ポケットモンスター紫   作:鯖風味鯵

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サンムーン、買いました。プレイ中です。


技15

 一週間ほどクチバに滞在しているが、マチスには会えず。

 

  

 

 クチバジムはギミック有りの施設だ。アホみたいな数を用意されたごみ箱の中から、ジムリーダーへと通じるゲートの開閉スイッチを二回連続で引き当てなければならない。

 

 ポケモンである俺も、マチスに会いたいなら例外ではない。クチバジムのごみ箱を漁る毎日。他の挑戦者に混じってゴミ漁りするニドラン。シュールである。

 

 最初は、野良犬の如く煙たがられていたがな。邪魔したりせず大人しくゴミを漁っていたら、いつの間にか受け入れられてた。うむ、トレーナーたる者、ポケモンには寛容でなくちゃならん。ジム所属のトレーナーである電気グループの兄さんや、ジェントルマンのおじ様とは既に顔馴染みだ。たまに木の実くれるんだぜ。

 

 

 

 思ったけど、クチバジムって無駄にハイテクだよな。

 

 このゲートシステムとか、ほんと技術の無駄遣いだろ。プッシュされる度にごみ箱間を移動するスイッチとか、誰がスイッチを押したのかを完全に認識してるとか、謎技術すぎる。どういう仕掛けなんだこれ。指紋認証とかしてんのか?

 

 

 

 あ? クチバジムに入るのには「いあいぎり」が必要?? 

 

 

 

 ゲームと違って、アグレッシブな動きが許されるからなぁ。木登りはトキワの森で習得済みだ。

 

 ま、あの木も謎要素の一つだが。斬ったそばからにょきにょき生えてくる。ト〇ロでもいるのかな。

 

 

 そうそう、ジムトレーナー専用の地下通路があるのよね。いちいちあの木を斬ってジムに入るのは手間だから、それを配慮したのだろう。関係者以外は立ち入り禁止っつーか、存在すら知らされてないけど。

 俺はニドランの聴力で盗み聞きした。まあ知ったところで使えないけどな。出入り口、私服のスタッフが見張ってるから。

 

 

 実は待ち伏せ作戦なんかも試したんだよ。地下通路出入り口の前で丸一日出待ちしてみたり。

 

 

 が、ダメ。勤務帰りのジェントルマンがこっそり教えてくれたが、マチスは独自のルートでジム内外を行き来しているらしい、と。

 どうやって、どんなルートで、なんて情報は部下にも教えられていないらしく、それ故に、彼に会うなら挑戦者達と同じように面倒な作業をこなさなければならない。

 

 

 マチスの野郎、回りくどい造りにしやがって。

 

 

 つーか、第二スイッチみつからねぇぇぇ!!

 

 

 第一スイッチまではいいんだよ。でも第二はマジ見つからない。

 

 第一を押したら、約十秒程の第二スイッチ受付時間があるんだが、これが無理。もたもた探してたらすぐタイムオーバー。

 

 うーん、ゲームと同じならば、第一の隣に第二スイッチが隠れてるはずなんだがな。この世界はそうでもないのか。

 

 スイッチも、なんでゴミ箱の底に張り付いてあるんだよ。探しにくいわ。

 

 俺ニドランだからさ、人間みたいに長い腕でゴミかき分けるってのが不可能なんだよね。頭から突っ込んで探さなきゃならん。そんな事してるもんだから、十秒ぽっちだとゴミ箱一つ漁るのが精一杯なのだ。

 

 あかんイライラしてきた。叫びたい。寧ろ一週間も我慢したのを褒めて……。

 

 

 お!? 第一スイッチ発見! ポチッとな。

 

 

 おっしゃ急げ急げ。とりあえず右隣のゴミ箱を漁って…。

 

 

 無い。そして時間切れ。ゲートがロックされる。

 

 

 

 

 ……ぬうううぅ、ふ お お お お お お ! !

 

 

 

 

 お の れ  マ チ ス ! ! !

 

 

 

 「うおおおおああああああ見つけたぞおぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 は!!?

 

 

 青年のトレーナーが、映画『プラトーン』を想起させる姿勢で雄叫びを上げていた。

その場にいる全員が、即座に理解する。彼は、勝ったのだ。この理不尽極まりない運ゲーを打ち破ったのだ。

 

 

 ワッと歓声が上がった。皆が、惜しみない拍手を送る。俺も前足を叩いて祝福した。

 

 

 「ありがとう! 俺、行ってくるよ!」

 

 

 満面の笑みを浮かべ、開いたゲートを潜る青年。

 

 彼について行ったらいいんじゃね? なんて考えてはいけない。普通に警備員いるからね。

 

 数多の視線に見送られた青年。ゲートが閉じて数分後、出てきた彼の頭は電気技によるためか立派なアフロヘアーとなっていた。

 

 

 …負けたんだな。てか、なんでお前まで電撃を受けている。余波か。

 

 

 しょうがないよね。ジムリーダーだもん。簡単には勝てないわな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。ジムが閉まるので、すごすごと引き上げる俺と挑戦者達。

 

 トレーナーとの戦いも経験したかったので、彼らにはバトルを申し込み、そして勝利している。

 

 

 対トレーナー戦についての感想だが、特筆すべきは二点。

 

 

 まず一点。トレーナーの指示から相手の攻撃を予測できる。これはタケシ戦でもある程度通用した戦法だな。

 

 いや卑怯かどうかって言われたら卑怯だけどさ。しょうがないじゃん、聞こえちゃうんだから。

 

 ポケモントレーナーって、どんな無口な奴でも基本は大声で指示をだすからな。「〇〇、オーロラビーム!」とか「あやしいひかり!」なんて言われたら対処しちゃうでしょ。

 

 タケシがイワークに無言の指示を送っていたが、あれこそが卑怯というか異常なのだ。トレーナーとポケモン、よっぽど以心伝心してなきゃあんなのは不可能である。

 

 

 で、二点目。トレーナーという存在の鬱陶しさ。

 

 

 どういうことか。例えば、俺とトレーナーのポケモンがバトルしていたとする。

 

 俺は自分で考え自分で行動し、死角に回られた時も自身の判断で咄嗟の対抗策を用意、実行せにゃならん。その場その場での臨機応変なアドリブが必要なのだ。

 

 が、相手のポケモンにはトレーナーという言わば『第三の目』に相当する存在が味方している。だから攻撃だけに専念しやすい。お分かりだろうか、この圧倒的なアドバンテージ。

 

 

 戦場の情報は(トレーナーを介してだが)全て相手に握られてしまっているのだ。

 

 

 俺が死角に回り込めばトレーナーに教えてもらえるし、「あなをほる」等をすれば「下からくるぞ、気を付けろォ!」と注意喚起される。

 「どくづき」しようとしたら、回避に徹しろと助言。さらには、弱点や癖なんかも見抜かれる。たまったもんじゃない。

 

 まあそれもトレーナーの力量によるが。初心者トレーナーなんて、ポケモンに攻撃させることしか頭にないからな。虚を突く裏をかく、やりようはある。

 

 タケシみたいなレベルになってくると、手持ちも強力な個体なのでゴリ押しも難しくなってくる。ポケモンも考えて行動するからな。こちらが自分で考えて即座に動けたとしても、それは相手のポケモンも同じ。強い奴なら指示を待たずして対応してくる事もあるだろう。

 

 うむ、トレーナーにもピンキリはあるよね。対トレーナーなんてまだそんなに経験してないから、分らない事も多いと思うけど。少なくとも、クチバジム所属のトレーナーとマチスへの挑戦者達には俺は負けてない。だからって天狗にはならないがな。

 

 

 ちなみに、何人かに「ゲットさせてくれ」と迫られたが、シルクのスカーフを見せびらかすと大人しく諦めてくれた。タケシ様々である。

 

 「じゃあ、お前のトレーナーは何処にいるんだ…?」と当然の疑問も呟かれたりしたが、そこは追究せんでください。無闇な詮索は嫌われますぜ。

 

 

 

 

 一匹で、夜のクチバシティを歩く。海が近いので、潮の香りが仄かに漂う。嫌いじゃないぜ、この匂い。

 

 さっさと街を出て草むらに穴掘って寝ますかな。

 

 て考えてたら、街の入り口付近でピカチュウに絡まれた。なんやねん俺眠いねん。

 

 ぴっかーぴかぴかちゅーちゅー。あ~うるせぇ、何をそんな張り切ってんだよ電気鼠。夜だぞ近所迷惑だろ。

 

 バトル? 嫌だよダルいよ。

 

 いつもなら断る理由はないんだが、今の俺はお疲れなのだ。相手はピカチュウだし「10まんボルト」を覚えているなら習得の参考になるかもしれないが、眠気という最強の欲求には勝てない。

 

 

 一日中ゴミ箱漁ってて、神経すり減ってんだよあらゆる意味で。ほれどいてくれ。

 

 

 …一向に退いてくれない。ほっぺの電気袋をバチバチ鳴らして臨戦態勢だ。なんだこいつ。

 

 めんどくさいので、無視して通り過ぎる。そしたら、ケツに「でんきショック」を喰らわせてきやがった。なにしやがんだコラ!

 

 振り向くと「ヤル気になったか?」とドヤ顔晒すピカチュウ。問答無用で攻撃しておいてドヤるとか、通り魔か己は。

 

 青筋浮かび上がらせて睨むと勝手に何かを納得したのか、ピカピカ語り始めた。興奮しまくってて全部は聞き取れなかったが、要約するとこうだ。

 

 

 「トキワの森で世話になったピカチュウだ! なんやかんやで色んな経験と出会いがあって偶然お前を見つけたぞ! ここで会ったが百年目、いざリベンジ!」

 

 

 こんな感じ。こいつ、トキワの森に棲んでたピカチュウかよ。よくまあここまで来たもんだ。出会いがなんだって言ってたから、誰かの手持ちになったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 というかね。

 

 

 

 

 

 

 

 知るかよ!! トキワの森にピカチュウ何匹いると思っとんのじゃ!!

 

 

 俺がどんだけの数のバトルをあの森で経験したと思うてけつかる! ピカチュウなんざ、数えきれんほどバトルしたわ。そんな一匹一匹区別して覚えてられるかよ!

 

 

 お前なんざ知らん! 正直に吐き捨てたら、逆上して襲いかかってきた。

 

 無意味に発光しやがって、眩しいんだよ。もういい俺も怒った。迎え撃ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピカチュウが全身を震わせ、電気を発する。先の「でんきショック」とは電圧が桁違いだ。もしや「10まんボルト」か。

 

 一瞬「ほうでん」かとも思ったが、電気が明確に俺を狙ってきたので違うだろう。

 

 反射的に喰らいにいった。痛い。が、存外ダメージは受けない。

 

 痛いっちゃー痛いんだけどね。俺、けっこう頑丈らしいからな。クチバのトレーナー達も、その点にやたらビビッてたし。

 

 

 とにかく「10まんボルト」を受けれたが、刺激が足りない。「おだてる」でも使って特攻をブーストしてやるか?

 

 

 もっと撃ってこい! と催促してみたんだが、あまりに何度も受け続けるとさすがに厳しいので、切り替えて即決着をつける事に。

 

 「10まんボルト」って、全力で放電してるためか撃ってる方は身動きが取りづらいらしい。そこを突く。

 

 挑発されたと思ったのか、目つき鋭く空中に飛び上がったピカチュウ、発電。電撃が襲ってくる。

 

 「10まんボルト」を直撃されるが、意に介せずそのまま直進。飛び上がり、胴体に「どくづき」をぶちかました。

 

 それぞれ、落下。

 

 ピカチュウは地面に叩き付けられたが、俺はそのままの勢いで「あなをほる」。ダメージで怯んでいたピカチュウに地中からの攻撃がヒット。

 

 これでピカチュウはダウンした。リベンジならず。先に仕掛けたのは向こうなので、文句はなかろう。

 

 

 

 

 

 ふんっと鼻息。あ~あ、アドレナリンどばどば出ちゃったじゃん。これから就寝のつもりだったのによ。

 

 

 苛立ちと興奮が収まらずうろうろしていたら、少年の叫び声が。やばい、誰かきた。

 

 

 すぐさまその場を離脱。傍から見れば、俺がピカチュウを一方的に襲ったように取られるかもしれんからな。てか誰だってそう思う。悪党ご用達の毒タイプと、みんなのアイドル『ピカチュウ様』だぜ? そういうタイプ差別なんか無いと断言したいところだが、今回ばかりは相手が悪い。

 

 

 走ってきた人物とすれ違い、逃走。街から離れる。なんだか、こっちが敗者みたいだな。

 

 

 去り際、ちらりと後方確認。気絶したピカチュウに寄り添う人物…少年か?

 

 

 あのピカチュウのトレーナーなのだろうか。モンスターボールを取り出していたが、捕獲かボールに戻すためなのかは分らん。

 

 暗くて表情も見えなかった。ま、いいか。他人事だしな。

 

 

 

 




 自分にしては長めになりました。次回からは文字数が減るかもです。

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