故に、膨大な知識がある訳でもないです。
思わず逃げちゃったけど、悪い事したかもしれない。
あのジュンサーさん、たぶんだけど俺を保護しようとしたんじゃなかろうか。
傷だらけで目つきのわる…影のある面構えしたニドランが、トレーナーに連れられもせずうろちょろしてたんだからな。そりゃただ事じゃないって判断するわ。
でも、保護された所で何が嬉しいって訳でもないしな。
安定した食事を与えられるくらいか。それだって長くは続かんだろう。
うむ、悪いなジュンサーさん。まだまだ助けは必要じゃないみたいだ。その好意だけは受け取ってやろう。
そろそろニビシティともお別れか。
半日程しか滞在してないが、見るべき場所は既に見たんだよな。博物館とニビジム。
博物館、外見は立派なもんだ。中は知らん。入ろうとしたら、受付の兄さんに止められたからな。
…入場料、ポケモンでも必要なのか。野良は入れないだけかもしれんが。
ニビジムも見てきた。タケシ居るかな~なんて期待したが、どうやら留守らしい。挑戦者であろう、二人組の少年トレーナーが「明日また来ようぜ!」とか言ってたから、まず間違いない。
くっそ、いないのかよタケシ。あわよくば勝負してもらおうと企んでたんだが。
勝負たって、流石に勝てるだなんて自惚れちゃいない。寧ろ、その逆だ。
徹底的にコテンパンにのしてもらって、自身の戦い方の反省をしようって寸法だ。
どーも最近、バトルに緊張感がないからな。ここらで一つ痛い目を見といた方がいいと思う。ジムリーダーなら実力も申し分無し、スカッとぶっ倒してくれるはず。
…勝負してくれたら、の話だけど。言葉を喋れないって不便やね。
ま、いないんならどうしようも無い。
ジュンサーさんが追っかけて来るかもしれんし、ささっと街を出ますかね。
えー、あっちの方向がトキワ方面だから、こっちが東か。
向かうはおつきみ山。目的は勿論、月の石。
トレーナーとのバトルもやってみたい。タケシがいたら、それも含めて一石二鳥の経験だったんだが。
そう、タケシ。あの糸目。お姉さんと岩タイプが大好きな、やたら主婦力の高いあいつが…って、
あれ?
おつきみ山の方角からこっちに来てるのって、タケシじゃね?
うお、ちょま、ヘイ!
タケシ、おいタケシ! 勝負ショーブバトルしろこらお前ほんとタケシなんだな糸目の人間なんて初めて見たってかこっち来いバトルすっぞオラァ!!
てなわけで。
戦ってまいりました、タケシと。街の外れまであいつ引っ張ってな。服の裾がビロビロになってた。
向こうも最初は戸惑っていた。何がしたいんだこのニドラン、てとこだろう。
だから、角を振り回して前足で地面を蹴るという、猛牛みたいな動きをやって見せた。すると、ガラリと表情を変える…いや、あんま変わってなかったな。雰囲気、そう雰囲気を変えた。スイッチが入ったようである。
ポケモンは何を出してくるか。まずはイシツブテか? と身構えていたら、違ったんだよなぁ。
いきなり イ ワ - ク を繰り出してきやがった。
で、そのイワークに 勝 っ ちゃ っ た 。
勝っちゃったよおい…。「きあいだめ」からの「にどげり」がウィークポイントにダブルヒットだよ。が、当然それで終わらない。
「俺としたことが。相手の力を見誤っていたみたいだ」
そんな使い古された台詞の後に繰り出されたのは、またまたイワーク。
デカい。
すんごぉくデカい。もう最大金冠確定ってぐらい。
まあ、イワークを生で見たのはこの戦闘が初めてなんだけども。迫力がやべえってこったよ。
そのイワークはくっそ強かった。とりあえず「どくびし」を撒いたが、すぐさま「すなあらし」で「どくびし」を吹っ飛ばされた。そんなんありか。
で、「あなをほる」で奇襲してからの巨体を活かした「しめつける」。あ~、最初期のアニメを思い出すな懐かしいな。
「すなあらし」のスリップダメージと「しめつける」で早くも絶体絶命。自力での脱出は不可能。ほぼ詰みかけていたんだが、今しがた覚えたばかりの「おだてる」を発動。イワークを混乱状態にしてなんとか脱出。
ちなみに「おだてる」がどういう技かと言うと…
「いや~イワークさんヤベェパネェ最強すぎ! よっ この色男! ニクイね~! 大統領!」
これで成功した。マジで。ポケモン言語だから、タケシにはギャンギャン叫んでただけにしか聞こえんかっただろうがな。
イワークがフラフラしてる間に再度「どくびし」。ついで「にらみつける」。
もう少し時間を稼げると踏んでいたんだが、
「しっかりしろイワーク!」
タケシのコレで即座に素面に戻る。ひでぇ。
「ストーンエッジ」が指示されたので、スタコラと射線から逃れる。
胴体に「にどげり」するが、硬すぎて効きが悪い。ならばと「きあいだめ」して集中力を上昇させ、攻撃後の隙を突いてやろうとタケシの指示を待っていたんだが…。
タケシが、イワークにちらりと目配せ。
直後に、ノーモーションから「たいあたり」が襲ってきやがった。
完全に不意を突かれた。
あんなデカい岩の塊が、猛スピードでぶつかってくるんだぜ?
避けられもせず、直撃。それで気絶。
まあ何だ。期待通り、コテンパンにされました。
ダメージはタケシが「かいふくのくすり」を使ってくれたので全快。
やー、にしても実りあるひと時だった。
ジムリーダー相手に、善戦した方だと思うぜ。そこそこ本気っぽかったしな。
そして反省点だが。
まず、どうしようもなく地力が違う。身に染みたね。「にどげり」何発喰らわせたら倒れるんだよあいつ。
トレーナーの指示から攻撃を予測していたのも見抜かれたな。決め手のびっくり突撃がそれだ。
そこらの凡骨トレーナーなら、それで終始優位に立てただろうが、甘くなかった。
にしたって見抜かれるの早すぎじゃありません? 伊達にジムリーダーやってないってか。
こんな指摘も貰った。「お前は、後の先を取ることに拘りすぎだな」
…そうなのか? あまり意識してなかったが、言われてみりゃそうなのかも。
相手が動いてから対応する、てのは確かに俺の癖かもしれん。
攻撃を、敢えて受けたりしてたからだろう。自然とそんな戦法ばかり取っていたようだ。
別にそれが悪いってんじゃなかろう。ただ、今の俺には分不相応なやり方だったのだ。
対等な敵ならそれでいいかもしれんが、今回みたいな格上相手じゃ通用しない。
自分より強くて経験ある奴の『後の先』なんざ、そうそう突けるもんじゃない。なるほどねぇ、勉強になったわ。
色々と得るモノが多くて満足。とにかく精進あるのみだな。
じゃあ、と背を向けようとしたら、タケシから意外な一言。
「お前、俺の所に来ないか?」
おう、なんと。まさかまさかのスカウトキタ!
丁重にお断りします。
旅はまだ始まったばかりだからな。
トレーナーの手持ちになれば、不便は減るだろう。だが面倒も増える。まだまだ自由に振る舞いたい。
てか俺って岩タイプじゃないんだよおおお! タケシは気にせんでも、俺が気にする。
よし、もう話は終わりか? おん、まだある?
勝手に、首に白い布きれを巻かれた。なにこれ手拭いか?
「誰かにゲットされそうになっても、これがあれば誤魔化しにはなるだろう」
理解した。仮の首輪だな。ノーノー私野生チガウYO! ってことね。
若干、恩に着せられた気分だが、必要になりそうなので貰っておく。
じゃ、今度こそニビシティにさよならバイバイ。
振り向くと、タケシが手を振っていた。イワーク×2も尻尾を振っている。
前足を振りかえしておいた。
ジムリーダーの手持ちか。勿体無かったかもしれんが、しょうがないか。
ちなみに作者は初代でヒトカゲを選び、ニビジムで地獄を見た(元)ちびっこの一人です