風型駆逐艦の“神風さん”であること。

 今になって振り返れば、第七近海監視所(ナナカン)に決めた理由の半分はクナのわがままみたいなもんだったすね。でもこれも何かの運命だとも思ったっす。占守たちは配属先を第七近海監視所(ナナカン)に決め、早速上官にお願いをしたっす――

 

 

 

 

 こうして占守とクナは第七近海監視所(ナナカン)にやってきて、萩野少佐が新しい司令になったっす。悪い人じゃないと思うって上官もクナも言ってたし、占守もそう思うっす。でも何か……今はまだよく分からないけど、何か隠し事をしているっす……。春風さんにもそんな話をしたけど、ふふって笑ってごまかされたっす。

 

 ま、無理に知るつもりはないっす。今はうちらの上官……優しくてお菓子もいっぱいくれる司令官ってことで十分っす。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「――ふおおおおおおおおお!!」

 

 ここは漁火島近くの海域。海の果てまで声を届かせるが如く、奇妙な叫び声を上げるのは海防艦占守。その手に構えるは訓練用の“模擬爆雷”。

 

「これが占守の“ひっさつわざ”っす!! とおっ!!」

 

 三発の模擬爆雷が、占守の掛け声と共に一斉に投げられ――

 

 

 ――ちゃぽん。ちゃぽん。ちゃぽん。

 

 

 占守の手から放たれた爆雷は、遠くの“的”の――それぞれ見当違いの場所へ着水して沈んでいった。

 

「ふっ、決まったっす」

「……なーにやってるのよ、姉さん」

 

 投擲を終えてどや顔をする占守。それを呆れ顔で見るのは、同じく対潜戦の訓練中の妹の国後である。そんな国後に対し自信満々で占守は語る。

 

「ふっふっふ、これぞあの“対潜女王”五十鈴さんの生み出した奥義――“先制対潜爆雷攻撃”っす!!」

「ああ、あれねぇ……」

 

 “先制対潜爆雷攻撃”とは、長良型軽巡洋艦「五十鈴」が編み出した「敵潜水艦の位置をソナーによる分析と己の直感によりいち早く見極め、敵の先制攻撃を受ける前にそこに爆雷を放つ」という妙技である。

 爆雷を狙った場所へ遠投するという、身体と腕を手に入れた艦娘であるからこそ出来る技であるが……

 

「全然狙った位置に投げられてないじゃないの、もう」

 

 占守の狙いは大きく外れ、“的”外れと言わざるをえない結果となっている。これではただの爆雷の無駄撃ちだし、仮に実戦で使っても敵に侮られるだけであろう。

 

「むむー、もっとがんばるっす」

 

 指摘を受けてぷくーっと口を膨らませる占守に対し、国後は溜め息をつく。

 

「まあ、姉さんがその技に憧れる気持ちは分かるけど……」

「そうっす? そうっすよね?」

「でもそういう“曲芸”みたいな技はね……まずは“基本”の技が出来てからでないといけないって、萩野司令が言ってたわよ。小手先の技を覚えても、敵には通用しないって」

「ぬぬ……司令がそんな事をっすか?」

「うん。『たぶん今日あたりの訓練で“先制対潜爆雷攻撃”の真似ごとをするだろうから、クナの口からもよーく言っておいて欲しい』ってね」

「うはあ……司令には全部お見通しっすか」

 

 自分の行動が萩野に見抜かれていたことに、占守はがっくりと肩を落とした。

 まあ萩野が占守の行動を見抜いていたのは、前日に占守が海軍広報誌のバックナンバー……ちょうど五十鈴のインタビュー記事が載っている号を目をきらきらさせながら熟読していた所を目撃していたからであるが。

 

「やっぱり基本は大切っすかー……そうっすよねー……」

「そうよ、当たり前じゃない」

 

 と、艤装に備え付けられた九四式爆雷投射機の調整を行いつつ、国後は冷静に述べる。

 こと訓練については国後は基本に忠実であり着実にこなす。一方占守は訓練自体はまあ真面目にやるのだが、集中力はそれ程でも無いのか“先制対潜攻撃”といった目新しい事に目移りしてしまう癖があった。

 

「あ、もうこんな時間っすね……神風さん達もそろそろ巡回から戻ってくるっす。クナはどうするっすか?」

 

 時刻はちょうど17時(イチナナマルマル)を回ったところだ。今日は神風と春風が午後から漁火島周辺の漁場の巡回に向かっており、占守と国後の二隻だけで訓練を行っていたのだった。

 

「うーん、あたしはもう少しここにいるわ。もうちょっとだけ、爆雷投下の訓練をしたいの」

 

 国後は占守にそう言うと、訓練を再開すべく再び沖へと向かおうとする。

 

「おー、クナはやる気満々っすね。でも頑張りすぎは身体に毒っすよ」

「そんな事無いわよ、早く一人前にならなくちゃいけないんだから。何てったって、今度はあたしが『神風さんを守る』んだからね!」

「うーん、そんなに気負わない方がいいっすよー……」

 

 ぐっと拳を握る国後を見ながら、占守はそんな妹の頑張りに少しばかり懸念を抱く。やる気があるのが良い事だが、やり過ぎてそれが空回りしては意味が無いどころか、悪い事も引き寄せるのだ。

 やれやれとばかりに、占守は国後の訓練にもう少し付き合うことに決めたのだった。

 

 二隻の訓練は続く。

 

 




E3輸送作戦突破できません(汗)
ナ級なにあれつよい

それはそうと旗風可愛い。どんな娘かはとりあえず攻略がひと段落してからですが。

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