シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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グレイや姐さんが帝都に来ている理由付けはツッコミどころ満載だと思いますが寛大な心でお願いします。
某阿片窟で焚かれていた阿片を参考にした、ルシード、ゼファー、グレイ、アッシュの野郎四人がイヴさんのところを訪れる前振り的な話になります。


天は全てを照覧し、人は日々の積み重ねを見ている(上)

「ふ~終わりやしたね姐さん」

 

緊張によって縮こまっていた身体を解すように身体を伸ばしながら東部駐屯部隊・スコルピオ(猟追地蠍)にて副隊長を務めるグレイ・ハートヴェイン少佐はセントラルを後にしながら傍らの己が上官ヴァネッサ・ヴィクトリアへと言葉を投げかける。

 

「ああ、明日以降はまた色々と面倒な仕事があるが。今日のところはこれで終了だ、ご苦労だったな」

 

そんな己の副官にヴァネッサもまたどこか気だるげな様子で答える。

 

「しっかし、わざわざ帝都まで来にゃならんとは新体制も色々と面倒っすねぇ。うちの部隊は俺と姐さんが同時にいなくなったりして本当に大丈夫なのか少し不安っすよ」

 

「ま、仕方がないだろう。何せ押せ押せガンガン(領土拡張主義)だった頃と違って、今は治安維持が主な私ら(軍人)の任務になっているんだ。前は私ら(駐屯部隊)バルゴ(征圧部隊)の半分お目付け役だったが、今度はこっちが中央に見張られる番って事だな」

 

アンタルヤとカンタベリーとの友好条約の締結によるパクス・アドラーの到来。それは建国以来領土拡張主義を行ってきたアドラーにとってシステムの一大転換を迫られる事になった。すなわち、勝利をより多くの勝利をとひたすらに前進し続ける体制から獲得した勝利と平和という果実を守り、維持するためへの変更である。

そうなってくると必然的に駐屯部隊の権限及び規模は強化されることとなってくるわけだが、そうなってくると中央にとって怖いのが隊長による部隊の私物化、ひいてはある種の軍閥のような存在となって中央のコントロールから離れてしまうことである。

これを防ぐために実施されているのがまさしくこうしてヴァネッサとグレイの両名がこうして中央を訪れている理由、すなわち隊長と副隊長の定期的な中央への召集、及びその間の特務部隊ライブラによる査察である。

当然ながら隊長と副隊長が同時に不在ともなれば部隊の効率を著しい低下を余儀なくされるため、戦時においてはとてもではないが取れない手段なのだが、今のアドラーはまさしくその戦時体制から平和な時代への体制へと移行している最中。つまりは外敵だけではなく、内部で発生する不和や反乱の芽をどれだけそれが発生する前に摘み取るかを考えねばならない時代となったのである。

 

「だけど本当に必要なんですかねぇこんな事。正直総統閣下と直に会ってあの人相手に勝てるとか思える奴は、よっぽどの大物(カグツチ)かさもなくば救いようのないアホ(ウラヌス)のどっちかだと思うんですけど」

 

先ほどまで会っていた人物のことを思い出しながらグレイはしみじみとした様子でそんなことを呟く。一目見て痛感させられた。あの人は自分などとは違う(・・・・・・・・・・・・)。強さとかそういうのだけではない、本当に同じ人間なのかと疑いたくなるような御伽噺からそのまま現実へと現れた英雄、それがクリストファー・ヴァルゼライドという男だ。

 

「ま、確かに。あの人に逆らおうだとか思うアホは今のアドラーにはいないだろうな。私含めて今の隊長連中は大体があの人に引き立ててもらったみたいなものだ。恩義みたいなものもあるし、あの人の凄さもそりゃもう散々に実感させられている。そもそも仮にクーデター起こそうとしたところで下の連中が納得しないだろう。あの人が健在(・・・・・・)の内はな」

 

そんなヴァネッサの言葉にグレイはハッとしたような表情を浮かべて、そんなグレイの様子を見てヴァネッサもまた表情を変えぬままに頷く。

 

「理解しただろ。まあつまりはそういう事さ。あの人はもう今のうちから自分がいなくなった後の事も考えて色々とやっているんだろうさ」

 

ヴァルゼライドを相手に勝てるなどとは到底思えないとグレイは言った。ならばヴァルゼライド以外が相手だった場合は?ヴァルゼライドとて非常に疑わしいが人類であることは変わりないのだ。当然不老不死のはずもなく、いずれは亡くなる事となるだろう。その時にヴァルゼライドがリーダーであることを前提とした体制を作っていては必然無理が生じ、国に大きな混乱が生じる事となるだろう。だからこそヴァルゼライドは既に自分以外の者がトップとなったとしても問題のない、より過激な言い方をすれば自分が不要となる体制を構築しようとしているのだ。皮肉にも誰よりも民から必要とされている人物が最も自分が不要となる世界を望んでいるという皮肉な光景がそこにはあった。

 

「ま、その辺の難しい話はこの辺にしておくとしてだ。もう仕事は終わったんだし、行って良いぞ。確かホライゾンやコールレインたちと会う約束をしているんだろう」

 

私の方は私の方でチトセの奴と会う事になっているからななどとヴァネッサはグレイへと告げる。

 

「うす、それでは失礼させてもらいやす姐さん!もしも俺が恋しくなった時はいつでも呼んでください!貴方のためなら野郎共などほっぽり出していつでも駆けつけますんで!」

 

「言ってろ馬鹿が」

 

大真面目にそんなことを告げるグレイにヴァネッサは苦笑して、そうしてアドラーにおいて東部駐屯部隊を任されている隊長と副隊長は別れるのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほうほうつまりつまり、三人の内誰かではなく三人全員嫁にすることにしたと。ってなんじゃそりゃーーーー!!!」

 

久方ぶりに帝都を訪れて集まることとなったアッシュ、グレイ、ゼファー、ルシードの四人。全員が全員高給取りでかなりの地位にあるという婚活女子垂涎の獲物なのだが、今の彼らからはそんなエリートの風格のようなものはなくどこまでも気の合う友人たちと馬鹿をやる男共のそれであった。

そうして互いの近況を話し合っていたわけなのだが、グレイが奥手の親友をからかうつもりでとある問いかけをアッシュに対して行ったのだ。すなわち「少しは進展したのか、結局誰が本命なのだ?」と。

慌てふためく童貞を酒の肴にしようという意地の悪い発想だったのだが、その問いかけをされたアッシュはどこか真剣な表情をして

 

「三人全員と結婚する事にした」

 

などとのたまい、かくしてグレイ・ハートヴェインの叫びが木霊する事となったのであった。

 

「貴族出身の金髪巨乳の騎士様に、とことんあざといアマツのお嬢様、それに大和撫子の象徴みたいな子の三人まとめて嫁にするとか独占禁止法違反だぞこの野郎!一発殴らせろ!俺が世の男共を代表してこの圧制を是正してやる!!!」

 

そんなグレイの咆哮にゼファーもまた大きく頷きながら続く

 

「酒池肉林とか大概にしとけよお前。金、地位、女!とすべてを手に入れたこの勝利者が!英雄閣下みたいなトンチキはうらやましいとは欠片も思わんが、お前に関してはめちゃくちゃ羨ましいわ!!!」

 

そんな集中砲火を喰らいアッシュは

 

「いや、待て落ち着け。というかゼファーの方も大概だろう。お前にとやかく言われる覚えはないぞ」

 

血が繋がっているようで繋がっていない複雑な関係の神秘的な美少女と同居しながら肉食アマツの上官やまさに天使という他ない技術者一家の一人娘から好意を寄せられているゼファーへと矛先を逸らす。そんなアッシュの言葉を受けてゼファーは

 

「ばっかお前、俺とお前じゃ内容に雲泥の差があるだろうが。お前の方はとことん尽してくれる上にめちゃくちゃあざといお嬢様、しっかり者の金髪巨乳騎士のお姉様、家事万能で嫌な顔も小言も一切せずにとことん尽してくれる大和撫子。こっちはエスペラントじゃなかったとしても生身でリンゴ潰せる肉食系無敵ゴリラに毒舌ロリオカンだぞ。どっちも外見が良いことは認めるが、肝心の中身で雲泥の差があるだろうが」

 

意図的に一人省いてそんなことを言う。ちなみにこの男、口ではこんなことを言っているが実際はどっちもイイ女と認めている。ことヴェンデッタとチトセ・朧・アマツに関することになると妙にツンデレのような感じになるのがゼファー・コールレインと言う男である。そんな事情を知っているアッシュは苦笑して告げる

 

「本当にあの二人が絡むと素直じゃなくなるよなゼファーは。知っているんだぞ、口ではそんなことを言っているけど、どっちも素敵な女性だってお前が思っているのは。それと、一人抜けているけどミリアルテさんに関してはどうなんだよ」

 

「ミリィに関してはその・・・アレだよ、俺にとっては妹みたいな子であってだな・・・」

 

そして二人にはツンデレだがミリィに対してだけはどこまでもデレデレなのがゼファー・コールレインという男。照れ隠しだろうと彼女を罵倒するようなことを口にできずに口ごもる。

 

「だー俺の方はどうでも良いんだよ!今重要なのはお前がくっそ羨ましい恵まれた立場にあるって事だろうが!なあ、そうだろうルシード!?さっきから黙っているけどお前だってこのハーレム野郎に何か言ってやりたいことがあるよな!?」

 

そんな風に矛先を再びアッシュに戻そうとするが

 

「うーん、僕としては別に羨ましいとかけしからんとかそういう思いないんだよねぇ。仮に8年位前の、まだ麗しい成熟する前の青い果実だった頃の彼女たちを侍らせているようなところに出くわしていたら、きっと嫉妬の炎が燃え盛っただろうけど」

 

そんなどこまでもぶれないロリコンぶりを示す事をグランセニックの御曹司は言うのであった。そしてなおも続けていく

 

「それにハーレム云々なんてのはうちの国のお偉いさん方じゃ当たり前だからねぇ。うちの父親からして第八夫人だとか平気でいるし、一晩だけの愛人とかまで含めだしたらそれこそキリがないレベルだし。むしろ良くやるもんだなと感心するよ、度々妻同士の争いの仲裁で四苦八苦していたり、贈り物一つ送るにも妻全員に気を遣わないといけない親父殿を見ていた身としては」

 

ハーレムと言ってもそれは一般人が夢見るほど気楽なものではない。むしろ維持のためには細心の注意を男側が払う必要があるのだ。歴史上幾多の権力者はその扱いに苦心し、場合によっては王朝崩壊の原因とすらなるのが一夫多妻制であり、女の嫉妬である。かつて旧暦において一夫多妻が制度として認められていたとある国においては妻に一切の差をつけることが許されず、誰か一人にプレゼントをすれば全員にプレゼントをしなければならなかったという。多数の妻子を養うだけの経済力を有し、夜の生活でも不満を持たせることのない絶倫さを有し、日常でも不満を抱かせることのない包容力を有した極々一部の選ばれた男だけが許されるシステム、それがハーレムなのだ。

そんな男の夢を打ち砕くような事をさらりと告げながら、ルシード・グランセニック(生粋の上流階級)はそこで己が親友をジト目で見つめて

 

「むしろゼファー、僕が妬ましいのは君だよ。あの麗しき美の女神たるレディと一緒に暮らして、あのミューズすら歓喜の涙を流すであろう美声で叱って貰えるだなんて・・・・・・ああ、羨ましい!妬ましいいいいい!!!僕もレディに「もう、本当にしょうがない子なんだから」みたいな感じで叱って貰いたいいいいいい」

 

そんな筋金入りのロリコンの狂乱を目の当たりにして、空気を入れ替え話を戻すべくグレイは咳払いして告げる

 

「とにかくだ、俺が言いたいのはアッシュ、お前はメチャクチャ恵まれた立場だって言うことだ!ゆえにお前には恵まれた者としての義務を果たす必要があると俺は思うわけだ!そう、すなわち……かわいいレディ達とイチャイチャできる店におごりで連れて行ってください、特別外交官様」

 

そんな堂々としたたかり宣言を行うのであった。当然ながらアッシュは呆れ顔で

 

「いや、全然話が繋がってないぞ。というかお前だってかなりの高給取りだろう、スコルピオ副隊長」

 

「金ならねぇ!なぜならこの間新米の童貞卒業のためのおごりで使ったからだ!」

 

ドン!とそんな効果音がついているような堂々とした態度でグレイは告げる。そこに後ろめたさなどは一切ない。

 

「威張って言う事か、生憎だけど俺はその手の店に心当たりは……」

 

「嘘はいけませんなぁ、特別外交官殿。いいや、帝国歓楽街終身名誉VIP様。イヴのところも貴方だったら全て費用は国持ちの実質無料!そう小官は伺っておりますぞ!」

 

アッシュの言葉を遮るようにわざとらしくかしこまった様子でライブラ副隊長はそんなことを告げる。ハニートラップは古今東西の常套手段。アシュレイ・ホライゾン(スフィア到達者)に首輪をつなぐために帝国政府は様々な場面で厚遇しているわけだが、その一つがコレ。アッシュが仮に歓楽街を利用した場合は帝国政府が予め全額持つという取り決めである。最もアッシュはこの取り決めを今まで一度も使ったことはなかったが・・・・・・

 

「ほうほう、しかし特別外交官殿は我が国の国賓。総統閣下からもくれぐれも礼を失することがないようにと伺っています。そうなると当然護衛が必要となってきますなぁコールレイン少佐!」

 

グレイはにんまりとした顔を浮かべながら芝居がかった様子でそんなことを告げて

 

「おっしゃる通りかと思いますハートヴェイン少佐!そう、つまりはこれは公務であり任務!アドラーの軍人として果たさねばならない使命なのです!」

 

同じく芝居がかった様子でそんなことをゼファーは告げ、二人の馬鹿は目線を交わしあいガシッと硬い握手を二人を交わす。そうしてアッシュを見据えて

 

「「というわけでさあ行きましょう、ホライゾン殿!小官達が護衛としてお供をいたしましょう!」」

 

そんな公私混同や特権の濫用も良い所な言葉を若くして副隊長の地位にあるエリート二人は告げる。アドラーはもう駄目なのかもしれない

 

「というわけでじゃねぇよ!なんで今の話の流れでイヴさんのところに行く事になっているんだよ!ほら、ルシードもこの馬鹿二人に言ってやれよ!」

 

そんな先ほどまでハーレムだのなんだので文句を言っていた二人の掌の返しぶりに呆れたアッシュの言葉を受けてルシードは

 

「うん?そうだね、なあゼファー、別に僕は止めはしないけどきっとまたイヴのところに行けばレディから……」

 

そこまで口にしたところでルシードはハッとする。そうこのまま行けば、ゼファーはまず間違いなくヴェンデッタから叱られるだろう。自分だけ行く程度ならともかく、嫌がるアッシュを利用するようなマネをすればかなりしっかりとしたお説教を喰らう事になるだろう。だがもしもそこで、自分がゼファーたちを強引に誘ったという形であればどうだろう、レディのお叱りを自分が受けられるのではないか、そんな閃きがルシードの頭をよぎる。本人はさながら電流が走ったような悪魔的な閃きだと思っているが、実態は酒に酔ったことによる産物である。平時のルシードであればそこまでアホなことは考えなかっただろう

 

「行こう!ぜひとも行こうアシュレイ君、いやホライゾン殿!僭越ながらこのグランセニック商会アドラー支部代表ルシード・グランセニックがお供をさせていただきます!そしてコールレイン少佐に、ハートヴェイン少佐!あなた方には我々の護衛をお願いしたいと思います!」

 

「「承知いたしました、グランセニック殿」」

 

かくして援軍を要請したとルシードのまさかの裏切りにより、三面楚歌となったアッシュは強引に押し切られ、かくして野郎四人は酒場を後にして歓楽街へと消える事となるのであった……




ゼファーさんとグレイって同じ女好きな三枚目同士でかなり相性よさそうですよね

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