【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~   作:山の漁り火

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第十五話 初顔合わせと歓迎会

――萩野宗一(はぎのそういち)海軍少佐――

 

 萩野宗一。町工場の一人息子として生誕。それ程裕福な家庭では無かったが学業は優秀であり、海軍士官を志して海軍士官学校に入学する。その就学中に“提督適性検査”を受け、艦娘を率いる“提督”としての資格を得る。

 卒業後は、総司令部勤務を経た後で南方へと転任――南方の鎮守府を統括する“元帥”の指揮下に入るが、その約半年間の彼の動向は()()――

 

「――その半年の間に()()を負った萩野は、南方から戻され本土にて療養。その後再び総司令部に転属……だがそこで上層部の不興を買い、『提督の墓場』へと流される。か」

「あのう、隊長……。本当によろしかったのですか?」

 

 ――ここは洋上、憲兵隊巡視船内にある憲兵隊長の執務室。

 

 第七近海監視所(ナナカン)来訪前に調べ上げた、萩野少佐の“身辺調査”の報告書を改めて眺める若宮に、まるゆがおずおずと尋ねる。

 

「何がだね、まるゆ」

「何がって、えっと……そんな()()()()()のある提督にあの()たちを預けてしまった事です」

「ふむ……」

 

 まるゆは彼女たちに自らの境遇を重ねているようだ、と若宮は思い彼女に言葉を返す。

 

「確かに怪しい所はあるがね。奴は私にも知りえない()()を抱えている」

「では……!」

「ただし、直接の面談を行った私の見立ては『あの少佐が艦娘を使い捨てるような人間には思えない』だ」

「そうですか……いえ、隊長の見識を疑っているわけではありませんが」

「ふむ……まあ、大丈夫だろう」

 

 不安そうなまるゆを安心させるように、微笑みながら優しく撫でる若宮。

 

「艦娘として戦うことは、彼女たちが望んだことだ。今はその望みを叶える場所として第七近海監視所(ナナカン)を選んだ彼女たちを信じようじゃないか」

 

 

 

 

 

「――さて、そんなわけで彼女ら占守(しむしゅ)型海防艦姉妹が、新たに『第七近海監視所(ナナカン)所属艦隊』配属となった。二隻の扱いは“第二小隊”とする」

「はいっす。まかせるっす」

「神風と春風は、今後は“第一小隊”扱いとする」

「了解しました、司令官様」

 

 時刻は19時(イチキュウマルマル)第七近海監視所(ナナカン)の執務室にて萩野少佐と源次郎、そして艦娘の四隻――神風に春風、新たに加わった占守と国後の、初顔合わせが行われていた。

 

「とにもかくにも、仲間が増えたのは心強いわね。あいつつ……」

「神風……大丈夫か?」

 

 同僚の参入を喜びつつも、神風はなぜか痛そうに腹部をさすっていた。

 

「うーん……なんとかね」

「ごめんなさい、神風さん……ついこらえきれなくて……」

 

 その隣には“事故”を引き起こした張本人である国後が申し訳なさそうに座っている。

 

 さて、国後が一体何をしたかといえば……神風と春風が帰投直後に、「神風さーんっ!!」と神風の胸に飛び込むように、抱きつき(ラムアタック)をかましたのである。その突撃(ラムアタック)は萩野曰く「速すぎて誰も止める暇が無かった。まるで島風型みたいだった……」とのこと。

 まあその突貫(ラムアタック)は国後に悪意があったわけではないし、神風も入渠する程では無かったものの、国後はすっかり委縮してしまった。

 

「ま、クナは神風さんに会うのを心待ちにしてたからしょーがないっしゅ。感極まった結果っす。あ、これもっと食べたいっす」

「あーはいはい……んと、その菓子まだあったっけな? そういや二隻は“前世”では色々あったんだっけ?」

 

 目の前にあった豆菓子をぺろりと平らげ、おかわりを要求する占守をあしらいながら、萩野は尋ねる。

 

「ええ、()()()ありました。()()()は大変なご迷惑をおかけして……」

「ま、私は気にしてないわよ。どうせもう長くない命だったしね、船体(からだ)もボロボロだったし」

 

 そう言って神風は国後の頭を撫でて優しく諭す。

 

「で、でも……」

「でもじゃないの、昔は昔、今は今よ。これから一緒に頑張っていけばいいじゃない」

「は、はい!」

 

 そんな神風の励ましにより、国後の顔にようやく笑顔が戻った。

 (まるで神風の妹が増えたみたいだな)と、そんな様子を微笑ましく眺めながら、萩野は棚の奥に仕舞ってあった残りの豆菓子を取り出す。

 

「わーい、おかわりっす!」

「あまり食べ過ぎるなよ……さて、今後の方針だけど」

 

 テーブルの上に菓子を置くと、萩野は第七近海監視所(ナナカン)の今後について語り始める。

 

 

 

 

「今後のもぐもぐ、方針もぐもぐっすか? もぐもぐ」

「はい、食いながら喋らない。とりあえず、第七近海監視所(うち)は今まで砲雷撃戦重視で訓練してたわけだけど、今後は対潜戦訓練を重視していきたいと思う」

 

 第七近海監視所(ナナカン)から最も近場の演習場である“第十八演習海域”が対潜戦訓練には向いていないこともあり、神風も春風も“今生”ではあまりその手の訓練は積んでいない。なお、前回の海上護衛遠征における対潜警戒担当は、実のところ第六近海監視所(ロッカン)の長月であったりする。

 

「まあ出撃命令はともかく……若宮大尉が言っていた事が確かなら、こないだみたいな“助っ人”任務は確実に増えるだろうからな。早めに訓練は積んでおきたい」

「もぐ……なるほどっす」

 

 若宮大尉の予見から萩野が懸念するのは、敵の“通商破壊戦”による海軍の被害が増える事。入渠や修理により前線で活動できる駆逐艦が減れば、必然的に減った戦力は後方から抽出される――その対象にはこの僻地も入るであろう事は、こないだの海上護衛遠征任務で実証済みである。

 

「んー……。まあ訓練を続けていれば対潜戦の“勘”は取り戻せると思うけどね……はあ」

 

 と、悩ましげに溜め息を吐いて俯く神風の顔を、妹の春風が心配そうに覗き込む。

 

「お姉様、やはり潜水艦と戦うのは苦手ですか?」

「うーん……。そうね、“見えない敵”と戦うってのはやっぱり怖いわ。見えてる海上艦の方がなんぼかマシね」

 

 神風はそう言って苦笑する。余談ではあるが、駆逐艦娘に限らず国防海軍に所属する多くの艦娘が苦手と公言――海軍広報誌“海さくら”における艦娘アンケートでも不動の第一位に君臨――するのが、何を隠そう“潜水艦”である。“前世”での駆逐艦は多くが“艦隊決戦用”かつ“大物食い(ジャイアントキリング)”をコンセプトに設計されており、元々護衛任務は不得手では無いが得意でも無い。

 

 そしていざ船団護衛に付けば、忍び寄った潜水艦の群れに輸送船を沈められ、迎撃に向かえば逆にこちらが沈められ……と、潜水艦については良い思い出が無い艦娘が多い。

 

 閑話休題。そんなわけで実は“前世”にて“敵潜水艦との一騎打ち”という武勇伝を抱える神風だが、やはり潜水艦は苦手であった。

 そんな神風に国後が自らの胸を叩き、意気揚々と宣言する。

 

「お任せください! もし神風さんに魚雷が向かって来たら、あたしが盾になります!!」

「え、やめて。それだとあなたが沈んじゃう」

「大丈夫です! これから頑張って鍛えますから!!」

「鍛えたら装甲って何とかなるもんだっけ……?」

「では、クナさんが身を挺してお姉様を庇っている間に、私が敵を()()()()()()()で吹き飛ばします。粉々に……ふふふ」

「春風もなんかテンションがおかしいっ!?」

「いつも通りですよ……ふふ」

「しれーかーんたすけてー、春風とクナの愛がおもーい!」

 

 目を爛々と輝かせる国後と、くすくすと黒い笑みをたたえる春風に挟まれ神風は頭を抱えるのだった。まあ春風は半分神風をからかっているのだろうと、当人と国後以外は薄々気付いてはいるのだが。

 

「……まああれだ。僚艦を庇うのはともかく、対潜戦は各艦の連携が大切だしな。その辺の連携もしっかり学んでいこう」

「そうっすねー。よろしくお願いしまっしゅ」

 

 とりあえず理由が何であれ戦意が高いのは良い事である。

 

 

 

 

「……ところで、肝心の装備の方は見つかったかい、源さん?」

 

 と、萩野は源次郎に先ほど頼んでいたこと――工廠倉庫内の対潜装備の捜索結果――を尋ねる。いくらやる気があっても、そもそもソナーや爆雷といった装備が無くては訓練も何も始まらないのである。一応神風と春風の分は元から用意されており二隻分の装備なら間に合うが、占守と国後の訓練の事もあるので予備含め装備はあるだけあった方が良い。

 

「ああ、今は妖精さん共に探して貰っているが……旧式の『九三式水中聴音機(パッシブソナー)』は見つかった。たぶん爆雷も投射機も、旧式の奴なら残ってるはずだ」

「そりゃ良かった。やっぱ新型は難しいかな?」

 

 旧式でもとりあえず装備があった事は喜ばしいが、なるべくならより良い装備が欲しい。そんな萩野の質問に対し、源次郎の顔は渋い。

 

「そうさな……『三式水中探信儀(アクティブソナー)』も『三式爆雷投射機』も高級装備だからな。殆どは鎮守府廃止の際に南方に持ち出されちまってる」

「そうっすか……うーむ、新型とーしゃき使ってみたかったっす」

「まあ投射機は無いにしても、ソナーの方は持ち出し忘れがあるかもしれん……が、あまり期待はしないでくれ」

「オーケー。まあ当面はそれで凌げそうか――」

 

 流石にそれ以上の贅沢は言えない。新規装備の調達は急ぐべきだろうが、軍の補給課の申請がすぐに通るかどうかは疑問であるし、新規開発するにも機材も資材も足りない。とりあえずは今の装備でやっていくしかないかな、と萩野は判断する。

 

「――まあ、そういうわけだ。訓練については明日から早速行っていく。みんなこれからよろしく頼む」

 

 そう言って萩野は話をまとめ、他の皆は頷きと了解の返答で返した。

 

 

 

 

 

 その後細かい打合せを終え、時刻は19時半(イチキュウサンマル)

 

「――さて、堅苦しい会議はここまで。お次は占守と国後の歓迎会だ!」

 

 と、気分をがらりと変えるかのように、萩野は意気揚々と宣言する。

 

「本当っすか!? うれしいっす!」

「だいぶ時間は遅くなっちまったけどな。料理は……神風と春風に任せるよ」

「お任せください、司令官様」

「ええ、任せといて! あ、料理以外の準備はよろしく頼むわね……いつつ……」

 

 と、お腹を撫でながら立ち上がる神風に、国後がハラハラと心配そうな顔をした。

 

「ああ、やっぱり入渠した方が……もしくはお風呂にしますか、それとも入浴……あるいはバスタイム!?」

「クナ、それどれも意味は入渠よ。落ち着こう?」

「はい、落ち着いてゆっくりお風呂に入りましょう!」

「いいから落ち着けー!」

 

 端から見れば漫才にしか見えない愉快な二隻のやり取りを尻目に、萩野たちはそそくさと歓迎会の準備を始めた。

 

「まずは生け簀から昨日の戦果を取ってくるかな……と」

「お、昨日のお魚さんっすか? 占守も手伝うっす!」

「ちょ……無視しないでえー……!」

 

 

 

 

 ――それから時間は過ぎて、20時(フタマルマルマル)過ぎの第七近海監視所(ナナカン)食堂にて。

 

「――よし。こんなもんかな」

 

 艦娘たちと協力して料理を並べ終えた萩野が呟く目の前には、神風と春風の手料理が並ぶ。昨日萩野が釣った魚の刺身に、焼き魚に煮魚に、生野菜と刺身の切れ端を調味料で和えたシーフードサラダもどき。とにかく魚介類で覆い尽くされるテーブルである。

 準備を始めた時点で夕食というには遅い時間であったため、どれもそれ程手間の掛からない料理ではあるが、神風と春風の心は十分に籠められた料理だ。

 

「もう少し時間があればもっと手の込んだ料理を出せたんだけど……」

 

 申し訳なさそうにする神風だったが、

 

「そんな事無いです! あたしは感動です!」

 

 と、国後が必死でフォローする。

 

「そ、そお?」

「この時間が無い中で、あたしたちのために作っていただいた料理……感激です! 一生大切にします!!」

「……食べてね?」

 

 そんな相変らずの二隻はさておき、萩野は咳払いをして手に持ったコップを掲げる。

 ここは提督らしく、占守と国後を歓迎し今後の戦意高揚に繋げる挨拶をしなければならないのではあるが……。

 

「……まーあれだ、何だかんだで夜も遅いし以下略!!」

「「「はやっ!!」」」

 

 もう既に夕飯と言える時間にはだいぶ遅い。話を考えるのもめんどくさいので、長話は省略である。

 四隻揃ってツッコミを入れる中で、源次郎だけが「ははっ、お前らしいな」と、それを笑っていた。

 

「では早速……海軍と、第七近海監視所(ナナカン)の今後の発展を祈って、乾杯っ!!」

 

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

 

 萩野の乾杯の合図で一斉にコップを高々と上げる一同。

 

 明日から本格的に新生「第七近海監視所(ナナカン)」の始まりだ。

 

 




艦これ夏イベント開始…の前に情報収集とキラ付けのE0中。
今回も御札が多いみたいなので、とりあえずは様子見です。

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