マイ・フェア・ソード!   作:鳩と飲むコーラ

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4.遅れた自己紹介

「……ぶはぁ!」

 

 崩れたテーブルの中から這い上がる。途端、冷たい雨が体を打った。

 周囲を見回してみれば、室内部分は全壊し天井の一部がなくなっていた。雨雲のせいで夜を照らす瞳月《どうげつ》の光も届いていないが、松明とは違う白い明かりが代わりに視界を確保していた。

 崩落に巻き込まれる覚悟もしていたのだが、店の奥である宿の部分に被害はあまりなく存外被害が浅かった。

 

『みんな無事みたいね』

「店以外は、な。けどそんな小さい威力じゃなかったはずだけど……」

 

 店どころか周囲一体を吹き飛ばしても余りあった。

 咄嗟のツギハギで爆発に指向性を持たせて空に打ち上げられたのは幸いだか、それにしても二次災害が小さい。

 食堂は壊れても、奥に配置された調理場や宿舎には被害が届いていない。いくら爆発に指向性を持たせたと言っても、余波による衝撃は生まれるはずだ。 

 なのに、ツギハギの行使がスムーズで進むべき道に誘導されたような気がする。まるで見えない境界でもあるようだ。

 

『へー、ここはリアクターもかなり上質みたいね』

「リアクター? それは……っくしゅ」

 

 ただでさえ服を着ていない全裸であることに加えて雨に打たれた体が冷える。我慢できずにくしゃみをした俺に、かけられた声があった。

 

「お見事。まさかあの規模のタンクルの発露をここまで抑えるとは」

 

 雨が止んだ。

 目を向けてみれば、細剣少女よりもさらに年下に見える銀髪の少女が俺を傘の中に入れる姿が目に入る。止んだのではなく、遮ってくれていたようだ。

 少女達やユカリスもむくりと起き上がって来る中、俺は傘を代わりに持ってやりながら立ち上がる。

 

「君は?」

「いや失礼、名乗りが申し遅れました。私はアーリィという名を頂く者です」

 

 アーリィと名乗る、子供にしては流麗な口調の少女が白いスカートをつまみ、優雅に一礼する。ご丁寧に、と頭を下げるものの胸中は疑問でいっぱいだ。

 

「問いを抱くのは当然のこと。ですがその前に、お着替えしてきては? そのままでは風邪を引いてしまわれる」

 

 口調への疑問は一瞬で吹き飛んだ。今俺は、子供の前に全裸で立っている。 

 教育上非常によろしくない光景を認めながら、傘をアーリィに返す。

 周囲を探ってみるが大事な部分を隠していたタオルは傍になく、無言で踵を返した。

 大きな被害があったのは食堂だけで、宿部分である奥側にそう被害はない。今はそれだけが俺を慰めてくれる。

 無事だった部屋へ戻る中、いつの間にか隣に並びこちらを心配そうに伺うユカリスの姿。小さな小さな手を俺の頭に伸ばし、撫でるように動かした。慰めてくれているらしい。

 何が起きたのかを説明してはいないのだが、察してくれたのだろうか。

 その行動に涙腺が大いに刺激される。サウザナを握る手が緩み、涙と落としてしまいそうだった。

 

「やばい、涙出そう」

『それ、私の台詞よ』

「一緒に泣こうか?」

『貴方の泣き顔を他の誰かに見られたくない』

「ユカリスには見られそうだけど」

『あの子はノーカン』

 

 頷き、顔を俯かせる。

 

(頑張った、頑張ったよ俺……)

 

 与えられた短い時間の中で出した結末に、頬を伝うものがとめどなく溢れていた。

 色々込み上がる抑えながら着替えて食堂へ戻ると、そこには元通りになった食堂が出迎えた。

 そう、元通りになった食堂だ。

 

「え?」

「ああ、お帰りになられましたか。片付けはしておきましたので、適当な場所へ座るのがよろしいでしょう」

 

 爆心地となった現場には傷跡一つ残されておらず、完璧な修復が行われていた。片付けたとアーリィと名乗った少女は言うが、そんなレベルではないと思う。

 体を拭いて着替える時間なんて、十分もなかったぞ?

 口をあんぐりさせながらも、用意された椅子へ座る。テーブルには、先程の面々が集まっていた。

 

「幸い閉店時間かつこちらの店主は所要で出かけておられたようで、あの被害には巻き込まれておりません。実質的な被害はゼロではありますが、私は騒ぎで戻られた店主と話があるので、奥に篭もります。しばしご歓談を」

「あ、待った。店主が居るなら俺も謝罪に――」

「では後ほどに。今は他に説明すべき方もおりましょう」

 

 そう言って店の奥へ入っていくアーリィ。

 彼女がいなくなり、沈黙が場を支配する。打破したのは、細剣少女だった。

 

「初めまして、ナヅキと申します。さっきはごめんなさい。悲鳴の先に、手を掴んで動きを止めてる上に武器を持った全裸の奴が居たから反射的に……」

 

 開口一番に頭を下げるナヅキ。 

 落ち着いて話を聞いたり考えてみれば、自分と同様に悲鳴を聞いて駆けつけたのだと理解したらしい。

 聞きたいこともあったが、ひとまず俺はナヅキの謝罪を受け入れた。

 

「こっちこそ急ぎだったといえせめて下くらい履くべきだった、すまない。店の子も、なんかこっちが暴れちゃったみたいで……」

「あ、いえ、誤解を広げてしまった私が悪いので。あとアーリィさん、お店のこともありがとうございました! 夕飯、豪勢なの用意して持って来るので少々お待ちください!」

「…………」

 

 騒ぎが収まった後、従業員の少女が夕飯を奢ってくれるということになり、俺達は相席でテーブルを囲んでいた。

 建物が壊れ雨によって水浸しになっていた床も綺麗になっている。まるで時間が巻き戻ったかの如く、最初に訪れた時のような姿がそこにあった。

 粉砕したはずのテーブルや椅子を直したということだが、アーリィにとっては人間の傷を治すよりは簡単らしい、と従業員の子が言っていた。

 詳しくは知らないが、壊れても元に戻るツギハギがこの食堂で利用されているらしい。

 しかも従業員の子が不満を言うでもなく、説明を受けているであろう店主や周囲の家屋からの文句がないのはひとえにアーリィへの信頼とのこと。

 つまり彼女は鶴の一声を持つ人物というわけだ。……慣れているのか?

 従業員の子は人数分のコップに注がれた水を置いて、厨房へと戻っていった。

 その後ろ姿を眺めながらコップの水で喉を潤し、サウザナにこっそり尋ねる。

 

(サウザナ。そういうツギハギってあるのか?)

(オリジナルでツギハギを作る子もいるから数も多岐に渡るし、その一環だと思う。どちらにせよ、不思議ではないわ)

(だとしても、壊れた建物が一瞬で直ったのはすごいな)

(それは建物自体がタンクルで補強されてるせいね)

(建物が?)

(材料の中に仮想設計図を仕込んでるからよ。簡単に言ってしまえば、材料に直接呪紋を刻んでおけば即座に修復が可能なツギハギ。その代わり何かあってタンクルが消えたら普通の建物になっちゃうけど)

 

 ツギハギも進化したもんだ。気になってきたから調べてみるとしよう。

 俺は椅子から立ち上がり、この現象を構成するツギハギの起点を探る。別に隠されているわけでもなかったそれは、食堂内の中心部に作られていた。

 それに手を触れて構成を調べる。

〈変化〉〈設計〉〈固定〉〈復元〉〈再生〉〈流動〉……他にも色々あるけど、簡単に設置している割に扱えるのはそう多くなさそうだ。

 何せ、起動のために大量のタンクルを使う。気軽においそれと使える量ではないはずだが、設置者であるアーリィという少女にとってはいち食堂に置ける程度のものでしかないというわけだ。

 疑問が済んだ俺は席に視線を向ける。次に気になるのは当然樽男。彼もこのテーブルに鎮座していた。

 二対四つの視線にさらされた樽男は、その視線を鷹揚に受け止め自己紹介をする。

 

「わたしはダルメンと名乗る旅の者。そして、わたしも謝罪を。本当に申し訳なかった。何の関係もない店と君たちを巻き込んでしまって……」

『手っ取り早さを重視して、こっちも力任せにやっちゃったからおあいこよ』

 

 張りのある声音には力があり、謝られているのに自然と体に力が入ってしまう。

 思わぬ圧を感じながらも、ナヅキと同じくもう気にしてないと謝罪を受け入れる。

 俺達は場に駆けつけただけで、流れのままにここにいる。ケガもしてないし、あまり被害を受けた実感がないとも言えた。

 が、それ以上に聞くべきこともある。

 

「その……貴方はどうして樽なんて被ってるんですか?」

「敬語は結構。ありのまま、自然のままで接していただきたい。樽に関しては、これがわたし、わたしは樽を被る者だから、とお返事しよう」

「えっと、宗教上の理由で、か?」

「特に信仰はしていない」

「そ、そうか」

 

 これ以上突っ込むのは野暮な気がする。

 妙な空気が蔓延し、気を紛らわせるように水を飲む。……あ、なくなった。

 

「えっと、さっきの声……識世だったんですね」

 

 話題を変えようと、ナヅキがサウザナに反応する。さっきも喋っていたのだが、聞こえてなかったのか。

 俺は腰に吊るした鞘を掴み、二人の前に見せる。この反応、剣が喋るのは識世という種族がいるため珍しがられてはいないようだ。

 

「ああ、俺の愛剣。サウザナだ」

「さっき使っていたものですね。折れた剣とか言っちゃって、重ねてごめんなさい」

『…………』

「サウザナ、挨拶」

『よろしく』

 

 ナヅキはきちんと謝れる良い子だ。

 サウザナは挨拶を欠かす悪い子だ。

 ナヅキの発言については、同じことを繰り返さなければ安心だ、と考えたが俺も全裸の武器持ち男が悲鳴を上げた女の子の前に居たら同じことをしたかもしれない。

 いけない。これ以上考えるのはやめよう。

 

『いいわよ、折れてるのは事実だし。こちらこそ女の子に粗末なものを見せてごめんなさいね』

「それ俺か? 俺のことか? 勝手に人のモン粗末扱いにするな。ともかく、こっちは同じ識世のユカリス。言葉が通じないけど、表情が結構豊かだから意思疎通は出来ると思う」

 

 俺の紹介で、肩に乗っていたユカリスがテーブルに降りて何かを話している。

 ナヅキは首を傾げていたが、ダルメンが何度か理解するように頷いていた。が、そのダルメンを見たユカリスが体を震わせながら俺の手を握る。

 ダルメンは怯えられたのが応えたのか、心なししょんぼりしているように見えた。

 思ったより愉快な奴なのかもな。一番愉快なのは顔を樽で隠していることだが。

 一通り自己紹介を終えた所で、それじゃあ早速、とサウザナが切り出す。

 

『ダルメン、貴方はこの店に入るなり強いタンクルを発したのよ。そこに関しては覚えある?』

「簡単だ、貴方に怯えていた」

「サウザナに?」

「数時間ほど前、強大なタンクルに身を竦めた。元凶を探しながらもあの場では見つからず、街に入って店に入った瞬間にその痕跡を覚えてね。反射的に構えてしまった」

 

 数時間前ねえ。

覚えがあるかを訪ねる前に、ナヅキが気になることをつぶやいた。

 

「リアクターは大丈夫でしょうか」

『さっきの事故で周囲に何事もないのは、この街のリアクターが優秀な証でしょ』

 

 俺の知らぬ話題が進む。知らないばかりではついていけないので、素直にサウザナを頼る。

 

(さっきナヅキも言ってたけど、リアクターってなんだ?)

(今の世界の常識の一つよ。今聞くとややこしくなるから簡潔に言うけど、街の中で安全にツギハギを使うために必須のもの、とでも思って。詳しいことは後で説明してあげるから、流しておきなさい)

(わかった)

 

 お互いにしか聞こえないやり取りで、サウザナの忠告を受ける。今の世界の常識はわからないので、サウザナに従っておくのが良いだろう。

 

「それにしても、サウザナさんってそんなに強いんですか?」

 

 会話が進む中、ナヅキがそんなことを言い出した。じろじろと観察するようにサウザナを眺めるナヅキ。割と戦闘好きなところがあるのかもしれない。

 

「ナヅキは戦うのが好きなのか」

「別に戦い自体が好きってわけではありませんが、剣術を上達させるには手っ取り早い方法なので」

「その年なら十分強いと思うけどな」

 

 いやほんと。

 外見こそ何故か若返っているが、経験という意味では俺とナヅキの間にはおそらく十年近い差がある。そうすることで得た強さを思えば、当時の年齢と比較すれば圧倒的にナヅキが上だ。

 そうやって感心するが、ナヅキは不満の声をあげる。

 

「到達点にはまだまだでして。貴方も倒せなかったし、風とかも斬れなかった。爆発の時なんて何も出来ませんでした」

「やわな鍛え方はしてないさ。でも爆発に関してはどうしようもないと思う。それに、ツギハギも使わず斬って無効化しようとしたのか」

「世の中広いですよ? だってそれを出来る人を知っているので」

「俺もそういう事が出来る奴を知らないわけじゃないが」

「なんだ、だったら別に変なことを言ってないじゃないですか。それにサウザナさんも上手く使ってた。その信頼も一朝一夕には身につかないはずですよ」

「おいおい、そんなにおだてて俺達をその気にして何をさせたいんだ?」

「素直に褒めてるだけなのに」

「てっきり改まって戦って言われると思っててな、すまなんだ、そしてありがとな」

「あ、そういう持って行き方もありましたね」

 

 本当に気づいていなかったようで、ナヅキがぽんと両の手の平を合わせ納得したように頷き、キラキラとした目を向けてくる。藪蛇だった。

 

「ナヅキ君はどちらかと言えば競い合いを重視していると見える。少しは構ってあげてもいいのではないかね?」

「考えとく。けどダルメン、いくら警戒していたからって人が居る場所であの爆発はまずい。どんな相手を想定していたんだ」

『アクターを常時展開しているもの。よほど気が抜けてないんじゃない?』

「アクター……?」

 

 ダルメンは樽の下部へ手を当てる。おそらく口元へ手を持っていっているのだろうが、やはり樽の印象が強くて困る。

 俺のつぶやきを質問と思ったのか、サウザナが説明をしてくれる。

 

『アクターは決まった形にタンクルを流して、それに合わせて効果を発揮する形式のツギハギ。細かい制御とかしなくても扱えちゃうのよ』

 

 いわゆる外装《アクター》というものであり、決められたことしか出来ない代わりに出力も高いタイプのツギハギ使いのようだ。

 

『ちなみに内装《アバター》の場合はアクターほどの出力は出せないけど、決められた形がなくて自由度が優れているわ』

「ふうん。なら俺はアバターに分類されるのか」

 

 指先に軽く炎を灯す。そこから炎の色を緑にしたり青に変えて遊び、最後にそれを氷漬けにして炎の形をした氷を作ってみせる。

 それをコップの中に入れ、カラカラと音を鳴らすように回す。

 氷の一角から溶け出るように漏れる水が適量溜まらせると、軽い風を起こして水だけを浮かび上がらせ、口の中に含む。制御に支障なし、と。

 氷と水を用意するだけで済んだにも関わらず、わざと遠回しする工程を一瞬のうちに行ったツギハギに二人は目を大きく見開いていた。

 

「どうした? 今のご時世、ツギハギ使えるのはさして珍しくないんだろう?」

 

 空になったコップに、備え付けの水瓶に入った水をそそぎ、飲み干す。

 さっき飲んだ時も思ったが、質が良いのか冷やさずとも美味く感じる。湖の街と呼ばれているだけあって、水に関しては上質なものが流れているのだろう。

 少なくともツギハギの氷から作った水よりはずっといい。

 ナヅキが目を開閉させながらコップを見やる。

 

「ツギハギを行使する速さに驚いたんです」

「そんなもんかぁ?」

 

 褒められて悪い気はしないが、体の調子を整える一環でのツギハギ行使だったので少し照れる。

 気分を良くした俺は、今度は一塊ではなく微細に砕いたものと分けてナヅキとダルメンのコップに入れてやる。余計な世話かもしれないが、いらなければ俺が代わりに飲んで追加で水を頼めばいい。

 二人からの視線をくすぐったく感じていると、そこに拍手の音が割り込んだ。アーリィが戻ってきたようだ。

 

「若さに見合わぬ精細なコントロール。お見事です」

 

 すみません、なんか若返っちゃったので見た目より大人です。

 でも子供に若さって言われても説得力はまるでない。

 

「アーリィ、だっけ。用事は済んだのか?」

「はい。今回のことは私の実験の失敗、ということで通していただきました。ですので補修のためのお金の請求や宿を追い出される、といったことはないのでご安心ください」

「む、それはそれでわたしの挟持が揺さぶられる。迷惑をかけたことに違いはないし、何かしたいところだが」

 

 渋面を作っていると思われるダルメンは、腕を組みながらアーリィへと視線を向ける。今更だが樽を被った男に対してみんな冷静すぎではなかろうか。

 

「話を聞けば、誰が悪いというわけではなりません。さ、今は全てを料理と共に飲み込んでください」

 

 しっかりした子だなあ。

 アーリィは料理も一緒に運んで来てくれたようで、従業員の少女と一緒にテーブルの上に配膳していく。

 ここまで世話になった以上、恩返しをしないと気がすまない。ナヅキ達も同意見のようで、アーリィに何か出来ることはないかと詰め寄っている。

 当のアーリィは考えこむような素振りをみせなら、ダルメンに目を向けていた。やっぱり一番気になるのはこいつだよな。

 今は食事をごゆっくり、と言ってアーリィは去ろうとするのだが、その背をダルメンがじっと見据えている。何か言いたげだが、言葉が出ることはなかった。

 

「アーリィだっけ。ダルメンに用事があるんじゃないのか?」

 

 樽越しに俺を見るダルメン。アーリィは歩みを止め、俺に振り返った。

 

「部外者である私が団欒の場に入るわけにはいかないでしょう」

「いや、俺達はついさっき出会ったばかりだからある意味アーリィと変わらない初対面同士だよ。それに君は恩人でもあるし」

「色々あって、ちょっと相席していただけなのよ。どうせならアーリィもどう?」

 

 ナヅキがそう言ってアーリィを誘う。

 しばし考えこむように綺麗な形をした顎に手を当て、眉根を寄せる。見かけが子供のアーリィがそうすると口調も忘れて微笑ましくなってしまう。

 

「では、お言葉に甘えます。見たところ皆様旅人のご様子。私で良ければ、その足跡を休める場となりましょう」

 

 その辺から適当な椅子を借りてアーリィの分を用意する。俺達しか客がいないし、これくらいいいだろう。

 

「そう言えば、名をお聞きしておりませんでしたな。どう呼べばよろしいでしょう?」

「ああ、そう言えばそうか。右回りにナヅキで、ダルメン。こっちがサウザナでポケットに居るのがユカリスだ」

「自分で言いたかったんですけどー?」

「流れだ、許せ」

「許します!」

 

 にっこりと許すナヅキとの掛け合いに目を細めながら上品な笑みをこぼし、アーリィは改めて俺に目を向ける。

 

「なるほど。それで、貴方のお名前は?」

 

 その質問を待っていましたと言うように、俺はあの時サウザナに告げられなかった名前を明かした。

 

「俺はネムレス。ネムレス・ノーバディだ」

 

 名を告げてアーリィにも同じように氷入りの水を用意する。互いの自己紹介が終わり、自然と俺達四人はコップを打ち鳴らした。

 


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