シルヴァリオシリーズ短編集   作:ライアン

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オリキャラの名前は例によって適当です
小さい頃に大人の目を盗んでこっそり友人とやった悪戯って当然怒られるべきことなんですけど、それでも後々まで続く思い出だったり友情だったりに繋がりますよね。


繋いだ手の温もり(後)

「アヤよ、お嬢様はどうされている」

 

部屋の前で警備責任者たるモルト少佐は自らの仕える家の息女の傍付きの少女へとそんな問いかけを行なう。本来ならば直接会って確認しようと思ったのだが、先ほどそうしようとしたところ「モルトなんて大嫌い!部屋に絶対入ってこないでよね!入ってきたらお父様に言いつけるから!」などと言われてしまえば従者の身としては主君の部屋に強引に押し入ることも出来ず、こうして部屋の前で様子を確認するのが精々である

 

「アッシュ様とミステル様が宥めてくださったおかげでようやく落ち着きつつあります。ただモルト少佐はずいぶんと嫌われてしまいましたよ、モルト少佐のお顔を見るとせっかく落ち着かれたのにまた……」

 

申し訳なさそうにそんな事を仕える従者の少女に対して壮年の軍人はため息つきながら

 

「癇癪を起こされてしまうか。わかった、今宵はそっとしておくこととしよう。アヤよ、わかっているとは思うが……」

 

「はい、承知しております。これも全てはナギサ様のご安全のため、従者ならば情に流されず主君の身の安全をこそ第一と考えるべし、ですよね?」

 

常と変わらず聞き分けの良い従者の少女の様子にモルトは満足気に頷く。

 

「うむ、わかっているのならば良い。主が危険な行動をしようというのなら止めるのが従者の務めなれば、仮に不興を一時買ったとしても諌めねばならぬ時がある。それでは、お嬢様の事は任せたぞ」

 

それだけ告げるとモルトは立ち去っていく。まさか何時も大人しく聞き分けの良いお嬢様が、すでに屋敷から抜け出している(・・・・・・・・・・・・・・)などと思いもせずに。

 

「いやー名演だったわねアヤちゃん、あの人ナギサちゃんが部屋に居るって信じきっていたわよ」

 

離れたことを確認した後に、からかう様な口調でミステルが先ほどのやり取りを揶揄するかのように話しかける

 

「それはまあ、私は嘘は何も言っておりませんし」

 

そう、アヤは何も嘘は言ってない。主である少女がしばらく大荒れしていたのも、それをミステルとアッシュが宥めてくれたのも全て事実である。単に宥める方法としてアッシュがこっそり抜け出して祭りに行こうという提案をした、というのを話していないだけである。時に主の不興を買ってでも主を諌めること、主の身の安全を優先するのが従者の務めというのも当然承知している、承知した上で主の安全ではなく、主の心(・・・)を優先したそれだけの事である。

それは子どもの無謀さゆえの行動ではあっただろう、世の中に潜んでいる悪意というものを知らずに今ある幸福がある日突然消えてしまうなどという事を想像さえしていない、出来ない優しい陽だまりの世界で育った者の行動。だが、それでも泣いていた少女を笑顔にしたのは大人の理屈ではなく、そんな子ども故の行動と友情だった。

 

「ですがこのように大人の方々にこっそりと隠れて行なうというのはなんだかドキドキ致しますね。バレたら大目玉を食らうとわかっているのに、私なんだかワクワクしてきてしまいました」

 

「あ、アヤちゃんも?私も同じよ、こんな風に友達と一緒に大人に隠れてこっそりと悪戯するような事なんて貴方達に会うまではやったこともなかったもの」

 

箱入り従者だったアヤとミステルはそんな風に悪戯っぽく笑う。おそらく昔の彼女達だったら、こんな事をしなかったはずだ。それは今はここにはいない、もう一人の少女にしても同じだろう。箱入りである彼女達だけならばおそらくこれまでと同じく大人の言う事にしたがって我慢したはずだ。そんな彼女達がこんな風に出来るようになったのは、やはり初めて出来た男の子の友達のおかげだろう。

大人から見れば誑かされた、と言うのかも知れないが彼女達自身はそんな自分の変化を気に入っており、それは今少年と行動を共にして、屋敷をコッソリと抜け出すなどという初めての体験をしている少女も同じ思いだろう。だから、少女達にとっては少年は特別な存在だった、自分達を外の世界に連れ出してくれる御伽噺に出てくるような王子様、そんな少女らしい埒もない可愛らしい夢を見てしまう程度には。

 

「うふふふ、それにしても屋敷を抜け出して秘密のデートだなんて……本当に御伽噺のお姫様のようで少々、いえかなりナギサ様がうらやましいです」

 

「確かに。女の子の夢、よね。この分じゃお嫁さん一回分と言わず二回分位変わってもらったほうが良かったかしら?」

 

クスリと笑いながらミステルがそんな事を告げると

 

「あまり長くやれないとむくれてしまうんじゃないでしょうか?アレでかなり愛の深いお方ですから。それにしてもよろしかったのですかミステル様?私はモルト様を誤魔化すために残る必要がありましたが、ミステル様はアッシュ様やナギサ様とご一緒されても……」

 

「それじゃあアヤちゃんが一人ぼっちでお留守番になって可哀想じゃない。四人組で一人だけ仲間外れって後々辛いわよ~他の三人が思い出話で盛り上がる中一人だけそれに参加できないんだから」

 

そんな年上のお姉さんらしい気遣いをミステル・バレンタインは笑いながら告げる

 

「だからね、帰ってきた二人を留守番役同士で盛大にからかってあげましょう、二人っきりのデートは楽しかった?って。きっとナギサちゃんのことだから顔真っ赤にしてとっても可愛い反応見せてくれるわよ~~~」

 

「うふふ、そうですね。根堀葉堀り聞かせていただくこととしましょう。そして来年こそは、4人揃って。みんなで夏祭りへと行きましょう」

 

こんな幸せな日々がきっと何時までも続いて自分達は大人になっていくのだと信じて疑っていない少女はそんな何事も起こらなければ(・・・・・・・・・・)実現するであろうささやかな願いを口にして

 

「そう……ね。うん、来年こそは皆で行きましょう、アッシュ君とナギサちゃんに案内して貰いながら、ね」

 

年長の少女は心の底からそれが実現する事を祈りながら、留守番役になった二人の少女は帰りを待ちながら会話に花を咲かせるのだった……

 

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「わぁ……」

 

ナギサ・奏・アマツは目の前に映る風景に感嘆の声をあげた。屋敷を夜中にこっそりと大好きな少年と一緒に抜け出すという、まるでいつも自分が読んでいるお話みたいな事をしているだけで胸が高鳴っていたのに、そうして少年と一緒にたどり着いた場所では今まで見たこともない風景が広がっていた。そうしてしばらくの間呆けていると

 

「見ているばかりじゃ勿体無いよ、さあ行こう!」

 

そんな事を優しい微笑みを浮かべながらこちらに左手を差し出してくる少年の姿があって

 

「はぐれるといけないから。手を握って歩こう、ナギサが嫌じゃなければだけど」

 

そんな事を告げてくるものだからお姫様はおずおずと右手を差し出して、はにかみながら右手に確かな暖かさを感じるのだった。

 

 

 

突然だがナギサ・奏・アマツは所謂お小遣いというものを貰ったことが無い。というのもそもそも一人で外出するという事がなく、欲しいものがあれば両親にお願いすれば大体買って貰える生粋のお嬢様だからである。アヤ・キリガクレが彼女の従者として仕えるようになったのも元を正すと彼女が誕生日の時に、誕生日プレゼントは何が良いかという両親からの問いかけに対して、年の近いお友達が欲しいと言った事に由来する。まあ、そんなわけでナギサ・奏・アマツはこういったときに自分が自由に使えるお金というものを持っていないし、買い物を一人で行なったことも無い。

一方のアシュレイ・ホライゾンは裕福な商人の息子であり、あちこち旅をして来た。本人の社交性も合間ってあちこちで多くの友人を作った彼は当然、こういった祭りのようなものに出るのは初めてではなく、これまで何度も来ているし、前もって今日お祭りに行くことを父に伝えて熾烈な(何時もに比べるとずいぶんと父が優しかった気がするが)予算交渉の末に今日使うためのお小遣いを入手していた。故に必然的に……

 

「おばちゃん、わた飴二つ下さい!」

 

そう言ってアッシュは二人分の代金を支払う。

 

「はいよ、おやおやボウヤったらあんまりみない顔だけど、可愛い女の子連れちゃって隅に置けないわねぇ。キレイな黒髪をしているしまるでアマツのお姫様みたいじゃないかい」

 

みたいも何もそのアマツのお姫様張本人なのだが、そんな事を言っても騒ぎになってしまうだろうし、アッシュは笑って誤魔化し、ナギサの方もなんて答えたら良いのかわからないのだろう、顔を赤らめながら「えっと……ありがとうございます」と小声で応じる。

 

「おやおや照れちゃって。ちょっと、本当に一体どこから浚ってきたんだい、こんなお姫様を」

 

「あははは、第二太陽の方からちょっと」

 

空に浮かぶもう一つの太陽を指差しながらアッシュがそんな風に答えると冗談と受け取った屋台の店主は

 

「それじゃあちゃんとエスコートして返してあげないとね。男の子なんだから、ちゃんと守ってあげるんだよ」

 

そんな風に告げてくるので、はいもちろんです。と少年は手を握る力を少しだけ強めて、少女は顔を真っ赤にするのであった。

 

 

 

「はい、ナギサ。これがこの間話していた、わた飴だよ。ナギサの口に合うかどうかはわからないけど……」

 

「わぁ……すごい。まるで雲みたいにふわふわしているんだね……」

 

そうして恐る恐ると言った様子で口にするとその顔を輝かせて

 

「アッシュ!これすっごく美味しいよ!えへへへ、こういうの食べるの初めてだなぁ」

 

心からの笑顔を浮かべながらそんな事を告げてきたのでアッシュはホッと胸を撫で下ろして

 

「良かった~もしも口に合わなかったらどうしようと思ったよ」

 

優しい彼女の事だからきっと口に合わなかったとしても美味しいと言うのだろうけど、様子を見るにどうやらそうやってこちらを気遣っての事ではなくて心からそう思って居るのだと理解してアッシュは安堵する。そうして夢中になってわた飴を食べ終えた後も様々な屋台を巡って恐る恐ると言った様子で最初に口に含んでから、夢中になって食べてというのを、時には半分こにしながら、して腹ごなしが済んだ二人は今度は射的へと挑戦したのだが……

 

「……捨てていいよ、そんなの」

 

どこか拗ねたような顔でアシュレイ・ホライゾンはとても嬉しそうに(・・・・・・・)散々挑戦した後にようやくゲットできた戦利品を大事そうに抱える少女に対して告げる。あらぬ方向に飛びまくった挙句、結局最後は少女が欲しがったぬいぐるみではなく、その隣のどこかへんてこな、10人が見れば9人は趣味が悪いと言うであろう人形へと当ってしまい終了。なぜか昔から射的の類はめっきりダメで、玩具の銃でこの有様なのだからもしも実物を扱うこととなったら目も当てられない事になるだろう。まあそんなわけで男としての面子が丸つぶれなアッシュはむくれた顔を浮かべているわけだが……

 

「捨てたりなんかしないよ、だってアッシュが私の為にとってくれたものだもん!」

 

物自体ではなくそれを誰が送ってくれたのかが大事なのだと言わんばかりに少女は普段プレゼントされているぬいぐるみに比べればはるかに安物で趣味が悪いぬいぐるみを大事そうに抱える。そんな少女を見て少年は男の意地というのか、もっと良い物を想い出のプレゼントにしたいと考えたのだろう、良い感じのをマフラーが景品となっているのを見つけて今度は輪投げへと挑戦する。そんな少年の想いが通じたのか、今度は無事に成功して、季節はずれだけど冬になったら使って欲しいと照れくさそうに言いながら渡す。

当然少女は大喜びで天使のような笑みを浮かべて、大切に使わせてもらうねと笑顔で告げたのだが不意に何かに気づいたように浮かない顔を浮かべたものだから

 

「ナギサ、どうしたの?」

 

そんな少女の様子にアッシュのほうも慌てる。ひょっとして趣味に合わなかったのだろうか、父親に目利きに関しては鍛えられたから、季節はずれではあるもののそこまで安っぽいものというわけではないはずなのだがと不安になると……

 

「…さっきから私、アッシュに貰ってばかりで私は何もアッシュにしてあげられていないなって……考えてみたらいつもお土産買ってきてもらったりで私と来たら貰ってばかりで、私の方から何かアッシュにプレゼントした事無いし……」

 

そんな事を俯きながら告げるものだから、アッシュは少しだけ手を握る力を強くして

 

「そんなこと無いよ。プレゼントならさっき貰ったばかりさ!」

 

笑顔を浮かべながら明るい声でそんな事を言うものだから、ナギサは目を丸くして

 

「え?え?え?さっきって……私アッシュに何もあげてないよ」

 

そんな何がなんだかわからないと言った様子を見せるものだからアッシュは笑顔を浮かべながら

 

「さっきとっても素敵な笑顔を見せてくれたじゃないか。僕にとってはそれが十分すぎる報酬だよ!」

 

ドンと胸を叩いてそんな事を告げて

 

「だから、そんな哀しそうな顔をせずに笑ってよ。僕はナギサの笑顔が大好きだからさ!それを見るためだったらお小遣いがちょっと減る程度安いもんだよ!」

 

そうしてぎこちないながらも笑みを見せてくれた少女に対して優しく微笑みながら

 

「それじゃあそろそろ行こうか。もうすぐ今日のメインイベントの時間だから、とっておきの場所に案内してあげるよ」

 

そう告げて少年は少女の手を優しく引きながら秘密の場所へと案内するのだった……」

 

 

 

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「綺麗……」

 

寄り添い合って手を握り合いながら二人は夜空を彩る閃光をその目に焼き付けていた。そうして天に存在する第二太陽へとそれぞれ祈りを捧げる。そうして祈りを終えるとポツリとアッシュは問いかける

 

「ナギサはなんてお願いしたの?」

 

「えっと……来年こそは皆で、アヤもミステルも一緒に四人でお祭りに来れます様にって」

 

えへへとはにかみながら少女はそんな事を口にする。少しだけ、今傍にいてくれている少年と二人っきりじゃなくなる事を残念に思う気持ちもあるけど、でもそれ以上に四人一緒が良いと少女は願っていた。アヤ・キリガクレもミステル・バレンタインも彼女にとっては心の底から大事だと言える友達だから。

 

「そういうアッシュは、なんてお願いしたの?」

 

「僕は……ずっとナギサとこんな風に一緒に居られます様にって」

 

それは少年にとっては深い意味はなかったのだろう。単純に少年にとっては両親と一緒にあちこちを旅にするのが当たり前だったから、仲の良い友達が出来てもすぐに別れたり、もう一度会ったりというのが中々出来ない友達というのがたくさんいたから。目の前の少女とそんな風にお別れせずに、ずっと一緒に仲良くしていたい、そんなささやかなお願いだった。だが、少女の方は何か勘違いしたのかすっかり顔を真っ赤にして

 

「え、えっとアッシュ……そのそれってひょっとしてひょっとして……私をお嫁さんに……」

 

「あ、次で最後みたいだよ」

 

タイミングが良かったのか悪かったのか、最後は恥ずかしさのあまりに小声になってしまったためか、少女の問いかけは花火の轟音にかき消されて少年の耳には届かなかったようである。そうして最後に打ち上がった花火を見届けて、その場でしばらく寄り添い合いながら共に空を見上げて……

 

「それじゃあ、そろそろ帰ろうかナギサ。アヤとミステルが待って居るだろうし」

 

あんまり長く待たせたら悪いからと少年も少女と二人きりで居られるこの時間にどこか名残惜しさを感じながら告げる

 

「うん……来年もまた見に来ようね、今度は、四人全員で」

 

そうして少女もまた同様の名残惜しさを覚えつつも、笑顔で未来の事を夢見ながら返答する。少年も同様の未来が来ることを一切疑わずに、最後に二人は揃って第二太陽へと改めて祈りを捧げるのだった。

 

ずっと一緒に居られますように、四人一緒に花火が見られますように

 

と。こんな優しい日々が何時までも、何時までも続いていくのだと信じて……




夏のお祭りで輪投げの景品にマフラーが並ぶような事は僕らの世界だったらまずありえませんが、シルヴァリオ世界は新西暦という世界観なのでなんか文化が伝わっているうちにわけのわからない感じに捻じ曲がってそうなったんでしょう(適当)
ナギサちゃんが大事そうにつけているマフラーをせっかくだからアッシュからプレゼントされた想い出の品にしたかった。正直無理があった気はするが俺がそう思うのでそうなのだ(゚∀。)y─┛

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