私達が奉仕部に入った(比企谷君は強制ですが)翌日。今日はバイトがないため部室に行こうかなと思い、教室を出ると平塚先生が比企谷君を殴り、捕まえてるところを見かけました。
由輝子「平塚先生、体罰は禁止ですよ」
平塚「剣か、今日はバイトではないのかね」
由輝子「はい、それよりも先程の現場は問題になります」
平塚「うぐっ…!しかしだな……」
由輝子「しかしもなにもありません。訴えられてからでは遅いんです。気をつけてください」
平塚「わ、わかった……」
トボトボと平塚先生は去って行きました。
由輝子「大丈夫ですか比企谷君?」
八幡「剣か……。大丈夫だ」
由輝子「気にしないでください。身体が痛むようでしたら肩を貸します」
八幡「い、いや大丈夫だから気にしなくてもいいぞ」
由輝子「……わかりました。ですが無理はしないでくださいね」
八幡「あ、ああ……」
由輝子「では行きましょうか」
~部室~
八幡「うーす」
由輝子「おはようございます」
雪乃「比企谷君はもう来ないと思っていたわ、もしかしてマゾヒスト?」
もしも比企谷君がそういう性癖の持ち主でしたら平塚先生に殴られた時点で何らかの喜びを感じていることでしょう。
八幡「ちげーよ」
雪乃「だったらストーカー?」
八幡「なんでお前に好意を持っている前提なんだよ」
雪ノ下さんは比企谷君に好意を持ってほしいのでしょうか?そういう風に聞こえますが……。
八幡「お前さ、友達いんの?」
雪乃「そうね……まずどこからが友達なのか定義してもらってもいいかしら?」
八幡「あ、もういいわ。友達がいない奴のセリフだから」
私もそう思います……。
八幡「お前人に好かれそうなのに友達いないとかどういうことだよ」
雪乃「私って可愛いから近づいてくる男子は大抵私に好意を寄せていたわ」
自分で自分を褒める人に碌な人はいませんよ。
それから雪ノ下さんの不幸自慢が始まりました。50回は女子に上履きを隠されたとかなんとか。私からしたらなんでもっと早い段階で対処しなかったんですかと思ってしまいます。
雪乃「だから変えるのよ。この世界を……」
世界を変える。その言葉の重さを雪ノ下さんは理解していますか…?生半可な気持ちでその言葉を口にしていませんか……?
コンコン
ノックの音が聞こえた。依頼人でしょうか?
???「し、失礼しまーす」
そう言って1人の女子生徒が入ってきました。
確か同じクラスの由比ヶ浜(ゆいがはま)さんでしたね。由比ヶ浜さんはキョロキョロしたと思ったら比企谷君を見つけて……。
結衣「な、なんでヒッキーがここにいんの!?」
ヒッキーとは比企谷君のことでしょうか?聞きようによっては引きこもりのように聞こえますよ。
八幡「ヒッキーって俺のことか……?引きこもりみたいだからやめてほしいんだけど……」
結衣「なんで?ヒッキーはヒッキーじゃん」
恐らくこれは何を言っても無駄なパターンですね……。比企谷君も観念した様子です。
~そして~
由比ヶ浜さんはクッキーを作って渡したい人がいるけど自信がないから手伝ってほしいという依頼のようです。……それってここに来る必要がありますかね?
八幡「そんなの友達に頼めよ」
普通ならそうしますよね。
結衣「それは…友達とはこういうマジっぽい雰囲気合わないし……。それに知られたくないから……」
それって本当に友達って言えるんですか?
……由比ヶ浜さんのいるグループを見る限り彼女は必死で場を繋げようとする立場で三浦さんのご機嫌をとっているように見えますがそれでも彼女達にとってはそれが友情だったりするのでしょう。
結衣「それに平塚先生から聞いたんだけど、この部活ってお願いを叶えてくれるんだよね?」
そうなんですか?そんな部活ならもっとこの部活は知名度がありそうですが……。
雪乃「いいえ、この部活は手助けをするだけ。飢えている人に魚を与えるのではなく魚の獲り方を教えるのよ」
ようするに自立を促すということですね。
結衣「な、なんかすごいね」
……多分由比ヶ浜さんはわかっていませんよ?
八幡「俺は何をすればいいんだ?」
雪乃「あなたは味見をしてくれればいいわ」
私達は依頼を遂行するために由比ヶ浜さんのクッキー作りに協力するために家庭科室へ行くことにしました。
~そして~
実際に由比ヶ浜さんがどれくらい料理ができるのかわからないので、彼女1人でクッキーを作らせたのですが……。
雪乃「理解できないわ……。どうやったらあれだけミスを重ねられるのかしら」
出来たのはジョイフル本田に売っている木炭といっても差し支えないものでした。渡したい人は炎タイプのポケモンか何かですか……?
雪乃「さて、どうすればいいか考えましょう」
雪ノ下さんはそう言いますがこんなの決まってるじゃないですか。
八幡「由比ヶ浜が2度と料理しない」
比企谷君は由比ヶ浜さんが料理をしないことを提案します。やっぱりそうなりますよね……。まぁ2度としないのは大袈裟にしても常識の範囲でレシピ通りに作れば普通のものができると思うんですよね……。
由輝子「由比ヶ浜さんが市販のクッキーを買ってそれを渡したらいいと思います」
ただ……彼女のこれはすぐに治りそうもありませんね。……急ぎで渡すのであれば市販のもので済ませた方がいいでしょう。だから私はそう提案しました。
結衣「それで解決しちゃうんだ!?」
雪乃「それは最終手段よ」
……一応視野には入れているようですね。
結衣「でもあたし、料理向いてないのかな?才能とかないし」
雪乃「解決方法は努力あるのみよ」
まあ、努力は必要でしょうね。時間はかかれど料理スキルはあって困ることはありません。
雪乃「まずはその認識を改めなさい。最低限の努力をしないで才能を羨む資格はないわ」
結衣「でもさ、こういうのみんなやらないっていうし…やっぱり合ってないんだよ」
雪乃「その周囲に合わせようとするのやめてくれないかしら」
結衣「え……?」
雪乃「自分の不器用さや愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」
雪ノ下さんは嘘を言わない。正直にきついことをはっきりと、オブラートに包むことを知りません。もしかしたらそれが原因で敵を作ってるのではないでしょうか?
結衣「か、かっこいい…!」
雪乃「……は?」
どうやら由比ヶ浜さんは敵には含まれないようですが。
結衣「建前とか全然言わないんだ……。なんていうか……かっこいい!」
由比ヶ浜さんは周りに会わせてばかりのようですからね。それは違うと言ってくれる人がいなかったのでしょう。
結衣「ごめん……次はちゃんとやる!」
雪ノ下さんにとっては初めての経験でしょうね。正論を指摘して謝られるのは。
八幡「…正しいやり方を教えてやれよ」
由輝子「それがいいと思います」
雪乃「そうね……。お手本を作って見せるからその通りにやってみて」
雪ノ下さんはそう言ってクッキーを作り始めた。
~そして~
結衣「雪ノ下さんのとなんか違う……」
雪乃「どう教えればちゃんと伝わるのかしら」
八幡「なあ、なんでお前らは美味しいクッキーを作ろうとしてんだ?」
結衣「はぁ?」
八幡「お前、ビッチのくせにまるで男心をわかってないな」
結衣「ビッチ言うなし!」
由輝子「比企谷君は何かわかったんですか?」
八幡「ああ、10分後にここへ来てください。俺が本当の手作りクッキーを教えますよ」
比企谷君はニヤリと笑いながら言いました。10分後には答えがわかるでしょう。
~そして~
雪乃「……それがあなたの手作りクッキーかしら?」
八幡「ああ」
成程、そういうことですか。
結衣「なんか、あんまり美味しくない……」
八幡「そっか……悪い、捨てるわ」
結衣「べ、別に捨てなくても…!そんなに不味くなかったし!」
八幡「…それはお前が作ったクッキーだ」
結衣「え?」
雪乃「どういうことかしら」
由輝子「比企谷君が言いたいのは由比ヶ浜さんが一生懸命作った姿勢を伝えればいいんです。それで男心が揺れるということでしょう。まぁ私は女子ですからいまいちわかりませんが……」
結衣「そ、それでヒッキーも揺れるの?」
どうやら由比ヶ浜さんがクッキーを渡してお礼を言いたい相手は比企谷君のようですね。もしかして1年前の事故が関係してるのでしょうか?だとすると遅すぎるような気がするのですが……。
八幡「ああ、揺れるね。……って言うかヒッキーって言うな」
雪乃「由比ヶ浜さん、どうするのかしら?」
結衣「うん、あとは自分でやってみる!ありがとね雪ノ下さん、剣さん、ヒッキー」
そう言って由比ヶ浜さんは帰っていきました。……後片付けくらいしましょうよ。
~翌週~
雪乃「あれでよかったのかしら?」
今日はバイトまで時間があるので部室に顔を出して読書をしていたら雪ノ下さんがそう言いました。
由輝子「私はあれでいいと思いますよ」
雪乃「そうかしら?私はもっと自分を高めるべきだと思うの」
由輝子「それも由比ヶ浜さんのためになりますが依頼の内容は手作りクッキーを作ることですから奉仕部の理念としてはこれで依頼は達成してます。人が食べられるレベルであれば問題ないでしょう。ですよね比企谷君?」
八幡「まあ、そんなもんだ」
コンコン
雪乃「どうぞ」
結衣「やっはろー!」
由比ヶ浜さんが変な挨拶をして入ってきました。
雪乃「何か?」
結衣「あれ?あんまり歓迎されてない……。もしかして雪ノ下さんてあたしのこと嫌い?」
雪乃「嫌いではないわ。少し苦手なだけ」
結衣「それ、女子言葉じゃ同じだからね!?」
女子言葉ってなんか大雑把ですね。私は女子ですが使いませんよ?
由輝子「私はバイトがありますのでお先に失礼します」
私はそう言って部室を出ました。
結衣「待って、剣さん!」
由輝子「はい?なんでしょうか?」
由比ヶ浜さんはクッキー?の入っている袋を私に渡してきました。
結衣「剣さんにもあげる。お礼の気持ちだから!」
由輝子「……ありがとうございます。お礼、渡したい人に渡せたらいいですね」
結衣「うん、ありがと!剣さん」
由比ヶ浜さんがそう言い私はバイトに向かいました。
~そして~
美咲「……由輝子ちゃん、それ何?」
バイト前に美咲が私が持っている袋に対して怪訝な表情を浮かべながら聞きました。
由輝子「これですか?お礼にともらったものです。本人曰くクッキーだそうです」
美咲「……私には炭に見えるよ」
由輝子「私もそう見えます」
別称『ダークマター』ですね……。
美咲「それ、食べるの……?」
由輝子「それが依頼ですからね。それに、一生懸命作ったものです。食べるのが礼儀であり、本人のためです」
依頼じゃなかったらそのまま棄てるつもりでしたけどね。
美咲「……ファイトだよっ!」
美咲さんの『ファイトだよっ!』頂きました。ダークマターがなんぼのもんです!
由輝子「はい、いただきます」
一口食べると私の視界は真っ暗になりました。バイトが終わってからにしたらよかったですね……。
~そして~
気がついたら私は自室のベッドにいました。
どうやら美咲さんがここまで運んでくれたみたいですね。バイトの方も休みにしてくださったようです。
本当に美咲さんには頭があがりません。
はい、今回はここまでです。次回もなるべく早くにあげたいものです。
この小説の登場人物である佐野美咲がヒロインの√を現在考え中ですが……。
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見たい
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なくてもいい
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そんなことより原作キャラの√がよか!