こんちわ ぼく ポケモン
ちゃうわい! いや、違わないんだよなあ。
歩き出してから数十分くらいか。夜だし外灯なんてもんもないから完全な真っ暗闇に近いはずなんだが、思いのほか苦も無く歩けている。
なんだろな、五感がすごい。見えないこともないし、耳も鼻も利きすぎるくらいだ。
特に、耳。大きい耳だからか、地面を這う虫ケラの足音まで拾ってくれる。
そういや俺が何のポケモンになってるか教えてなかったな。
ニドラン(♂)である。
そう、あのニドラン。どくタイプでムラサキな角兎だ。かの「技のデパート」ことニドキングの進化前である。
なんでニドラン? と思ったりもしたが、よくよく考えりゃかなりの優良物件だよなこれ。四足歩行の安定感パナイ。
もしも変化先が虫やら魚やらだったらテンションやばかっただろな。悪い意味で。ゼニガメとかならバッチコイだが、コイキングとかだったらもう自殺もんである。いやコイキングが嫌いとかいうんじゃなくて、ギャラドスに進化するまで生き残れるとは思えないのだ。はねるってお前。
個人的にゃあヒコザルみたいな猿型ポケモンが一番の理想だったんだが。手が使えるってのがでかいし、最終進化系のゴウカザルがやたら強いしな。アニメでも優遇されてたっけか。とはいえニドラン(ニドキング)もお気に入りポケモンの内の一匹だし、本気で厳選作業したことのあるポケモンでもある。使える技くらいはだいたい覚えているんだぜ?
そうだ、技だ。
俺はニドラン、ポケモンである。
ポケモンなら技が使えるはずだ! おおお、ちょっとワクワクしてきたな。
とはいえニドランが使える技なんてたかが知れている。つか、いま何レベルなんだ? 仮に卵から孵ったばかりの赤ん坊、つまりレベル1だとしたら、「たいあたり」や「つつく」くらいしか使えないってことになるぞ。体力…HPもすこぶる低いってこったな。うわ、たいあたりしたら反動で自分がダメージ喰らうんじゃね? いやそれは「とっしん」か。
んん? 待てよ、技ってどうやって覚えるんだ?
ゲームなら、普通にレべリングしてたら普通に覚える。他にも、技マシンやら教え技やら思い出しとか。遺伝もあったな。
遺伝かあ。おあああ、遺伝かよおい。そうだよ俺って、つまりニドランの俺の親ってどんなだったんだ。まさかメタモンとかじゃねえだろな。技は? 個体値は? 持ち物は性格は特性はてか両親どこにいるんだよ!
落ち着こう。
ふと、隣を見ると野生のサンドと目があった。どうやら、唸りながら地面を転がりまくってたのをがっつり見られたらしい。「うわ、キモ」とでも言いたげに目を細め、さっさといなくなりやがった。
サンド、直に見るとけっこう可愛いのな。
変人を見る目だったのは許せんが。
というか、さっきのがポケモンとのファーストコンタクトかよ。なんの感動もない。やっちまったなこりゃあ。
切り替えよう。技だ。
アニメとかじゃ、主人公のサトシくんがポケモンと共に訓練して技を覚えさせたりしてたよな。
俺はどうなんだろう。特訓したらいいのか、単純なレベルアップでいいのか。
そもそも、この世界だ。重大なことに気づく。
この世界は、ドコだ?
何言ってんのって感じだが、かなり重要だ。この世界がアニメの世界なのか、ゲームの世界なのかで、技に関する事情は大きく違ってくる。ポッポやサンドがいたのだから、地球ってわけではあるまい。実はここは前人未到の秘境で、ポケモンは実在してたんだよ! てか。ないな、それはない。一応、完全否定はしないが、九割九分ないだろな。
アニメの世界なら特訓で技が身に付くのかね。ゲームの世界が基準なら、技マシンとかが道端に落っこちてたりして。
いや、あったとしても技マシンは落ちてたりしないか。あんな貴重な物、俺なら絶対に無くさない。万が一、落ちてるのを見つけたら、もう神速でネコババするね。だれにも譲らない。
とにかくアニメかゲームか。〇〇地方のどの辺りだ? 或いは、ポケダンの世界って線も。人間がポケモンになって不思議ワールドに迷い込むなんて、いかにもって感じじゃん。
…なんだか、当然のように痛い推測してんな。ナンデコンナコトニ。
あーいかんな。やはり判断材料が少なすぎる。コミックの世界っていう可能性もあったか。めんっっどくせえなおい。
両親や遺伝技に関しては、もう考えないようにしよう。生まれがどうのとか思春期じゃないんだから。
どんな世界かってのも、これから知ってきゃいいさ。
とりあえず、これからやるべき事だが。
まずは生きる。
そんで鍛える。
バトルする。
勝って進化を目指す。
これだな。とにかく、強くならなきゃ話にならん。人間がいるならペットにでもしてもらえればいいが、ニドランは毒タイプ。トレーナーならともかく、一般人が手を出すには躊躇われるだろうしな。
まあペットにせよバトルパートナーにせよ野生のポケモンにせよ、強けりゃいいのよ。アニメもゲームもコミックも、ポケモンはバトルとは切っても切れない関係にあるしな。強けりゃその分、出来ることも多くなる。
よし決まった。まずは、生きる。生きるぞ。
鍛えるのはこの体やサバイバル生活に慣れてからだ。まずは、大自然でも生きていけるタフさを身につけよう。某有名漫画のナメック星人も似たようなこと言ってたしな。
充分に体が出来上がったら修行開始だ。技については、色々と試してみたいことがある。
おっしゃ。ふんっと鼻息を一つ。夜空を見上げてみる。
…月だ。三日月だ。
そういや月の石ってどこにあるんだろう。
ニドキング大好きです。その次がペンドラー