シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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ヴェティママンが仕事中のゼファーさんと常に一緒に居るのはゼファーさんと同調出来て
一応軍においてゼファーさんの外付け強化アイテムみたいなポジの人物となっているからです。
なのでお給料もしっかり出ています。


アドラーの一番長い日(下) 続

「アッシュ様なら現在ご不在でして、ナギサ様とデート中になります」

 

「やあ、アッシュ君はいるかい!彼の力が必要なんだ!」などと尋ねてきた何か何時もと違う様子の自分の所属部隊(ライブラ)の副隊長に対してアヤ・キリガクレは内心の困惑を押し隠して伝える。

 

「デート中?あの二人は相変わらず仲がいいね!本当に素晴らしいことだよ!そうは思わないかいヴェンデッタ」

 

「……ええ、そうね。その発言には同意しておくわ」

 

やたらと爽やかな笑顔を浮かべたゼファー・コールレインに対して彼の相方であるヴェンデッタがつかれきったような顔をして答える。何故こうして二人が送り出されたかと言うと、あの状態のヴァルゼライドと一緒に居させるといつまでも暑苦しく語りかけてやかましい上に、その奇妙なギャップがチトセ達のSAN値をゴリゴリ削るからである。この状態のゼファーを送ればアッシュ達も一目で異常事態だという事がわかるだろうという予測も込みである。かくして

 

「総統閣下は何者かの星辰光を受けている可能性がある!これは国を揺るがす一大事だ!至急特別外交官アシュレイ・ホライゾン殿の助力を仰ぐのだコールレイン少佐!」

 

などと一石三鳥の体のいい厄介払いを受けたゼファーとそんなゼファーの相方であるヴェンデッタがこうしてアッシュ達の自宅を訪ねているわけである。今頃チトセはチトセでNO1とNO3が機能不全に陥った代役として激務に追われていることであろう。そんな彼女の怒りの矛先は大体勝手に機能停止したギルベルト(どうしようもなく拗らせたホ〇)へと向かうこととなるがその辺はギルベルトの自業自得である。

 

「しかし、アヤちゃんもずいぶんと上機嫌だけど一体どうしたんだい?」

 

常に無い鋭さと気配りを発揮した綺麗なゼファーがそんな風に浮かれた様子のアヤへと問いかけると、アヤは良くぞ聞いてくれましたとばかりに恍惚とした表情を浮かべて

 

「うふふふふふ、それがですねゼファー様。ついにアッシュ様がご決断してくださったのです、私達全員を娶ってくださると!そう高らかに宣言してくださったのです!!!」

 

「それはおめでとう!一人の女性を愛するべきだって主張する人もいるかもしれないけど、僕は君たち全員の絆の強さを知っているからね!友人として祝福させてもらうよ!!!」

 

常のゼファーならば「酒池肉林とかマジかよ。僕は無欲で無害な面しといてあのムッツリエロエロ野郎が」とでも言うであろうに笑顔で祝福の言葉を告げる。だから誰だよコイツ

 

「ありがとうございます、ゼファー様も是非ともアッシュ様を見習ってヴェンデッタ様も、チトセ様も、ミリィ様も皆幸せにしてあげてくださいね!」

 

「僕もいずれきちんと答えを出さないといけないとは思っているけど、今の僕は精一杯この国と民の為に働かないといけないからね!でも僕の大切な人達を不幸にするような不義理の事だけはしないと誓うよ!」

 

浮かれてゼファーの異常に気づかずにうふふふふふと笑うアヤとあははははははと爽やかに笑う綺麗なゼファー。そんな二人の会話を聞きつつヴェンデッタは頭痛を堪えながら考え込む

 

(アッシュ君がハーレム宣言……そんな事を言える様な子だったかしら?)

 

ヴェンデッタの脳裏に浮かぶのは自分にとってもある種恩人とも言える、時折ゼファーも少しは見習って欲しいと思うような爽やかな好青年の姿。なおそんな願いが叶ったのがある意味今の綺麗なゼファーなのだが、そうなったらそうなったでコレジャナイと口々に言い出すのだから人間はやはりどう足掻いても苦しむ運命にあるようである。そんな風に考え込みだしたヴェンデッタに対してアヤに比べると冷静なミステルがヴェンデッタへと問いかける

 

「あの、ヴェンデッタさん……ゼファーさんどうされたんですか?なんだか明らかに普段と違う様子なんですけど……」

 

「……実はゼファーがああなったのがまさしくここをこうして訪ねた理由なのよ」

 

「あ、そうなんですか……」

 

なおも盛り上がる二人をどこか遠い目で見ながらとりあえずアッシュが不在であることをアオイへと連絡して、かくしてアリエスによる特別外交官アシュレイ・ホライゾンの捜索が始まるのであった……

 

 

 

店員の丁重な礼を受けて宝石店を出た二人はなおも街を散策していく。その手はしっかりと握り合っており、二人の服装も合間ってどう見ても深窓の令嬢とエリートの青年のカップルと言ったどころだろう。そんな二人を、正確にはアッシュを見つけて、軍服を纏った将校が駆け寄ってくる

 

「特別外交官アシュレイ・ホライゾン様ですね。申し訳ありませんがセントラルへとご同行頂けないでしょうか?」

 

貴人に対する丁寧な礼節を持ってアリエスの将校がそんな事を告げる。そんな言葉にアッシュは常のように柔らかな笑顔を浮かべて快く……

 

「すまないけど、今俺は見ての通り愛しい人とのデート中なんだ。今日は彼女だけを見つめて、彼女を何においても優先する、そう決めた日だからね。仕事をする気はないんだ」

 

受け入れずに今の自分は完全なプライベートだから仕事をする気はないよと顔を赤くしている令嬢を軽く抱き寄せて、有無を言わせぬ静かな迫力と共に告げる。旧暦においてイタリアの人間は往々にして仕事は仕事、バカンスはバカンスとオンとオフをきっちり分ける職人気質の人間が多かったとされるが彼もまたその血が目覚めたのだろうか。再び抱き寄せたナギサに対して「今、俺の瞳に映っているのは愛しい女神の姿だけさ」等と告げている。

 

そんな言葉に弱り果てたのは哀れな使いっ走りの方である。何せ相手は国賓待遇の貴人、くれぐれも丁重に接して礼を失するような事がないようにと隊長であるアオイ・漣・アマツからも強く命じられている。「ホライゾン殿であれば快諾してくれるだろうからそこまで案ずる必要はない」などと言われていたのに蓋を開けてみれば「お邪魔虫ってわからない?(意訳)」発言である。見てるだけで哀れになる位狼狽しながらも国家の一大事であるという言葉から使命感を奮い立たせてその兵士は食い下がる

 

「そ、その件に関しては大変申し訳なく思っております。ですが、なにぶん漣隊長より火急の用件故にホライゾン様のご助力を賜りたいという事でして……事は我が国の、いえこの大陸の行く末すら左右する重大な出来事であると言われておりまして……もちろん、ホライゾン様への謝礼は当然行なうとのことです。ですのでどうか、何卒」

 

お願いします告げるもアッシュは困ったような顔を浮かべて告げる

 

「貴方の立場上大変なのはわかるけど、どれほどの財や名誉を持ってしってもナギサとこうして一緒にいられる時間以上の対価なんて俺には存在しないんだ。そして俺がこうして自由に出来る時間は限られている、だから申し訳ないけど……」

 

世の男性の多くを悩ませる「仕事と私どっちが大切なの?」という答えようがない問いがある。今のアッシュはそんな問いに対して何の躊躇いも無く答えるだろう「君以上に大切なものなんて存在するはず無いだろ」とそれこそ君が望むならもっと君と一緒にいられる時間を作るようにするよ、と転職すら視野に入れて上司へと交渉するだろう。そうして断りの言葉を重ねようとしたところ、優しい少女が思わずと言った様子で兵士へと助け舟を出す

 

「ね、ねぇアッシュ……アッシュの気持ちはすごく嬉しいけど、そこまで思い詰めなくていいよ。何かアッシュじゃないと解決出来ない問題が発生したんだろうし、私はそうやって皆の為に頑張っているアッシュも好きだからさ……」

 

だがナギサ・奏・アマツは尽くされる側のお嬢様にも関わらず、その本質はどこまでも健気に好きな人に尽くす乙女である。とんでもないブラック企業(強欲竜団)とんでもないブラック部署(第十三星辰小隊)に配属されていたり、とんでもないブラック上司(ギルベルト・ハーヴェス)家庭の事を忘れさせられ、社畜へと洗脳(プロジェクトスフィア)でもされていればそれこそ愛する人を取り戻すために仮面ライダーペルセフォネにすらなるだろうが、今のアッシュがそんな風ではなく自分達を大切に思っていてくれている事を彼女はよく理解している。

故に「私と仕事どっちが大切なの?」等と問う事はせずに彼女が告げたのは「一生懸命頑場っている貴方が好きだから」という内心の寂しさを押し隠して応援するどこまでも健気な言葉であった。そんな愛する少女の言葉にアッシュは感極まったように

 

「ああ、ナギサ……本当に君はどこまでも優しい人だね。一体君のその優しさに俺はどれだけ救われただろうか……言葉ではもはや表現しきれないよ。ごめん、いやありがとう。君がそういうのならば俺も仕事を果たすとするよ」

 

そのアッシュの言葉に兵士はあからさまに安堵の表情を浮かべて

 

「ありがとうございますホライゾン様!そして奥方様も!道中のお二方の守護は我らが必ずや行ないますので!」

 

そんな今の二人が傍から見たらどう見えているかを勘違いした言葉を吐き、急ぎ連絡するのであった。おそらく今この時は彼にとってもアッシュの女神(優しいナギサ)が救いの女神に見えた事であろう。

 

「お、奥方って……」

 

「ハハハハ、気の早い兵士さんだね。いずれは必ず正式にプロポーズをさせてもらうつもりだけど」

 

どうやらこの男、あのハーレム宣言は正式なプロポーズでなかったようである。自覚したスケコマシにもはや敵はなし、幼少期から抱き続けた溢れんばかりの愛、父親に仕込まれ外交で培った話術、生来のスケコマシスキルそれらの三位一体(トリニティ)がいずれ彼女を襲う事になるであろう。この段階で顔を真っ赤にしているどこまでも初心な少女が耐えられるか色々と心配になってくるが、彼女は彼女で体験版時点で盛大な告白したり、アッシュのためなら物理法則を超越するウルトラトンチキに躊躇い無く喧嘩を売る位愛が重いのでおそらく大丈夫だろう。決して片方のみの愛がもう片方よりも重いという事は無く、どちらも等しく相手を大切に思っている、故にお似合いの二人なのである。

 

かくしてアシュレイ・ホライゾンとナギサ・奏・アマツもセントラルへと赴き、ここに役者は揃うのであった……




今回の話で一番不憫なのは多分ヴェティママンでもアオイさんでもチトセネキでもなく
アッシュを発見した中間管理職の兵士さんだと思います。

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