銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

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俺ことライヴェルト・ローウェンクルスは列車の車窓から、租界でもゲットーでもない日本の風景を見る事になろうとはな、と感慨深く眺めているとビスマルクに気になる物でもあったかと尋ねられる。

 

俺は適当にラーメン屋を指差し食べてみたいと言った。最寄りの駅で降りてビスマルクと共に列車で指差したラーメン店の中へ入る。注文したラーメンを見て、前世では碌に食べられなかったなと思いながら口にする。こってりとした豚骨スープが極太麺に絡みついて美味いと思っていると、ビスマルクが俺をじっと見ていた。

 

「どうかしました?」

 

「いや、その2本の棒の使い方が上手いなと思ってな」

 

「日本の食べ物は箸で食べるのが前提になっていますからね。ローウェンクルス家では箸を使うのは普通のことですよ。義姉もブリタニアの貴族の元に嫁いできて、まさか和食を食べられるなんてと喜んでいました。ローウェンクルス領は漁獲量が多く日本の和食との相性が抜群なので、割と領民の間にもレシピが広まっていますよ」

 

「なるほど……」

 

そう言うビスマルクは箸で食べる事を諦め、店主からフォークを貰うとラーメンを掻きこむようにして食べる。味の感想を聞くと、豚の骨を煮込んで作る料理もあるのかと感心し、日本人の勿体ないという精神に感心する様子だった。ちなみに『味の感想を聞いたのだが』と再度たずねると、『私は苦手だ』という言葉が返ってきた。

 

日本は元々アジア圏内でも珍しい文化を持つということで海外からの観光客が多い。そのこともあってか、俺とビスマルクが歩いていても特に何を言われるでもなく、落ちついて観光をすることが出来ている。

 

途中、着物屋によってルルーシェたちに似合いそうな浴衣をいくつか見繕う。あとで花火も買って送ろうと考えていると、柑橘系の色の浴衣をじっと見ているビスマルクがいた。

 

「マリアンヌ皇妃なら、こっちの紺色系統のものが似合うと思いますよ。そっちも似合いそうではあるけれど」

 

「……ローウェンクルス。私が何故、マリアンヌさまに贈ると?」

 

「いや、バレバレだから。憧れとかそういう感じなんだろうけれど、一度告白して玉砕して新しい恋をした方が堅実だと思う」

 

「はっきり言うのだな。これは手厳しい……、確かに私はマリアンヌさまに恋心を抱いている。シャルル陛下がいなければ、私が彼女を娶っていたと思いたい」

 

「そこは断言しろよ!あ、すみません。ヴァルトシュタイン卿」

 

「いや、ローウェンクルスの言う通りだ。自分の気持ちをはっきりと伝える事が出来たシャルル陛下に私は自分の気持ちを押し殺して祝福したのだ。故に私はシャルル陛下とマリアンヌさまに忠誠を誓う騎士となった。シャルル陛下やマリアンヌさまの間に生まれて来たルルーシェ皇女殿下やナナリー皇女殿下が幸せになるその日まで彼らは私が守る、と。しかし、ルルーシェ皇女殿下の前にローウェンクルスが現れたことで全てがいい方へ変わった」

 

ビスマルクはそう言うと手にしていた柑橘系の色合いをした浴衣を棚に戻し、淡い若葉色の浴衣を手に取った。そして、そのままレジに向かい購入。贈呈用にと綺麗に包装してもらいピンクのリボンもつけてもらった。

 

もしかしたら、俺がライヴェルトになって一番あり方を変えることになったのは、このビスマルク・ヴァルトシュタインという男かもしれない。

 

ちなみに俺はルルーシェの他にナナリーやユーフェミア、コーネリアの分に加えて、除け者にすると後が面倒なマリアンヌの分と行儀見習いに来ているアーニャの分も購入した。そして、もう一着を手に取る。緑髪の魔女の分を。

 

「ネタに走ったら、殺されるかもしれないな」

 

俺は苦笑いしながらミニスカ風の丈が短い浴衣を元あった場所に戻す。何より知らない小僧に贈られたものを着るような奴ではないしな。

 

一方的に知っているということがこんなにも辛いことだったなんて、何でお前は教えてくれなかったんだと俺は心の内にいる生意気そうな笑みを浮かべる魔女に向かって呟いた。

 

 

 

 

ビスマルクはプレゼントを片手に先に帰って行った。

 

「ローウェンクルスがルルーシェ皇女殿下を裏切るような真似をするはずがないということが分かった時点で私は帰っても良かったのだ。私もナイトオブワンとしてこなさなければならない業務があるので、先に本国へ帰ることにする。ローウェンクルス、怪我や病気に気をつけて帰ってくるのだぞ」

 

と、別れ際にこんな言葉を残して。

 

てっきり俺が作成した旅行日程の全部についてくるものだと思っていただけに拍子抜けと言っても過言ではない。まぁ、監視の目が無くなったので式根島には明日行くとして、今日はとある人物を探そうと思う。

 

恐らく、まだシュタットフェルト家から養子の話が来ていないだろうから、都市圏のどこかにいるはずの忠犬カレンを。

 

ごほん、……ゼロの忠臣であった紅月カレンを。

 

とは言っても彼女の住んでいる地域は特定済みな訳なのだが。

 

 

 

電車やバスを乗り継いでやってきたとある町の公園で同年代の子供たちと遊ばずにぼんやりと空を眺める紅い髪の少女を発見した。

 

その年齢に見合わない憂いを帯びた表情を見て確信を持つ。

 

自分以外にも前世からこの世界に転生している人物がいることに。俺の周囲の人間で特段に怪しいのはユーフェミアである。俺の記憶にあるユーフェミアはあんな暗い笑みを浮かべない。

 

視線を彼女に向けると途端に蕾が開いたような笑みを浮かべるのだが、それ以外の時の彼女の笑みの恐ろしさは半端ではない。俺がルルーシュだっていう確信はないにしても、あんなにも病んでしまったのはやはり俺の所為なのだろうか。ギアスの暴走を読めなかった俺の。

 

「カレン、またこんなところに1人で。母さんがカレーを作って待っているぞ」

 

「あ、うん。おにいちゃん」

 

背の高い紅い髪の青年が俺の横を通り過ぎたと思ったら、ジャングルジムに腰かけていたカレンに話しかける。あれが噂のカレンの兄、紅月ナオトか。利発そうな顔立ち、スラッとした体躯。扇がことある度にぼやいていた『こんな時にナオトがいれば』というコメントからも分かる様に他人から頼られる人望を兼ね揃えている。

 

実際『扇グループ』になる前は『紅月グループ』だったらしいからな。カレンが前世の記憶を引き継いでいるのなら、あのギアスの呪いでブーストが掛かっていたスザクをも上回る卓越したKMF操縦技術もまた引き継いでいると見ていい。

 

だが、ライヴェルト・ローウェンクルスとして紅月カレンと関係を持つことはないだろう。

 

持つとしても敵同士。

 

ゼロの時、あんなにも慕ってくれたカレンの満面の笑みが消えて行く。

 

「……さようなら、カレン」

 

俺はそう呟いて来た道を引き返す。

 

次に日本へ足を踏み入れることになるのは、ずっと遠い未来のことだろうから、と袖で自然と零れた涙を拭きながら歩み続ける。

 

自分を呼びに来た兄に「先に帰っていて」と告げた紅い髪の少女が日本では珍しい“緑色の髪を持った女性”と会話する姿を見ることなく、俺は丁度バス停に来たバスに乗り込むのだった。

 


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