銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

21 / 31
訪日旅行編
20


□ライヴェルト□

 

ボワルセル・アポリプス・スプリングスの3つの士官学校で行われた対抗戦から幾ばくかの月日が経った。

 

最後の競技で俺ことライヴェルト・ローウェンクルスを敵に回し、全滅するという中々得難い経験を得てしまったルキアーノたち候補生はしばらくの間、士官学校に戻ってからも使い物にならないほど真っ白に燃え尽きてしまっていたけれど、最近ではその経験を基に仮想敵『シルバー』を倒すのを目標に頑張っているという話を聞く。

 

俺は対抗戦でマリアンヌとビスマルクに勝った報償代わりに自分が望んだ士官先を得ることが出来た。先方は対抗戦MVPであった俺が配属を希望していることを知った時、上から下まで蜂の巣をつついたような騒ぎで、正に驚天動地そのものだったらしいが、それも落ちつき下士官として日々の業務に励んでいる。

 

長期休暇の際は帝都から遠く離れたローウェンクルス領に戻り、レイリード兄さんの子供の相手をしたり、ルティア姉さんの料理の魔の手から逃げたり、父さんとのんびりサーモンを釣りに行ったり、勘を失わないように母さんと稽古をしたりしている。

 

ローウェンクルス伯爵家の皆に関しては特に心配することもない。義姉となった小柄な日本人女性だけはまだ距離感を掴みかねているが特に問題はない。俺が黙っていても相手の方からグイグイ来るし。

 

 

 

休日は基本的に帝都内の隠れた名店やバーなどを探索するのが目下の楽しみだ。

 

しかし、ルルーシェやマリアンヌは何故か俺の休日を把握していて、休みの前日の夜にアリエス宮に来るように促してくる。行けば必ず精一杯お洒落をしたルルーシェが玄関で待ち構えていて、俺の姿を視認した瞬間に駆け寄ってくる。紅茶を飲んで一息吐いたかと思うと、サーベルを持ったマリアンヌさまに襲撃されるし、最近やんちゃになってきたナナリーも参戦してくるようになったので対応が難しい。

 

そして、おかしなことにアリエス宮に行く度毎回ユーフェミアの姿もあるのだ。たまたま遊びに来るにしても頻度がおかしくないかとルルーシェに話を振ったら、次に訪れた時はいなかった。

 

「さてと、どこかのタイミングで“Cの世界”に行っておきたいけれど、どこが面倒な手続きもせずに遺跡へ行けるか」

 

俺が知っているギアス関連の遺跡は『ブリタニア王宮の玉座の先にあるもの』と『神根島のもの』と、『合衆国中華にあったギアス嚮団の奥のもの』。

 

無難なのは神根島のものだが、何か訪日するネタが欲しい。

 

と思い返した俺は手元にあるレイリード兄さんの子供の写真を見て思いついた。

 

「そうだ。母さんの両親である藤堂家の祖父や祖母に挨拶しに行こう」

 

俺は妙案が浮かんだとニヤリと笑うとカレンダーを見る。よし、思い立ったら吉日。予約を入れておこう。

 

で、毎度のことながら休みの前日に可愛らしく「明日も来てくれるよね」と伺いを告げたルルーシェに行けないことを伝えるといきなり涙声で浮気を疑われ、シャルルから直接携帯端末に連絡が来るというミラクルが起き、夜分にも関わらず事情聴取に訪れたジェレミアに訪日する表向きの理由を告げ、翌朝1人暮らしをしている部屋を出て空港に向かおうとしたら出待ちしていたラウンズ候補に追い掛けられる。胸にでかい物を2つも抱えたエニアグラム卿が陸上競技選手も真っ青な勢いで追ってくるが、こちらとて人外認定を受けても全く問題ない化け物的な身体能力を持っているのだ。

 

信号が急に赤になって進路が塞がれようと少し勢いをつけて壁を走り、体操選手のようにポールを使って大車輪を決め、その勢いのまま宙を飛び信号機を蹴って加速し、道の先へ着地。そのまま後ろを振り向くことなく走り出す。

 

何かを叫ぶエニアグラム卿を置き去ったと思ったら、今度は黒塗りの派手なバイクに跨ったエルンスト卿が並走しながら銃を向けていた。容赦なく発砲される麻酔弾を避けながら先に進む。

 

挙句、何を血迷ったかジェレミアがKMF部隊を引き連れて俺の訪日旅行を邪魔しようとしたが何とか潜りぬけた。搭乗手続きを済ませた俺は色んな人に見送られながら、日本へ向かうのだった。

 

尾行している人物は日本に着いた時に締め上げようと思う。

 

 

 

 

日本の羽田空港に降り立った俺はまず荷物を受け取り、中々出て来ない尾行している張本人を待った。乗客たちが全部はけるのを待っていると、係員の人に不審者扱いを受けるナイトオブワンがいたので助け舟を出す。

 

「父上、出口はこっちですよ。荷物も受け取っていますから、早く行きましょう?」

 

「ロ、ローウェン……。分かった」

 

訝しむ係員たちの前からビスマルクを連れて空港の外に出た俺は彼に向かって手を差し出す。ビスマルクは差し出された手を見て、頭の上に疑問符を浮かべているようだったので、こちらから告げる。

 

「マリアンヌ皇妃たちとの連絡手段である携帯端末と僕を逃がさないための発信機と会話を盗み聞きする盗聴器を全部出せ」

 

俺はビスマルクの身体検査を行い、居場所が知れるようなものを全て目の前で破壊した後で、タクシーを捕まえる。仕方がないのでこのままライヴェルトの母親であるサクラの生家に連れて行ってやる。

 

ただし、ヴァルトシュタインの身体では日本のタクシーはかなり窮屈だったようで、枢木神社に着く頃には腰痛を訴えるただのオッサンとなっていた。

 

「さ、ここからは歩きますよ。僕の叔父が道場の師範代をやっているんで、そっちに一度顔を出します」

 

「は、話が違う。私は『ルルーシェ皇女殿下を捨てようとしているライヴェルトを止めて来い』と命を受けたはずなのに……」

 

「僕がルルを捨てるなんてことは絶対にありえません。確かに最近、束縛が強くなった感じでしたが、あれくらい可愛いもんでしょう」

 

「そうか。……そうだな。今の言葉を聞いて、ルルーシェ皇女殿下も安心されたことだろう。……ローウェンクルス、何だ?いや、待て!君のローキックは死ぬほど痛いのだk」

 

空気が弾ける音が日本の神社の境内に響き渡った。

 

残ったのは腹部にミドルキックを受けて悶絶するナイトオブワンと巧妙に隠されていた盗聴器を踏みつぶす俺と、音を聞きつけてやってきた胴着を着た男性とその他諸々。

 

中にはまだ幼い俺の前世の騎士だった少年もいた。

 

俺はその中でも背が高く、キリッとした眉を持つ男性に向かって話しかける。

 

「お久しぶりです、鏡士朗さん。いえ、叔父上とお呼びした方がよいでしょうか?」

 

「君はライヴェルトくんか?父や母からブリタニア帝国から客人が来るとは聞いていたがそうか、君だったか。で、そちらの人は大丈夫なのか?」

 

俺はちらりと「アバラが、肋骨が持っていかれたぁあ」と喚きながら悶絶中のビスマルクを視界に収めにっこりとほほ笑むと告げる。

 

「問題ありません、この人はいつもこんなですから」

 

「ちょっ!?ローウェンクルスぅっ!?」

 

「そうか、積もる話もあるだろうが、もう暫らく待ってくれないか。彼らの稽古も直に終わるから」

 

「分かりました、僕は彼と一緒に境内で待っています」

 

叔父となった藤堂を先頭に道場へ戻って行く少年少女たち。中にはブリタニア人を初めて見た者も多かったようで、俺やビスマルクを遠慮せずにじっと見つめて行く者も多かった。ま、スザクに関して言えば藤堂にじゃれつく猫の様な感じであったが。

 

実の所、俺は心の内で安堵の息を吐いていた。ルルーシュが存在すべきところにルルーシェがいたのだ。もしかしたら、スザクも女体化しているんじゃなかろうかと本気で心配したのだ。スザクがスザクのままで良かったと胸を撫で下ろしていると、ビスマルクが復活した。

 

「かつて斬り捨てた反逆者たちがお前もこっちに来いと手を振っていた気がする」

 

「大袈裟ではありませんか、ヴァルトシュタイン卿」

 

「君は一度、自身の身体能力がおかしいことになっていることを自覚した方がいいのではないか?」

 

「僕はまだ母さんのようにKMFの装甲を刀一本では切り捨てられませんよ」

 

俺の発言を聞いてビスマルクは両手で顔を覆う。

 

常識がどうとか、マリアンヌさまもとか、彼もまた割り切れない何かがあるのだろう。俺はスザクとかカレンとか、星刻とかマリアンヌとかマリアンヌとかマリアンヌの異常さをよく知っているから、俺も片足を突っ込んでしまったかレベルで納得してしまっているのでそこまでダメージは負っていない。

 

「おい!そこの銀髪!」

 

手水場で手を清め、神社を眺めていると幼少期のスザクが背後に立っていた。

 

「なんだ、少年。何か用か?」

 

「お前、何で日本語が喋れるんだ!お前はブリタニア人だろ!」

 

「母は日本人だし、父方の祖母も日本人だ。というよりも僕の家系は当主の妻は日本人の女性を娶る仕来りなんだ。日本語が喋れて当然だろう?ついでに言えば僕の母は鏡士朗叔父上の姉君だ」

 

「ちょっと待ってくれ。えーと……うーんと……、結局なんでなんだ?」

 

俺は内心で『この馬鹿スザクめ』と悪態を吐く。今の説明で分からないとか、あまりに脳筋すぎるだろ。

 

「家族に日本人がいるから喋れる。分かったか、少年」

 

「おう、分かった!……じゃなくて、オレが言いたいのはそういうことじゃねぇ!俺と勝負しやがれ、ブリタニア人!」

 

スザクが助走をつけて殴りかかってくる。俺はどうしようかと考えたが、ここら辺でスザクの天狗の鼻を折っておくのもいいかと思い、殴りかかってきたスザクの手首を握り腕力だけで宙へ放り投げた。

 

「うわっ!?……え、えっ!?」

 

「少年、こんな言葉を知っているか?『撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ』」

 

俺はスザクの眼にしっかり映る様に拳を握りこむ。スザクは喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ったことを理解し、恐怖で目を閉じ腕で顔をガードした。俺はその姿を見てすぐに拳を解き、落ちて来たスザクを抱えると境内の砂利の上に転がす。

 

起きあがったスザクは殴り返さなかった俺をじっと見てくる。

 

「な……なんで?」

 

「僕は弱い者いじめはしないんだ」

 

「っ!?う、うわぁーん!覚えてろぉー、銀髪ぅー!!」

 

涙ぐみながら走り去って行くスザクの背を見送った俺は、これは後々に彼をいじるネタをゲット出来たとほくそ笑む。

 

「あの少年、年齢の割に動きは素晴らしかった。ローウェンクルスの母親の親戚の子か?」

 

「いえ、関係ないですよ。けど、もしかしたら将来ナイトオブラウンズに入るかもしれないですね」

 

「ほぅ……」

 

眼を細めたビスマルクにはそう告げたが、俺はそんな未来にするつもりは一切ない。シャルルを味方につけて、ルルーシェやナナリーには皇女のままでいてもらい、V.V.と嚮団をどうにかして、俺が……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが歩んだ軌跡ではない、違った未来を創る。ライヴェルト・ローウェンクルスであれば、それが出来るはずだ。

 

「ライヴェルトくん、今スザクくんとすれ違ったのだが、何か無かっただろうか?」

 

「いえ、特には何も。道場での師範代役、お疲れ様です、叔父上」

 

胴着姿のまま俺たちを迎えに来た藤堂の案内で母さんの生まれ故郷である藤堂家に足を踏み入れる。

 

客間に通された俺は祖父にお土産として持ってきた『ブリタニアサブレ』を手渡し、祖母と一緒に家族の写真や普段の様子を撮ったアルバムやビデオを見ながら家族談義を盛り上げる。父と夫婦喧嘩した折り、急遽山籠りした母が熊を仕留めて帰って来た時の映像を見た祖母は『どこで育て方を間違ったのかしら』と遠い目をしながら乾いた笑みを零していた。

 

レイリード兄さんと義姉の子である赤ん坊が映った時など祖母は大興奮だった。『曾孫よ、曾孫』と連呼し、隣で見ていた祖父を『がっくんがっくん』と揺らす。

 

そういえばビスマルクと藤堂はどこに行ったんだと思えば、台所でビールを飲みながら佐官として軍を率いることの大変さの愚痴を言い合っていた。『大丈夫か、この組み合わせ』と思ったが、知り会ってしまったものは仕方がないかと俺は祖父母の所へ戻る。

 

 

丁度、レイリード兄さんの子供が初めて寝返りをするシーンだった。祖父は祖母による『がっくんがっくん』攻撃でグロッキー状態、祖母は狂喜乱舞。実際に会いに行きたいと祖父を攻め立てている。

 

「お婆さま、良かったら僕がブリタニア行きのチケットを手配するよ。お爺さまも一緒にどうですか?」

 

「いいのかい、ライちゃん!聞いたかい、お前さん!ブリタニアに咲楽やレイちゃん、ルティアちゃんたちに会いに行くよ!いいね、分かった!」

 

「分かった。分かったから、もう勘弁してくれぇ……」

 

仲の良い祖父と祖母のやり取りを見た俺はビデオをそのままにして客間を後にする。台所に行けば、ビスマルクと藤堂の2人が厚く握手を交わしていた。下手すれば日本とブリタニアが戦争を起こす可能性もあるのに、と詮無きことを考えながらトイレに向かう。

 

その夜は祖父母と川の字になって眠り、翌朝俺とビスマルクは藤堂家を出て東京へ向かった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。