【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~ 作:山の漁り火
――西方海域泊地攻略作戦――
今夏に国防海軍主導で行われた大規模作戦。西方海域を牛耳る深海棲艦の泊地を攻略すべく、第一戦隊・第一航空戦隊を始めとする主力部隊とそれを支援する部隊が集結。
前段作戦の主戦力の陽動には失敗し、結果艦隊同士の総力戦となるも“第二改装”を施された艦娘を中心とする挺身部隊の活躍も有り敵主力艦隊を撃破。泊地の占領も成功裏に終わるが、深海棲艦が貯めこんでいたはずの資材の殆どは既に持ち出されており、資材の入手を期待していた提督は肩すかしを食う事になった。
後にこの戦いは“国防海軍苦難の布石”とも呼ばれる。
「――ところで、彼女たちも別の鎮守府からの異動で憲兵隊に……?」
と、ここで萩野は若宮の背に並ぶ海防艦の二隻をちらりと見た。まるゆの配属された経緯を聞き、彼女らの経緯についても気になったのだ。が、それを若宮は首を振って否定した。
「いや、彼女らは鎮守府に所属していない。“建造”されてからすぐに我々“憲兵隊預かり”となった」
「なるほど……。それにしても新艦種なのに“海防艦”建造については碌に話題になっていませんね」
萩野の記憶では、
「ふむ。話題にならなかった理由か……おそらく彼女たちの建造と同時期に、火力に優れる海外艦娘が建造されて、そちらに話題を持っていかれてしまったからだな」
「そういえばそうでしたね。鎮守府同士であの娘たちの争奪戦が繰り広げられたとか何とか」
「ああ。君も知っての通り、今の海軍は『火力偏重主義』のきらいがあるからな」
「あー……」
“火力偏重主義”。42年夏の“南方進出作戦”の成功以来、深海棲艦に対し勝利を重ねている海軍が陥りつつある“病”である。
艦娘出現の直後、つまりは
火力の足りない旧式の神風型が僻地に追いやられたのも、それが一因であるが……
「つまりは、“いらない子”扱いされたってわけです」
先ほどから黙って話を聞いていた国後が口を開き、自嘲の言葉を吐く。
国防海軍が本土工廠で行う艦娘の“建造”とは、一種の
「そうっすね。“建造”後のお披露目の時の『こいつらどうやって使うんだ』ってみんなの目は今でも覚えてるっす」
「まあ、私たちでは前線に出たところで、敵駆逐艦と撃ちあえるかどうかも怪しいのは確かですけど」
二隻とも小さな
「――で、最終的に彼女らに劣情を抱きかねん不届き者の弩級変態提督に捕まる前に、我々憲兵隊が彼女らを引き取ったというわけだ」
「提督に対する言い草ひどすぎませんそれ?」
「ははは、すまん。この手の仕事をしているとどうしてもね」
と、若宮はからからと笑った。
「さて、話がだいぶ長引いてしまったが、そろそろ本題に入ろうか。実は君に彼女たちを任せたい」
「……やっぱりそういう話ですか」
半ば予想していたことではあったが……と、萩野は軽く溜息をついた。
「ふふ、流石に分かるかね」
「ええ、まあ。というかその当の
「うむ、そう言う事だ。海軍からは辞令を出して貰うように要望もしてある」
「はい。一週間後には総司令部から正式な辞令が届くと思われますので、よろしくお願いします」
と、若宮の話を補足して、まるゆはぺこりと頭を下げる。
どうやら話は既に萩野自身がどうこうできる範囲を越えているようだ。萩野は再び溜息を付く。
「分かりました。ならば引き受けましょう。……ところで、ここに彼女らを着任させる理由を伺っても?」
「……ふむ、良いだろう」
そう言って、若宮は執務室の窓際へと歩き外の景色を眺めた。窓の外には穏やかな海原の風景が広がっている。
「今夏の大規模作戦の詳細は知っているね?」
「ええ、これでも海軍軍人の端くれですし。」
「ふむ、それもそうだったな。……今回の作戦で、深海棲艦は西方海域を抑えていた最大規模の泊地を失った」
「泊地の資材は奪取できなかったものの残存勢力は掃討され、順調に行けば制海権の完全掌握も近いそうですね」
「その通りだ。……と、
と、不穏な事を言う若宮。萩野は眉をひそめて問いただす。
「……では、まだ
「仕事柄な。そういった情報は嫌でも耳に入ってしまうのだよ」
若宮はそう言うと思わず苦笑いをした。
「――さて、ここで問題だ。このままでは西方海域は我々の物だ。だがそれを指を咥えて待つほど深海棲艦も愚かでは無い。『こちらの侵攻を遅らせたい』彼らは、我々に何をすると思う?」
「何をするか、ですか?」
「ただし正面切って迎え撃つという選択肢は無い。ただでさえ戦力が削られているのだからな」
萩野は考える。勢いづいた敵の攻勢を劣勢な側がまともに受けるのは悪手。ならばどうするか……。
少しの沈黙の後、萩野は答える。
「私なら……まずは敵の主力部隊との交戦は避けて、敵の“補給路”を潰しますね……まさか」
「その通り。『通商破壊戦』だよ。それも潜水艦を用いた、な」
悩ましげな顔をして、若宮は語る。
「実は、暫く前から深海棲艦の潜水艦は殆ど見かけなくなっていたらしいのだ」
「見かけなくなっていた? 今回の作戦でもですか?」
「そうだ。
「つまり、
「そうとしか言いようがない事例も起き始めている。先月だけで前線の輸送船団が敵潜水艦に襲われる事件が先々月からの二倍のペースで増加中らしいのだ」
「二倍……異常では有りますね。うーむ…」
萩野は呻った。現在国防海軍は深海棲艦に対して勝利を重ねており、戦線が広がり続けている。その代償として戦力が分散し、海上輸送とその護衛が
海洋国家におけるシーレーン……海上輸送路はまさに国家という巨大な生き物を生かす為の“動脈”である。航空機による輸送は所詮
前線に向かう軍需品を積んだ輸送船が攻撃を受けて沈没すれば、前線の鎮守府は干上がるしそこを深海棲艦の機動部隊に突かれて陥落の危険すらある。また今は前線のみであるが、
神風に春風、占守に国後。
深海棲艦の機動部隊に正面切ってぶつかれば、あっと言う間に溶けてしまう程に脆弱な部隊であるが、彼女たちが才能を十分に生かせる可能性があるのが――“対潜哨戒部隊”である。
「つまり……彼女たちをここに派遣するのは、対潜哨戒として活躍させる為ですか」
占守型海防艦は大半の性能が駆逐艦に劣るが、唯一駆逐艦と同格、もしくはそれ以上とされる物として「対潜装備の充実」があった。こと対潜水艦における戦闘については並みの駆逐艦より優れるのだ――残念ながら“前世”ではそれを生かす機会はなかなか訪れなかったが。
「まあ元々性能では侮られている娘たちだ。前線が欲しているのは火力だからな……そのうち改まるかもしれんが、今の前線に配備したとしても良い事はあるまい」
「確かに、今の前線の『火力偏重主義』であれば、補助艦についてはあまり優遇されない傾向にありますからね」
「だからこそ、
つまりはこの
とは言え果たしてそれで良いのだろうかと、萩野は念を押す意味で尋ねる。
「……よろしいのですか? 別に今まで通り彼女たちには憲兵隊員として活動しても問題ないのでは?」
「うむ、それはだな……」
「イヤっす!!」
そんな二人の会話を遮ったのは、占守であった。
「占守たちは、艦娘っす! 深海棲艦と戦うために生まれてきたっす!」
占守の顔が歪み、悲しそうな顔になる。
「それなのに海軍の偉い人は、誰もうちらに期待してくれなかったっす。どの鎮守府でも引き取り手がいなかったっす」
「占守……」
「上官に拾って貰えたのは、本当に感謝しか無いっしゅ。憲兵隊の仕事にも不満は無いっす……ご飯も美味しいし、上官は厳しいけど優しいお母さ……お姉さんみたいっす」
「お母さん」と言おうとした様だが若宮に睨まれたのか、「お姉さん」とわざわざ言い直した占守。それに続けて国後も訴える。
「そうですね。あたしも若宮隊長に拾われたからこそ、今のあたしがあると思っています。憲兵隊の事も好きです――でもですね、姉さんもあたしも、“艦娘”なんです」
萩野は改めて占守と国後の目を見た。二隻の目は決意の意思で溢れている。
「つまりっす! うちらも艦娘として一花咲かせたいっす!!」
萩野の目をぐっと見つめ、力強く占守はそう言った。
「――報告するっす。第一の任務『寝室用の部屋選び』任務完了っす!」
「ああ、お疲れさん。では第二の任務『部屋の掃除と荷物の片付け』に入ってくれたまえ」
「了解っす!!」
最盛期で30隻以上が在籍した元鎮守府だけあって、空の部屋だけは無駄に余っている。着任した海防艦二隻に萩野がまず与えた任務は、彼女らが寝る場所の確保であった。
若宮率いる憲兵隊はつい先ほど立ち去ったばかりである。まるで嵐のようだったと萩野は思い返す。その嵐の残した“置き土産”はある意味で大きく、ある意味で小さいものではあったが。
「……これから忙しくなりそうだな」
どたばたと勢いよく監視所屋外へ飛び出していく占守と国後を執務室から眺めながら、萩野はそんな独り言を言った。
若宮憲兵大尉の懸念通りであれば、恐らく数か月後――早くて1ヵ月後には、海軍がその
そんなろくでもない状況で戦わせる前に、彼女たちをなるべく鍛えよう――というのが萩野の今の思いだ。
神風達が帰投次第、艦隊の再編成と今後の訓練予定の見直し――場合によっては自らが一緒に出動することもあるだろう。やる事は山積みである。
「まあ、いっちょ頑張るかね。“あの
萩野は窓から見える青い空の雲を見上げながら、決意を籠めて呟いた。
――
というわけで
駆逐2に海防2……ゲームでは1-5攻略には持って来いの艦隊ですね
(ボス固定編成では無い事から目を逸らしながら)