銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

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□ライヴェルト□

 

【あ、いらっしゃい。人の子よ】

 

東京湾で漁師を営んでいる人に漁船を出してもらって神根島についた俺ことライヴェルト・ローウェンクルスは『Cの世界』に続く遺跡に触れた。それと同時に身体ごと『Cの世界』にやってきた俺は、前の世界で見た『アーカーシャの剣(建築中)』が木っ端微塵に砕け散る様をもう一度見る事になった。

 

あー、これはマリアンヌやV.V.の発狂待ったなしだなーと現実逃避していると、気味の悪い白い仮面を被った子供みたいな体型のナニカが直接頭に語りかけてきた。

 

【どうだい、新しい世界は。我々に明日を望んでおいて自殺した君に用意した並行世界だけれど、楽しんでいるかい?】

 

「言葉が軽すぎないか、集合無意識。だが……。どうして、俺がライヴェルトの肉体に憑依することになったのか、不思議でたまらなかった理由が解けた」

 

集合無意識は真っ白な空間にどこからともなく机と椅子を引っ張り出して腰掛け、俺に正面に座る様に告げてくる。ガラスの様に透き通った机と椅子だなと思っていると椅子が3脚用意されている事に気付く。

 

「誰か来るのか?」

 

【いや、もう1人は我々の関知できない場所に逝ってしまっているから呼べない。けど、君にはその意味が分かるだろう、人の子よ】

 

「……ああ。そうだな」

 

俺は家族思いの銀髪碧眼の少年のことを思い出し、微笑を洩らした。

 

 

 

【君が死ぬまで、“誰も”この世界には“来れない”ようにしておいたから】

 

と、別れ際に爆弾発言を俺にくれやがった集合無意識。

 

 

あまりに突然のカミングアウトであったため、碌な反論もすることが出来ず遺跡の外へ放り出されてしまった。遺跡に触ってみるが何の反応もない。あの調子だと集合無意識から犯人が俺だっていうことも漏れるはずがないから誰も原因は分からないだろうと、考える事にしてとりあえず待たせている漁師の元に急ぐ。途中、木になっていた果実を回収しながら。

 

その後は漁師のおすすめスポットで思う存分釣りを楽しみ、大漁旗を振って漁港に帰還。漁師の奥さんに釣った魚を調理してもらい、舌鼓を打った俺は彼らと別れ、一路ビジネスホテルへ向かう。日本でやりたいことはやり終えた。

 

Cの世界に行くための道を一方的に封鎖したのは余計であったかもしれないが、何とかなるだろう(棒読み)。

 

もう一度藤堂家に寄って一泊した後で本国に戻ろうと思った俺は、ビジネスホテルのチェックアウトを済ませて鞄を背負って移動する。タクシーで直行するか、公共機関を使ってのんびり行くか迷っていると、どこか見覚えのある白髪の少年と会った。

 

彼は自分を見て動きを止めた俺に興味を持った様子だ。しかし、こんなにも全身がガリガリで白髪の少年なんて、それこそ……。

 

「……もしかして、マオか?」

 

「そう言う君は何者なのさ。いくら待ってもC.C.が会いに来てくれないから、彼女が一番居そうなここに来たのに、声を掛けて来たのは男って」

 

「あ、そうか。この姿じゃ分からないよな」

 

今の俺はルルーシュではなくライヴェルトだ。黒髪紫瞳の少年ではなく銀髪碧眼の少年という外見の違いもある。

 

「そう言うってことは、君と僕は前の世界で会ったことがあるっていうことか。『ぐぅ~……』ねぇ、何か食べ物持っていない?」

 

「……そこのファミレスに入るぞ、マオ」

 

俺は盛大な腹の虫を鳴らしたマオを連れてファミリーレストランへ入店する。マオが厚いメニューから選んだのは、ステーキ定食。ジュウジュウと熱気を上げるステーキ肉を頬張り、白飯を次々と掻き込み、店員にお替わりを要求。満足するまで食べて大きくなった腹をポンと叩いたマオは両手を合わせて『ごちそうさま』と俺に向けて言う。

 

「で、俺のことを思い出したのか、マオ?」

 

「うん、喋り方でね。君はルルーシュだよね。驚いたよ、君なら僕を見ただけで殺すんじゃないかなって思ったんだけれど」

 

「……ギアスは所持していないんだな」

 

「C.C.に会っていないんだから当然でしょ。ま、きっと彼女の事だから……」

 

俺がルルーシュの時に傍に居続けてくれた緑髪の魔女に対して病的なまでの執着心を抱いていたマオのことだ。転生したこの世界においてもそういった感情を抱いたままなのだろう。

 

今の内に片付けておくか、そう考えた俺であったのだが彼が放った言葉を聞いて言葉を失った。

 

「ボクを殺したことを悔やんで会いに来てくれないんだね。ボクは、『ギアスが暴走して以降の壊れてしまったボクを止めてくれてありがとう』ってお礼を言いたいだけなのにさ。彼女が積極的に避けるんじゃ、ボクでは一生C.C.に会えないよ。そもそもこの国にも不法入国だしさ」

 

就学前のお子様の身体で達観したように呟くマオを見て、俺はひとつ提案をする。

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。マオ、俺と手を組まないか?」

 

「……へ?」

 

鳩が豆鉄砲を受けた様に呆けた声を漏らす白髪の少年マオ。前の世界においては殺さなければ大切な誰かの命を奪い取る可能性が高い敵でしかなかったが、今の彼なら良い共犯者になれると思う。

 

「ギアスが無くなったとはいえ、人の感情を見抜く眼や揺さぶりを掛ける話術に衰えはないだろう?なら、俺の共犯者になれ。そうすれば、C.C.に俺が会わせてやる」

 

「前の世界では枷が山ほどあったみたいだけど、この世界ではそうじゃないんだ。……うーん、別にいいけど、ボクを雇うのはお高いよ?」

 

「交渉成立だな。なら、すぐにお前を養子として取るための書類を作成する。今の俺の家を支える家臣団の中に世継ぎがいない家がいくつかあるから、マオにはそこの養子になってもらう。なに、お前なら大丈夫さ」

 

「含みのある言い方だね。ボクがそこで悪さをするかもしれないのに」

 

「今生の俺の母はそういう悪意には敏感だから、あまり無茶すると首と胴体が離れるぞ」

 

俺が笑顔を浮かべながらジェスチャーで首を掻き切る真似をすると、薄ら笑いを浮かべていたマオの顔色が悪くなった。俺が本心で言っている事を察したのだろう。どこかへ逃げようとするマオに対して領収書を付きつける。

 

「マオ、お前に許されている選択肢は、『はい』か『Yes』だ」

 

「ねぇ、君ってさ。前の世界で『魔王』って呼ばれていなかった?」

 

「フッ、それは褒め言葉だぞ、マオ」

 

マオは『一番ヤバイ奴に捕まった』と嘆きつつも俺が作成した養子となる同意書にサインする。俺は本国の父や家臣団に話を通すためにマオを連れて早めにホテルに入り国際電話を通じて調整を行う。準備が整ったところで、俺はマオのパスポートを作り日本から発つのだった。

 

 

□マオ□

 

ボクの名前はマオ。

 

生まれは中華連邦だけれど、前の世界で唯一ボクを助けてくれたC.C.にどうしてもお礼を言いたくて探し回って、一番いる可能性のある日本に行く輸送船に無断で入り込んで不法入国を果たした。

 

しかし、日本の通貨を持っていなかったボクは公園でただで飲める水だけを飲んで歩き回り、もう駄目だと思いかけた頃に話しかけられた。

 

銀髪碧眼の日本人離れした容姿なのに、流暢な日本語を話す14歳か15歳くらいの少年がボクの名前を呼んだのだ。相手はボクのことを知っている様子だった。

 

でも、ボクには彼の記憶はない。

 

お腹が減りすぎて意識が朦朧としていたボクはここにいる目的を言った。その時、丁度お腹の虫が鳴ったのだけれど、それが功を奏し何日か振りのまともな食事にありつけた。

 

そしたら、この銀髪碧眼の少年がC.C.と契約していたルルーシュだと分かった。

 

ギアスが暴走していた頃は憎くて堪らなかったけれど、ギアスの呪いから解放されたボクにとっては単なる知り合いっていう感じでしかない。何だか彼が怪しんでいる様子だったので、ボクの素直な気持ちを伝えると、『共犯者にならないか』という提案が齎された。

 

つまり、彼の言い分としては『何か為すべきことがあり、ボクの人間観察の能力と巧みな話術が欲しい』。

 

その代わりにボクの『衣食住の提供とC.C.と会わせる機会を設けてくれる』らしい。

 

少し脅かすつもりで悪さをするかもと告げると、彼は急に遠い目をして言った。曰く、悪意を持った人間に対して鋭い嗅覚を持った女性が母親であり、下手な真似をすれば首が飛ぶと。何をそんな冗談と思ったのだが、彼の眼は嘘を言っていなかった。

 

 

 

そんなこんなでルルーシュ、いやライヴェルトの生家であるローウェンクルス伯爵家の家臣団のひとつであるリターナー家の養子となったボクは現在、生死の境へ誘う魔の料理を前に佇んでいる。

 

ふんわりとした笑みを浮かべながらボクに向かって期待するような眼差しを向けてくるのはローウェンクルス家の長女でありボクの雇い主のライヴェルトの姉であるルティア・ローウェンクルス。

 

孤児として中華連邦の闇で生活していた頃に残飯を漁った経験のあるボクでさえ、皿に乗っているコレは料理ではなくある種の兵器であることはすぐに分かった。

 

食べたら死ぬよりも恐ろしい目に会う。そんな気がしてならない。

 

ローウェンクルス家の人々は彼女が料理をする前触れを察することが出来るのか、朝から政務であったり、山へ芝刈りに行ったり、家族サービスに出てくるとか、買い出ししてこないといけないと言って使用人に至るまで出払っている。

 

「マオくん、私の料理を食べるの。そんなに嫌なの?」

 

年上の女性なのにうるうると目尻に涙を溜めるルティアさまの表情に根負けしたボクは震える手でスプーンを握り、どろりとした感触でありながら金の様に重量のある手ごたえに泣きたくなったが、男は度胸と思って口にした。

 

 

 

真っ白な空間。

 

暖かな光に包まれながら、ボクが見たのは天使の輪っかを頭の上に乗っけたC.C.の姿。

 

ああ、ようやく会えたね。

 

ボク、いっぱいしーつーにきいてもらいたいことがあってね…………。

 

 

 

 

後日、ボクが目覚めるのに要した時間は1週間掛かったと医者から告げられて以降、ボクはルティアさまの動向を率先してしっかりと見張った。

 

出来る事であれば、早く色んな知識を身につけて、ローウェンクルス伯爵家から遠く離れた地に行きたい。

 


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