銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

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理想の世界
HEルート


□ライヴェルト□

 

「やれ!」

 

V.V.の言葉がアリエス宮の薄暗い玄関ホール内に響き渡る。

 

ホール内の至る所から多くの人間の気配を感じた俺は自身が作りあげたシステムを掻い潜って集まったギアスユーザーたちかと、『状況が最悪だ』と唇を噛みしめる。

 

背後にいる足を負傷しているマリアンヌと涙目のルルーシェに目を配る。マリアンヌは小さく首を横に振って娘のルルーシェを見る。まるで『最悪ルルーシェを連れて逃げろ』というメッセージが込められているようだった。

 

俺は覚悟を決めて、マリアンヌに向かって大きく頷いた。

 

しかし、俺のそんな覚悟を嘲笑うように玄関ホールに光が灯った。

 

「な、何だと!?」

 

V.V.の驚く声に導かれるように周囲を見渡すと柱にギアスユーザーらしき人間を押さえつけているジェレミアがいた。

 

ギルフォードを伴ったコーネリアがフードを被った人間に対しサーベルを突きつけていた。

 

くぐもった声に振り向けばビスマルクに押さえつけられたV.V.の姿があった。

 

そして、ゆっくりとした歩みで玄関先から現れたのはシャルルだった。

 

シャルルはアリエス宮の玄関ホールにいる全ての人間1人1人の顔を確かめるように見て行く。

 

全員を見終えた彼はゆっくりと瞼を閉じて言葉を述べた。

 

「皆の者、我が妻マリアンヌ、そして娘のルルーシェの命を暴漢から救ってくれたこと感謝する」

 

沈黙、その後に爆発的な歓声があがる。

 

見ればジェレミアを初めとした軍人たちは皇帝の言葉を聞いて男泣きしながら感動し、コーネリアは安堵の息を吐いている。ギルフォードはしっかりと襲撃者の1人を拘束して床に押さえつけているためか姿を見る事が出来ない。

 

V.V.は猿轡をされた上に抵抗できないように手足をきつく拘束され、その上シャルルからゴミを見るような視線を向けられて意気消沈していた。ビスマルクはそんな彼を担ぎあげるとシャルルや救護班から治療を受けているマリアンヌに一礼するとアリエス宮を後にする。

 

「ライっ!」

 

腰の辺りに衝撃が来た。振りかえれば涙をボロボロと零しつつ鼻を啜るルルーシェの姿。俺はしっかりとルルーシェの方へ向き直り、改めて彼女を正面から抱擁する。するとルルーシェは涙声で呟いた。

 

「ライならきっと、ううん……絶対に来てくれるって信じてた」

 

俺は少々ズルをしてしまったことに罪悪感を覚えながらもルルーシェをギュッと抱きしめる。そして、少し身体を離して視線を合わせるといつか言おうと思っていたことを口にする。

 

「当たり前だよ。僕はルルーシェの選任騎士なんだから、君がピンチになったらどこにいてもやってくるよ」

 

歓喜の涙を流すルルーシェを優しく抱きとめた俺は彼女の背中を優しく撫でる。周囲にはシャルルをはじめ、救護班に咎められながらもカメラのシャッターを切るマリアンヌや、慈しみの視線を向けてくるコーネリアとか山ほどギャラリーがいるのに、若干「やっちまったなー」と思いながらも俺は流れに身を委ねることにした。

 

 

 

 

□ルルーシェ□

 

お母さまが子供のような姿をしたテロリストに襲撃される騒ぎがあってから8年経った。

 

私の騎士であるライはお母さまを守るためにいち早く行動したことが評価されて昇進し、彼が作ったシステムも相俟って今では帝都ペンドラゴンだけでなくブリタニア本国全体を守る『神聖ブリタニア帝国本土防衛軍』の総司令として多忙な日々を送っている。

 

巷では『無冠のナイトオブラウンズ』とか『魔王という称号が似合う男』とか『生けるバグキャラ』とか『難攻不落過ぎて逆に怖い』とか言われるライであるけれど、外で何と言われようが関係ない。

 

だって彼は私の選任騎士、ううん。旦那さまなのだから。

 

 

 

お母さまが襲撃される騒ぎがあってからしばらくして、ブリタニア帝国の第3皇女でいるよりも皇位継承権を破棄してしまった方がライのためになるということを知った私は、お父さまとお母さまに相談して十分に話し合って継承権を放棄した。

 

その時、ナナリーも一緒に放棄しようとしたが「それはダメ」とお母さまが説得していた。

 

ともかく、私は将来ローウェンクルス家に嫁入りすることに伴い、一度ライの家族に挨拶に行かなきゃと思って行った先で生死を彷徨うことになった。ライのお姉さんであるルティアさんの料理を出されてからの記憶がない。

 

ライのお母さまはすごく武術に長けておられ、遠い所から嫁に来た私に賄いにと今朝獲れたばかりのグリズリーという獣の肉を使った料理を振る舞ってくれた。その時は何とも思わなかったけれど、王宮に帰ってグリズリーという動物を調べてびっくり仰天。すごく強い力を持っていて人間の大きさを遥かに超える肉食獣であったのである。私はそこで思った、サクラ義母さま恐るべしと。

 

ちなみにライのお父さまとお兄さま、甥っ子くんにも会ったけれど、優しくていい人たちであった。しかし、ライとは正反対の物静かで争い事はあまり得意ではなさそうな感じにはびっくりしてしまった。

 

ライは特別なんですね、わかります。

 

「へー、話には聞いていたけど、本当に天然なんだね」

 

「えっと、貴方は?」

 

「ボクはマオ・リターナー。ローウェンクルス伯爵家に仕える家臣のひとつの家の者だよ。ライヴェルトに救われたんだ」

 

「そうなの?それじゃあ、私と同じだね」

 

そう笑顔で告げるとマオくんは眉間を押さえて蹲った。

 

小声で「魔王要素はどこで迷子になったんだ」とか「これはもはや天然を通り越して逆の意味でヤバい」とか言っている。

 

意味が分からなかったので首を傾げると、マオくんは遠い目をしながら「何でもないよ」と言って去って行った。

 

 

 

さて、皇暦2017年現在。

 

ブリタニアの皇帝はオデュッセウスお兄さまへ順当に引き継がれ、宰相にはシュナイゼルお兄さまがなり、神聖ブリタニア帝国という大きな船を動かしている。

 

コーネリアお姉さまは選任騎士であるギルフォード卿を初めとした親衛隊を連れて世界各地に広がるエリアの“いざこざ”を終息させるべく転々としている。

 

お父さまの直属騎士として本当は辞めないといけなかった方々もヴァルトシュタイン卿を除いて、そのままの地位に立ち、兵たちの士気を鼓舞する存在のまま、その力を思う存分に振るっている。

 

「ルルーシェお姉さま」

 

「あら?いらっしゃい、マリー」

 

帝都にあるローウェンクルス伯爵家の別邸で暮らしている私の元に、大勢いる異母妹の1人であるマリーベル・メル・ブリタニアがお菓子を持って訪れた。

 

彼女は私の騎士であり夫であるライにとても感謝しているらしいのだが、それがどうしてなのかは教えてくれない。まさかライを狙っているんじゃないのかって疑ったことがあったけれど、どうやらそういう意味ではなかったみたい。

 

「今日はジヴォン兄妹とは一緒じゃないのね」

 

「ええ。こんなにも平和なんですもの、ルルーシェお姉さまのところへ遊びに来たところで誰にも咎められませんわ」

 

「そうね。ところで、マリー?」

 

「どうかなさいました?」

 

「外にオルドリンが来ていて何かを叫んでいるのだけれど、どう返事をしたらいいのかな?」

 

「ルルーシェお姉さま、私急用を思い出しましたので帰りますわ」

 

席を立ったマリーベルの行く先はオルドリンが待ち構える玄関、ではなく裏口。鼻歌交じりの軽快なスキップをしながら去って行くマリーベルの背をのほほんと見送った後、呼び出しのベルを律儀に鳴らして入ってきたオルドリン・ジヴォンに私は笑みを浮かべながらさっと裏口を指差す。彼女は慌てながら頭を下げると、マリーベルの後を風の如く追いかけて行った。

 

マリーベルが置いて行ったお菓子を食べながら庭先を見ているとクロヴィスお兄さまが来ていた。

 

「すまないね、ルルーシェ。アリエス宮にも劣らぬ庭園の素晴らしさに心惹かれてやってきてしまったよ。この庭園を造る様に指示を出しているのもローウェンクルス卿と聞いている。彼は実に感性豊かな才能を持っていそうだ。是非とも庭園の造形について語り合いたいのだが、今夜は泊まって行っても大丈夫だろうか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。クロヴィスお兄さま。ただ、今夜は先約が入っているので語り合うのは難しいかもしれませんね」

 

「先約とは?」

 

「シュナイゼルお兄さまがライとチェスをしに奥さまをつれて来られるのです」

 

「兄上がかい!?驚いたな、ローウェンクルス卿はチェスも……いや、本土防衛軍の総司令殿が弱いはずがなかったね。庭園のことについて語るのは後日にさせてもらおう。私は兄上とローウェンクルス卿のチェスの駆け引きを楽しませてもらうよ」

 

「では客室の準備をしてきますね」

 

「いやそれには及ばないよ。君はこの暖かな陽光が降り注ぐこの位置にいていいんだ。私もこれで自分の事はちゃんと出来る男だからね」

 

「そうですか?では階段を上がって突き当りの部屋をご自由にお使いください、クロヴィスお兄さま」

 

クロヴィスお兄さまが階段を上がって行く音が聞こえる。どうやら、ちゃんと部屋についたようだ。私は紅茶を淹れようと立ち上がり、台所に向かってそこに珍入者がいることに気がついた。

 

「こんな隅っこで冷凍食品のピザを食べなくてもいいではないですか、C.C.さん。私と一緒にお茶菓子を食べましょう?」

 

「何がどうしてこうなった」

 

「ん?」

 

「ええい、可愛らしく首を傾げるな!あの時、早まった判断をしなければよかった。私の魔王がすぐそばにいるなんて思わなんだ……」

 

さめざめと涙を流すC.C.さんはしゃがもうとした私に向けて首を振った。そのすぐ後に立ち上がると私の背中を押していってリビングの椅子に座らせる。

 

「ふん。これでも昔は使用人の真似ごとをしていたこともあるんだ。ルルーシェ、お前は何もせずにそこに座っていると良い。私への報酬はお前の旦那にピザを作ってもらうことで勘弁してやる」

 

「ふふっ。ライの作るピザは絶品ですものね」

 

私は大きくなったお腹を優しく撫でる。私とライとの間に出来た愛の結晶が生まれてくるまでは、あと少しの時間が掛かるみたい。

 




誤字報告ありがとうございます。

あ、完結じゃありませんよ。次回から『反逆のルルーシェ?編』がはじまります。

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