シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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三人が何故ああなったのかふわふわした理由づけになります。
相も変わらずのガバガバご都合時空になりますがよろしくお願いします。

ちなみにイタリア男って最弱の兵士とか良くジョークのねたにされていますけど
母親や恋人を守るための時は無敵になるらしいですね。やっぱりホライゾン家ってイタリア人の末裔なのでは?


アドラーの一番長い日(終)

「良く来てくれた、ホライゾン殿。貴殿のご助力に感謝する」

 

セントラルにてアオイ・漣・アマツが丁重な礼を以ってアッシュを出迎える。そんなアオイに対してアッシュは

 

「礼を言うなら俺よりも優しく愛しい俺の女神であるナギサにしてください。俺がこっちに来る決断をしたのは、ナギサが後押しをしてくれたおかげですから」

 

相変わらずナギサを大事に抱き寄せながらそんな事を告げる。その様子にその場にいた者たちは多少は訝しがったものの、まあようやく正式にそういう関係(・・・・・・)になっただけだろうと軽く流す。

 

「それで、何でも大陸の行く末に関わることが起きたって話なんですが、一体どうしたんですか?なにやら皆さんおそろいのようですが」

 

「ああ、その件なのだが……」

 

「総統閣下が何者かの星辰光を食らった可能性があるんだ!そこでアッシュ君なら何かわかる事があるんじゃないかってね!」

 

未だに信じられない信じたくない現実を前にして口ごもるアオイに代わって綺麗なゼファーが答える。

 

「………あの、ゼファーさん……ですよね?」

 

そんなゼファーを見てアレ、誰だろうこの人といった空気を漂わせてナギサが問いかける

 

「ああ、君たちといつも接している、この国と民の為に身命を捧げることを誓ったライブラ副隊長を務めているゼファー・コールレインだよ!一体どうしたんだいナギサちゃん?」

 

(((いつも接しているのとは別人にしか見えないから聞いているんだよ)))

 

そんな風にその場にいた人物達の心が一つになる。だが綺麗なゼファーはそれどころじゃないんだとばかりに告げる

 

「僕の事よりも総統閣下だよ!総統閣下がとんでもないことになってしまったんだ!待っていてください総統閣下、アッシュ君が来てくれましたからきっとすぐに何時ものあなたに戻れますよ!!!」

 

「ふわーあ、何時もの俺って何?俺は何時もどおりだよ。誰だって本当は働きたくなんか無いんだよ、なのに皆ちょっと無理しているだけで俺は少しだけ素直になっただけだって」

 

「本当に一体どうしてしまったんですか総統閣下!?みんなの事を思うだけで、僕らの働きの向こうにある人々の笑顔のためならばそんな無理は引っ込み、誇りと変わる、それが僕らだったじゃないですか!!!」

 

相変わらず気だるげにするヴァルゼライドのようなナニカとそれに対して熱く語りかけるゼファーのようなナニカという常の彼らを知る者ならば頭が痛くなってくる光景が広がっていた。案の定ナギサは完全にポカーンとしている。

 

「……見ての通りだホライゾン殿。総統閣下がどういうわけだかあのような風になられてしまってな」

 

「加えてゼファーの奴までもがあのような状態になってしまった以上ただの過労とは考えられにくいと判断して貴殿に来ていただく事となったわけだ」

 

「……コールレインのほうは正直あのままでも特に問題は無いが、総統閣下はこの国の至宝。私たちにとってはヴァルゼライド総統閣下が必要なのだ。そして貴殿も理解していると思うが、今の平和は無論貴殿の尽力もあってだが何よりも総統閣下の手腕に依るところが大きい。もしも万が一にも総統閣下があのままとなれば、今のこの平和も泡沫の夢として消えてしまうだろう」

 

「おいコラ、アオイ。ゼファーはそのままでは構わないとは聞き捨てならんぞ。ちゃっかり自分の想い人だけいつものように戻してと頼んでおいて、他人の想い人はどうでもいいなどとあまりにも不義理がすぎるだろ」

 

「何度も言っているが私の閣下へと向ける感情は忠誠心であり、思慕だのといったものではない。別段その感情を否定する気は無いが、一事が万事といったよすうで何もかも結び付けようとする貴様のそのあり方にはいい加減あきれ果ててものが言えんな。そして、コールレインの方がそのままで良いというのは客観的に普段のコールレインと比較してどちらのコールレインの方がライブラ副隊長という重責に相応しいかを客観的に判断した結果であり、他意はない」

 

「やれやれ全くもって素直じゃない奴だ。そんな風に何時まで意地を張っていると相手が死んでからようやく自覚するなどという事になりかねんぞ。ホライゾン殿、くれぐれもゼファーも頼むぞ。ゼファーの奴も普段の駄目人間だがそれでもここぞという時にはやるそんな胸をキュンキュンさせる男へと戻してくれ」

 

そんな従姉妹漫才を受けてアッシュは

 

「なるほど把握しました。つまり二人を何時ものように戻したらこの仕事は終り。俺はナギサとのデートに戻っても良いという事ですね!」

 

普段と明らかに違う綺麗なゼファーだとか怠け者のヴァルゼライドなどよりも、早くナギサとのデートに戻りたいと言わんばかりの態度で爽やかな笑顔を浮かべたままに応じる。そんな常と違うアッシュに違和感を抱いたヴェンデッタは問いかける

 

「……ひょっとして怒っている?デートを邪魔されたのなら無理もないけど」

 

「いえ、ナギサは仕事をしている俺も好きだといってくれましたからね!仕事は仕事できちんと果たさせて貰いますし、ヴァルゼライド総統がこんな風になってしまって一大事だというのはわかりますからね、やむをえないとは思っていますから別に怒ってなんかはいませんよ」

 

笑顔を浮かべたままにやんわりとそれを否定して常と変わらぬ気遣いをこちらに見せたので勘違いだったかなとヴェンデッタが思ったところで

 

「ただそれはそれとしてナギサと二人っきりの時間を少しでも多くの時間を作りたいというのも本音なだけです、彼女と一緒の時間は俺にとって他の何にも変えがたい時間ですから」

 

やたらとぐいぐい押している。やはり何かいつもと違う感じがする、確かにその根底には幼馴染達への深い愛があり、随所で大好きっぷりが見え見え見え見え見え隠れしていた男ではあったがここまで前面に出す感じだったかと軽くヴェンデッタは訝しがる。だがそんな周りを他所にさあとっとと終わらせるぞとばかりにアッシュは自らの星を開放する

 

「天来せよ、我が守護星。三相女神(アヤ、ミステル、ナギサ)に愛を込めて」

 

謳い上げられるのは光と闇の旅路に至った彼の迷い、揺れる人としての答え……ではなく、彼の女神達に捧げられる愛の言葉。しかもこの男、詠唱の最中もナギサに対して情熱的な視線とウインクを送ったりしている。もはや詠唱の体を装ったただの公開ラブレターとプロポーズである。……前からそんな内容だった気もするが、光と闇、そして人を意味するものであったはずの至星三界(トリニティ)が完全にアヤ、ミステル、ナギサを意味するものとなってしまっている。とにもかくにも彼の愛しい女神達が幸せに暮らせるように、ついでにこの新西暦も守ってやるよみたいなテンションで海洋王(ネプトゥヌス)がここに出陣した。

 

とにもかくにもコレで事態は一件落着かと思われたが

 

「あ、コレ無理です。自分もチャレンジしてみましたけど、どうにもなりませんでした」

 

あっさりとした口調で突きつけられるのはそんなある意味で絶望を告げる言葉。「すいません、どうやら力になれないみたいです」などと告げてそれっきりもう自分の仕事は終わったんでみたいな態度でナギサを口説きだしたアッシュ

「く、アッシュ君でもどうにもならないなんて!?いや、僕は総統閣下の持つ心の力を信じている!きっと僕らが熱く語りかければ閣下は何時もの自分に戻ってくるはずだ!僕は諦めない!絶対諦めないぞ!!!」等といってヴァルゼライドのようなナニカに熱く語りかける綺麗なゼファー

そんなゼファーのようなナニカ相手に「働いたら負けだと思っている。故に勝つのは俺だ」などと告げてうっとおしそうにしながら眠ろうとするヴァルゼライドのようなナニカという(上)での冒頭の場面へと至るのであった。

そんな混沌(パライゾ)な状況でいや、本当にどうするんだよコレみたいな空気が漂い出したところで

 

「話は聞かせてもらった!アドラーは滅亡する!」

「すいません、軽い冗談ですのであまりマジにとらえないでくださいね」

 

第二太陽のメッセンジャーである双子が現れた。

 

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「つまり今回は偶発的な第二太陽(アマテラス)の接続により起きた現象だと?」

 

双子に対してアオイ・漣・アマツがそんな風に確認を取る

 

「はい、本来であればこのような事態は起こるはずがなかったのですが」

 

「諸々の条件が天文学的確率で重なっちゃったんだよね~本当に事実は小説よりも奇なりとは良く言ったものなのだ!」

 

「最もそれだけであれば、おそらく何事も終わったのでしょうが」

 

「これまた同時に天文学的確率でそこの三人に傍に居た人達の願いをひねくれた感じで叶えちゃったんだよね~たまに仕事したと思ったら本当に碌なことしないよね!」

 

あまりのヴァルゼライドの激務を心配したアオイ・漣・アマツはその身体を心配して休養をとることを願った。

例によって駄目人間ぶりを発揮したゼファー・コールレインを見たヴェンデッタはため息混じりにもう少しだけ真面目になる事を願った。

アヤ・キリガクレに勧められて評判の恋愛小説を読んだナギサ・奏・アマツは自分も乙女チックに情熱的に告白してくるアッシュを少しだけ夢見た。

それらが天文学的確率により接続した第二太陽によって、これまた何の因果か天文学的確率によってひねくれた形で偶発的に叶えられてしまった。それが今回の原因であった。

仮に、もしも仮にこれが悪意ある願いであった場合おそらくはヴァルゼライドは常と代わらぬその鋼の精神によって抗い、アッシュに対しては最強のセコムたるヘリオスによるガードが行なわれただろう。しかし、叶えられたのは片や自慢の副官の心の底から自分を慮った「身体が心配だから少しは休みを取って欲しい」という心配する心と片や夢見る乙女のささやかな願い、鋼の心も赫怒の救世主も悪意や害意を感じるはずもなく、かくして鉄壁の防御をかいくぐってこのような状況となるのであった。

 

「つまり、私が原因で総統閣下をこのようにしてしまったと……そういう事なのか……!」

 

アオイ・漣・アマツが記憶喪失の青年が大切な親友を地獄のような争いに巻き込んだ元凶が他ならぬ自分の稚児のような願望にあったことを知ったかのような今にもその場で切腹すら敢行してしまいかねない搾り出すかのような絶望の言葉を口にする。

 

「確かに常々真面目になって欲しいとは思っていたわ……でも、少しずつでいいから良くなっていくあの子を見るのが嬉しかったのよ。そんな心を捻じ曲げるような事なんてしたくなかったわ……」

 

ヴェンデッタが「強い男の人が好きだから」と伝えたらどこかの悪魔に「今の僕は強いだろう?愛してくれよ」などと告げられたパンツ安そうな女性のように強烈な後悔に苛まれながら落ち込んだ言葉を口にする

 

「わ、私もそんなアッシュの心を捻じ曲げるような事なんてしたくなかった!確かに嬉しくなかったって言ったら嘘になるよ!でも、でもそれはアッシュ自身の本心から言ってくれているからだと思っていたからだもん!私はこんな……こんな……」

 

ナギサ・奏・アマツはアシュレイ・ホライゾンを真実心の底から慮り愛している。彼の吐く愛の言葉に照れながらも嬉しく思っていたのはそれが彼の本心から吐かれた言葉だと思っていたからこそ。そんな大切な人を自分の自慰の道具に成り下げるような事を望んでなどいないと悲しみの言葉を吐露する。

 

そんな落ち込む三人に対してこの場において一番の年長であるロデオン夫妻が優しく包み込むかのように語り掛ける

 

「もう、そこまで落ち込む事はないわよ。私だってね、アルバートにもっとここをこう直してほしいなんてしょっちゅう思っていることだもの」

 

「おうよ、それは俺だって同じさ。マリアの奴に不満を抱くことだって当然あるぜ」

 

「ね、もうかれこれ十年連れ添っている私達だってこうなのよ?それでも私たちは時に喧嘩もしたりしているけどお互いの愛を疑ったことなんてないわ。人間なんてそんなものよ。大切な人だからこそここを直して欲しいだとかこうなってくれたらなんて思うことは決して悪いことなんかじゃないわ」

 

そんな二人に続くように双子も言葉を重ねていく

 

「ええ、お二方の仰るとおりだと思います。お三方の願いは人として当然のものであり、決して非難されるようなものではないかと」

 

「まあ誰が悪いかって言ったら、そんなちょっとしたお願いを頼んでもいないのに勝手に叶えた第二太陽が悪いよね~」

 

そもそも三人の願いは本当にささやかな心の底から相手を慮ったりしたものや可愛らしい乙女心によるものだったのだ。誰が悪いかといえばそんな三人の願いを勝手に叶えた上にひねくれた形で叶えた第二太陽に帰するだろう。

 

「だ、だがたとえ不可抗力といえど総統閣下をこのようにしてしまった罪は万死に値する……!」

 

ヴァルゼライドを何よりも敬愛する真面目なアオイはそれでも自分の罪が消えるわけではないと吐露する

 

「ええ……考えてみたら私にしてもあの子のため、あの子のためと思って口うるさく言っていたけど、考えてみたら余計なお世話だったのかもしれないわね。だってあの子はもうれっきとした大人なんだもの。私のやっている事なんて弟離れできない姉のそれだったのかもしれないわ……」

 

常に無く落ち込んでしまったヴェンデッタはそんなことを口にして

 

「私も今の四人で一緒にいるのが楽しくてずっとこんな風にみんなで一緒にいたいと思って、きっとアッシュもそんな風に思ってくれているって勝手な願望を押し付けて……アッシュ位素敵な人だったらきっと私なんかよりももっと良い人が居るだろうに私の願望を押し付けちゃって……私の愛って重いらしいからひょっとしたらアッシュにとっては重荷だったのかも……」

 

罪悪感からネガティヴな思いに囚われてしまったナギサはそんな自虐の言葉を口にする。

 

そんな三人に対してどうしたものかとアルバートらが思ったところで

 

「いいや、我が誇るべき優秀な副官よ。お前のその献身、常に感謝の念が絶えんと思っている。今回の責が誰に帰するかで言えばそれは俺以外にありえまい。お前にそのような不安を抱かせた俺の至らなさこそが原因だ。故に謝罪など一切不要だ」

 

常のように圧倒的な覇気を有したクリストファー・ヴァルゼライドが

 

「全く、こういうのは俺の柄じゃないのによぉ。いいかヴェンデッタ、一回しか言わないからよく聞いておけよ。確かにお前の小言に対してはうっとおしく思うときがある、というか思っているときが大半だ。でもな、そんなお前に対していつも感謝しているんだよ。俺はそこの英雄様やアッシュのようにはなれないからよ、そうやって俺に活を入れてくれるイイ女(・・・)が必要なんだよ。だからまあ……そのなんだ……ありがとよヴェンデッタ、お前が傍に居てくれて本当に良かったって思っているぜ」

 

いつものように気だるげにだが照れくさそうにしながらもどこか真面目な雰囲気を漂わせたゼファー・コールレインが

 

「君以上に素敵な人なんているものか!重荷だなんてそんな事あるわけが無い、前にも言っただろう。俺は馬鹿で単純な男だからさ、君のためならば無敵のヒーローになれるって。逆に言えば、君がいないと俺は駄目なんだよ。君が、ミステルが、アヤが、ヘリオスが、みんなが俺の傍に居てくれて支えてくれるから俺は頑張れるんだ。だからそんな悲しそうな顔をしないでくれ、俺はナギサの笑顔が大好きだからさ」

 

キザな雰囲気を漂わせていたアシュレイ・ホライゾンが何時ものように真面目な、だけど海のような包み込む優しい笑顔を浮かべてそれぞれ己の思いを伝えていた。そんな何時もの様子に戻った三人に対して一同が驚いていると

 

「まあ、そういうわけだからさーあんまり深刻に考えなくて良いってアオイちゃん。君はすっごい頑張っているよ、俺が保証する」

 

「迷惑だなんてそんなはずがないじゃないかヴェンデッタ!君は僕の大切な家族なんだからね!!!」

 

「ああ、ナギサ。君は俺の女神なんだ……君がそんな悲しそうな顔を浮かべているだけ俺の心を張り裂けそうになる……どうか笑っておくれ。 il mio amore(俺の愛しい人よ)」

 

先ほどまでの三人へと戻ってしまうのであった。

 

「おやおや、これは一体どういうことでしょうかねティナさんや」

 

「陳腐な言葉になりますが所謂愛の力という奴では?悲しむ大事な人達を前に己が本心を伝えねばという想いが一瞬だけ彼らを元に戻したんでしょう」

 

「なるほどなるほど、大切な人の涙によって正気に戻る男達。人はそれを愛の奇跡と呼ぶ!という奴ですな~」

 

「ええそういう奴でしょう。まあ、この分なら明日にでもなれば戻って居る事でしょう。元々偶発的なものですからそれほど長くは続かないでしょうし」

 

明日には戻る、その言葉を聞いて安堵の空気が流れてかくして一件落着、ようやくこの馬鹿騒ぎも終りとお開きの空気が流れたところで

 

「待て、我が片翼の名誉のために告げねばならぬことがある」

 

炎が形をなすかのように赫怒の救世主たるヘリオスがそんな事を告げながらその場に現れた。そんなヘリオスをジト目で見てナギサは告げる

 

「……なんだよヘリオス、今更になって出てきて」

 

こういうわけのわからないものからアッシュを守る為にお前はいるんじゃなかったのかよと若干八つ当たり染みた思いを抱きながら冷たい目でヘリオスを見るがヘリオスは意に関せずにその場に居た者達に告げる

 

「言った通りだ。我が誇るべき片翼に対してお前たちがどうやら見過ごし難い勘違いをしているようだからな。コレだけは正せねばならんと想ったのだ」

 

「勘違い?ナギサちゃんの可愛らしい願望でクリスやゼファー君みたいな普段とは違う様子になっちゃったんでしょ?一体何が勘違いだって言うの?」

 

まあ二人に比べると割と何時もどおりって感じもするけどなどとマリアが訝しがりながら問うとヘリオスはそう、まさしくそれだと言わんばかりに

 

「そこの二名はわからんが我が片翼が今日告げた言葉の数々、断じて歪められたりしたものでも、ましてや別人が発したものなどではない。アレらの思いの数々、全てが紛れもない我が片翼の抱く真実の思いだ」

 

へ、とその場に居た誰もが呆気に取られた表情を浮かべる。ちなみアッシュはそんな一同を他所にコレで完全に仕事は終わったと言わんばかりに、また今日はナギサだけを見つめる日という約束を守るべくナギサを口説きだしている。

 

「……つまり、今ああやってナギサちゃんに対して告げているアッシュ君の言葉は」

 

「紛れもない我が片翼の本心だ。常に共に在り続け、その心のうちを知っている俺が断言しよう」

 

ヴェンデッタの問いに対してヘリオスはアッシュに対する熱い信頼を口にする。相変わらずアッシュに口説かれながら、しかもそれは歪まされたものではなくアッシュの本心だと断言するヘリオスという天駆翔(ハイペリオン)コンビの絶妙なコンビネーションを受けているナギサは哀れKO寸前である。

 

「良いか、貴様らは我が片翼を侮っている」

 

歪まされた?否、否、否だ!我が片翼は素晴らしい男だ。俺には決して不可能な他者に対する愛(大体ナギサちゃん)のために勇気を出すことの出来る素晴らしい男なのだとアシュレイ・ホライゾンに対する熱い信頼を語っている。

 

「記憶を歪まされようと、赫怒の衝動に引きずられようと決して消えなかった我が片翼の死想冥月(ペルセフォネ)に対する想いがたかだか第二太陽如きに歪まされる?馬鹿な、なんだそれは全く持ってありえない」

 

見縊るのも大概にしろと憤りさえ込めてヘリオスは宣言する。アレらは紛れもないアシュレイ・ホライゾンという男の抱く本心なのだと

 

「……しかし、その割には聊か普段と様子が違うようだが?」

 

確かにゼファーやヴァルゼライドほどは酷くない。だが今のアッシュは明らかに様子がおかしいとアオイが疑問の言葉を口にするが

 

「それも当然だ。今の片翼は心中に秘めていた思いを全てさらけ出している状態なのだからな」

 

他者は知る良しも無い、本人が何を考えているかという命題。しかし共に在り続けそれを理解しているヘリオスは何もおかしい事は無いのだと断言する。

 

「今の片翼はいわば普段羞恥や迷いにより、秘めていたペルセフォネに対する思いを全てさらけ出している、そういう状態なのだ」

 

何故アッシュだけが他の二人に比べると普段とそこまで変わらなかった(キャラ崩壊が低め)だったのか、それはそもそもナギサ・奏・アマツの願ったアッシュに愛されたいという思い、すなわちナギサ・奏・アマツ達に対する愛がずっと理性や良識、羞恥の感情で蓋をしていたアシュレイ・ホライゾンが心の内に秘めつつもヘリオスにすら負けない領域で燃え盛っていた紛れもない彼の本心(・・)だったからなのだ。

クリストファー・ヴァルゼライドは怠惰の心を欠片も有していなかった。故にあんなわけのわからない状態となった。

ゼファー・コールレインに真面目になろうとする心……自体はあったのだが如何せん「まあなんだかんで俺勝ち組エリートだし?高給取りだし?周りもそんな俺をなんだかんだで受け入れてくれているし別にこのままでいいだろ」と言ったノリで極少だった。故にヴァルゼライドと同じくわけのわからない状態だった。

だがアッシュは違う、何故ならばナギサ・奏・アマツを愛していることなど彼にとっては幼少期頃より抱いていた当たり前(・・・・)の思いなのだから。

そうしてヘリオスは続けていく、アシュレイ・ホライゾンという男がどれほど強くナギサ・奏・アマツという少女の事を愛しているかを、ずっと共に在り続け見続けたその秘めていた思いを高らかに謳い上げる。

 

「重荷だと?ペルセフォネよ、貴様一体何を勘違いしている?我が片翼がその程度も背負えぬ男だとでも思って居るのか。冗談も休み休み言うが良い」

 

くしくも先ほどアッシュが告げたようにアシュレイ・ホライゾンにとってナギサ・奏・アマツが重荷になるなどそれこそ世界法則が書き換えられることがあってもありえないと

 

「理解しただろう、我が片翼の心からの思いを、貴様に対して抱く愛の強さを。第二太陽如きに歪まされるようなものでは断じてない、俺の比翼を侮るな!!!」

 

そんなヘリオスの演説が終わると

 

「流石は相棒!ありがとうヘリオス、俺だけの言葉だけじゃ説得力が無かったかもしれないからお前がそういってくれて助かったよ」

 

「ふ、気にする事は無い我が比翼よ。俺は常にお前と共に在るのだからな。お前ほどの素晴らしい男が勘違いされるような事は断じて避けたかった、それだけだよ」

 

普段だと途中で止めただろうにむしろ良くぞ言ってくれたとヘリオスに感謝を告げるアッシュ。そしてそれに応じるヘリオスという光景。かくして場を包むような呆気に取られたような空気。そうしてしばらくするとナギサとアッシュに対して集まりだす生温かい視線

 

「ふわーあ、なんか良くわからないけどとりあえずおめでとう。結婚式には多分出れないからここで先に言っておくね」

 

「アッシュ君は本当にナギサちゃんたちが大好きなんだね!仲良きことは麗しいね!」

 

「……結婚式には呼んで頂戴ね、喜んで出席させてもらうから」

 

「えっと……おめでとうございます、アッシュ君。ナギサちゃん」

 

「ハッハッハ、そこまでガッツリと篭絡しきるとは、我らが親戚殿は中々どうして大したものだと想わないかアオイ」

 

「特別外交官殿と我が国が今後も良好な関係を築けそうという点において同意しておこうか。どうやら彼女をホライゾン殿と一緒に住まわせることにした判断は間違っていなかったようだ」

 

「いや~どう想いますかティナさんや」

 

「並み居るトンチキ共を押しのけて人気投票でワンツーフィニッシュを決めた主人公とメインヒロインの貫禄という奴でしょうかね。いやはやここまで言われてしまうとこちらももう、おめでとうございますと告げる以外ありませんね」

 

「さっすがスフィアへと至ったラブラブカップル!詠唱がプロポーズだの、専用BGMが結婚披露宴の曲とか言われただけの事はあるね!」

 

「もう、アッシュ君たら情熱的ね~私も一度好きな人からあそこまで言われて見たいものね」

 

「おいおい、勘弁してくれよ。アッシュならともかく俺が言ったって滑稽なだけだろう」

 

「あら、そんな事無いわよ。ナギサちゃんにとってはアッシュ君が理想の王子様だろうけど、私にとっては貴方がそうだもの。他の誰が笑ったって私は絶対に笑わないわ」

 

告げられていくのはそんなご結婚おめでとうございますという言葉。完全に茹蛸となってしまったナギサはあまりの羞恥に口をパクパクとさせてもはやフリーズ寸前である。そんな様子を見てヘリオスはポツリと呟く

 

「何か問題あっただろうか?」

 

俺はただ如何に片翼がペルセフォネ達を強く愛しているかを説明したのだけだが等というそんなどこまでも天然な発言を聞いて、ナギサの中の何かがプチンと切れて

 

「やっぱりお前なんか、大嫌いだ!!!」

 

涙目になりながらヘリオスにそんな事を告げるのであった………

 

 

 

 

 




アッシュがキザったらしくナギサちゃんを口説いてヘリオスさんがいや、アレは片翼の本心だぞと衆人環視の前で宣言する、それが書きたくてこの話を書きました。

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