【完結】ナナカン ~国防海軍 第七近海監視所~ 作:山の漁り火
――国防海軍所属 第七近海監視所――
第七近海監視所は、近海の小島「
神護鎮守府は41年~42年にかけての対深海棲艦戦線の最前線であり、最盛期で4艦隊と30隻以上の艦娘およびその支援部隊が所属した大所帯であった。
しかしながら、42年8月に実施された南方進出作戦成功を受け、最前線が南方に移動してからは鎮守府としての重要性は低下し、同年12月をもって神護鎮守府は廃止。
同時に施設解体も視野に入れられたが、深海棲艦の残存兵力の捜索の必要性を鑑みて、施設はほぼ解体されずにそのまま対深海棲艦の監視所として稼働する事になった。
鎮守府としての機能を失い、規模こそ縮小されたものの、第七近海監視所は“海の守護神”として今も近海の安全を守り続けている――
「――と言うのが、この前見た国防海軍広報誌の『ナナカン』の紹介文なわけだけど」
――しん、と静まり返った廊下を歩きながら、長髪の和装の少女は語る。
聞き手は同じ背格好の、和装のロール髪の少女。
「まあ“建前”だけはご立派よね。この建物とおんなじでさ」
「……結構辛辣ですね、姉様」
若干機嫌が悪そうに見える姉の神風の黄色いリボンがフリフリと揺れる。その様を見ながら妹である春風は聞き手に徹する。
「なんだかんだ言ってるけど、結局取り壊さなかった一番の理由は“上”が建物全部を解体するのに掛かる費用を惜しんだからでしょ。入渠ドックや工廠の設備はほとんど前線の鎮守府に移設しちゃったけど」
「ええ」
「深海棲艦の残存兵力の監視? そんなの
「まあそうなんですけど」
「仮に何かあったとしても、近くの
「ん……」
「ここに配属されたって意味……本当に現状を分かってるのかしら。うちの司令官は」
「………」
「……はあ」
神風は溜息をつき、春風は相槌も打てず何も言えなくなってしまった。
結局のところ、姉の機嫌が悪いのは現在の彼女らの上司――第七近海監視所司令であるところの
……別に彼がセクハラをする生理的に嫌な上司だとか、不正を働いて私腹を肥やしているとかそういう話ではない。
神風は彼の置かれている“現状”と、その現状に対して、一向にあらがう様子を見せない彼の姿を見るのが嫌なのだ。
――国防海軍 第七近海監視所。通称『ナナカン』。
――そして海軍内でひそかに囁かれるもう一つの
――『提督の墓場』である。