銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

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『チキチキ、ガチンコ対決!ブリタニア帝国最強の士官学校はどこだ!長きに渡って優劣を競ってきた由緒ある士官学校の真価が問われる戦いが始まる!?皇暦2008年10月22日から23日にかけて開催!未来のブリタニア帝国軍を担う若者たちよ、集い、その力を見せつけるのだ!!』

 

 

 

スプリングス士官学校に在籍している候補生全員が見つめる中、巨大モニターに映し出された“コマーシャル”が終わる。彼らの視線は自然と講壇で頭を抱える校長へと流れる。

 

コマーシャルの最後の場面は3つの士官学校のエンブレムが刻まれた旗の前でドヤ顔を決めるそれぞれの校長が映っていたので確信犯に違いないのだが、あまりにおふざけが過ぎるのではなかろうか。

 

「……違う、違うんだ。初めは才能があるローウェンクルスくんを少しでも良い経験を積める任地に行ける様に働きかけていたのだ。しかし、他の士官学校の校長たちに私が抜け駆けしてアピールしていると捉えられてしまって……言い合いをしている内に何故かこんなことにっ!」

 

神聖ブリタニア帝国には多くの士官学校があるのだが、コマーシャルに映し出されていたのは3校。

 

ひとつ目は皇族や有力な貴族の子息が集まるボワルセル士官学校。現在は第2皇女であるコーネリア・リ・ブリタニアやギルバード・G・P・ギルフォードが在籍しており、彼女を中心とした強く統率の取れた集団になっているという。下馬評ではボワルセル士官学校の独壇場になるのではないかと噂が盛り上がるほどだ。

 

ふたつ目は数あるブリタニアの士官学校の中でも歴史があり良き指揮官となる人材を輩出してきたアポリプス士官学校だ。爵位が低い貴族の子息が選ぶことが多いのだが、ボワルセル士官学校に負けず劣らずの人気ぶりで活気がある。アポリプス士官学校で有力な者を上げるとすると、彼女の名前があがる。『モニカ・クルシェフスキー』、前世でナイトオブラウンズの第12席として活躍していた女性である。しかし、ゼロレクを確固たるものにするために焦っていた俺の所為でスザク&ランスロットに瞬殺され爆発四散することになってしまった。正直、すまなかったと思っている。

 

で、みっつ目がここスプリングス士官学校である。貴族の子息だけでなく市井の人間も在籍して一緒に学ぶため、たまにグノー侯爵一行のように勘違いした人間も紛れ込んでしまう。おかげでボワルセル士官学校やアポリプス士官学校と比べると、どうしても3番目の位置に来てしまう。そんなことはないと校長を始めとした教官たち、卒業した現役軍人たちが声を上げるものの今までは黙殺されてきた。

 

 

 

しかし、此度の校長たちの騒動によって風向きが変わってきた。

 

現在のブリタニア皇帝が掲げる弱肉強食の実力主義のもと、3校の候補生たちが同じ条件で競える場が設けられたのである。テレビでコマーシャルが放送されているのを見れば分かるように、この対抗戦はブリタニア国民が皆知るイベントとなっている。すでに会場作りが始まり、ブリタニア皇帝も他の皇族たちを連れて天覧しにくることが決まっているという。

 

講壇で慟哭を上げていた校長が教官らによって強制退場となる中、候補生たちは各々で話し合いを行っている。皆がこれを好機と捉えてくれたようで士気がかなり高くなっている。

 

ちなみに俺はいつのまにか講壇の上に立たされていて、対抗戦の責任者となっていた。

 

 

 

後日、各士官学校に配布された対抗戦に関する資料を細部まで読み込む。

 

行われる競技は全てにKMFグラスゴーの実機が用いられる。

 

本来であれば前線に配備されるべきである機体なのだが、どうにも既存の戦闘車両や戦闘機から二足歩行ロボットへの乗り換えに現場の兵士たちが手間取り指揮する人間たちも難色を示しているようなのだ。中にはノネット・エニアグラムやドロテア・エルンストといった豪傑がKMFを駆る事で更に功績を重ねていっている事例もあるのだけれど。

 

「各士官学校に配備されるグラスゴーは40機。内6機は搭乗者に最適化する改造をしてもよい。競技は6種目」

 

 

○ハードコンバット

区切られたフィールド上にて戦闘を行う格闘競技。射撃武器以外であればどんな武器も使用が可能。

 

○スピードシューティング

規定エリア内に射出される目標を射撃武器で破壊する競技。予選は制限時間内に100個の目標を破壊したタイムを競うとある。

 

○ランドナビゲーション・クロスカントリー

長さ10kmのコースを走破するだけの競技。KMFで行う以上、山地や森林、高層ビルなどを通ることが想定される。

 

○ナイトビジョンコンバット

これは夜間戦闘における技術を見る競技だろう。火花を散らしただけで相手に居場所を教えてしまうようなものだ。慎重かつ相手の裏を掻く大胆さが求められる。

 

○アヴォイドフロムシェリング

これを考えた奴は馬鹿なのではないかと思われる競技。降り注ぐ砲弾の雨からひたすらに避けるものだ。

 

○シャームファイト

30vs30vs30の団体競技。各士官学校が三つ巴になって戦うのである。敵勢力の指揮官を潰すか、全ての機体を戦闘不能にしたほうの勝利となるシンプルな戦いとなる。

 

 

 

「シャームファイト以外の競技は各2名が選手となり、競技ごとの順位で得られるポイントが変わる。シャームファイトは順位ポイントに加え、生存した人数にも得点が入る。……全滅が前提なのに、誰がこのポイント配分を考えたんだろ?」

 

パソコンで士官学校に在籍する候補生の情報を洗い出して対抗戦に出場するメンバーをピックアップしている俺を眺めながらルキアーノはウェルチ・クーガーが淹れた紅茶を嗜む。他にもオーサ・サブナックやジョージ・ルメイヤといったよくルキアーノの下に来て指導を願い出るメンバーと俺主導の勉強会メンバーが揃っている。

 

「実機は来週の頭には搬入されるらしいから届いたらすぐに慣熟して、シミュレーターと現実のギャップを埋めないといけないね。リッドナー、ここにエンジニアの指導も受けずにKMFをいじれる連中のリストを上げておいてくれないかな。場合によっては外部から講師として招かなければならないかもしれないし」

 

「分かった、すぐに取り掛かろう。」

 

淡い緑色の髪のユーシス・リッドナーが講堂から出て行くのを見届けた俺はクーガーに紅茶のおかわりを頼んでいるルキアーノに視線を向ける。俺の視線に気付いたのか、彼は後頭部を掻きながらゆったりと近寄ってくる。

 

「私に何か用か、ライヴェルト」

 

「指揮官と兵士、選べるならどちらにする?」

 

「……何を言っている。指揮を執るのはお前だろう?」

 

「僕が指揮官になると要求が細か過ぎてルキアーノたちは嫌になると思う。それでもいいなら僕が指揮官になるけれど?」

 

ルキアーノたちは顔を見合わせて、少し話した後、一度俺の指揮下で戦ってみないことには判断できないという。では4期生の先輩たちに事情を説明して憐れな生贄になってもらうとしよう。

 

 

 

 

対抗戦にて行われる競技のうち『シャームファイト』をライヴェルトが選択し主導権を握ったことは仕官学校内ですぐに噂になった。それ以外の5種目を他の候補生たちに一任するというある意味で大それた言動に何も反発が起きなかった訳でもない。

 

すぐに四期生の者たちが30人揃えて、勝負を挑んできた。対して我々は20人にも満たない人数でさすがに不利なのではないかとライヴェルトに伝えたのだが、彼は目を丸くしながら尋ね返してきた。

 

「ルキアーノ。それ、本気で言っている?」

 

戦力差はほぼ2倍の相手。

 

使用する機体の性能差こそないが、ライヴェルトや私以外の者たちには荷が重過ぎる相手。

 

これは私が前面に立って攻撃を引き受ける必要があると思っていた。

 

しかし、蓋を開けてみれば阿鼻叫喚の地獄絵図となったのは四期生のチームであった。話は模擬戦開始直後にまで遡る。

 

 

 

『今回のフィールドは市街地の廃墟か。となると、四期生の彼らが陣を敷くのはフィールド中央の大通りを進んだこの辺りかな。無難といえば無難だけれど、アポリプス士官学校のクルシェフスキーの前だったら開始数秒で全滅かな』

 

「何者だ、そのクルシェフなんとかっていうのは?」

 

『モニカ・クルシェフスキー。アポリプス士官学校の座学と実技の両方で主席をとっている女性。中でも射撃能力がずば抜けて高く、狙撃技術は目を見張るものがある。大人しくスピードシューティングに出てくれればいいけれど、シャームファイトに狙撃手としてフィールド全体に目を光らせながら指揮官として出てくる可能性が高いんだよね』

 

ライヴェルトは淡々とクルシェフスキーの情報を呟いているが、その間もずっとモニターをタッチする音が聞こえてくる。そして、粗方作戦が組みあがったのか、私たちに移動するように指令を出してくる。

 

『相手は完全に僕たちのことを侮っている。その油断を利用してやろう』

 

蹂躙することが決定事項なのか、含み笑いを漏らすライヴェルトの姿がモニターの端に映る。その姿は完全に悪役で、まるでゲームの終盤に出てくるラスボスの“魔王”のようだった。

 

さて、ライヴェルトの指令通りの場所へ移動し息を潜めていると、市街地の各所で火の手が次々と上がった。通信を聞き流しているとライヴェルトが予想した“シナリオ通り”に四期生の先輩たちは動いているらしく、もういっそ哀れと思うしかないほど簡単に撃破されていっている。

 

壁越しに銃撃を受け爆発する機体もあれば、出会い頭にコックピットをランスで貫かれる機体もある。敵わないと察して敵に背を向けて逃げ出す者の進行ルートには別の部隊が待ち構えている。

 

『くっそがぁああああ!』

 

「狙いが雑すぎる。少し頭を冷やせ、先輩」

 

短刀で銃弾を弾き、距離を詰めた私は相手のグラスゴーのメインカメラを斬って破壊し、ファクトスフィア部分に突き刺す。外部を見る手段を破壊された先輩は通信機越しに泣き喚いているようだ。私は大きなため息をついて短刀を引き抜くと、ひと思いにコックピットに突き刺して戦闘不能にしてやる。それをまるで傍で見ていたかのようなタイミングでライヴェルトから通信が寄越される。

 

『ルキアーノ。15秒後にサブナックとクーガー、それとルメイヤが合流する。ルートCを通って北上して。メインディッシュが体勢を崩した状態で目の前に現れるから、この地獄をさっさと終わらせてやるといいよ』

 

ライヴェルトが告げた秒数きっかりで表れるグラスゴーが3機。エナジーフィラーの消費だけでほぼ無傷の状態に彼らは唖然としていた。通信機越しに矢継ぎ早に聞こえるライヴェルトの指示。その都度、減らされていく四期生のグラスゴー。

 

『これは最早戦闘ではない』

 

『ローウェンクルス卿が味方でよかった。本当に、よかったぁー』

 

サブナックは顔色を青くしながら呟き、クーガーは身体をブルブル震わせながら言う。

 

ライヴェルトが指示したCルートは横幅が乗用車一台分ほどの広さしかない裏道と呼ばれるもの。市街地の廃墟設定ということもあり、崩れ落ちたビルの中を通らざるを得ない場所もあったが、特にロスすることなく駆け抜けていく。

 

そうすると綺麗な形で横倒しになったビルの中までライヴェルトが指定したルートが伸びている事に気付く。私たちは迷わずビルの中に飛び込み、黒煙や火花を散らしながら入ってきた敵機と鉢合わせした。

 

『予定よりも11秒遅いぞ、ルキアーノ。まぁ、でもお前たちなら手負いの相手を倒すのなんて余裕だろ?』

 

ルームメイトのしてやったりと言わんばかりのにやけた表情が目に浮かぶ。そこまで言われた以上、倒すのに手間取ったり、時間を掛けたり、逃げられてしまったりすれば無性に腹が立つ展開に陥ることが容易に予想がついたため、私はサブナックらと共に四期生の生き残りを確実に磨り潰すのだった。

 

 

 

 

「四期生が操縦するグラスゴーは一機残らず殲滅完了。こちらは崩れ落ちてきた破片が当たって運悪く小破した機体が1機のみで、残りはほぼ無傷。大半は武器やエナジーフィラーの消耗も抑えられているからこのまま連戦も可能。まさか、あそこまで僕の描いた通りになるなんて、あまりに出来レースだったかな?」

 

やけに心を抉る言葉を発すライヴェルト。

 

私はそっとシミュレータールームにいる四期生たちへ視線を向ける。ほとんどの者が真っ白に燃え尽き、膝を抱えて泣く者や頭を抱えたまま身動きしない者。哀愁を漂わせシミュレータールームからとぼとぼと去っていく者など多岐に渡る。

 

その者たちの心にはライヴェルト・ローウェンクルスという悪魔の名が深々と刻まれてしまったことだろう。

 

同じブリタニア軍である内はライヴェルトを敵に回すことはないと思うが、今後の進路によっては我々の前に立ちはだかるということもありえる。いつの間にか私の隣に来ていたルメイヤがぼそりと呟く。

 

「ブラッドリーの兄貴。オレ、一生ローウェンクルス卿には逆らわないようにするっす」

 

「それが利口な生き方だ。……こんな化け物を相手にしないといけない、ボワルセルやアポリプスの連中が憐れでしょうがねぇよ」

 

「そうっすねー」

 

私とルメイヤは乾いた笑いを漏らしながら、戦闘の最中気に入った動きをしていた四期生の何人かに声を掛けているライヴェルトからそっと視線を外すのだった。

 




誤字報告ありがとうございます。

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