シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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前話からの続きになります。
トリニティのファンディスクは出るとしても当分先のようなので
だったら公式じゃやらないようなご都合時空の阿片焚けば良いやという発想に至りました。

ミリィは両親健在なためゼファーさんはヴェティママンと二人暮らしの状態ですが
ちょくちょくブランシェ家に二人揃ってお呼ばれしたりしています。


アドラーの一番長い日(中)

やあ、僕は綺麗なゼファー!軍事帝国アドラー第七特務部隊裁剣天秤(ライブラ)で副隊長を務めているエスペラントだ!尊敬出来る偉大な上司の下で帝国臣民を守護する誇りある職務に就けて、家族との仲も良好。まさに公私に渡って順風満帆な理想の生活を送っているんだ!僕がこんな風になれたのもみんな、子どもの頃に僕を守ってくれた姉さん、困窮している僕らに手を差し伸べてくれた大親友のルシード君、そしてスラム出身だった僕が軍人になれるように社会を改革してくれた総統閣下のおかげさ!本当に世の中は捨てたものじゃないね!立派な方々の支えでこうして僕も大人になれたんだ!だから今度は僕が立派な大人として子ども達の未来を守らないとね!!!

そんなわけでまずは小さな事からコツコツと、大切な家族であるヴェンデッタの為にこうして朝食を作っているんだ。家族の為に早起きして作る味噌汁の味は最高だね!

 

「…………ねえゼファー、貴方一体どうしちゃったの?」

 

そんな風にゼファーのようなナニカが台所に立っていると何時ものように朝食の支度をして、作り終わったら何時ものようにゼファーを起こさねばと思いながら起きてきたヴェンデッタがゼファーのようなナニカを怪訝な表情で見つめていた

 

「やあおはようヴェンデッタ、どうしちゃったも何も愛する家族のために料理を作るなんて当たり前のことじゃないか!いつも君に作ってもらっているんだからたまには僕がやらないとね!」

 

「…………なんででしょうね、喜ばしいことを言っているのになにやらめまいがしてくるのは」

 

「目眩がするだって!?それはいけないよヴェンデッタ!ひょっとすると病気かもしれない、すぐに医者のところに行かないと!!!」

 

いや、医者に行くべきなのは貴方のほうよとそんな言葉をどうにか飲み込んでヴェンデッタは頭をかかえる。本当に何なのだろうかこの光景は。常々立派な大人になるようにと愛情を以って口うるさく言ってきた。そんな自分の言葉にゼファーはうっとおしそうにしながらも、何だかんだで襟元を正したりはしていた。だからその結果こうしてゼファーが立派になったのならばそれを喜ぶべき事なのだと……

 

「仕事に夢中になる余り大切な家族の体調に気がつかないだなんて僕は本当に駄目な奴だ!待っていてくれよヴェンデッタ!すぐに君を医者のところに連れて行くから!」

 

うん、無理だ。こんな爽やかでキラキラした感じの好青年はどう考えてもゼファーじゃない。自分の愛する男はもうちょっとドブのような感じの腐った瞳をしているがそれでも決めるときは決める三枚目な男だったはずだ。いくらなんでも変わりすぎだ、これでは外見だけ良く似た別人のようなものではないか

 

「ごめんなさい、そこまで心配する程の事じゃないから気にしないで頂戴」

 

「そうかい?もしも具合が悪くなったらいつでも言うんだよヴェンデッタ!」

 

そんなやりとりをしてゼファーのようなナニカが作った朝食を二人で食べる。ここでも常の行儀悪さはどこへいったのやら、背筋をピンと伸ばしてしっかりとした作法で食事をしている。そんなゼファーを見て何かおかしい思いを感じながらも何時もの様に家を出てブランシェ家に向かう。優秀な技術者一家に対する半ば護衛も兼ねての何時もどおりの事である。だがそこに何時もと明らかに違う人物が一人混ざっている事で場を大きな混乱が包むのであった

 

「おはようございます!今日も共に祖国と民の為にみんなで頑張りましょう!」

 

キラキラというエフェクトがかかって見える爽やかな笑顔で綺麗なゼファーが告げる

 

「……ああ、おはようゼファー君。何時もありがとう」

 

温厚そうな男性が戸惑いつつも道中の警護に訪れてくれている青年への感謝の言葉を告げる

 

「……ずいぶんと元気だけど何か良い事でもあったの?」

 

ライブラ副隊長という肩書きに囚われずに素のゼファーを知って居る者としてその常とかけ離れた様子を怪訝に思い夫人がそう問いかける

 

「ハッハッハ、良い事と言われれば僕にとっては毎日が良いことの連続ですよ!尊敬に値する上官の下で国家の為に尽くすやりがいに満ちた仕事に励み、大切な家族とも一緒に居られる。おまけに素敵な技術者一家ともこうやって親交を持つ事まで出来たんですから!!!」

 

事ある毎にあー働かずに食っていく方法とかねぇもんかなぁだとかなどとぼやいてその度にヴェンデッタに尻を叩かれている人物とは思えないような事を笑って告げる綺麗なゼファー。本当になんだコレ

 

「ヴェティちゃんヴェティちゃん、兄さん一体どうしちゃったの?」

 

そんな兄のように思って居る人物の様子を怪訝に思いミリアルテ・ブランシェが彼と一緒に暮らしているヴェンデッタへと事情を尋ねる

 

「それが朝起きたときからあの調子で私にもさっぱりわからないの」

 

何か悪いものでも食べたのかしらなどと心配する二人を他所に綺麗なゼファーは戸惑う夫妻を他所に爽やかな世間話を続けている。やれ辛いこともありますが、それでもやりがいのある仕事です!だとかやれ、朧隊長は本当に素晴らしい上官ですよ!だとか、こんな平和を齎したヴァルゼライド総統閣下は本当にスゴイお方ですね!僕も少しでもあの方のようになりたいですよ!だとか、ライブラ副隊長としては違和感が無いのだろうが、ゼファー・コールレインではありえないような事ばかり言って夫妻はその不気味さに引きつった笑顔を浮かべている。

 

「……まあとりあえず責められるような事をやっているわけではないからこのまま様子を見ましょう」

 

「そうだね……兄さん何かの病気じゃないと良いけど」

 

そんな何故か真面目で爽やかな好青年になったのに心配されるというゼファー・コールレインの人徳が窺えるやり取りを二人はして、各々の職場へと赴くのであった……

 

 

「おはようございます、コールレイン副隊長。今日もブランシェ一家の護衛の任お疲れ様です」

 

「来たか我が狼、さて今日も楽しいお仕事の話と行こうじゃないか」

 

表面上の礼儀は完全に守っているが、口調と言葉の中に敵意をバリバリに潜ませた慇懃無礼そのものな態度でサヤ・キリガクレが、不敵な笑みを浮かべたアドラーきっての女傑チトセ・朧・アマツがそれぞれゼファーを出迎える。そんな二人に対して綺麗なゼファーは

 

「おはようございます朧隊長!何なりと御命じになってください!このゼファー・コールレイン!祖国と民のためであれば身命を賭して任務を果たして見せます!!!」

 

漲る覚悟をその両の瞳に携えて答えていた

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

いや、本当に誰だコイツ。

 

「・・・・・・お、おう。いやに気合が入っているがどうしたゼファー」

 

「何を仰るんですか朧隊長!自分の仕事の出来がそれすなわち力を持たない民の安寧を左右するんですよ!どんな任務だろうと全身全霊で当らせてもらいます!!!」

 

「そ、そうか頼もしいな」

 

そんなゼファーの様子に大抵の事では動じないアマツの女傑も流石に困惑が隠せない様子でとりあえず相槌を打つ。サヤ・キリガクレのほうにいたってはあまりの気持ち悪さに鳥肌がたっているようだ。

 

「ヴェティ嬢、ミリィ嬢、一体ゼファーはどうしたのだ。いやに爽やかで気持ち悪いぞ」

 

「朝会った時からこうだったので私も理由がさっぱりわからないんです。何かの病気じゃないといいんですけど」

 

「……それが朝起きたらこうなっていて私のほうでも皆目検討がつかないのよ」

 

ヴェンデッタが深いため息をつきながらお手上げだといわんばかりに沈痛な面持ちで答える。軍人として別に間違ったことを言っているわけではないのにこの扱い。むしろ精鋭部隊(ライブラ)の副隊長という地位から判断すれば、普段のどこにでもいるような怠け者よりはよほど相応しいと言うのに

 

「そうか、全くヴァルゼライドが風邪をお引いたらしいという話と言い、今日はあるいは厄日か何かか」

 

総統閣下がお風邪を召されたそれを聞いた瞬間に綺麗なゼファーはすぐさま反応する

 

「朧隊長!?ヴァルゼライド総統閣下がお風邪を召されたというのは本当なんですか!?」

 

「ん?ああ、俄には信じがたいがまあ奴とて人間であったという事だな。風邪位引くだろうさ」

 

正直同じ人類か疑っていたがどうやら奴もれっきとした人間であったらしいなどと自分も大概人類か疑わしい女傑がそう苦笑して告げる

 

「なんてことだ!?ヴァルゼライド総統閣下はアドラーの至宝!万一すらあってはいけない!容態はどうなんですか隊長!!!」

 

「本当にどうしたんだお前…………」

 

普段だったらおいおい、馬鹿は風邪を引かないんじゃなかったのかなどとアオイが聞けばブチ切れそうなアドラーに置いて数少ない男(非ヴァルゼライドガチ勢)がすっかりそこらの軍人然としたことを言うギャップにその場に居た者達は頭を抱える。そんな会話をしているとノックの後に兵士に案内されたアオイ・漣・アマツが訪れて

 

「失礼。朧隊長、火急の用件で貴官に話がある。至急総統閣下の執務室まで来ていただきたい」

 

そんな言葉をチトセに対して告げていた。

 

 

 

「なるほど、総統閣下はこんな風になってしまい、ギルベルトの奴はそんな総統閣下を見た為にショックで気絶と。笑い話なのだろうが、国の一大事だぞこれは」

 

おーチトセちゃんも来たってことは俺の引退話は着々と進んでいるみたいだねーなどとごろねしながら呟いているヴァルゼライドのようなナニカと眼鏡が割れて失神しているギルベルトを見て状況を把握したチトセはそんな事を告げる。本当にNO1とNO3が機能停止してしまっているために地味にピンチなのであるこの国。アオイやアルバートらに比べて現状を受け入れる速度が早かったのは能力の差というよりは、ヴァルゼライドに対する崇敬具合の差であろう。

 

「……クリスの奴がああなったほどじゃねぇけどよ、ゼファーの方はゼファーの方でああなっているっていうのは本当にわけがわからねぇぜ」

 

そんな事を呟きながらアルバートは「何を仰るんですか総統閣下!貴方の背負う重責など僕には窺い知れません!ですが貴方の双肩には帝国の民全ての行く末がかかっているんですよ!」などと熱く語りかけている綺麗なゼファーをチラッと見る。

 

「……閣下のほうはいざ知らず、コールレインの方はあの状態の方が好都合なのではないか。むしろようやくその職責と地位に相応しい態度を身につけたと言える位だ」

 

ヴァルゼライドに惚れていることからも明らかなようにアオイ・漣・アマツの好みは勤勉、勤労、真面目、滅私奉公、努力家と言った要素を持つ人物である。当然ながら女好きですぐ仕事をサボることを考える普段のゼファーに対する評価は能力は認めているが人格はあまり好かないというものである。それ故の発言だったのだが……

 

「馬鹿者!何を言っとるんだ貴様は!ゼファーはな、普段はやる気なしで何かと言うとすぐサボろうとするが、やるときはやる男なのだ!そんな男の尻を叩いてやる気を出させるのが良いのだ!あんな爽やかでいかにも理想の軍人みたいな事を言っているような男は断じてゼファーではないわ!!!」

 

「雄々しい英雄様の光に焦がれている貴方にはわからないんでしょうね。臆病者でどうしようもない駄目な子、でもねそんな駄目な子が誰かの為に勇気を出したりする時のカッコよさは決して英雄に劣るわけじゃないのよ。そうやって駄目な子が少しずつだけど成長していくのを見るのは何者にも変えがたい喜びなのよ」

 

「今の兄さんの方が好きだって言う人もいるかもしれませんが、私は普段の駄目だけどここぞという時にやる兄さんが好きなんです」

 

と怒涛の三連撃を喰らい納得したわけではないのだろうが蓼食う虫も好き好きという奴か等と自分の事を棚に上げたことを思いながらとりあえずは閉口するのであった。仮にこの状況を別世界では総統に恋人を寝取られたアマツ(シズル・潮・アマツ)数少ない男を見る目のあるアマツ(ナギサ・奏・アマツ)が見ていたら苦笑しながらどっちもどっちだと思った事であろう。片方は人の事を言えないのだが、この世界の彼女は夫の総統崇拝ぶりに時折若干引きながらも基本幸せ一杯な奥様なので知らぬが花である。

 

「ふむ、しかし帝国の高官が同時に人格が別人のようになったともなるとどうやら単なる過労とは考えにくいな」

 

好きな人を語る女の顔から帝国のNO2(アストレア)の顔となってチトセ・朧・アマツはそんな事を口にする

 

「何者かの星辰光による工作の可能性があると?だが閣下ほどのお方をこのように出来る可能性があるとすれば一人しかいまい」

 

そんな風に答えながらアオイ・漣・アマツが思い浮かべるのはヴァルゼライドに比肩しうる数少ない存在。海洋王の異名を持つ一人の男の姿

 

「おいおい、ちょっと待てよ。クリスの奴がこうなっただけならそりゃその可能性もあるかもしれないけどよゼファーの奴をこんな風にして何のメリットがあるってんだ?」

 

総統閣下!あの日の思いを取り戻してください総統閣下!!!などと相変わらずヴァルゼライドのようなナニカに対して熱く語りかけるゼファーのようなナニカを見ながらアルバートは帝国を混乱に陥れるためにしてはあまりにお粗末すぎるだろと元諜報部隊の長を務めた立場からその可能性を否定する

 

「うーん、私はその辺の難しいことはよくわからないけどアッシュ君って今の平和な時代にした立役者の一人でしょ。クリスをこんな風にして世の中を混乱させるような事するかなぁ?あの優しい子がそんな事をするなんて私は思えないなぁ」

 

「同感ね、そんな事を考えるような子だったらあんな風に生きていないでしょうし」

 

「うーん、私もアッシュ君がそんな事をするとは思えないですよ」

 

マリア、ヴェンデッタ、ミリィは嫌疑をかけられた人物の性格からその推測を否定する。

 

「落ち着いてくれ。私とてあくまで可能性を示唆しただけで本気で彼を疑っているわけではない」

 

「そうだな、アルバート殿の言うように確かに彼がその気になってやったものとしてはあまりにお粗末過ぎる。それこそ本気で帝国を混乱に陥れるのが目的ならばそれこそゼファーではなく、ギルベルトや私を狙うだろう」

 

まあギルベルトの奴は何か勝手に機能停止状態に陥ったがと立ったまま気絶しているギルベルトを呆れたような目で見ながらチトセは告げる。それにしても立ったまま放置されているあたりギルベルトも微妙に哀れである。ロデオン夫妻とアオイはヴァルゼライドへのショックによる動転ですっかり忘れているためであるが、チトセは気づいていながらそのまま放置している辺り彼女のギルベルトへの好感度が窺い知れる。

 

「だがなんと言ってもスフィア到達者だ。彼ならば何か原因を突き止められるかもしれんし、その能力を持ってすればこうなった閣下を元に戻せるかもしれん。他国人故本来は早々頼るわけにはいかんが事態が事態だ。ここは丁重に迎えに行くべきだろう。容疑者ではなくあくまで客人として丁重にな」

 

常に無い焦りを見せながらアオイ・漣・アマツはそんな事を告げる。かくしてセントラルに呼ばれる事となったアシュレイ・ホライゾンだが、そんな彼もまた同様の異変に見舞われているのであった……

 




アシュえもん、アシュえもん、ヴァルアンとゼファ夫が変なんだ!ねぇ元に戻すための星辰光出してよ~~~~

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