シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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イヴの案内するVIPルームにいるのは当然ながら極上の美女ばかりです。
まさに男の桃源郷と呼べる場所でしょう。それこそその夢に向かって飛べるなら
蝋の翼が太陽によって溶け落ちたとしても後悔ないと思える位の。


天は全てを照覧し、人は日々の積み重ねを見ている(下)

「なぁイヴ、疑っている訳じゃねぇけどよぉこれから行く部屋にいる娘たちはどんな娘達なんだ?」

 

ゼファー・コールレインが訝しがりながら問いかけを行う。今日ゼファーたちが訪れていているのは帝国においても最高峰と謳われる高官や金持ち御用達の高級娼館。当然ながら所属しているのは美女ばかり、そこらの安い店に入った時に起こりがちな悲劇などあろうはずもなく、そういう点では信用しているがやはり気になりはするもので……

 

「心配しなくても皆とっても良い子達ばかりよ。7人いるんだけどね、ゼファー君とアッシュ君のファンって子達がそれぞれ3人ずつ。グレイ君の相手をしたいって子が1人って感じね」

 

そんなゼファーの問いに対してイヴは笑顔でそんな風に答えた後に

 

「ごめんなさいね、ルシード君とグレイ君の相手をしたいって子が少ないけど別にこれは二人に魅力が無いってわけじゃないから気を落とさないでね。足りない分は私がしっかり愛させてもらうから」

 

申し訳なさそうな様子で二人へと話しかける。

 

「いやなぁにイヴさんが気にする事じゃないっすよ。まあ俺はこっちに来ることがほとんどないからその辺はしょうがいですって。ちなみに俺の相手をしたいって子はどんな子なんですか!?」

 

そんなグレイの返答に対してイヴはそうねぇと思案する顔を浮かべて

 

「一見すると不真面目に見えるんだけどその実とてもプロ意識が高くて誇り高い子よ。グレイ君みたいな子を見るとどうにもほうっておけなくなるんですって」

 

「母性の強い人って事ですか!?良いですねぇ、最高じゃないですか!」

 

そんなイヴの言葉を聞いてガッツポーズを行なったグレイに続いて今度はルシードがイヴへと答える

 

「僕はそもそもお赤飯来るまでの子以外興味ないから別に問題ないよ。しかし、アッシュはともかくゼファーのファン?誰何だいその奇特な子達は?」

 

アシュレイ・ホライゾンは女性人気が高い。何せ高収入と高い地位を持ち、それに留まらず本人自身も整った容姿と引締められた肉体をしており、外交の場で培った話術に所作、服装も洗練されたものであり、パッと見で如何にもなエリートと行った大よそ女性にモテる要素を有しているから当然といえば当然である。

一方のゼファー・コールレインはいまいちパッとしない。ライブラ副隊長という高い地位を有しており、当然収入のほうもかなりの高給取りなのだが、そういったステータスに惹かれた女性は大体エリートとは程遠い本人の内面を知って幻滅するからである。この辺は如何にも貴公子然とした風貌と財力を有しながら、ロリコンという拭い難い宿業を負っているゼファーの親友も同様である。

そんな親友の実情をよく知っているからこそのルシードの問いだったのだが……

 

「ふ、やっぱりわかっている子っていうのはいるもんなんだなぁ。でイヴ、その俺のファンって子はどういう子なんだよ?」

 

調子に乗ったゼファーはそんな風に問いかける

 

「うーんそうねぇ、一人は神秘的な感じの子ね。もう一人はとっても家庭的で優しい、一緒にいてくれるだけで心が安らぐような子。そして最後の一人はなんとアマツの娘よ。ゼファー君の大好きなとっても大きな胸をしていてアマツの象徴である漆黒の髪をしたとっても美人のね」

 

アマツの娘、それを聞いた瞬間に四人の中に驚愕の波が広がる

 

「アマツって……おいおい、マジかよそりゃあ!?どっかの没落した家の子がやむを得なく~とかそういうアレなのか!?」

 

「うーん、その辺のプライベートな話は本人と仲良くなって聞き出してみて頂戴。後ね、実はその子今までこういう仕事やったことがなくて今回が初めてなのよ。だから経験豊富なゼファー君が色々とフォローしてあげて欲しいの」

 

「おいおいおい、なんだよそのあざとさの塊みたいな新人は!?任せておけイヴ、この俺が優しくリードして見せるからよ!!!」

 

ゼファーがイメージするのは如何にもたどたどしい様子の恥じらいに溢れた深窓の令嬢。今の彼はまさしく尊き者を汚さんとする傲岸不遜な畜生王。乾いた股間がうずうずしている邪悪な狼である。早急な駆除が求められる。

そうして涎を垂らさんばかりのだらしのない表情をしだしたゼファーはキリっとした顔をグレイの方に向けて

 

「ふ、ハートヴェイン少佐。先輩の余裕と言うやつだ、今日は君に譲ろうじゃないか。存分にイヴと楽しむと良い」

 

などと言うものだからグレイは呆れ顔で

 

「あーゼファーさんってひょっとして、そういう良い所のお嬢様を汚したい願望みたいなの持っていたんですか?あんまり泣かせるような事しちゃ駄目ですよ、初めてなんでしょ、その相手の子?」

 

レディに対して優しい紳士を自認している男は、そんな相手の少女の境遇を慮ったことを口にする。こういう男で金払いも気前が良いので実はこの男、この手の業界の女性からはすこぶる評判が良いのである。彼がしばらく帝都へと行く事を残念がったプラーガの女性たちの言葉は決してリップサービスや金づるがしばらくいなくなることに対するだけのものではなかったのだ。

そんなグレイの言葉にゼファーもまた心外だとばかりに答える。

 

「いや、俺もさすがにそこまで外道じゃねぇよ。単になんつーかよぉ、恥じらいみたいなのに飢えているだけなんだよ!なんか吹っ切れてやたらと肉食になった上司に四六時中狙われている身としては!!!同じアマツなんだからあの子の10分の1で良いから恥じらいを持ってくれればよぉ!」

 

アマツと聞いてゼファーの脳裏に真っ先に浮かぶのは鉄の女だと思っていたらある日突然メスライオンへと変貌した己が相棒にして上官。間違いなくイイ女ではあるのだが、あそこまで押されると色々となんというか重いのだ。

度々世話になるイヴにしても割かしその辺ノリノリのタイプなので、まあそんなこんなでゼファー・コールレインは恥じらいがあってエロい事をして良い女性というものに飢えていた。

 

そうしてゼファーは再び如何にも深窓の令嬢と言ったか弱くもエロいボディをしたお嬢様を妄想しだして……

 

(いや、待てアマツのお嬢様ってどこの人間だ?)

 

思考の隅にそんな引っ掛かりを憶える。英雄閣下の台頭をきっかけに多くのアマツは失脚して、腐敗が度を越したレベルだった家は粛清を受けた。ゆえに現在現存している家はヴァルゼライドに早期に協力を申し出た朧と漣の二家。この二家の現在党首を務めている両名はゾディアック隊長も務める女傑でヴァルゼライドからの信任も厚い。まさに貴種と呼ぶにふさわしい家だ。この両家からこの手の界隈に来るような令嬢が出るはずがない。

続いてヴァルゼライドが総統となってから臣従を敢行した潮と奏の二家。こちらの二家はいくつかの汚職はあったものの、酌量の余地があると判断されて、ある程度の私財没収及び公職からの失脚程度で済んだ。今ではわずかに残った財産と古くから仕えている使用人と共に慎ましやかに暮らしている。両家の令嬢も潮の方は優れた研究者として軍で活躍しており、奏の方の令嬢はある意味では最重要と言える任務を国より与えられて見事それは成功したようだ。そんなわけでこの両家もこの界隈に流れ着くような人物が出るほどではない。

最後に残ったのは淡の家、ここはかなり腐敗がひどかったので処刑こそ免れたものの実質的なお家取り潰しになったわけなのであるいはこの家かと思ったが……

 

(いや、でも確か一人娘がエスペラントの適性あったみたいで今は罪滅ぼしのために軍で働いているんだったな)

 

アドラーでは英雄閣下の行った美談の一つとして有名な話だ。無知ゆえに多くの罪を重ねてしまったアマツの令嬢。慈悲深き総統閣下はその少女自身の罪ではなく、環境の罪だと判断してその少女の更生のために忙しい職務の傍ら懇切丁寧に言葉を尽くしたという。

かくして己が過ちを悟った少女は自らの罪を償うために、エスペラントとして日夜軍で任務に励んでいると……確かアドラーには掃いて捨てる程いる英雄閣下信者の部下がキラキラした眼で熱く語っていたのを覚えている。故に淡の家もあり得ない。

そうなって来ると後は文字通り粛清された家ばかりで、生き残りなどおらず、いたとしてもアドラーに残っているはずもないわけで…………何か何か自分は見落としているのではないか、そんな風に第六感が囁いてくる。

それは隠密作戦だと思っていたら、実態は敵に筒抜けで任務の場所に赴くと準備万端の敵が待ち構えていた死地であった時のような感覚。今すぐここから逃げるべきだとゼファーの鍛えられた直感が囁きだすが……

 

(アホらしい)

 

イヴが自分達を裏切るはずもないし、この場にはゾディアック副隊長が二名に加えてスフィア到達者なんていう怪物までいるのだ。命の危機があるようなことなどまずありえない。そうしてゼファー・コールレインは今まで幾度も自分を救った直感からの警告を無視してしまったのであった……

 

そうして黙ったゼファーを尻目に今度はおずおずとした様子でアッシュがイヴへと話しかける

 

「あのイヴさん、その自分に好意を抱いている子がいるという事なんですが……自分にはもうナギサにアヤにミステルがいるんで、その思いに応えることは申し訳ないですが、出来ないですよ」

 

そんなアッシュの言葉にイヴは眼を丸くした後にどこかからかう様な口調で

 

「あら、その三人も加えて六人の奥さんにしようとは思わないの?貴方の収入や立場ならば別に問題ないと思うのだけれど?別に正式な奥さんじゃなくたって例えば愛人にするとか?」

 

そんな問いかけに対して今度はアッシュはきっぱりと答える

 

「いえ、それはしません。三股かけておいて何を今更と思われるかもしれませんが、俺が真実愛しているのはあの三人だからです。なので行なうとしてもあくまで友人としての会話までです。一線を越えるような真似は絶対しません、それは、俺の愛する大切な人達への酷い裏切りだと思うからです」

 

そんなアッシュの宣言に彼の中に眠る煌翼はそれでこそ尊敬すべき我が比翼だと満足気に頷く。そうして呆気をとられたような顔を浮かべた後にイヴはクスクスと笑い声を立てて

 

「本当に真面目なのね、アッシュ君は。でもね、貴方の相手をする子達も決して貴方の地位とかに目が眩んだというわけではなくて、本当に貴方の事を大切に思っている子達なのよ。だから、きちんと貴方から今言った思いを伝えてあげて頂戴」

 

「わかりました。確かに断るにしても自分の口からしっかりと伝えるのが誠意ですからね。きちんと俺自身の口から、今語った思いをその人達に伝えさせて貰います」

 

真摯な瞳で自分を見つめるイヴの言葉にアッシュはそう答えるのであった。そうしてひとしきり会話をしていると館の中でも一際大きな部屋へとたどり着いて

 

「さあ、ついたわよ。どうか夢のような時間を過ごしてね」

 

その言葉にゼファー・コールレインはさっきまでの埒も無い考えを振り切り、再び深窓のアマツの令嬢との行為へと思いを馳せる。グレイ・ハートヴェインもまた夢見心地である。ルシード・グランセニックは適当に楽しんで、自らの本命に対して思いを馳せ頬を紅潮させる。アシュレイ・ホライゾンは絶対に流されてはならないと気を引き締め、まるで戦場に赴くような覚悟を固め、ヘリオスはそんな己が半身を見定めるかのように静かに彼を内から見つめていた。そうしていざ桃源郷への扉が開かれ、彼らを出迎えたのは……

 

「ようこそいらっしゃいました、コールレイン様。私チトセ・朧・アマツと申します。何分この仕事は初めてで不慣れな故にご迷惑をおかけするかもしれませんが、精一杯ご奉仕させて頂きますのでよろしくお願いいたしますね」

 

恍惚とした笑みを浮かべる漆黒の髪ととても豊かな胸を持ったアマツの令嬢(ただし浮かべる笑みは獲物を見つけた肉食獣のそれである)

 

「うふふふ、胸がつるーんでぺたーんな無い胸で悪かったわねゼファー。代わりにたっぷりとその無い胸に詰まった貴方への思いを送らせて貰うわね」

 

満面の笑み(笑顔とは本来攻撃的なry)を浮かべながら仁王立ちをしてゼファーを見つめる毒舌ロリオカン

 

「兄さんってそのおっきいお胸の人が好きなの……?」

 

おずおずとした上目遣いでそんな事を問いかけるゼファー・コールレインの天使

 

「アッシュ様……ああ、アッシュ様そこまで私達の事を思ってくださるなんてアヤは……アヤは……!!」

 

恍惚とした表情を浮かべる発情した雌猫の如き状態の頭ピンクのキリガクレ

 

「ありがとうアッシュ君、私たちも貴方の事が大好きよ」

 

年長者ぶろうとしながらも隠し切れない喜びが窺えるシスター

 

「わ、私たちだって負けない位アッシュの事が大事なんだからな!きょ、今日はそのことを私たち三人で教えてやるから覚悟しろ!」

 

真っ赤な顔を上ずった声でそんな事を告げるどこまでもあざといアマツ

 

というドレス姿でめかしこんだ見知った顔の女性達六人と

 

「おう、グレイ帰るぞ。別にお前が自分の金で遊ぶ分には構わんが、流石にホライゾンの奴を利用して国費で遊ぶってのは見過ごせん。アレはあくまでホライゾンのやつに恩を売って首輪をつなぐためのもので、お前らが遊ぶための金じゃないからな」

 

常と変わらぬ気だる気な様子な軍服姿の女性であった……

 

 




果てなき夢に向かって飛翔した後は定められた末路へと墜落するのみです

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