シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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奏の屋敷でのアッシュとナギサちゃんの出会いと日々を書く予定で、そのための前フリとしてアドラーがどういう情勢にあったのかを書くだけの予定だったのですが、作者のヴァルゼライド総統閣下への思いが昂ぶって筆が乗った結果、空気が違いすぎるので別けることとしました。
ちなみに作者は銀英〇も大好きです。総統閣下が如何にして改革派の指導者になったのかとナギサちゃんの両親がどうしてあんなダイナミック自殺を敢行したのかに対する妄想混じりの前フリになります。

ナギサちゃんの両親はナギサちゃんの優しい性格や外国人であるアッシュが娘と仲良くなっていたことにとやかく言ってなかった感じなのを見るに、多分娘想いのいい両親だったんだろうなと考えています。屑ではなかった。だが、恐怖によって選択を誤ってしまった普通の人、そんなイメージで描いています。


改革者ヴァルゼライド

新西暦1026年。軍事帝国アドラーは激動の中にあった。

4年前の新西暦1022年、当時まだ大尉であったクリストファー・ヴァルゼライドを被験者とした星辰奏者技術の発見は、アドラーに莫大な恩恵と同時に改革派と血統派の抗争の激化を招くこととなった。

腐敗した上層部により、帝都にて飼い殺しにされていたヴァルゼライドはこの功績により少佐へと昇進。血統派の圧力によって壊滅寸前であった改革派の筆頭へと躍り出ることになる。

 

当初は所詮は戦うだけが能の卑賤の出である男、戦場の英雄であろうと政治や交渉の場では素人も同然。すぐにでもボロが出てあっという間に転落するだろうと高をくくっていた血統派の面々だったが、そんな希望はあっけなく瓦解する事となる。

決して折れること無き不屈の意志、自分に至らぬ所があれば積極的に教えを請う態度、そして一片の疑いもなく真実国家へと滅私奉公するその姿勢は、彼と同じく不遇の身にあり、体制への不満を抱く多くの俊英官僚たちを惹きつける事となり、彼は瞬く間に改革派を掌握。

青息吐息の状態であった改革派は未だ不利ながらも、血統派とやり合えるだけの一大勢力となる。

 

仮に、これはもしも仮にの話だが最初から血統派の面々がヴァルゼライドを帝都に呼び寄せずに、二年もの雌伏の期間を彼に与えていなければ、如何に彼とてこれほどに容易く改革派を掌握することは出来なかっただろう。「所詮無学な卑賤の出」、血統派程露骨でないにせよ、東部戦線で有名を馳せていた頃のヴァルゼライドに対する中央の文官や士官学校を卒業したような俊英たちの認識は概ねこのようなものだったのだ。

中には彼の盟友たるギルベルト・ハーヴェスのように直接彼と会った事で心酔した人物もいたが、それもあくまで彼と直接邂逅していたからこそ。東部戦線においてと末端の兵士に対しては熱烈な支持を誇るが、国家の中枢を担えるような教育を受けた所謂エリート層のヴァルゼライドへの評価は必ずしも高いものではなかったのだ。

 

だが、血統派は彼を飼い殺す目的で中央に呼んでしまった(・・・・・・・・・・)、この目論見は確かにある一定の成果を挙げる事となる。破竹の勢いで武功を重ね、名声と共に階級を上げていた英雄は2年ほどの停滞を余儀なくされることとなった。

ヴァルゼライドがただ戦うことだけしか能のない存在であれば、おそらくはそのまま飼い殺されて終わる事となったのであろう。自らの不遇さを嘆き、かつては英雄と呼ばれた事もある男。そんな、政治的に抹殺された軍事的英雄という歴史において吐いて捨てる程の凡百として。

 

だが、クリストファー・ヴァルゼライドという男はあいにくと諦めや逡巡と言った言葉を名前すら知らぬ母の胎内へと置き忘れた英雄(きょうじん)であった。彼は不遇の身にありながらも決して諦めなかった。日々の軍務を完璧にこなしながら、同じく不遇の身にあり、現体制へと不満を抱いている者達の下へと積極的に足を運んだ。

そうして真摯に頭を下げ、教えを乞うたのだ。「無学なこの俺に貴殿の持つ知識をどうかご教授願いたい」と。そしてその不屈の瞳で相手に対して語りかけた。自らの抱く理想を。この国に繁栄を齎したいという偽りなき願いを。

 

後はもはや語るまでもないだろう、真っ直ぐで折れぬ信念というものは人を魅了する。子どもの頃に自らも思い描いたこんな風になりたい(・・・・・・・・・)と願った理想像。過酷な現実に折れる前に自分が抱いていた理想を抱き続け形にせんと足掻き続けている男。

そんな男を目にすればほとんどの人間は正気ではいられなくなる。彼らは皆喜んでヴァルゼライドの力となる事を口々に誓い、自分が持ちうる知識の全てをヴァルゼライドへと授けた。

 

かくしてクリストファー・ヴァルゼライドは国家を運営するに当って必要な知識と同じ理想を抱く改革派の同志からの絶大なる支持、この二つを二年間の間に獲得し、血統派と渡り合う事が出来るだけの地盤と力を養ったのであった…。

 

それでもまだ、それだけであれば血統派の牙城を完全に崩すには至らなかったであろう。

忌々しく、死ねば心の底から喝采を挙げる政敵。だがあるいはひょっとすると自分達が処刑台に送られるかもしれない、そんな恐怖を抱く程ではなかった。だが、そんな風に考えていた血統派に激震が走る事となる。

 

第七特務部隊裁剣天秤(ライブラ)隊長チトセ・朧・アマツ大将と改革派筆頭クリストファー・ヴァルゼライド大佐の結託。そして深謀双児(ジェミニ)隊長となったヴァルゼライドの盟友ロデオン少将の支援を受けた両者の巧妙な連携による、血統派の重鎮であった淡に対する粛清劇。

これらは血統派の面々に重大な危機感を抱かせた。ついに鋼の英雄と朧の断罪の刃は貴種である自分達にすら届くようになったのだと。

鋼の英雄と裁きの女神に対する民衆の歓呼の声が大きくなるほどにその恐怖は彼らを鷲掴みにしていく。次に粛清されるのは自分たちなのではないか?

かつて旧暦に置いて起きたフランス革命のように血に飢えた民衆たちは血統派のアマツであったというだけで罪の無い子ども(・・・・・・・)でさえもギロチンへとかけるように求めるのではないかと。

 

かくして恐慌に駆られたとある血統派の重鎮は致命的なまでに選択を誤る事となる。すなわち、エスペラント技術を手土産にしたカンタベリーへの亡命の決断である。

その決断こそが国賊を決して許さぬ鋼の英雄と裁きの女神の執行書へのサインだと気づかぬままに……

 




エスペラント技術を手土産に亡命しようとするとかいうヴァルゼライド総統、チトセネキ、糞眼鏡、カグツチ、アルバートのおっちゃん、アオイさんというアドラーオールスターを敵に回すエクストリーム自殺

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