ポケットモンスター紫   作:鯖風味鯵

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サンムーン、買おうか迷ってます。
このお話がbw2までのシステム構成というのは変わらないですが。


技14

 「ねんりき」を覚えたのは思わぬ収穫だった。

 

 が、使いこなせるかどうかは別問題である。

 

 痛いのだ、頭が。

 

 「ねんりき」を使おうとすると、頭がやばいくらい痛い。

 

 どういう事かとナツメを見ると、目が泳ぎまくっていた。彼女にしても、誤算だったらしい。

 

 とにかくモノに出来なければ意味が無いので、フーディンから「ねんりき」のレクチャーを受ける。知能指数が離れすぎてると会話にならないって聞いた事あるが、非常に分りやすく教えてもらえた。これからはマスター・フーディンと呼ばせてもらおう。

 

 

 

 やはり、先生がいると違うな。程なくして及第点を戴けた。

 

 その間ナツメは突っ立ってるだけで何もしなかったが、時たまマスターとアイコンタクトを取っていた。こいつらテレパシーも使えるのか?

 

 しかし、「ねんりき」を使えるようになったとはいえ、頭痛が完全に収まったわけでもない。

 

 あまりに質量のある物を対象にしようとすると、発狂しかねない激痛が襲ってくる。リアルで北斗神拳を喰らったらこんな感じなんじゃなかろうか。笑えねえ。

 

 俺が毒タイプだから、拒否反応的な痛みなのだろうか? いや、違うだろう。タイプが一致しないから拒否反応とか、ポケモンという生物からしたらあり得ない話だ。

 

 どういう事っすかね? エスパー技を覚えたてのポケモンって、皆そうなの?

 

 マスター・フーディンを見る。彼は、俺の視線をパスするかのようにナツメを見た。ナツメは一つ頷き、俺の傍に歩み寄って言う。

 

 

 「たぶん、だけど。あなたが超能力を信じていないから」

 

 

 え、そんな理由? 

 

 

 てかフーディンさん通訳できんのかよやべぇ。簡単な意思疎通だけ? ナツメの超能力がずば抜けているから?? それでも凄いって。

 

 

 話を戻す。

 曰く。超能力とは、素養さえあれば誰でも使えるもの。万人が、とまではいかずとも、鍛えれば多くの者が扱えるようになる、と。

 

 引き継ぐようにフーディン。お前は心の奥底で、「使えるはずがない」と思い込んでいる。そんな者に、半ば無理矢理「使えない力」を与えたから頭が混乱しているのではないか。

 

  

 …なるほど。難しい話じゃないな。俺なりに、言われた事を紐解く。

 

 ナツメ達の説明は、ある意味正しい。

 

 

 

 俺は、いまだに信じてなかったのだ。

 

 

 

 この世界、ポケモン、自分という存在。成って初日で納得したつもりだったが、しょせんはつもり。夢のようなものだと捉えていた。

 

 

 「今の俺はポケモンだ。完全に認めてなかったが、それを認めなさい」

 

 

 こういうこった。全てを受け入れろの精神だ。

 

 

 …もしや、今後の技事情にも関わってくる問題かも。

 

 レベルアップ技だけを順調に覚えてたのは、姿がニドランだったからか?

 ニドランならニドランの技が使えて当然、そんな考えだったから問題なかった。頭部に毒針があるという動きようのない事実があったから、毒タイプの技が使えたのかね。

 

 が、元人間という感性が、それ以外の技の習得を邪魔しやがるのか。「あなをほる」ならともかく、人間が「10まんボルト」を発電する? そんなの無理、とか考えていたのだろう。深層心理で。

 

 

 初日で納得してたはずだったんだがなぁ。結局は、つもりだったのね。

 

 

 ニドランの皮を被った人間。それが、俺だ。

 

 

 ポケモンになった、という現実を、心の底から受け入れてなかった。「高度なモノマネ」を楽しんでただけなのだ。

 

 

 だから、「ねんりき」をうまく扱えない。ポケモンには出来て人間の俺には不可能っぽい技だと、出来なくて当然と思い込んでしまう。タマゴ技を無茶な方法で覚えさせたって理由もあるかもしれんがな。

 

 

 

 あああ、なんだかなぁ。今まで無意識に目を背けていた現実を突きつけられたな。

 

 暗いのは嫌いだから悲観する気はないが、それでもちょっと堪えた。今夜はいつもより深く穴を掘って眠ろう。気持ちの整理をしたい。

 

 

 

 そういえば。ナツメが言っていた、俺の中にある微弱な念動力って、何だろな。

 

 本来ならタマゴ技とかで覚えていたはずの「ねんりき」が俺の心構えのせいで覚えられなかったから、その残滓ってか未練やら何やらが残ってたのかね。

 

 まあ俺の存在そのものがオカルトの極みだし、あんまし深い意味はないか。ポケモン世界では、超能力って普通に認知されてるもんだしな。

 

 

 てか、そもそもナツメはどうしてこんなお節介を?

 

 訊いてみたらそれこそ深い意味ではなかった。

 

 

 ヤマブキジムは超能力者の養成施設でもある。だからという訳でもないが、素質ある者に手解きを受けてもらいたかった。

 

 

 うん、そうか。そりゃ有難い。タケシといいナツメといい、ジムリーダーってお人好しばっかなのか? ゲームでの彼らを思い出すと、あながち間違いでもなさそうだ。

 

 でも、あんな痛い目に合わせられるとかね。てか強制だったやん? 感謝してるけどさ。

 

 

 またしても目を泳がせるナツメ。

 

 

 この娘、意外とポンコツなんじゃないかな。強い力を持つが故に、ちょいとコミュニケーション能力に難があるようだ。致命的ってほどでも無いと思うんだが。

 

 

 誤魔化すようにポケモンフーズを貰った。いやバトル展開はもうないだろうし腹も減ってるから食うけどさ。

 

 この娘が、数年後には女優になってるかもしれんのだから、世の中分らないもんである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南のゲートを抜け、ヤマブキシティを去る。

 

 なんだかんだ良くしてもらったし、次来た時にはナツメとバトルしないとな。

 

 マスター・フーディンも「戦える日を楽しみにしているぞ」とかって強者オーラ全開だったし、こりゃエスパー対策を本格的にしとかないといかん。

 

 というかあのフーディン、何者だったんだ。

 

 「ねんりき」の指導を受けている時に「考えるな、感じろ」とか言ってた。お前はエスパーであって格闘タイプじゃないだろと。

 

 別れる時も「決して諦めるな。自分の感覚を信じろ」って…。どこの遊撃隊だよ。任〇堂繋がりか?

 

 

 つらつら考えながら六番道路の草むらを歩いていると、野生のナゾノクサに遭遇。戦闘に入る。

 

 ちょうど試し打ちしたかったので、早速「ねんりき」発動!

 

 

 

 うがあああ痛いいぃぃぃ!!!? 頭が割れるぅぅ!!!

 

 

 

 ナゾノクサを浮かせ、地面にズドン。倒すには倒せたが、頭痛と吐き気が…。てか吐いた。ナツメから貰ったポケモンフーズ、消化しきれなかったよ。

 

 くっそ、やっぱりキツイな。こりゃ簡単には慣れそうにない。

 

 「ねんりき」は攻めて良し守って良しの万能技(ゲーム以外の作品では)だが、使いこなすには相当な熟練が必要だ。自分の体を浮かせたりとか、敵の攻撃の軌道を変えたりとか妄想を膨らませていたのになあ。

 

 まだまだポケモンになりきれてないって事なんだよね。自覚する度に、SAN値が削れてる気がする。いかんいかん、危ない危ない危ない。

 

 

 色々と吐き出しながら、その日は就寝。道路の目立つ場所に穴は掘らない。またジュンサーさんに追い掛け回されたくないしな。

 

 

 

 翌朝。喉が渇いたので近くの川で水分を取る。

 

 したらヤドンがいた。ヤドンだし、こっちから刺激しなけりゃ大丈夫かな、何て呑気に構えてたら襲いかかってきた。血気盛んな奴が多いなポケモン。

 

 水エスパーの複合タイプなので、仮想スターミーに…。

 

 ダメだなこりゃ。当たり前だが、素早さが違いすぎる。

 

 ヤドンが「ねんりき」を使ってきたが、相変わらずタイプ一致の弱点は痛い。体力も増えてきただろうし、一撃で倒されるなんて事はないが、痛いものは痛いのだ。

 

 頭痛を堪えて「ねんりき」対決してみたりもしたが、普通に押し負けた。パワーも技術も足りない。てか、俺が頭痛に耐えられないんだよ! 課題が山盛りだ。

 

 とりあえず「どくづき」で倒す。「つのでつく」、いよいよ出番がなくなってきたなぁ。

 

 

 ヤドン数匹を相手に「ねんりき」の練習。途中、乱入してきたギャラドスには度肝を抜かれた。お前こんな所に生息してたんかい!

 

 戦わなかったけどね。だって、水から上がろうとしないんだもん。

 

 俺の「ねんりき」ではギャラドスをどうこう出来ないので、逃走。後ろからものすごい吠えられた。

 

 

 …朝っぱらからうるせえってか。そりゃ切れるわな。

 

 

 

 

 

 




第二世代のフーディンは、三色パンチを使いこなす武人でした。当時は特殊技扱いだったのです。

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