銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

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神聖ブリタニア帝国は皇帝を絶対的な国家元首とする帝政国家であり、首都は帝都ペンドラゴンにある。俺がルルーシュの肉体でテロリストのゼロとして反旗を翻した時点では世界の1/3を領土としていたが、この世界ではまだヨーロッパやロシア、アフリカ大陸などの一部しか領土として確保できていない。

 

つまり、俺やルキアーノ・ブラッドリーが士官学校を卒業した場合の士官任地するのはいずれかの場所になるという訳だ。

 

実際に前の世界のルキアーノは士官学校を卒業後に白ロシアと呼ばれる地で敵対勢力を血祭りに上げる事で功績を上げ、ナイトオブラウンズ入りを果たしている。彼の残虐で自分に酔いしれる性格はそこで形成されたと思われる。

 

なぜ俺が飛び級し同期となりルームメイトとなっただけに過ぎないルキアーノのことを気に掛けているのかと言えば、スプリングス士官学校に存在する広いKMFシミュレータールームで彼が同期や先輩後輩に関係なく指導し、指導を受けた面々の技量が確実に上昇している点である。

 

そもそもルキアーノは俺がルルーシュの時に騎乗していたKMF蜃気楼の特性や弱点をすぐに看破できる洞察力を持っていた。その点はこの世界でも同じだ。それがまさか教導という形で現れるなんて思いもしなかった。

 

『うおぉおおお!』

 

KMFシミュレータールームに置かれている大型モニターのひとつに注目が集まっている。

 

ランスを手にしたグラスゴーが何も障害物がない荒野を対峙している相手に向かって土煙を上げながら近づく。ランス持ちに乗っているのは俺やルキアーノと同期であるオーサ・サブナックという大柄な男だ。性格は単純明快で曲がったことが嫌いな正義感の塊。

 

グノー侯爵一行の所為で謹慎が明けては謂れの無い罪で謹慎を受けるというのを繰り返し、士官学校では珍しく留年している。

 

『サブナック、いい加減にその直線的な攻撃はやめろ』

 

スペインの闘牛士が暴れ牛をコントロールするかの如く、最小限の動きでランスによる攻撃を往なし後頭部にライフルの弾をぶつけるグラスゴーを操縦しているのがルキアーノである。彼が扱うグラスゴーの武装は右手に短刀、左手にアサルトライフルの二つ。

 

『なんのっ!もぉうひとぉつ!』

 

サブナックが操縦しているグラスゴーが荒野の乾いた土壌という設定の中でもほとんどロスすることなく鋭角的な角度で機体を反転させ再度ルキアーノに向かって攻撃を仕掛けようとしている。

 

『お前の地形に左右されず、最大速力かつ小回りできる機動力は認めている。だからこそ、フェイントやフットワークを使った戦法を取り入れろと言っている。自らの長所を更に高める努力をしろ、とな』

 

一閃だった。

 

サブナックが駆るグラスゴーとルキアーノが駆るグラスゴーが接触する瞬間、短刀の刀身がシミュレーターの太陽の光で煌めいた。かと思うとサブナックのグラスゴーのランスが真っ二つに分かれ地面に落ち、それを行った短刀はコックピット部分に突き刺さっており、黒煙を上げたかと思うとすぐ爆発四散した。対するルキアーノの方はエナジーフィラーを消耗しているだけの無傷。

 

激しい動きを見せていたサブナックの方のシミュレーター匡体が止まり、中で操縦していた大柄で糸目の男性が出てくると同時に、真っ赤に燃える炎のような鮮やかな髪を頭の右横でひとつにまとめたサイドポニーテールの後輩が乗り込んで行く。相手を確認したルキアーノが呆れるような口調で話す。

 

『次はクーガーか。先日お前に与えた課題はちゃんと消化してきたんだろうな?』

 

『勿論です、ルキアーノさまっ!』

 

『先輩だ、って言ってんだろうが』

 

大型モニターに映し出されたのは南米を思わせる背の高い木々が立ち並ぶ森林。

 

ルキアーノのグラスゴーは先ほどと同じ装備で佇み、新たな挑戦者であるウェルチ・クーガ―はアサルトライフルを両手に持ち、生い茂る木々を巧みに避けながらまっすぐ移動している。

 

気配を察して横を見ると俺の隣にサブナックが座っていた。彼が着ている候補生用のパイロットスーツは汗で張り付き、鍛え上げられた大胸筋や筋肉によって岩のようになっている首周りが見える。謹慎中は筋肉トレーニングに費やしていたらしいという話は本当かもなと苦笑いしながら声を掛ける。

 

「お疲れ、ルキアーノに何を言われたんだ?」

 

「うむ、『一兵卒で終わりたいならそのままで十分だが、それ以上のことを望むなら考えろ』と言われてしまった」

 

「そうだな。客観的な立場で言わせてもらうと、現在のブリタニア軍の戦闘におけるドクトリンにサブナックの戦い方は非常にマッチングしてはいると思うが、それはいい指揮官に恵まれた場合による。サブナックの吶喊力が目を見張るが、ほとんどの指揮官はお前をそんな風には扱わないだろうな。戦場における一番槍は名誉であり花形だ。新兵にはそんな機会は回せられないから、良くて露払い、悪ければ陽動もしくは囮に使われて終わりだ」

 

俺の発言を聞いているだけであったサブナックの表情が苦虫を噛みしめたような苦々しいものに変わった。そんなはずはないと、否定するように頭を横に振ったのだが顔色は青褪めていた。彼は両拳を握りしめて言い返してくる。

 

「さすがにそれは言いすぎであろう。……ブリタニア軍人は皆が正々堂々と戦っている」

 

「戦争に正々堂々なんて言葉は存在しない。綺麗に見えているのは表側だけで、裏では血みどろの駆け引きが行われているなんてざらだ。さらにブリタニアは貴族社会で、相手よりも良い功績を残すために自分よりも弱い者の命を平気で使い潰し、その責任を取らないでいる者も多い。仲間であるブリタニア人であってもこんな状態なんだ。敵対国相手にどんな手を使うかなんて予想がつくだろう?」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

手負いの獣の様な低い声で唸るサブナックを放置して俺はルキアーノとクーガーの戦いに目を向ける。

 

サブナックが直線的とするとクーガーは変則的と言ってもよい。生い茂る木々をうまく利用して、かつ虚を交えることで一撃離脱型の攻撃スタイルを取れている。しかし、ルキアーノの戦闘能力をよく知ってしまっている弊害が出ている。彼女が攻撃を行う位置がルキアーノから遠すぎていて有効打を与えられていない。

 

『クーガー、お前。私が出した課題を消化したのではなかったのか?傷つくことを恐れず、向かってこいと言ったつもりであったのだがなぁ』

 

『も、申し訳ありません!』

 

『謝罪はいいから向かって来い。ただし、クーガーらしい虚をつくような攻撃を損なうなよ。戦闘に定石は存在しない。多くの兵士が定石だと思っている戦闘スタイルは指揮官に都合のよい様に作られたものだ。自分が持つ個性を押し殺さなければならない指揮を執る者のことなど早々と見切りをつけろ。お前たちは命を奪われるために軍人になる訳ではないはずだ。敵にも味方にも簡単に命を奪われない強さを身につけろ』

 

ルキアーノに叱責を受けて目尻に涙をためたクーガー操るグラスゴーが木々を撥ね除けながら現れた。両手に持ったアサルトライフルの銃口が幾重も光って銃弾が飛び散る。

 

ルキアーノは自身のグラスゴーに直撃する銃弾だけを短刀で撥ね除ける。そして、銃弾を放たなくなったアサルトライフルを上空へ放り捨てたクーガーのグラスゴーがスタントンファを展開し、突っ込んでくるのを見て迎撃しようとした。

 

しかし、クーガーはスラッシュハーケンを地面に向かって射出すると、その衝撃で飛び上がる。そして、先に放り投げていたアサルトライフルを空中で掴もうと手を伸ばし……ガクンと揺らす。

 

見ればクーガーのグラスゴーの背中にルキアーノのグラスゴーから放たれたスラッシュハーケンが食い込んでおり、もはや身動きが取れそうにない。

 

『やれば出来るじゃないか、クーガー。だが、それをするには演技力が足りないな。恐らく放り投げたアサルトライフルの残弾も少ないだろうし、次に似たようなことをする時は射撃をオートではなくマニュアルで使いこなすと良いかも知れないな』

 

ルキアーノはそう言いながらも自由落下が始まったクーガーのグラスゴーをハーケンを巻き取るモーターで引き寄せつつ、ランドスピナーでぬかるんだ地面を疾走し、短刀でコックピットを一閃し模擬戦を終了させた。

 

 

 

 

士官学校の食堂で食事を摂る俺とルキアーノ、の周りは人で溢れかえっている。

 

グノー侯爵一行の悪事を明かし、スプリングス士官学校に蔓延っていた膿をすべて吐き出すように仕向けた俺はしばらくの間浮いた存在であった。元々の年齢のこともある。実技で主席であったルキアーノを下す身体能力を持つことや、この学校で学べる全ての科目を履修し教導にきていた人間を何人も再起不能にしたという話は俺の与り知らぬ所で広まってしまった。

 

中には俺を中傷するようなものが無かった訳ではないが、今更訂正する必要もないと放置していた。流れが変わったのは候補生同士でチームを組んで行うKMFを用いた戦争シミュレーションを行うことになった時だろう。

 

俺は、神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして率いた正規軍の運用方法と、テロリストのカリスマ的指導者のゼロとして有象無象で練度がバラバラの連中を率いてコーネリアやナイトオブラウンズを相手に戦った経験を持っている。

 

学生相手と慢心せず、相手の考えの裏を掻いて罠に嵌めたり、時に正々堂々と包囲網を打ち破り、自らを囮にして敵の配置が縦長になった所で反転し味方と挟みうちにして殲滅したりとやっていたら、教官も含めた士官学校にいる全員から、

 

「「「「「お前、何でこんなところで候補生してんの?」」」」」」

 

と、本気で心配される始末。

 

校長も俺の能力がこのまま候補生として眠らせておくには惜しいと判断したようで、軍の上層部に掛けあっているらしい。ブリタニア本国においてボワルセル士官学校に次ぐスプリングス士官学校の校長の人脈がどこまで通じているのか見物である。

 

そんな訳で、将来的に指揮官として多くの人間を率いる立場になりたいと思う候補生たちが俺の下に集まり勉強会を開くようになった。

 

過去はブリタニア帝国を建国した直後に起きた北南戦争から、最近になってようやく落ちたエリア9での戦闘記録などを研鑽材料としている。分かっていたことだが、ブリタニア人が他の人種よりも優れているということが彼らの中に前提として存在したため、彼らの認識を壊すのは本当に骨の折れる行程だった。だが、認識を一度覆してしまえば新たな戦術や考えがポンポンと出てくる。中には俺が思いもつかなかったような戦い方もあり、有意義な時間を過ごせた。

 

直に、俺はこのスプリングス士官学校を卒業し、世界のどこかの戦場で任官することになる。

 

別に軍人で偉くなることが目的ではないが、ルルーシェやローウェンクルス家の家族や家臣たち、領民たちを守るのに軍人としての地位や功績は良い牽制になる。特にルルーシェの選任騎士になる時にはなおさらだ。

 

ナイトオブラウンズの権限も捨てがたいが、ライヴェルトとの契約履行の方が重要だから仕方ない。あー、残念だな(棒読み)

 

むしろ、ナイトオブラウンズに任命される『ドロテア・エルンスト』や『ノネット・エニアグラム』、そして『ルキアーノ・ブラッドリー』から一目置かれる存在としていた方が後々おいしいかもしれないなと思っていたのだが、妙な事になった。

 

 

 

このブリタニア帝国にある3つの士官学校による対抗戦が行われることになったのである。

 


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