「10まんボルト」習得の特訓は、苛烈を極めた。
ライチュウに「10まんボルト」を覚えたいと頼み込み、その旨をマチスに身振り手振りで伝えてもらう。面倒な依頼だが、二つ返事で引き受けてくれた。
早速、特訓開始。やる事は単純明快。ただひたすら高電圧の電撃を受けまくる。
そう、習得の過程で言えば、今までのゾクゾクマゾ実験の方向性は間違いではなかったってこった。その内容はこれまでの被虐的修行が鼻くそに思えるくらい過酷だったが。
で、肝心の習得状況だが。まず俺は殺風景な小部屋に突っ込まれ、全身に電線をひっつけられる。
その電線が続く先には、ゴテゴテした悪趣味なヘルメット。それを被るのは、マチスのライチュウだ。
絶縁体がなんだのと説明された台の上に互いが乗り、スタンバイ。準備OK。
…これから何が始まるかって?
ご想像の通りだよ。
マチスが「電気になりきれ」とか「ユーはエレクトリックだ!」とか意味不明な声援を送っていたが、なんのアドバイスにもなっとらん。ガチで生命の危機を感じたね。
電撃を受けて小休止を挟み、また電撃を受けて小休止を挟む。ダメージでグロッキーになった俺に容赦なく傷薬が投与され、傷が癒えたらまた電撃。拷問だよ拷問。望んだのは俺だけどさ、もうちょっと何とかならんかったもんかね。
かつて電気椅子で笑いながら死んだ変態被虐趣味カニバリストがいたらしいが、俺にはそんな真似できんな。痛いわ苦しいわで体が痙攣するから、笑顔なんて維持できるはずがない。マゾを極めし者はナニかを超越してるのかもしれん。
話が逸れた。
とにかく、数時間はそんな事を続けていたと思う。ジョーイさんとかが見たら、卒倒するなんてレベルの光景じゃなかっただろな。
電気漬けになる内に、俺の中で「電気」というモノに対する認識が書き換えられていく感覚が。なにそれやばい。
ライチュウが一際強烈な「10まんボルト」をぶち込んできたのを最後に、意識を失ったのである。
意識を失っていたのは少しの間だったらしい。覚醒と同時に技リストを確認する。
新たな技は増えてないかな。お? 真新しい文字列が脳内に浮かび上がる!
これは、まさか…!
「ゆうわく」
ふざけんなよ。
なんだよ「ゆうわく」って。ここにきてレベル技とか空気よんでくれよってかどうしてレベル上がったんだよくそったれだよ。
そもそも俺が「ゆうわく」してる姿が想像つかん。ニドランだよ?
つーか今更だけど、なして「ゆうわく」をレベル技後半に設定したんだゲーフリは。ニドランが兎モチーフとか言われてるのが理由か?
兎、性欲凄いって聞くもんな。子孫残しまくるためには、オスもメスも相手を選んでられないってか。誰彼かまわず「ゆうわく」して仲間を増やす必要があるのかね。
でも俺、ポケモンの姿になってから別段性欲って湧いてこないけど。
…やめよう。ポケモンは全年齢対象だ。
さておき「ゆうわく」かぁ。確か、異性の特攻を二段階下げる、だったかな。
異性。異性、ね。
そこにいるじゃないか。
うん、夢だったと思いたい。
俺は臨死体験なんてしていない。心此処に在らずな俺を地獄へと引っ張るゲンガーが「んん~? 間違えたかな?」とかいうざ~とらしい独り言を漏らしてたなんて事は一切なかった。ないったらない。
まあ、あれよ。「ゆうわく」って、やっぱれっきとした技なんだなって。ものは試しとライチュウさんに向けて使ったら、あっさり効いてしまったのだ。
どういう風に『誘った』のかって? 「もっとお前の電気が欲しい!(意味深ではない)」と「ゆうわく」付きで言ってみただけだ。
そしたらまあ、なんという事だ。目を真ん丸にして硬直するライチュウ。かとおもえば赤面するわ慌てるわグルグル無意味に回り始めるわで収拾がつかなくなった。致命的な勘違いをした上に、パニックを起こしたようである。んな大げさな…。
正気に戻った途端、怒涛の攻撃を喰らった。ライチュウ、怒りの電撃。
特攻が下がったとはいえ、弄ばれたと憤るライチュウの「10まんボルト」は破滅的な威力だった。結果、先の奇妙な体験である。臨死じゃない!
うん、悪い事した。不意打ち気味に技を使ったって時点で言語道断だが、それ以前に相手がまずかった。怒りが収まったかと思いきや、こちらに背を向けて壁と話しているライチュウ。謝っても無反応。やらかしたなこりゃ。魔が差したなんて言ったらどうなるか。
が、ここで急展開。
「10まんボルト」を覚えたあああああ!
どうやらさっきの攻撃で覚醒したようである。「ゆうわく」したのは無駄ではなかったのだ。
おおおライチュウさん俺やったよ! あんたのおかげで念願の技を習得できたよ!
あ? なんだよ小声でボソボソと。聞き取り難いよ何て言ってんの? ほ~らライチュ…。
「死ねば?」
ごめんなさい。ほんとすみませんでした。
マチスは語る。全てのポケモンが、対応した技を覚えられるわけでは無い、と。
ポケモンだって生き物だもんな。ゲームみたいにはいかない。誰にでも向き不向きがあるのだ。
使える奴は、呼吸するかの如く多彩な技を使う。逆に、電気タイプなのに電気技が使えない奴だっているし、そんな悩みを抱えるポケモンを世話した事も何度もあるらしい。
今回、俺に施した訓練(?)はかなり無茶苦茶な部類なんだと。短時間で、かつ高確率で技を覚えるには、アレが一番だとか。ただし訓練に耐えうる体力がなければ話にならない。なんというスパルタ。
普通は教師役のポケモンを用意して、そいつと一緒に教えるんだってさ。その方が安全だし、時間はかかるが教える側にも負担は少ない。
じゃ、なんでそうしてくれなかったの?
ユーなら乗り切ってくれると信じていた?
そいつはどうも。お陰様で覚える事が出来たよ感謝してるぜくそったれこの野郎ありがとよ。
さて、お別れだ。ちょうど新たな挑戦者が現れたらしいので、用事の終わった俺は邪魔だし失礼させてもらうとする。
「ユーは素晴らしいタフネスとソウルの持ち主ネ。この二つがあれば、ハードな困難だろうとノープロブレム! 覚えたエレクトリック技、これからも有効に使ってあげてくだサーイ!」
マチスからの激励。それはいいんだが、背中をバンバン叩くのはやめろ。「どくのとげ」が発動しちゃうぞ。
ジムトレーナーである電気グループの兄さんと、ジェントルマンのおっちゃんもお別れを言いにきてくれた。おお、有り難いぜちくしょう。
で、ライチュウさんだが。
…どうしたのよあんた。
ついさっきまでは「お前は最後に殺すと約束したな? あれは嘘だ」とでも言いかねない顔してたのに、一変ギャン泣きしはじめた。感情の起伏が激しすぎるだろ。つか、まだ知り合って一日程なのに、そこまで込み上げるモノもないと思うが。
うるさい死ね、せいぜい長生きしろ! って、どっちだよ。反応に困る。なんとかしろよマチス。
あ? こいつも向こうで色々あったから察しろ?
向こうってどこよ。ああでも、マチスが「戦場を共に駆け抜けた」とか言ってたっけ。ライチュウさん、苦労したんだろうな。
本気で許されない事しちゃったのか、俺。性質の悪い冗談が過ぎたな。う~ん、謝っても謝りきれん。
マチスが冗談めかして「生きて帰ったらまた会いにきてくれ」と突っ込み所満載な台詞を言ってきた。ここで即了承すればいいんだろうが、生憎と俺はアホだからな。
一言。そんな約束は出来ん!
死ぬだのなんだの誇張だとは言わない。悪の組織が暗躍し、伝説のポケモンが暴れ回るのがポケモンワールドだ。いつ、どこで、どんなゴタゴタに巻き込まれるか分かったもんじゃない。
そんな時、一ポケモンにすぎない俺が、果たしてどこまで『何』を出来るというのか。逃げる事すら叶わない状況に追い込まれた時、たかがニドランの俺にどうしろと言うのか。
格好つけてこんな達観してるんじゃないぞ。伝説のポケモンなんて、自然災害みたいなもんだ。避けようがないケースもあるだろ。遭遇したらアウトだ。
そんな非常時のためにも、強くなるに越したこたぁないんだがな。
つーわけで、確実に果たせるって約束じゃないから、イエスとは言えません。ごめんよ。
と伝えたら、今度は大笑いするライチュウ。電気鼠百面相。笑い方がマチスに似てる。
そういうのは嫌いじゃない、と。
マジで、過去に何があったんだろなライチュウさん。少しは機嫌直してくれたみたいだが。
訊かないでおこう。笑顔で別れようや。
サンムーン、ストーリークリア。
ラストバトル、相手のZ技を気合で耐えたアシレーヌが、残体力1の状態で専用Z技を使って反撃、勝利をおさめました。
アニメのような展開がリアルでおこってびっくり。バックのBGMもあってか、やたら感激してしまいました。