アシュナギ阿片の伝道者を自認しているのに最近かわゆいナギサちゃんが足りてないやん!と思い描く事にしました。
アドラーの一番長い日のナギサちゃん視点の話です。
「うーん、良い話だったなぁ。評判の作品だってアヤが言ってたけどこれなら納得だよ」
そんな風に呟いて私は物語を読み終えた満足感と寂寥感を覚えながら本を置く。話としては王道なものだ。特別な生まれだったりするわけではないが、優しくて大切な人のためなら勇気を出せる頑張り屋さんな男の子が好きな女のこのために頑張って、最後は結ばれてハッピーエンド。そんな話だ。アヤが言うには女性からは主人公の親友でもあり、女の子を巡って争うライバルにもなる王子様が特に人気らしい。
(うーんでも、私はこの主人公の男の子の方が好きだけどなぁ)
確かに王子様もカッコよかった。女性に対して気配り上手で気障な台詞も実に様になっていて、情熱的な言葉を囁いてくる。確かに女の子として、私もこんな風に好きな人に言われて見たいなぁなどとも思ったりした。それでもやっぱり自分は真面目でどこか不器用なところがあるけど、頑張り屋さんな主人公の男の子に好感を抱いたのだ。そう思ったのはきっと……
(どこかアッシュに似ているからかなぁ)
ふと、
(アッシュもひょっとしていつか物語の主人公になったりするのかなぁ)
そんな埒もない妄想をしだす。今、この世界には英雄と呼ばれる人物が二人同時に存在している。一人は言わずと知れたアドラーの生きる伝説第37代総統クリストファー・ヴァルゼライド。仮に尊敬する人物だとか、理想の上司だとか、最も英雄と呼ぶに相応しい人物などと言った内容で、アドラー国民総選挙だとかアンケートでも行なえば間違いなくぶっちぎりトップとなるだろう。本人が自身への批判や風刺などに対しても非常に寛容なのも合間ってすでにいくつもの劇の題材になっていたりする。……最もヴァルゼライド当人は自分がどんな風に描かれても許すとしても彼の熱烈な信望者達が黙っていないため下手な物は描けないが。
そしてもう一人はナギサ・奏・アマツの最愛の人物である三国友好条約成立の立役者であるアシュレイ・ホライゾン。こちらのほうは老若男女知らない者はいない、というかアドラーで知らないなどといえば確実に非国民扱いされるヴァルゼライドに比べるとまだ知る人ぞ知るみたいな知名度であるが。それでもまあ可能性は0ではないだろう。華々しい英雄譚と戦いによって彩られるヴァルゼライドに対してアッシュの方は表に出ている功績は主に交渉や外交方面での物になっているため仮に演劇の題材などにした場合かなり脚本の腕が問われることとなるであろうが。
まあ埒もない夢見る乙女の妄想にそんな事は言うだけ野暮である。なんせ彼女は一般人は知る由もない
(あの時のアッシュ……本当にカッコよかったなぁ)
アッシュはいつでもカッコいいけどなどととんでもない惚気を呟いてナギサが思い出すのは特異点にも平然とダイブしてきた愛しい男の姿。そうして強がることを辞めて、これから一緒にお互い支え合って生きて行こうと誓い合って……誓い合って……アレ?と、そこでナギサはふと思う。
(あの時のアッシュ、これから一緒に支え合って生きて行こうって……)
よくよくこうして冷静に(などと本人は思って居るが傍から見るとウカレポンチである)考えるとそれはもう、ほとんどプロポーズみたいなものではないだろうか……いやいや、落ち着こう。アレはあくまでお互いに強がることを辞めて、勝利とはあらゆる思いを許すことという自分達なりの答えへとたどり着いたことを示すものであって、そういう意味ではないはずだ。うん、だからそんな顔を真っ赤にするような事ではないはずだ。その証拠にその後のアッシュの詠唱は光と闇の旅路の果てにたどり着いたことを示すもので……示すもので…そこでまたアレ?となってナギサは思う
(わ、私思わず愛しい人よとかアッシュに対して呼びかけちゃったし、アッシュはアッシュでお前の全てが必要だとか言っていたような……)
考え出すともはや止まらない。ナギサ・奏・アマツはその時の事を振り返り、嬉しさと羞恥の入り混じった思いで完全に茹蛸と化して枕を抱えてジタバタと転がりだした。そうしてそんな奇行をあらかた終えて頭が冷えると考え出す
(アッシュ、私たちの事、どう思って居るのかなぁ)
気になりだしてくるのはそんな事。
アヤ……は聞くまでも無い「桃源郷はここにありましたよナギサ様!」などと満面の笑みで
ミステルのほうも聞いてみたところ「うーんまぁ、私もなんやかんやで実家が貴族だしねぇ。
私の方は言うと、一時は離れ離れになっていた大好きな人達とまた昔みたいに一緒に居られて、父さんと母さんにも問題なく時折会えて、義姉さんも時折遊びに来てくれてという不満など言ったら罰が当るような立場で当然文句などあるはずもない。
だがそういえば、アッシュ自身が今の状態についてどう思っているかを改めて聞いた事は無かった。そうなんといってもアッシュはモテないほうがおかしいのだ。カッコよくて優しくて、高給取りで、三国公認の特別外交官なんてエリートで、実家のホライゾン商会にしたってかなり裕福なところだ。それこそ、その気になれば選り取り見取りなのだ。ひょっとすると自分はアッシュにとってうっとおしくて重荷なのではないか……とナギサ・奏・アマツは先ほどまでの浮かれていた様子から一転そんなあるはずのない事を考え出してしまう。誰かに相談、例えばヘリオス辺りでも言えば、「貴様我が片翼を信じていないのか?」などと言われて「はーそんなわけないし!私がアッシュを疑うはずないし!」などと小学生染みた喧嘩をして、良い具合に頭に血が上ってそんな不安を吹き飛んだだろう。
アヤに相談すれば「なるほど……ナギサ様はそのように悩まれておられたのですね。ならば共にアッシュ様を誘惑して寵愛を頂きましょう!奪われる前に寵愛を得ればそんな不安は消えますとも!」などと言われてそのピンクっぷりに顔を真っ赤にしてすっかり不安は消えただろう。
ミステルに相談すれば「考えすぎよ。アッシュ君がそんな子かどうかもう一度冷静になってみなさい」」などと諭してくれただろう。だが何分一人で思考の迷路へと陥ってしまったがために中々その不安が消えない。信じたい信じている、だけどひょっとして……と大切な相手だからこそほんの少しに芽生えた不安が頭の隅にこびりついて離れない。そんな埒もないことを考えていると先ほど読み終えた本がふと目に映って
(ああ、そっか……だからあの王子様が人気なのかな)
そんな風に不安に駆られた恋する乙女は世の女性にとって、何故ヒロインの女の子に対して情熱的に好意を露にする王子様が人気なのかをなんとなく理解する。きっと誰もがそんな不安を抱えているからこそ、自分を好きだと全力でアピールしてくれる王子様に憧れるのかなと思い、本当にわずかな願いが心の中に芽生える。すなわちアッシュが自分をどう思って居るのか知りたい、自分もアッシュに情熱的に告白されたい、そして願うことならこんな幸せな四人一緒の日々が続いて欲しいというそんなささやかな願い。恋する乙女がそんなささやかな願いをほんの少しだけ抱いた
アオイ・漣・アマツはあまりに多忙を極めるヴァルゼライドを見て願った、少しはご自愛して欲しいと。
ヴェンデッタは酔いつぶれて帰ってきたゼファー・コールレインを見てため息混じりに願った、もう少しアッシュ君を見習って立派な大人になってほしいと。
三人の女性が同時にそんな願いを抱いたその時第二太陽がまたたき
「良かろう、ならばその願い。叶えて進ぜよう」
どこからともなくそんな声が響いたのであった……
この時空は(作者にとっての)ご都合時空です。
両親が健在で滅奏も天奏もないのにどうしてトリニティ本編みたいな事が起こったかとかは一切考えていません。
ちなみに最後の台詞のCVは皆さんご存知どてら4号氏です。