ダルメンの視界を共有してみれば、屋敷の入口には一人の少年が佇んでいた。
俺もダルメンも見知らぬ相手ということは、アーリィを訪ねて来た、ということか。
「―――――ん?」
少年が金髪を揺らしながら振り返る。
年の頃は十代後半程度と伺える、中々顔立ちの整った少年だ。
外套を羽織った外見以外に特筆することはないが、車輪つきのバッグを持っているのを見るとやはり旅人というのが濃厚だろう。
ダルメンを見た少年は、その顔に警戒の色を浮かばせた。当然と言えば当然であり、慣れ親しんでいる俺が見る新鮮な反応とも言えた。
「なんだお前。一体何者だ?」
普通に考えれば、樽男という異様な存在に対しての警戒。だが俺は少年が普通の旅人でないことを悟る。
両手に集うタンクル反応、加えて接敵に対する警戒。その行動への速さといい、明らかに戦闘を知る者の動き。『普通』では習得出来ないものばかりだ。
「剣都の軍人か?」
(わからないが、もしそうなら参るね、彼女をネムレス君に預けているから普段のような力押しが難しい)
「まだ敵かはわからないし、話を続けてみよう。例の五領国の使者って可能性もある」
(了解だ)
ダルメンはそう言って両手を上げる降参のポーズを作る。
少し呆気に取られた少年だが、警戒は解いていない。
「見た目で警戒するのは当然だと思うが、少し話しても構わないかな? わたし達にはせっかく口がついて言葉が交わせるのだから」
「お前口なんてねーだろ!」
ごもっとも。
「だが喋れるよ?」
「なんなんだよ、お前は……」
「わたしはダルメン。先日この街に来た旅人さ。この屋敷に住むアーリィ君、小さな賢者に会いに来た。そういう君は?」
「…………俺も同じだ。少し話を聞きたくて訪ねて来た」
好戦的ではなかったようで、警戒は解かないもののタンクルの気配は収まった。
胡乱な目をする少年に、ダルメンは子供に言い聞かせるような優しい声を発する。
「街中でツギハギを使うのはご法度だと思うよ」
「お前みたいなのを相手にしたら自然だろうが」
「悲しいことだ」
「だったら頭のそれを取れ」
「残念だがわたしのアイデンティティのようなもので、そればかりは無理なんだ」
「だったら毎回苦労すりゃあいい」
「毎回苦労している。……それで、入らないのかな?」
「どっかの樽に邪魔されたんだよ」
いちいち雰囲気が刺々しい少年である。
警戒するなとは言えないが、少し過剰な反応にも思える。
ダルメンはそれらをそよ風のように感じているのか、相手にせず屋敷の入口のドアをノックした。
ややあって扉が開かれると、小さな賢者ことアーリィが姿を現す。
少年がアーリィを見て少し目を丸くしているのを見ると、予想以上の幼さにびっくりしているのかもしれない。
「おや、ダルメン殿、こんにちは。そして貴方は……?」
「失礼。俺はツォカと言う者です。スピリット・カウンター事件について少しお聞きしたいことがあって参りました」
本当に知り合いだったのかと驚いていた少年、ツォカは先程までダルメンと接していた態度から一転、流暢な敬語でアーリィに用件を告げる。
子供といえ女性には真摯なのか、小さな賢者という名に対してのものなのか。どちらにせよ、何らかの目的を持ってアーリィを訪ねてきたと見える。
五領国の使者ではないってことは、別口か。いや、使者は三日後に到着するってことだし、国の代表ならもう少し礼儀正しいから違っていて当然か。
内容を聞き届けたアーリィは注意していなければ気づかない程度に、眉尻を下げた。
ここ最近、ずっと同じ説明を繰り返しているせいか何度目かの質問に辟易しているのかもしれない。
「そちらに関しての資料と詳細は役所へ赴けば手に入りますが……」
「訪ねたいのは、別のことです。……人払いはお願いできますか?」
「ふむ、邪魔になるならわたしは席を外すが……」
「いえ、申し訳ありませんが彼はわたしが個人的にも親しくさせていただいている方です。誰かに内容を話すということもありませんので、同席を願いたい。この条件が飲めなければお引き取りを」
アーリィはダルメンの傍に寄ると、ぎゅっとその右手を握りしめた。
突然のことに困惑するダルメン。
当然だろう、親しくないわけではないが、手を握るといった積極的な行動を取ることは一切なかったのだから。
樽を被っているおかげで動揺が顔に出ることはなかったが、一体どういうことかとアーリィを見ている。
俺もどうしたことだと、突然アーリィの声が部屋に割り込んだ。
(ネムレス殿、聞いておられるのでしょう? 何故〈クロッシング〉でダルメン殿と情報共有しておられるかわかりませんが、良ければこの話に付き合っていただけませんか?)
その提案に息を呑む。
ひと目見ただけでダルメンと俺の繋がりを見破ったのもそうだが、それに安々と割り込んで構成に介入してきた技量に対しても驚きの一言だ。
アーリィは小さな賢者という二つ名をいただくに相応しいツギハギ使いであると、改めて理解する。
(あ、ああ。構わないぞ。ところでサウザナは?)
(ナヅキ殿に話があるということで、ネムレス殿の部屋で何かお話中かと)
(伝言頼んだから、その件か)
(あと特訓について何か話していたような)
(そっちもか)
実際、師匠という面でも戦闘力という面でもきっとサウザナのほうがナヅキには合っているような気がする。
剣術ではナヅキの上を行くはずだし、ツギハギに関しても言うに及ばず。
俺自身の特訓を含んでいなければ、そうしたほうがきっとナヅキのためになる。それが、少し悔しくもあり寂しくもあった。
そんな俺の頬に、ユカリスが全身を使って体をぶつけてくる。そのままひしっと掴んで離してくれないが、なんとなく慰めてくれているように思えた。
「ユカリスは人の感情の機微に聡いんだな」
苦笑しながら、ユカリスをそっと掴み逆にほっぺをつついてやる。
じたばたと暴れるユカリスだが、体格による力の差は如何ともしがたい。されるがままのユカリスに、胸に湧いた負の感情は綺麗に掃除されていた。
(――――ネムレス君?)
「ん、ああ。すまん。少しぼーっとしてた」
(それは構わないが、あの子のことはしっかり見ておいてくれよ?)
言われて、少女のことを少し意識から外していたことを知る。
少し躊躇いながらも、俺は彼女の右手を両手でしっかり握った。これで、仮に何か起きてもすぐに察知することが出来るはず。
「悪い。それで今はどうなってる?」
(提案を受けても人払いを頼んだツォカ君のお願いを聞いて、アーリィ君は客間へと向かったよ。ただ、わたしの〈クロッシング〉に招待したから、きっと――)
(――繋げました。ネムレス殿、視界はいかがですか?)
目の中に新たに二つの画面が生まれる。
一つ目は俺が居るダルメンの部屋、二つ目はアーリィの屋敷の玄関。そして三つ目はツォカを案内した客間である。
アーリィの介入によって〈クロッシング〉がさらに派生したようだ。紋具職人《マイスター》なのだからツギハギに詳しくないはずはないが、こうもあっさりと干渉されるとそれはそれで己の挟持が揺らぐ。
しかも招待ということから、ダルメンがその手引をしたとも取れる。技術的なものではアーリィにしか目を向けていなかったが、ダルメンもダルメンで侮れないツギハギの使い手だと再確認する。
(わたしのツギハギの支配があっさり奪われた時も、同じ気持ちを抱いたよ)
「自分がやられると、結構くるな」
だからと言ってやめる気はないが。
(しばらくわたしは控えよう。アーリィ君達の話に注意してやるといい)
「いいのか?」
(重要度で言えばそちらを優先すべきだろう。何、元より歩き回るのが今回の仕事だ。こちらはこちらで対処するので、アーリィ君を見てあげてくれ。少し、あの少年のことも気になる)
「同感だ。一応、サウザナとナヅキに声かけておいてもらっていいか? 覗き見る必要はないけど、近くに居てくれって」
承った、と言ってダルメンは移動を開始する。後は任せておけばいいだろう。
俺は問題のアーリィへと意識を傾ける。
客間へ案内されたツォカは、案内されたソファーに座っていた。
紅茶を用意しようとするアーリィの手を止めたのを見ると、一刻も早く質問したいという空気を放っている。
アーリィの顔も少し訝しげだ。果たして、ツォカは何を持ち込んで来たのやら。
「それで、お話とは?」
「スピリット・カウンターは本当に貴方のリアクターで鎮圧したのですか?」
「ええ。それは事実です」
牽制のような質問。青い瞳が小さな少女を射抜く。
真実は俺がサウザナとアーリィのリアクターを融合させた剣で鎮めたが、それを知るのはあの場に居た面々だけだ。
実際アーリィのリアクターも使っているので、確かに事実である。
「つまりカケラオチを全て無効化することが出来るリアクターを作る技術を持っている、と?」
「いえ、全ては不可能です。それがまかり通るなら、スピリット・カウンターがアンネに迫ることはあっても、街の破壊を行うことは出来ません。先程のダルメンさんや他の協力者のおかげでカケラオチの勢いを削いでくれたおかげで、我々はアンネを守ることが出来ました」
「なるほど。――では、これが何なのかおわかりになりますか?」
そう言ってツォカはバッグの中から取り出したのは、細長い四角い金属の塊だった。
箱のようにも見えるが、アーリィの指よりも小さい極薄のそれは何かを詰められるとは思えない。
「これは劣化リアクターですね。鉄海を基盤に呪紋で補強した紋具のようなものです」
「劣化……?」
「タンクルの集束と拡散がリアクターの主な機能ですが、そのうち拡散の機能が搭載されていない廃棄品とでも申しましょうか。タンクルを集めるだけ集めて破裂させるというものです」
一瞥しただけで、アーリィはそれを劣化リアクターと評した。
驚きに目を丸くする俺とツォカ。
そんな俺達に理解させるように、アーリィは穏やかな声音で説明してくれる。
「リアクターにはチップと呼ばれるものが使われるのですが、それは前時代的な異物、一昔前に使われていたリアクターの部品です。もう一つ、集束を司る部品としての紋具と合わせた使い方をするものですが……」
こんな小さなものが、あのリアクターの根幹部分?
俺が知っているリアクターはアーリィの作品だけだが、それでも高さで言えば五ビヨンくらい大きかった。
それの根っことも言うべきものがこんな小さいもので出来てるなんて……でも、そんなもの一体何に使うんだ?
「これは使う者が上手く使えば、人為的にスピリット・カウンターを発生させることが出来ます」
胸中を読むように解説を入れるアーリィ。
故意にスピリット・カウンターを発生?
先日の自然に発生したものじゃない。なら、これはその関わりを示すものではなかろうか。
「いわゆる〈ダイバー〉がよく使うものです。ハイリターンの極みなのにあの仕事がなくならないのは、同じだけのリターンをもたらすからでしょうね」
アーリィの補足に悲しいことだ、とつぶやくツォカは本当に嘆いている。
正義感なのかモラルかのかはわからないが、少なくとも善性の性根ではあるようだ。
にしても〈ダイバー〉ねえ。
「わざとスピリット・カウンターを発生させて呪紋世界の技術を発掘し、成功した恩恵は計り知れないものもあります。鉄海も元はそこから知られたものですし。大半がカケラオチの群れを呼び寄せるとしても、自身に被害なく遺失なる物質を獲得出来るとなれば、特に権力者がこぞって群がるには十分です」
なるほど、あのカケラオチ達以外にも得るものが……って、俺か?
サウザナが召喚した俺も、ある意味でその成功の証みたいなものか。
……でもそんな仕事があるのなら、仲間達がもし境界領域に居たら探索がさらに困難になるな。諦めてはやらんが、苦労しそうだ。
「〈ダイバー〉は横の広がりがなく情報もあまり回って来ないはずですが、お詳しい」
「技術屋の界隈では割と聞く話です。詳しく知りたいのなら、もっと大きな都市の紋具職人に訪ねるのが良いでしょう」
「それはまたいずれ」
「……それで、貴方が本当に知りたいのは何でしょう。今の私はいつまでも前振りの話を聞くほど時間が空いているわけではないのですが」
「失礼。……先日のスピリット・カウンターにおいて、こちらの少女が『発掘』されませんでしたか?」
そう言ってツォカが見せてきたのは、四角い紙に記された美麗な絵画だった。
リアルすぎて絵とは思えない。映像を直接切り取って記しているほど鮮明だ。
「この写真は?」
「ヴァーナ、という名で私が探している人物です。アンネに来たのも、今回の発掘品を調べるためでもありました」
「ここでのスピリット・カウンターはカケラオチしか落ちて来ませんでしたが……失敬」
断りを入れて写真と呼ばれる絵画を手に取るアーリィ。
俺も彼女の目を通してその人物を見やり――
「…………っ!?」
声が出なかった自分を褒めてやりたい。
ツォカが差し出した写真に描かれていた人物――ヴァーナという少女は、今まさに俺が手を取っている、ツギハギ体の彼女のことだったからだ。
「こちらの女性は?」
「俺の親友の姉です」
「……それが何故、発掘、と?」
「貴女もリアクターを作る職人ならば、境界領域というもんをご存知でしょう?」
「はい。この世界と呪紋世界の間にあるという、狭間の世界のことですね」
「彼女は、とある事情に巻き込まれてそちらに飛ばされた可能性があるのです。俺は動けない親友の代わりに、彼女を探すべく放浪をしています」
少し興奮しているのか、一息に語るツォカ。
彼の言葉が全て真実ならば、ヴァーナは俺と同じく境界領域からの帰還者ということになる。
それがどうしてダルメンの樽に入れられたのか……発掘、って言ったか。
カケラオチの群れと共に現れ、一層された後に彼女を見つけたが死体として扱われて、廃棄処分として海に流された……?
いや、死体ならわざわざ樽に入れなくても火葬なり何なり……駄目だ、過程を妄想で補うばかりで大事な情報が足りない。
「アーリィ、すまないがもう少し情報を引き出せるか?」
(それは構いませんが……)
「大事な話になりそうなんだ。頼んだ」
上手く話してくれよと思いながら、次にダルメンへ〈クロッシング〉を飛ばす。
「ダルメン、緊急事態だ。さっきのツォカって奴がお前の中に居た子の情報を持っている」
「なんだって?」
返事は即座に帰ってきた。
俺はすぐさま事情を説明してアーリィの視界をダルメンに共有するよう言うと、彼もまたヴァーナの写真を確認したのか唸り声を上げ始めた。
「今からアーリィに頼んで情報を多く話してもらう予定だけど、ダルメンも傍に控えていてくれ。いざとなったらヴァーナのことも話して、協力してもらおう」
「仮にヴァーナにとっての敵とも言える存在であるなら……」
「そこはダルメンに任せる。放置するなりイッタル達みたいに取り込むなり、そっちで判断してくれ」
「わかった。願わくば協力者になってくれることを――」
敵か味方かで区別するのは悲しいことだが、何もわからないことだらけな現状ではまずそうやって区切りをつけるしかない。
そうしているうちに、アーリィは俺のお願い通りに話を引き出すべく舌を滑らせる。
「事情は理解しました。残念ながら彼女を見たことはありません。……ですがその、一度境界領域に落とたというのなら、貴方がしていることは……」
「わかっています。それでも、諦めきれない。そうする理由がある」
「恋人だったのですか?」
「ん゛ん゛……違います」
少し動揺を見せるツォカ。
恋人同士ではないが、満更でもない感情を抱いていたのかな?
「親友のため、です」
「友情、それは素敵なことですね。ですがアンネにやってきたということは、このヴァーナさんという方は五領国出身なのでしょうか。あの国でスピリット・カウンターが起きたことはないはずですが……」
「…………境界領域に国の境目は関係ありません」
「場所に関係なく、世界中のどこにでもカケラオチとして出る可能性がある、と?」
「〈ダイバー〉を調べたところ、自国で消失した遺物が別の国で見つかったという資料もあります。俺も調べ回りましたが、流れた可能性が高い」
境界領域は時間すら止まった世界だが、海のように流れるパターンもあるようだ。
そして、ツォカは今自国と言ったな?
ヴァーナの故郷を知るには良い機会だ、少しつついてもらおう。
「アーリィ、ツォカの国を探ってもらえるか?」
「(わかりました)……ちなみにツォカ殿の国はどちらに?」
「……スメイキュードです」
「ここから遥か東方にある大国ですね。よくぞここまで…………いえ、貴方がたの国なら、移動手段は豊富でしたか」
「流石に鉄海を旅に持ち出せるほどではありません」
「ですがスメイキュード出身ならスピリット・カウンターや〈ダイバー〉に詳しいのは察せられるというもの。小言やもしれませんが、世界で最もスピリット・カウンターを起こす国のほうが、件の彼女を見つけられる可能性が高いのでは?」
「三年間、探しても見つかることはなかった。だから国は親友に任せて、俺は外回りを担当しているのです」
アーリィがスメイキュードという言葉を引き出してくれたのを見計らい、俺はダルメンに判断を聞いてみる。
「ツォカはスメイキュードって国の出身。そこで消えたヴァーナを追って世界中を放浪している、というのがここまでの情報だけど、ダルメンとしてはどう思う?」
(嘘は言っていないと思う。純粋に友の姉を想う気持ちが伝わってくるよ。……ただ、彼女を持ち帰った後が怖いな)
「体がツギハギになって帰って来ました、なんて研究対象にならないはずがないもんな」
スメイキュードという国はよく知らないが、アーリィが大国というのなら相応の領土を持った国なのだろう。
そんな国が世界でも類を見ない体となったヴァーナを引き取る。どうポジティブに考えてもろくな予想が出来ない。
「なるほど、お話は理解しました。ですが申し訳ありません、今回のスピリット・カウンターにおける戦利品は一切ありません。私のリアクターは被害をなくす代わりに、カケラオチの残骸すら消してしまうので……」
「それは、また。いや街の住人からすれば素晴らしいものだろう」
そもそもカケラオチ達が何かを落とす、ということすら知らない俺からすれば、鎮圧して消えるのが自然だと思っていたよ。
「しかしここまで話を伺った以上、見て見ぬふりをするのも心が重い。少し私のツテを当たってみるとしましょう。この写真、いただいても?」
「……あ、ああ! 複製だから問題ない。ありがとう……感謝する」
ソファーに身を沈めながらも、ツォカは顔を俯かせて体を震わせる。
成果こそなかったが、新たな繋がりが出来たということに無駄骨でなかったことが嬉しいのだろう。
「ツォカ殿はしばらくアンネに滞在されますか? 情報は数日のうちに持って来れると思われます。良ければ、知り合いの宿を紹介しますが」
「そうだな、せっかくの小さな賢者殿の好意に甘えるとしよう」
「わかりました、では案内を……」
「いや、地図は買ってあるから場所を教えてもらえればいい」
「畏まりました……はい、こちらの場所です。湯浴みに関してはこちらですね。食べ物やお酒などの嗜好品は揃っておりますので、しばらく旅の疲れをお癒やしください」
「感謝する。それじゃあ……」
一礼して、ツォカは退室しアーリィもまた客を見送るべく屋敷の入口へ向かう。
アーリィが示したのは俺の居るエプラッツの宿だったので、ここから接触するなり放置するなりは任せるという気遣いを感じる。
「ダルメン、ツォカにヴァーナのことを話すか?」
(ああ。わたし自身彼と直接話して確かめてみるよ)
「なら、一度宿に戻ってツォカを食事に誘うといい」
(そうしよう。……まさか、こうまでスムーズに物事が運ぶとは思わなかった。本当に、ありがとう)
「いやいや、お礼はツォカに言うべきだろう。俺は何もしてないし」
(機会は紛れもなく君からだ。一度そっちに戻る)
了解、と告げて今度はツォカを見送っているアーリィへと言葉を投げた。